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プロローグ

二次元をこよなく愛する男子の異世界日常をお届けします。

「葉月蓮さん、ようこそ死後の世界へ。貴方は先程、不意の事故で亡くなられました」


 真っ白な異空間で、俺は唐突に何者からかそんな事を告げられた。

 状況整理ができない。何がなんだか分からない。

 

 ……死んだ? 俺が?

 

「…………いや、ちょっと言ってる意味が分かりませんね」


「葉月蓮さん、ようこそ死後の世界へ!」

 

「……!?」


 自分の不幸を明るく言及する声を聞き、俺は思わず顔を上げる。 

 そこにあったのは、人……否、正確には画面に映し出される何とも可愛らしい二次元美少女の姿だった。


 長い金髪を靡かせ、白い羽衣に身を包んでいる。その美貌は、当然ながら三次元の女子とかけ離れていた。

 

 それはさておき、俺は何故こんな所にいるのだろう。

 神話もドラゴンも異世界も、全ては二次元上の話だったハズだ。

 

 勿論それら全ては俺の憧れだった。というか夢だった。

 突然の自分語りになるが、ライトノベルが俺は大好きである。

 別にこの時点だったら何の問題もない。ライトノベルが好きな男子なんて、この世にごまんといる事だしな。


 ……ただし、あまりに過度な「好き」は、時に「辛さ」を生むという事を俺は思い知った。


 だって二次元だもん。会えないし。寂しいし。

 何か強大な異変が起こるだろ、画面の向こうにいつか行ける日が来る、そう思い続けてたらいつの間にやら17歳になってました。

 この気持ちは、洗練された二次元信者にしか多分分からないと思う。


 そうだな、あえて分かりやすく表現するなら……平面上の美少女のスカートの中をどんなに頑張って覗こうとしても、結局結果は同じ、みたいな。

 とにかく、話せない、触れないっていうのがまず悲しみの原因の一部だよね。


 ―――俺はハッと我に返り、フヨフヨと浮いている画面の奥でニコニコしている少女に尋ねる。


「ええっと……聞きたいんですけど」


「どうぞ?」


「俺っていつ死にました? ハッキリ言って何も覚えてないんですよ。学校から帰って来て疲れてミライちゃんの抱き枕抱えて寝た、しか分からないです……」


「あ、そうですか……。なんか要らない情報提供が入ってましたけど……」


 無意識の内に自分のお気に入りの二次元美少女の名前を出してしまうのは、オタクとしての悲しい性だ。


 あ、ちなみに俺、学校はちゃんと行ってる。今日疲れた原因は課題を忘れて先生から長時間説諭をされていた事にあるんだけど、成績はそこまで悪くない。

 

 テストの一週間前に全力で勉強すれば、案外成績安定するんだよね。こんな事言ったら日々真面目にやってる人に怒られそうだけど。


 と、俺が死因不明の現状に首を傾げていると、少女はふーむと唸ってから淡々と語り出した。


「えっと、貴方が死んだ原因としてはですね~いわゆる、『明晰夢』ってやつのせいです」


「めいせきむぅ?」


 聞き慣れない単語に俺は顔をしかめる。


「明晰夢っていうのは、え~と何というか……。夢の中で『これは夢だ』と気付いている状態の夢の事を表します」


「ああ、そういえばそんな話聞いた事あるかも。それが何で死因と繋がるんだよ?」


「えっとですね~」


 少女は幼さの残る顔だちを、ぷぷっとからかう様な笑顔に変え。


「明晰夢って、夢の中で夢だと気付いている状態だから、何でもできちゃうんです。貴方の望んでいる、二次元の女の子だって自分で創り出す事が出来るんですよ。五感も夢の中でちゃんと冴えているので、触る感触だって楽しめます」


「……ほう」


「貴方は抱き枕抱えて寝た後に、明晰夢を見たんですよ。勿論貴方は無事二次元の美少女を夢の中で創り出す事に成功したんですが、何故か直後にその女の子と追いかけっこを始めちゃいまして」


「…………」


「そのまま寝ぼけて、貴方自身の体も動き始めちゃったんですよ。普通は幽体離脱とかなんですけど、貴方の場合異例だったみたいですね。そして貴方は二次元美少女と追いかけっこしている内にそのまま外へ出て、トラックに轢かれてっ……あーもう我慢の限界! あははははははははは!!」


「はあああああああああああああああ!?」


 寝ぼけて外出、轢かれて死亡!?

 

「ちょっと待てよ!? そんな理由!? あまりのオタク度故に、俺は二次元美少女に死へ導かれたというのか!?」


「まあ端的に言えばそうなりますねー。その女の子も貴方が創り出した幻に過ぎないんですけど」


 少女は笑いをかみ殺しながら、心底可笑しそうにしてこちらを見た。

 この子はさっきからなんなの? 女神様とかじゃないの? 女神って人の不幸笑っていいの?

 

「……はあ、参ったなあ……。先に言っとくけど、俺、三次元の異世界転生とかマジで御免だからね?」


「……貴方は何で、そんなに現実を嫌うんです?」


「そこ聞いちゃうかあ……」


 俺は自分の目も背けたくなるような過去を、この少女に話す事にした。


「……昔っから俺の家には、親の趣味でアニメのグッズやら漫画だのが山ほどあってさ。小学校の内はまだ無聊を託いてたぐらいだから良かったんだけど、中学校入ってからはそうもいかなくなってさ。忙しくなったから、当然二次元美少女と触れ合う機会も少なくなった」


「学校、嫌いなんですか?」


「自由を好む俺が、好きになれる筈もないだろ。それでもやらなきゃいけないよなって思って毎日を頑張って生きてたんだけど、ある日悲劇が起きた」


 俺は大げさに両手を広げ、怒り混じりに話を続ける。


「……コスプレだよ、コスプレ! 学校の文化祭で、俺の大好きな二次元美少女のコスプレをする輩が現れやがったんだ! いや、そこまではいい。こちらのエゴで、そのコスプレした輩を説教するワケにもいかないからな。……だが、問題はその次だ」


「……」


「ソイツらがさあ、ノコノコ俺の元にやってきて、俺のバッグに付いてる美少女キーホルダーをからかってきたんだよ! その時期特にお気に入りだったエリンちゃんのキーホルダーを!」


 流石にあの時はキレた。

 心の中でコスプレを許してやったのに、なんとも不躾な連中だろうか。


「……え、それ、結果的にどうなったんです?」


「キレた事にはキレたんだけど、流石に手は出さなかったよ。ただ、もうその時から、俺はこの世界で生きるべきじゃないなって気付き始めてさ。でも親に迷惑だけはかけたくないから、毎日独りで学校生活は送ってたよ」


「……」


「そ、そんな眼で見るなよ……。分かってるよ、二次オタが偏見される存在だって事ぐらい」


 現実なんてそんなもんだ、分かってる。

 毎日学校から帰っては、ギャルゲーをプレイする日々だったなあ。

 いや、今も二次元の少女と会話してる時点で似た様なもんだけど。


「……なんか思い出したくもない過去を追憶しちゃったんだけど。どうしてくれんのお前?」


「……今から貴方には、三つの選択肢を与えます」


 俺の言葉を完全無視で、少女はコホンと咳払いした。

 勿論この少女は、画面の奥の住人なだけあって見てくれは非常によろしい。 

 さっき俺の死因を思いっきり笑った事に関してはどうかと思うが。


「一つ目。貴方は亡霊の姿と化し、天空の覇者に成仏される事を望みますか?」


「いきなり何言ってんのお前? 二次元だからいいけど、それ現実で言ったらアウトなやつだからな? 中二病も大概にって言われるやつだぞ」


「質問に答えてください」


「……望みません」


 何度も言うが、俺は三次元の異世界転生は嫌だ。

 萌えアニメが実写化されて視聴者がキレるのと同じである。

 かと言ってこのまま消えるっていうのも、なんだかもったいないよなあ。


「二つ目。貴方は赤子の姿へと化し、記憶を失った状態で再び日本で裕福な家庭に生まれる事を望みますか?」


「え? やだよ、何言ってんの? 記憶失った状態でしかも三次元ってなんのメリットがあるんだよ」


「……三つ目。貴方は痛みを感じる事なく、地獄の底で燃え尽くされる事を望みますか?」


「一つ目と三つ目に関しては、貴方は死にたいですかって言ってる様なもんだぞ!? 嫌に決まってんだろんなもん!」

 

 いや、もう既に死んでるんだけどさ。

 ロクな選択肢がない。結局二つ目も生まれ変わるだけであって俺の記憶は失われてしまうのだから、なんの意味もない。


「……じゃあ、もういいよ。普通にこの姿のまま生き返るとかにしてくれよ。そっちの方が俺の母さんも父さんも喜ぶだろ」


「……無理です」


「……は?」


「それは、その……。前に色々私がやらかしちゃったヘマのせいでですね、色々蘇生制限っていうものが上のお偉いさん達からかけられちゃったんですよ」


「はあ? 何やらかしたんだよお前。てか、尊い人の命に蘇生制限かけるってどういう事だ」


「い、いやあその……制限がかかっちゃったおかげで、ですね……。十五歳以上の人はその姿のまま蘇生できないっていう決まりが定められまして……」


「……いや、マジで何やったんだよお前」


「……言えません」


 プイっと少女は顔を背け、何故だか頬を赤らめた。

 それほどまでに言えない事なのだろうか。だとしたら、俺がそこまで踏み込む余地もあるまい。

 

「じゃあ俺はどうすればいいの? このまま消えるの?」


「え、えっと……。ここに送られてくる十五歳以上の人っていうのは、大体思い残す事なく幸せに生涯を送れた人達で、貴方は消えますって言っても文句言わないんですけど……貴方はちょっと、困りましたね」


「……いやあ、皆幸せに生きられてるんだね。偉いわ」


 ここに送られるっていう事は、他にもいくつかに死者が送られる場所が分かれているのだろうか。


「……むむぅ……貴方は、どうしたいですか?」


「へ?」


「……私がやらかしたヘマのせいで貴方を見捨てるというのは、どうしても道理にそぐいません。貴方の望みを、何でも叶えてあげます」


 画面の奥の少女は、神々しいオーラを放ちながら、「自分何でもできます」感を明瞭にして胸を張った。

 本当にこの子は何をやらかしたのだろう。

 

「……今、何でもって言ったよな」


 俺は身体を伸ばしながら、画面の奥の少女と向き合った。

 

「……なら、俺を画面の奥に連れて行ってくれないか」


 これは心の底からの願いだった。

 思えば、こんな死後の世界があった事も奇跡だったのかもしれない。

 いつか、誰かに叶えてもらえると信じ続けたこのお願いは。


「いいですよー」


「軽ッ!?」


 ―――目の前の二次元美少女によってあっさりと承諾された。


 数多のギャルゲーをプレイしてきたが、ここまで自分のお願いをあっさりと受け入れてくれる二次元美少女は見た事がない。


「……え、マジで言ってんのお前?」


「私だって神様ですもん。女神イーリアですもん。神様の力を使えば、そのくらいの事はできます」


 再び少女―――イーリアは胸を張り、その胸の隆起を明瞭にしてみせた。


「本当はこの神様の力、使いたくはなかったんですけど……ええい、もうこの際仕方ないです! 元々私のヘマが原因ですし!」


 そんな独り言を呟きながら、イーリアは青い双眸を真っすぐこちらに向けて来た。



「汝、葉月蓮よ……。貴方に、神々の加護を与える! 『アーススピア』――――――!!」


「ちょ、待っ……ああああああああああああああああああああああ!?」


 そんな制止の声はイーリアに届かず、俺の意識は闇へと落ちた。


 

 

 


 


 

 

 

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