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第九話「暗闇の少女」


 ―――俺は今、男として最大級の壁にぶち当たっていた。


 目を開けたはいいが、女性達の姿が湯気で全く見えないのである。

 流石に対湯気用のスキルはこちらも持ち合わせてはいない。

 クソッ、しまった……湯気の事を全く考えてなかった!


「ふにゃ~、気持ち良いですね~」


「……ふわあ……いい湯加減だな……」


 何処からかそんな聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 やはり酒が入っているおかげで、二人の思考能力は低下している様だ。語気が何となくふにゃりとなっていてだらしない。

 というか、二人共酒なんか飲んで大丈夫なのだろうか。

 まあ、何にせよ今はありがたい。


「ふにゃ~……そうだ! レイさんって今幾つなんですか~?」


「私か? 私は……十四、だな」


「にゃるほどにゃるほど~! えいっ、じゃあどれだけその身体が成長してるか確かめちゃいますよ~!!」


「うにゃああああああっ!?」


「……!?」


 ―――俺は本能的に二人の声がする方へと向かった。

 段々と視界が開けていき、二人の白い肌が見えてくる。揉み合っているのが分かる。今だけはイーリアに感謝しておくとしよう。


 しかしまだ駄目だ。肝心なところに湯気の妨害が入る。

 なんとなーくここに胸があるな、っていうのは分かるのだが、なんとなくでは満足できるハズもない。俺は十分に警戒しながら、見る角度を変えようと―――


 ―――して、勢いよく湯船の中に潜り込んだ。


「……!?」


 なんと、早くも透明スキルの効果が切れてしまったのである。

 これは想定外だ。マズイ。このままでは二人にSOSという核爆弾を周囲の人達に向けて投下されてしまう。

 そうして俺が社会的抹殺を食らう流れになるのだろう。


 というかヤバい。

 今気付いたが、今日調子に乗って魔法やらスキルやらを使い過ぎたせいで魔力切れが近づいてきているのが分かる。何となく身体が怠い。

 多分、あと一回透明スキルを使うのが限界だろう。


「……ぷはあっ!! 『ブルーネス・クリア』!」


 俺は二人から大分離れた所まで行き、大きく息を吸ってから透明スキルを発動させた。

 風呂がデカい上に濁り湯だったので助かった。

 クソッ……仕方ない、今日は諦めてまた明日再挑戦するか。

 心の中で何回か葛藤したが、ここは退くのが得策だろう。


 肝心の部分は見えなかったが、二人の脇やおへそなどは何となく見る事ができたからな、うん。

 十分英気を養う事もできたし、このままそーっと……。


「……あれ? 何かあそこで、人が動いてるような気がしないか?」


「!?」


 そんなレイの声を俺は、かろうじて聞き取る事ができた。

 ……マジかよ、オイ。かなりの距離があったと思うんですけど。しかも人ってちゃんと気付いてるし。

 どうやら俺は異世界人の視力を舐めきっていた様だ。


 というかなんなの? 

 なんでこういう時に限って、湯気さんは何処かに行ってしまうんですか?

 

「……ッ!!」


 ヤバイ。メーデーメーデー。俺は可及的速やかに男湯へと続いている排水口のフタを開けると、そのまま中へ入って男湯へと逃走する。

 ―――しかし。


「ホントですかー? モンスターだったら大変ですし、私がビリビリさせときますね。『ライト・バインド』ッ!」


 ―――最後の最後で、イーリアがとんでもない規模を誇る光魔法を、先程俺がいた場所に放って来た。

 それはそこだけに留まらず、排水口の中にいた俺の股間にも命中し―――。


 ―――男湯へとたどり着くと同時に、俺の脳は活動を停止した。


                ■


 男湯に後から入ってきた男性冒険者に助けてもらい、九死に一生を得た俺は。

 翌朝、とあるクエストの依頼を果たすべく、闇に包まれる洞窟の中を歩いていた。


「あの、蓮さん。昨日は本当に何があったんですか? 朝からずっと顔色悪いんですけど……」


 もう二度と覗きなんて俺はしないと思う。

 というか、恐いよコイツら。おへそと脇の鑑賞に当たる代償が股間バインドって酷すぎるだろ。

 当然、俺はコイツらを恐がるようになるわけで。

 正直俺はイーリアの事を舐めきっていたのだが、あのバインドスキルは本当に恐い。

 

「……なあ、イーリア。なんだかレンも疲れている様だし、何か慰安させるような事をしてあげるというのはどうだ? すごく顔色も悪いし震えているし、心配なんだが……」


「うーん……流石に異世界にやって来た疲れが溜まってるんですかね。私にたくさん酷い事したのでざまあみろって感じもするんですけど……アレはちょっと流石に、私も心配に思うというか……」


 二人がそんな懸念の心境を伝えあっているが、こればっかりは俺の自業自得だ。

 二人に「大丈夫」とだけ端的に伝えると、俺は再び歩き出す。

 

 というか先程から気になっていたが、イーリアの魔法使い用のローブを着た格好が中々サマになっている。若干袖が余ってだぼっとしてはいるが。

 何故ブラックファングと戦う時に着なかったんだと問うと、「装備なんか着たら女神の威厳が失われるから」との事だった。

 しかし俺が異世界人っぽい格好になっているのを見て、自分もちょっと着てみたくなったらしい。

 これでアイツにも、ファッションを気にかけるような女の子らしさが出てくるといいのだが。


「蓮さん蓮さん、これからどんなクエストに行くんです? モンスターですか? 採集クエストですかっ? どんな事でも、女神イーリアちゃんにお任せですよっ!」


 なんだか妙に優しい笑みを浮かべながら、イーリアが俺に言ってくる。

 さっき俺がここに来る前にちゃんと内容を説明したのだが、コイツは聞いてなかったのだろうか。


「今日は採集クエストに行くんだよ。モンスターと戦うのも疲れてきたからな。この洞窟の奥に生えてる『グリーンハーブ』っつー薬草を採りにいけばいいらしい」


 そこまで言って、俺はちらりとレイの方を見る。

 レイは「?」と小首を傾げているが、コイツにまたあのとんでもない技ぶっ放されてはたまらないからな……。

 そんな事を考えながら、俺が黙々と歩いていると。


「……ん?」


 遠くに、何やら銀髪の……エルフ? らしき人物が見えた。

 ソイツもこちらに気付いた様で、暗闇でも分かる紫紺の瞳をこちらに向けてくる。

 ……そして察する。これ絶対美少女じゃん……。


 


 

 

 

 

 

 




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