第十一話「戦闘は突然に」
―――俺が謎のエルフ少女を街に送り届けて二日後。
特にやる事もなく暇を持て余していた俺は、一人冒険者ギルドで惰眠を貪っていた。
宿で寝ろよと思われるかもしれないが、隣の部屋の女子二人の声が非常にうるさくて眠れないのだ。
トランプ的なカードゲームをイーリアが持っていたのを見たし、大方それで遊んでいるのだろう。
俺は一旦起き上がると、先程運ばれてきたハムトースト的なやつを口に入れながら考える。
そういえば、あのエルフ少女は一体何処に行ったのだろう。
街に送り届けたはいいのだが、「送ってくれてありがとー!」と言ったっきり走り去って何処かへ行ってしまったのだ。
結局あの子の名前とかもよく聞けなかったなあ……。変な男にナンパでもされてないといいが。
と、俺がそんな事を考えながらぼんやりと外を眺めていると―――。
『緊急クエスト! 緊急クエスト! この街にいる冒険者達は、直ちに冒険者ギルドへ! 特に、ハヅキ・レンさんとその一行は、迅速に集まる様お願いします!! 繰り返します、この街にいる冒険者達は、直地に冒険者ギルドへ!』
……!?
■
―――数十分もしない内に、ギルドの中は阿鼻叫喚と化していた。
外では老若男女が避難を始め、皆青い顔をしてバタバタと慌ただしく動き回っている。
……何これ。
「蓮さん蓮さん、これ何の騒ぎです? まだレイさんと決着ついてないんですけど」
「俺に聞かれてもな……。というか、何でまた俺達が……」
俺は頭に手を当てながら、込み上げてくる疲労を抑える。
ここんとこクエストで色々忙しかったし、今日ぐらいはゆっくり休みたかったのだが。
「あっ! ハヅキさん達、集まってくれましたか~! ええと、ですね~……」
この騒ぎの中でも相変わらずゆるい口調で、クレイが俺達に何やら言いづらそうな事でもある様に話しかけてきた。
……なんかもうめんどくさい予感しかしない。
俺が話を聞く覚悟を決めると、クレイはゆっくりと口を開き。
「えっと……簡潔にお伝えするとですね~。この世界の魔王の一人……邪神ベルゼルグが、あなた達を直接始末しようとお怒りなんですよ~。それで、その部下達や戦闘用モンスター達が、この街に襲い掛かってきてまして~……。今は防御に特化した人達や後方から魔法を放てるプリースト達が対処に当たってますが……何か、心当たりありますかね~?」
「「「…………」」」
俺達は押し黙った。
心当たりがしないでもない。
邪神ベルゼルグが、お怒り……?
……邪神ベルゼルグって確か……。
…………。
俺は急遽二人を集めると、ヒソヒソ声で相談を始めた。
『……なあオイ、ヤバくね? どうすんだよ。大方二日前のあの洞窟での事が関与してるんだろうが……色々疑問が多すぎるな。それはさておき……ヤバくない? 邪神怒らせちゃったって、結構俺達ヤバくないか?』
『……たぶん、ヤバいどころの話じゃすまされないぞ。レ、レン……ど、どうすればいいんだ、こういう時?』
『ここは蓮さんが何とかしてくれますよ。私達は先に部屋に戻ってましょう』
俺は逃げ出そうとしたイーリアの首根っこを摑むと、冷や汗を浮かべながら必死に考える。
俺達を直接始末する?
部下やらモンスターやらがこの街に襲い掛かって来てる?
……何で?
「……ああ」
俺達には直接邪神相手に喧嘩を売った覚えはない。
となれば、それはもうあのエルフ少女の仕業だろう。
「……あの、とにかく俺達も戦闘には協力するんで……。正直俺達もまだよく分かんない事が多すぎるので、ここは皆さん、協力してくれませんかね?」
俺は深々と頭を下げた。
あの少女が何をやらかしたのかは知らんが、流石に皆さんに迷惑をおかけしといて頭を下げないワケにはいかないだろう。
そんな頭を下げる俺の背中を、一人の大男がバシッと勢いよく叩いてきた。
「なーに頭なんか下げちゃってんだよ、兄ちゃん! 俺達は一緒に飯食って笑い合った仲だろ?」
「そうだぜ、ガハハハ!! 俺達はこれでも結構腕の立つ冒険者なんだ。魔王の手下ぐらい、パパッと始末しちまおうぜ!」
そう言って朗らかに笑いかけてきたのは、前に俺に酒を無理矢理飲ませようとしてきた男達。
……ホントマジで、良い奴らだなあ、コイツら。
目の奥が熱くなるのを感じていると、大剣を背中に携えた大男が叫ぶ。
「行くぞっ、お前らあああああ! 相手は数だけの雑魚ばかりだ!! 一気に突っ込むぞ、おらああああああ!!」
『うおおおおおおおおおおおおおっ!!』
「れ、蓮さん、なんか始まっちゃったんですけどー!! この男の人達の喝采に私も流されなきゃいけないんですか!?」
「いいからお前はまず装備に着替えろよ!? お前はよくパジャマ姿でここに来られたな!」
戦闘開始―――!!




