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第十話「不器用な励まし言葉」

「……あの、どうしたんだ? こんな所で。君一人?」


 イーリアが光魔法で辺りを照らしてくれるのでそれを頼りにしながら、俺は銀髪の少女に尋ねた。

 耳が尖ってる辺り、多分この子はエルフ。街では見かけなかったが、正しく異世界の美少女といった感じだ。白いワンピースを着ていて、頭に青い花の髪飾りをしている。歳はレイと同じぐらいだろうか。

 俺の言葉に、少女は小首を傾げ。


「……誰? おじさん達」


「おじっ……!? お、俺達は近くの街の冒険者だよ。とあるクエストの依頼を果たしに、ここに来たんだけど……こんな所に一人でいたら危ないぞ?」


 真顔で俺をおじさん扱いする少女に苦笑しながらも、優しく俺は少女に言った。

 洞窟の中とはいえ、モンスターがでないと百パーセント断言できるワケでもない。というかこんな小さく可愛らしい子を見つけて、庇護欲をくすぐられないワケがないだろう。

 しかし少女は、俺の事をじっと見つめ。


「……私からしたら、あなた達の方が怖いよ。このあたりのモンスターなんか、皆私の召使いだし」


「……えっ?」


「なんかねー、邪神さんに『ここで待機してろ』って言われて……ずっとここで待ってたの」


 笑いながら、少女は「でも、なんだかそれももう飽きちゃった」と付け足した。

 ……ああ、この子も多分駄目な奴だ。

 モンスターを召使いにするとかいう時点で多分相当強いという事が予想できる。

 しかも邪神とか出してきやがった。絶対ロクでもない。見てくれだけがいいやつだろ、これ絶対。

 俺が顔を引きつらせていると、後ろにいたレイが「なっ……!?」と何やら驚いた様な声を発した。

 

「き、貴様は、邪神ベルゼルグと知り合いなのか?」


「え? うん。……でもなんか私、あの人嫌いなんだ。エルフだからっていう理由だけで無理矢理魔城まで連れられて……」


 そう言って少女は、自分の耳を触りながらしょんぼりと俯いた。

 ……。


「……なあ、邪神ベルゼルグってなんだ? それになんでお前はそんな過剰反応するんだよ」


「なっ……レンは、邪神ベルゼルグの存在を知らないのか!?」


「知らないよ。何せ俺は無知蒙昧」


 RPGはそこそこの量をこなしてきたので、大体魔王的な存在なんじゃねって予想はつくのだが。

 

「……邪神ベルゼルグはこの世に存在する魔王……三大邪神の一人だ。実は、私もソイツには色々と因縁があってだな……」


 魔王がこの世界には三人もいんのかよ。物騒だな。


「……その因縁ってのは?」


「……私がまだ幼い頃、私のお姉ちゃ……姉が、ソイツに襲われたんだ。幸い死に至るまでではなかったが……そのせいで、姉は、冒険者を引退する事になってしまったんだっ……! 私の、大好きな姉がっ、ソイツに……」

 

 レイは肩を震わせながら、少女と同じ様にしょんぼりと俯いてしまった。

 ……え、何この重い雰囲気。

 俺はちらりとイーリアの方を見る。しかしイーリアは俺と目が合った瞬間、すぐにそっぽを向いてしまった。

 アイツには後でアース・ホールドをお見舞いしてやるとしよう。


 ブラックファングと戦った時、俺がレイに「大好きなもの」を思い浮かべろと言ったが……なるほど、よほど大好きな姉だったんだろうなあ。

 レイの事はまだまだよく分からん事ばかりだが。

 俺はやれやれと息を吐くと、まずはレイに励ましの言葉を送る。


「……お前の過去を一々問いただすつもりはないけどさ。でも、分かんねーから分かんねーなりに、一言だけ言わせてもらう」


「……?」


「お前の姉ちゃんは、冒険者を引退したんだろ? 思い残したり、悲しく思ったりするところもいっぱいあったんじゃないのか? だったら、その分お前が頑張れよ。お前の姉ちゃんだって、お前のそんな悲しそうな顔見たくないだろうに」


「……私が、姉の分を……? 私なんかに、姉の代わりが務まるハズが……」


 いや、十分代替品に値すると思うんだが。なんだよ、その姉ちゃんはレイよりもとんでもない必殺技ぶっ放す奴なのか?

 若干恐怖を覚えながらも、俺は気を取り直してレイに言う。


「別にお前が姉ちゃんより上だろーが下だろーが、そんなん関係ないだろ。お前の姉ちゃんは自分の分まで代わりに冒険者人生を楽しんでほしいって思ってるだけで、自分の代わりになってくれだなんて思ってないと思うぞ」


「……そ、そう、か」


 俺はレイの頭に手を載せながら、次は銀髪の少女の方へと向き直る。


「それで? お前は、これからどうしたいんだ。ベルゼルグとやらが嫌いなら、もうここにいなきゃいけない義務もないだろ」


「……うん、嫌い、だけど……でも、逆らったら他の人達が襲ってきちゃうと思うから……」


 他の人達って……なんだ、色々邪神は仲間を引き連れてるのか。

 だがそういう仲間達って大体が下っ端みたいな奴らだから、戦闘能力なんて高が知れてるだろう。


「だったら、ブレイズの街に着たらどうだ? 幸いブレイズの男達はロリコ……優しい奴らが多いし、多分皆がお前を守ってくれると思うぞ」


 ブレイズの奴らは、他の街の奴らよりもかなり腕が立つとの情報を俺はクレイから聞いている。

 そんな奴らが、下っ端ごときに後れをとるとも思えない。

 だが少女は、未だ不安そうな表情で逡巡した。


「……私なんかが、行っていいのかな。私、エルフだし、他の人達と違うし……上手に話せる自信もないし……」


「俺の経験上、二つの選択肢に悩まされた時は、自分が本当にしたいと思った方を選んだ方が後で後悔しないぞ」


「……!」


 そう、超絶話題の新作RPGを買うか、超絶萌えのギャルゲーを買うかの二択みたいなもんだ。

 自分の欲を抑えてばかりでは、きっと後で後悔する事になると思う。俺は抑えすぎなかったせいでギャルゲーのソフトばかりが棚に並ぶ事になったが。

 少女は俺の言葉に、何かに気付いた様に肩を震わせた。

 そして、一言。


「……私は、あまり外の世界を知らないから、分からない、けど……一緒に、街に連れてってくれますか?」


 不安そうな表情で、途切れ途切れの言葉で少女は聞いてきた。


「もちろん」


 俺は即答すると、少女の頭にも手を載せた。

 

 

 すると、後ろにいたイーリアがポツリと。


「……さっきから蓮さん、さりげなく女の子の頭触って変な笑みを浮かべてますよね」


 空気読めよこういう時ぐらい!


 




 


 

 

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