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第十五話「祭り」


 ―――馬車ならぬ竜車に乗って、遺跡のあるアースロックへと向かう途中。


「レン、レン! あそこに何かウサギみたいなモンスターがいるよ!?」


「……ん? あれは……ウィンドラビット的なやつじゃないか? まあこの大草原だ、いてもおかしくないだろ」


「ごしゅじん様! あそこに何か、物凄い速度で走るチーターみたいなのがいます!」


「おう、そうか……って俺達の竜車追っかけて来てるじゃねえか!? それはシャレになんねえやつだから! 『ウォーター・フリーズ』ッ!」

 

 つい流れで聞き流そうとしてしまったが、今のは結構ヤバかった。もう竜車に当たる寸前だったし。

 ここのところモンスターは繁殖期で、何か動いたり攻撃してきそうなものを見るとすぐさま襲ってくるらしい。

 

「お客さん、竜車の安全管理は頼みましたよ! ここら辺は特にモンスターが多いですから!」


「了解です! ……おい、イーリア! テメエやけに静かだと思ったら寝てやがるな!? 起きろ、オイ!」


 俺はイーリアを叩き起こすと、取りあえず周囲にモンスターがいない事を確認する。

 クソッ、これ遺跡に着く前にゲームオーバーになったりしないよな……?


「レン、レン! あそこに、とっても大きいゾウみたいな動物がいる!」


「ごしゅじん様! あっちには、首の長いキリンみたいな動物がいます!」


「私の見つけたやつの方が強いし大きいもん!」


「むっ……!? 私の見つけたやつの方がスマートだしカッコいいぞ!?」


 何やら張り合っている二人が非常にうるさい。

 というかなんだよ、レイとシャーラは仲悪いのか? 


「おい二人共、そんな下らん事で張り合うな。いいか、お前らの見つけた動物には確かに差があるけど、お前ら自身の身体にはそんなに差はないんだぞ? そう考えてみたら馬鹿らしいと思わないか?」


「「…………」」


 俺の言葉に、レイとシャーラは顔を見合わせ。

 そして―――。


「ああああああああっ!? 折れる折れる折れる!! いっ……おいイーリア、助け……ってお前はまた寝てんじゃねーよ! ああああああああああ運転手さ―――ん!! 助けてくださあああいいいいいい!?」


「お客さん! モンスター来てますから! 揉み合ってる場合じゃないですからっ!!」


                ■


 そんなこんなで何とかアースロックに着き。

 もう暗いので遺跡に行くのは明日にする事にして、俺達はまずは休息をとる事にした。

 ……さっきレイとシャーラに襲われた時にできた傷が非常に痛い。


「……てか、これアザになってんだけど……? お前ら、俺が明日から戦えなくなったらどうするの? マジで?」


「いや自業自得でしょ」


「…………」


 正論だな……。幼女に幼女って言ったらキレられるのは、ギャルゲーの中でも十分勉強したというのに、俺とした事が。

 それはさておき、なんだかやけに街全体が騒がしい。

 

「……なんだ? まさか俺から溢れる雅なオーラに、皆喝采を上げちゃってる感じ? それとも、皆突然アドレナリンを放出させて大発狂を開始させちゃってる感じ?」


「後者の方がまだ可能性としては高いと思いますよ。……なんだかいい匂いがしますし、なんかのお祭りじゃないですか?」


 この世界にも祭りがあるのかよ。

 と、俺がいい匂いとやらにつられて何処かに行ってしまいそうなイーリアを引き止めていると。


「あれ? あなた達、折角のお祭りなのに浴衣を着てないじゃないですか!」


 なんだか変な男に話しかけられた。

 気味悪さを覚える黒い仮面を被り、青紫の浴衣に……尖った耳。

 コイツもシャーラと同じエルフなのだろうか。


「見たところ冒険者さんの様ですが……そちらの方からは、何やら神々しさを感じますね?」

 

 そう言ってソイツは、イーリアに視線を送った。


「え? わ、私ですか!? ですよね! だって私女神ですもん! 蓮さんは馬鹿にしてきますけど、私だって一応女神ですもん!」


「め、女神……? あ、あはは……」


 予想以上の喰いつきを見せるイーリアに身をたじろがせている男に、レイが聞く。


「それで? 私達に何か用か? 私達は他所から来たばかりだから、ここの街の祭りについてよく知らないのだが」


「ああ、そうでしたか! それでは簡単に説明しますね。僕は一介の商業人、この祭りでは浴衣を取り扱っています。……あ、ちなみに……そこの冴えない目つきの男の方」


「冴えないは余計だ。……なんだ?」


 何やらこちらに手招きしてきたので、俺がそちらに顔を寄せると。


「今宵は宴の開催日。そして……この街の森には、妖怪が現れるのをご存知ですか?」


「なんだなんだ、怖い系のやつか? 生憎俺の肝っ玉はそこまで大きくないぞ」


「いえいえ、宴の日に怪談をするつもりなんてございませんよ。貴方は知りませんか? 妖怪は妖怪でも、可愛い妖怪もいるという事を。キュウビという名のキツネ美少女だったり、カマイタチという名のツンデレ美少女だったり……。何度も言いますが、今日は宴の日。日々溜まりに溜まる男性のストレスを、この妖怪イベントで発散させようという素晴らしいイベントが当店の発案で開催されます」


「……ほう」


「僕の名はリュウ。このイベントにご参加するようでしたら、是非とも当店にご来場ください」


 ……今宵は楽しくなりそうだ。


 

 

  


 


 

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