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第十七話「肝試し」


 巨大魚は流石に要らないので通りすがりの子供にあげ、荷物を宿に置いてきた後。

 美少女妖怪イベントの時間になったので、俺はリュウの店に行ったのだが―――。


「……レン、ひょっとして先程あの仮面の男と話していたのは、この事か?」


「おいお前、怒ってご主人様敬語をやめるのは駄目だぞ。……決して美少女妖怪目当てでここに来たワケではない。そうだな……たまには野生のモンスターと触れ合ってくるのもいいかと思ってな」


「顔がニヤついてるから嘘丸見えだよ?」


 ……まさかこの二人についてこられてしまうハメになるとは。

 いや、俺も一人で行ける様努力はしてみたのだが、どうも二人に尾行されていたらしく。

 二人がじと目で睨め上げてくるが……いいじゃん別に、俺も沢山の獣耳少女見てみたいし。ブレイズにも一応獣耳少女はいるにはいたのだが、非常に数が少なくて物足りなかったのだ。


 というかイーリアは何処に行ったのだろう。

 アイツ屋台回ってくるとか言ったっきり、姿を消してしまったのだが。


「……ま、まあ、ほら! お前らも一緒にどうだ? なんでも、夜の森で肝試しをやるらしい。美少女妖怪の探索しながら、そっちをやってもいいんじゃないか」


「やっぱり美少女妖怪探索なんじゃないですか、ごしゅじん様! う、うーん……肝試しですか……」


「私は賛成! えへへー、私一度、皆で肝試しとかしてみたかったんだー」


 シャーラが賛成したので反対しづらくなったのか、レイは「うん……それならまあ、いいか……」とやがて笑顔を浮かべた。

 不満と怒りも雲散霧消。溜飲を下げてくれた二人に内心ホッとしていると、やがて仮面で表情こそ分からないが口元だけをニヤつかせたリュウがこちらにやって来た。


「ほらほら皆さん、先に他の人達はもう行ってますよ。どうぞ、夜の森を楽しんできてください」


「うおっ……!」


 リュウに無理矢理背中を押されたので、俺は恐る恐る鬱蒼とした森へと足を踏み入れる。

 ……暗っ。


「……お、おい、お前らいるか? これちょっと暗すぎねえ? クソ、なんでこういう時に限ってイーリアはいないんだよ……」


「レン、落ち着いて。エルフは暗視能力もあるから、バッチリ私は見えてるよ。もう少し時間が経てば、見える様になると思うから」


「うぅ……暗いぃぃ……」


 レイに浴衣の裾を握られた俺は思う。

 

 ……これ、ハーレムイベントっぽくね!?


「ごしゅじん様ごしゅじん様、ここは私の炎の魔法で辺りを照らしましょう。これは暗すぎます」


「やだよ、お前加減ってもんを知らないんだもん」


 いつぞやの炎地獄を思い出しながら、俺は闇に慣れてきた目で辺りを見回す。

 リュウは確か、何人かお化け役を森に配置していると言っていたが。まあ、事前に知らされていても怖い事に変わりはないのだが。


「てか、なんか話そうぜ。沈黙したまま歩いてる方が皆怖いだろ。何なら俺の退廃的な過去のギャルゲー生活を淡々と語ってやるけど」


「レンの過去って、なんだか皆目見当もつかないけど……。……って、ちょっと待って」


 シャーラが制止の声を上げたので、俺とレイは思わず立ち止まる。


「な、なんだよ? モンスターか? だったら俺に任せろ、新たなスキルの連携コンボでボコボコに……」


「ううん、そうじゃない。……ほら、な、何か……聞こえない……?」


「ふえぇ……?」


 俺達は揃って耳を研ぎ澄ませる。

 襲い掛かる静寂の中、微かに聞こえてくる女性の慟哭。

 もうこの時点で嫌な予感しかしない。

 

「「「…………」」」


 俺達は顔を見合わせると、やがて意を決し、恐る恐る振り返った。

 すると、俺達の視界に入ってきたのは―――。


「あああああああああああああああああああああっ!!」


「「「あああああああああああああああああっ!?」」」

 

 全身を白い着物で覆った、紫紺に染まった双眸をぎょろりと覗かせた老婆が、全速力でこちらに向かってきていた。

 ……ちょ、ちょ!?


「お、おい待て! おいコラ、だから待てってっ……ってお前ら!? おい! 起きろよ!?」


 俺が老婆に制止の声を上げながら隣を見やると、レイとシャーラの二人はもう既に失神していた。


「あっはははははははは!! いやー、スッキリしましたスッキリしましたー! 三人共驚いてくれた様で何よりです!」


「は……!?」


 聞き覚えのある声に思わず俺が顔を上げると、そこでは先程の老婆が笑い転げながらこちらを見ていた。

 ソイツは俺と目が合うと、清々しい事この上ないといった感じで。


「いやー、さっきの仮面の人に頼まれて私もお化け役に参加したんですけど。中々人を驚かせるのって楽しいですね! 蓮さんを失神させられなかったのはちょっと残念でしたけど、まあ一矢報いてやる事は出来たという事d」


「『ダークネス・デッド』おおおおおおおおおっ!!」


「ひゃああああああああああああっ!?」


 老婆の変装マスクを脱ぎ素顔を露わにしたイーリアに、俺は思わず覚えたての闇属性スキルを発動させていた。


「てめえおいコラッ! この俺を脅かそうなんて、随分と殊勝な心構えだなオイ!! どうすんだよ、この暗闇の中コイツらは失神しちまってるし……! いい度胸だなコラァ!」


「あああああっ、蓮さん痛い痛い痛いですからああ! 私光属性ですから! 闇属性のスキルを使われると地味に痛いですからっ! というか、拘束スキルはやめてください!」


「テメー、マジでビビったんだからな……? このままいざという時の最上級水魔法を喰らわせられないだけありがたいと思えよ?」


 憤慨する俺に、早くもイーリアは両手を上げて降参した。


「……いやー、リュウさんに人手が足りないのでお願いしたい、って屋台巡りをしてる途中言われちゃいまして……それで森を徘徊してる途中に蓮さん達を見つけたので、つい全力……で…………?」


 突然語尾をすぼませるイーリアを不審に思い、俺がそちらを見ると―――。


 ―――イーリアの頭上を、ゆっくりと、何やら青い人魂の様なものが横切って行った。


「「…………」」


 どうやらこのイーリアの様子を見る限り、今の人魂を意図があって操作している者はいないらしい。

 

 ―――これを見たイーリアは一週間一人でトイレに行けなくなり、このパーティーでの一番の被害者となるのだった。

 

  

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