第十六話「屋台で大暴れ」
異世界にも日本と同じ様な祭りの屋台がある……という設定にしてあります。
―――一旦宿に荷物を置き、俺達は再び祭りへと戻ってきていた。
リュウの店で浴衣を購入し、それを着た女子三人は―――。
「蓮さん蓮さん、どうですか!? 似合いますか!?」
「ごしゅじん様ごしゅじん様、どうですか!? 似合いますか!?」
……敬語キャラが二人で被るな。態度のデカいレイにごしゅじん様と呼ばれるのは非常に喜ばしい事なのだが。
「レン、私も私も! どう? 似合う?」
「あー……うんうん、皆似合ってる似合ってる」
「むぅ……ほんとにぃ……?」
先程から皆自分の浴衣姿を見せつけてくる。リュウの天才的センスのおかげでもあり、非常に皆似合っているのだが。
「あははっ! 蓮さんの浴衣姿って、何か袖引き小僧の手長足長版みたいな! 一言で言うとゴボウですよね!」
「テメェおいコラ、妖怪で分かりにくい表現しやがって! んな事言ったらテメーはみかり婆か山姥だ!!」
「なっ!? 私は雪女とか人魚とかの麗しい妖怪ですよ!」
コイツ自分の事は棚に上げやがって、後で説教してやろう。
美少女妖怪イベントが開催される時間まで、まだ余裕がある。ここいらでゆっくりしていってもいいだろう。
「ごしゅじん様ごしゅじん様、アレ食べたいですアレ! なんかチョコバナナっぽいやつです!」
「おいお前、この人の多い中ご主人様呼びは流石に誤解を招くからやめてくれよ。いやもうなんかお前らのせいで大概の視線には慣れちゃったんだけどさ」
「だったらいいじゃないですか。それに今日は、私はごしゅじん様の疲れを癒やさなきゃいけないのです。……あっ、アレも食べたいです! あの、なんかまん丸いやつです!」
「私も食べたい! レイばっかりずるい!」
「なっ!? 私が先に言ったんですよ!」
コイツらは一々喧嘩しなきゃ気が済まないのか。
「ああもう、分かったから喧嘩すんな。ちゃんと皆の分買ってきてやるから」
俺がそう言うと、二人はにひー、と太陽の様に輝く笑顔を浮かべ……。
そこで俺ははたと気付く。
これ、なんかハーレムイベントっぽくない?
え、ちょっと待って。
何この子達。ちょっとキュンときちゃったんですけど。
というか、俺は今二次元の美少女三人を連れてお祭りに来ているワケだ。
ちょっと前までの現実逃避してた俺ならあり得なかった事だろう。
ああ、俺って何気にかなりの幸せ者なのかもしれない。
というか、これって誰のおかげだろう? 俺を二次元世界へと導いてくれたのは、一体誰だっけ……。
……あ、そういえばイーリアのおかげか。
……うーん、俺はもうちょっとアイツに感謝した方がいいのかもしれないな。
「―――ほれイーリア、お前の分も買ってきてやったぞ。お前アイス好きだろ? 確か前にギルドで爆食いして頭痛めてたよな」
「ふぇ? あ、ありがとうございます……?」
俺がアイス(多分ソーダ味)を手渡すと、イーリアは意外そうにこちらを見つめてきた。
……なるほど、このイーリアの仕草を見て、俺が普段どんな人間と見られているのかがよく分かった。
いや、俺も一応相手の好みのもんを買ってくる様な優しさはあるんだけれども。
「……おい、何だよその眼は。そこまで俺ってデリカシーないと思われてる?」
「は、はい……! なんだか凄い意外っていうか……蓮さんもこういう気配りできたんですね」
「『は、はい……!』じゃねーよ、そこは普通否定するとこだろうが……。お前も人の事言えねーんじゃねーの?」
「むっ。失礼な。私も通りすがりの人に光魔法を放って、私の様な神々しさを提供させるぐらいの優しさはあるんですから」
「それただの一方的な暴力だろ!? ……お、お前……その内色んな事やらかしそうで恐いんだけど……」
「私だって弁えてますから何もやらかしませんよ。えへへー、ありがとーございます、蓮さん」
そう言って嬉しそうにアイスを舐めるイーリア。
これは……有史以来、初めての青春イベントかもしれない!
■
「よっしゃああ! 全レベルクリア! 日々シューティングゲームだってこなしてきたんだ、このぐらいどって事ねーな!」
「クッ、クソッ……お前、一体何者だ!? 見た感じアーチャー職にも就いていない様だが……ふっ、まあいい、もはや俺の惨敗だ。景品は全部持ってけ」
「わああー! すごい、レン! そんな才能持ってたんだ!」
「ふああ……ご、ごしゅじん様、このクマのぬいぐるみとっても可愛らしいのです!」
俺は殆どの射的屋台を、持ち前のゲームの腕で壊滅状態にさせていた。
もはや負けた事が清々しさへと変わったのか、店主が笑顔で全ての景品をズイと差し出してくる。
ぬいぐるみやらペンダントやらを受け取ったレイとシャーラは、幸せそうに笑いながらこちらに尊敬の眼差しを向けてきた。
まさかこんなところでゲームの腕が役に立つとは。喜んでもらえたのなら、ゲーマー冥利に尽きるというものである。
「蓮さん蓮さん、これも持ってください! 私もっと色んな所を回ってきます!」
「お、おい、俺は荷物持ちじゃあ……って、行っちまった」
というか調子に乗って景品取り過ぎたせいで非常に荷物が多い。
しかもさっきからやたらと皆自分達の荷物を俺に預けてくるし……。まあ、荷物持ちは女にやらせるもんでもないし、仕方ないっちゃ仕方ないんだが。
―――と、俺が一旦荷物を宿に置いてこようかと考えていると、後ろから濁声の店主が話しかけてきた。
「おい兄ちゃん! あんたの腕前はしかと見させてもらったぜ。……どうだ? 俺の作った激ムズゲームに挑戦してみねーか」
「へ? い、いやあ……俺今荷物がいっぱいで……」
「安心しな。激ムズゲームっつっても、ただの金魚すくいだ。そう荷物になるもんじゃねえ。そうだな……いきなり兄ちゃんにやってもらうってのも観客が盛り上がらねえ、まずはそこの嬢ちゃん二人にやってもらおうじゃねえの。なに、料金は取らねえ。……ま、流石の兄ちゃんでもこれは無理だと思うけどな!」
そう言って大柄な男の店主は、ニヤリと不敵に笑ってみせた。
……その自信の貼りついた笑みが泣きっ面に変わらない程度に手加減はしてやろう。
そう思いながら、俺が店先の金魚の入った水槽を覗くと……。
「デカすぎんだろ!? これ下手したら1メーターぐらいあるんじゃないのか!?」
水槽にデカデカと入っている一匹の黒い巨大魚を見て、思わず俺はツッコんでいた。
「ふっ……なんだ兄ちゃん、まさか怖気づいたってのか?」
「…………」
いや、これ怖気づいたとかのレベルじゃないだろ。もはや詐欺の域に達してるぞ。
というか金魚じゃないし。思いっきり荷物になるし。
「ごしゅじん様、まずは私がいきます。……この場合、魚の方がポイより大きいです。即ち、尾びれの方に無理矢理突っ込めば……」
「シャアアアアアッ!!」
「ひゃあああああっ!?」
レイが巨大魚をポイにはめて無理矢理すくおうとすると、巨大魚は盛大に水しぶきをあげ暴れて脱出した。
あっけにとられた様子で、レイが口をパクパクさせながら呆然としている。今のコイツの方があの巨大魚よりよっぽど金魚っぽい。
「……ふっふっふ、だめだなあレイは。こーいうのは、頭の方から狙ってまずは窒息を狙って……」
「ピシャアアアアッ!!」
「ぴゃああああああっ!?」
前回と全く同じパターンで、巨大魚は暴れながら水しぶきをシャーラへと飛ばしてきた。
……なんか、二人共びちょ濡れになっていて妙にエロい。
「……さあ、お嬢さん方二人は失敗……残るは兄ちゃんのみだな。どうだ? ここで取り消した方が身のためだぜ?」
そっちから誘ってきたクセに取り消した方がいいとか何がしたいんだよ、マジで。
言ってる事が矛盾している店主に苦笑しながら、俺はポイを片手にしゃがみこむ。
観客の視線が集まる中、俺は精神を統一させながら目を閉じる。
確か、金魚すくいにもコツがあったハズだ。ポイを水平に移動させる、すくいあげる方向に金魚の頭が向くようにする、三十度ぐらいの角度で引き上げる―――。
―――よし、いける!
「おらああああああああああっ!」
『うおおおおおおおおおおおおおっ!?』
全てのコツを脳内で整理し実行に移した俺は、見事巨大魚をすくいあげ店主を泣きっ面にさせた。




