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まいごのまいご○○○○さんなの

ブクマ1151件。感謝いたします。そして、 閲覧して下さる皆様にも感謝を! 


 ギルドへ辿り着いた俺は、さっそく中へと踏み込み、受付の列へと並んだ。昨日、師匠と森へ狩りに出掛け、罠を仕掛けるポイントに向かう道すがら、薬草を10束ほど採取してくれた事を思い出し、朝一番にギルドへ提出することに決めたのだ。


 ほんと、うっかりしてた……師匠がコレを俺に押し付けるように持たせてくれたのは、きっと宿代に困った場合を想定しての配慮だったと、今頃になってから気づく俺であった。


 今まで多くの新規プレイヤーに、救いの手を差し伸べてきたと言うハム太郎師匠の事だ……ひょっとしたら俺も宿代が足りなくて、困って野宿するようなハメになると想像したに違いない。

 まだ短い……そう、たった1日ほどの短い付き合いだが、ハム太郎師匠の人柄は、そんなたった1日と言う(わず)かな時間でも、俺のハートにきちんと届いていたのに……師匠、ごめんなさい。


 でも、そのおかげでトーマスさんという、掛け替えのない素晴らし人に保護されて、良き巡り会いが生まれました。

 心の中でちゃんと、師匠に感謝の言葉を呟き、アイテムボックスの中から薬草を選択して取り出す。1つ1つ感謝を込めて、床にそっと置くのだった。


 えーと、たしか5束で1クエストクリアーだった気がする。報酬が1クエスト60ロンだったかな? いま手持ちが10束だから……2クエスト分で120ロンの報酬か。

 おー! これで今度こそ宿屋に泊まれる所持金となったわけだが、今夜また、トーマス家にご厄介にならないといけない。何故なら、きっと泊まりに行かなければ何かあったと、心配したトーマスさんが街中を駆けずり回ることになるにちがいない。

 それを想像してしまうと、ますます約束を反故(ほご)にするわけにはいかない。だって、恩を仇で返す行為になってしまうからな……だから、これは決して守らなくてはならぬ、男同士の約束なのだ。


 それにね……


 ちょっとだけだけど、愛する妻と可愛い愛娘の二人に厳しく追い出されて、しくしく顔のトーマスさんが、「クウちゃ~~~ん! お願いだから出てきておくれ~!」って、そんな彼の困った様子が頭に浮かび、悪いとは思いつつも、ほくそ笑んでしまう俺だった。


 なんと言うかさ、マジでありがたいよな……いや、ホントに。


 こうして赤の他人にも、その温かな思いやりを(ほどこ)すトーマス一家に拾われた、この事実に感謝する。心の底からそう思わなきゃホント、罰が当たるってもんだよ。だからせめて、その好意を受けさせてもらっている間に、なんとか独り立ちできるように頑張らんと。


 そんなことを一人黙々と思い巡らせ、腕を組んで時折(ときおり)「う~ん、う~んなの」と唸っている姿に、微笑ましい視線が集まり、たびたび話し掛けられては無難にやり過ごして待っていた。すると、とうとう俺の受付の番がやってきた。


 ふと、受付カウンター前の椅子にどうやって上がろうか悩んでいると、背後からサッと影が()した。あ、気がついて振り向くと、受付嬢のメルシーさんが俺を見下ろしていた。


 彼女は俺がギルドにやって来た時からずっと我慢していたのか、ウズウズという擬音を引っ下げて、カウンターの前までわざわざ足を運びに来てくれたのだった。


 そして、膝を抱えるなりヒョイと俺と薬草の束を一緒くたにまとめて腕に()(かか)え、そそくさとカウンター向こう側へと回る(拉致る)。


 そうして席に着くなり、左腕で俺を横に包み込むように抱っこしながら、空いた右手の手のひらで、何度も何度もなぞるように頭を優しく撫でる。まるでその優しい愛撫は……はうっ!?


 頬に……お、お胸がポヨポヨと当たる。避けるように首を動かした際、ふと見上げた彼女の顔を(とら)えて、俺は動きを止めてしまった。


 ……あ……


 それは……女性が持つ慈愛を含んだ母性の顔。俺の本能に訴え掛ける。


 ……大人しくしてろ……と……


 こんな赤ちゃんを魅力して止まない、とても優しく美しい笑顔であった。その素敵な笑顔に、俺はただじっと大人しく愛でるられるのであった。


 なんとなくだけど……もし母親がいたら、こんな風に優しい笑顔を向けてくれたのかな・・そんなことをふと思ってしまう俺だった。


 ただ、それはそれとして……えーと、(ギルドの)お仕事はしなくていいの? 


 なんとなくなされるがままの状態で、彼女の腕の中からじーーっと見上げている様子の俺は、ひたすら穏やかな笑顔でニコニコしている彼女の瞳に訴えて掛けてみる。


 だが、メルシーさんはそんな俺の意図の含んだ視線にとっくに気付いているのか、はたまた、分かった上で無視し続けているのか、そんな無言のやり取りをしている俺達の二人の様子を、カウンター越しに眺めるプレイヤーさん達は、ちょっと羨ましそうに、羨望の眼差しの目で淡々(たんたん)と眺めているのであった。


(プレイヤーA)「いいなぁ~、俺も赤ちゃんプレイがしたいよ」


(プレイヤーB)「分かるわぁ~、メルシーさんに抱っこされながらナデナデって、もうご褒美じゃんよ!」


(プレイヤーC)「実装はよ~! つうか変わってくれクウちゃん!」


 羨ましそうにぼやくプレイヤーさん方よ……隣の芝生は青いとよく言ったもんだよ……一歳児になってごらん? 赤ちゃんのデメリットと言うものが、開始直後に嫌って言うほど味わうことができるから……


 あらゆる物は大抵俺より大きいし、規格外の物の中で生活をするって言うことが、どれだけ苦労を(ともな)うことか……ただ歩くと言う、そんな単純な動作ですらも、このちっこいボディーには一苦労なことなんだから。


 当たり前と思える事や、自分の身に合わせた環境の中で日々過ごせるって事が、実際どれだけ有りがたいことか、恐らくそれが当然すぎてわからないんだろうな……


 と、そんなことを俺が感じている間、俺を抱いているメルシーさんにとってはガヤガヤと騒ぎ出す外野の存在は、ハッキリ言って邪魔者以外の何者でなかった。


 穏やかな一時(ひととき)を壊されたと感じたのか、それともここいらが限界だと感じたのか、それを(あらわ)すかのように、嘆息(たんそく)気味に『はぁ~』っと一息吐く。

 そして、キリッとした表情に(たたず)まいを(ととの)えて、やっと業務モードへと言うべく、体の向きをカウンター正面へと向けるのであった。


 ただし、少々ご機嫌斜めな表情を装備して……端的に言うと、目が笑っていない、取り(つくろ)っているだけの営業スマイルだった……


(メルシー)「んっんん、……静かに出来ないようなら、別の列へお並び下さい」


 (ひや)やかな視線で参列者をチラッと一瞥(いちべつ)した彼女は、それを切っ掛けに片手で薬草の束を器用に取り扱い、カウンター下に常備されている引き出しから専用の書類を一枚取り出し、サラサラと慣れた手つきで書き込んでいく。

 恐らく、薬草採取のクエスト完了処理を(おこな)ってくれているんだと思う。ただ、両手でやった方が早く終わるのに……やっぱり俺を手離す気はないようだ……


(?)「「「す、すいませんでした……」」」


 話を元に戻すが、メルシー信者の彼等にひとこと言わねば……人(猫)生、そんなに甘くない! 


「そこのおにいさん! このからだでぷれいしたらわかるの。あかちゃんぷれいはおもっているよりはーどもーどなの。

 ……しくしくしく……ごぶりんにわんぱんなかみ(紙)HPに……ひとりでたつことだってむりな、このしんたいのうりょく……それでもあかちゃんろーるをたいけんしてみたいですの?」


 しくしく顔を向けながら、切実に訴えてみる。彼等にも教えてあげよう、父の教えを。人の立場に立って想いを(さっ)することによって、見えてくる世界が変わるということを。


(?)「うわぁ~……マジ?……あー、そう言えばさっきも進む時はハイハイだったね。俺さ、てっきり、あれってキャラ作りの一貫だと思って言わなかったんだけど、あー、あれってば、本当にガチだったんだ……たははは」


 ポリポリと気まずそうに人指し指で頬を掻き、バツが悪そうな顔を作るプレイヤーのお兄さん。


「なの! うそをつくならもっとましなうそをつくの。このほかくされたすがたをよくみてなの! せくはらぶろっくさんがはたらいてくれないから、クウちゃんはまないたのうえのにゃんこなの」


 と、そんなやり取りをしていた俺の頬に突然、メルシーさんの手が添えられ、クイッと彼女の方へと顔の向きを変えられる。


(メルシー)「はい、そこまで。おはようクウちゃん。こらぁ~、危険な冒険はしちゃめっ!って言ったでしょ。も~~、異世界人じゃなければホントに死んじゃってるのよ? もう、ホントにわかってるの? めっ!でしょ」


 先程のゴブリンワンパン発言に対して、人差し指でオデコを優しくツンツンして注意する彼女に、俺はついつい(呆れ気味の)半目で彼女を見上げしまう。


 いや、だってさ……


「ぼうけんしゃぎるどのおねえさんがそれをいうのは、クウちゃんめっ!だとおもうの。それと、おはようございますなの」


 クウちゃんは正論を唱えたてみた……クリティカルヒット……?……いや、反撃(カウンター)(かえ)ってきた!


(メルシー)「ギルドの職員である前に、まず一人の大人として言うわね……子供を守るのは大人の義務であると同時に、世間一般では常識です」


 ドドンと反撃(正論)をモロに喰らった。ぐぬぬぬ……な、何も言い返す言葉が見つからん。だって、俺も逆の立場なら絶対そう言うし……そんなぐうの音も出ない様子の俺を、カウンター向こうのプレイヤー達はしみじみと頷きながら頷いていた。


(プレイヤー)「めっちゃっ正論だよな」


(プレイヤー)「あ、クウちゃんグウの音もでないみたい」


(プレイヤー)「あははは、困ったクウちゃんもきゃ~わぁ~い~い~♪ あ~、お姉さん、フレして欲しいな~……チラッ」


 もう、外野はだまらっしゃいっ! ほんの少しだけ避難がましい視線を向けるも、フレンド登録をしてほしそうな顔を向けているだけであった。むぅ……


「……な、なるべくぜんしょしますの」


 とりあえず困った時は、場を濁して誤魔化すに限る。う~ん、自分で言うのもなんだけど……一歳児の言う台詞じゃないよな、まったく。

 そんな汗だらだらで困った様子の俺を見下ろしながら、少し呆れた顔をするメルシーさん。そして、まるで何かから俺を守るかのように首をかしげ、優しくスリスリしてくれた。


 そんな愛のあるスキンシップからも、彼女が俺のことを親身になって心配してくれている様子が窺える。……チクッとハートに何かが突き刺さり、モヤッとした罪悪感と言う名の反省の念が(つの)る。

 その、心配をかけてしまってごめんなさい。心の中でしっかりと謝罪をしつつ、せめて大人しくされるがままジッとしていた。


(メルシー)「見た目は赤ちゃんなのに、難しい言葉を使うのね。(でも、だからって赤ちゃんなのは変わらないんだから……めっ!)でも本当にソロは危険だからめっ!よ。

 必ずお外(街の外)に行くときは、誰かとパーティーを組むこと。それか、なるべく他の冒険者の後についていくか、近くに寄って、いつでも助けてもらえるような状態にすること。ただし……チラッ……(こんな)怪しい人や、おかしな人にはついて行っちゃっめっ!よ」


 ・・・・この時、ほんの少しだけギルド内の温度が下がり、時が凍り付いたような気がした。あー、主にカウンター前の列に並んでいるプレイヤー達から、ただならぬ冷気が放たれているような気が……いや、気のせいじゃないよな、これ……


(プレイヤー)「今さ、絶対こっち見たよね? ガン見だったよね?」


(プレイヤー)「『NPCの癖に……NPCの癖に……NPCの癖に……』」


 彼等のことなど、(はな)から眼中に(入ら)ないメルシーさんは、この後5分ほど大人(保護者?)の立場から俺をめっ!と指導する。

 そして、なんだかんだと言いつつもしっかり、提出分の2クエスト分の報酬を小さな皮袋に入れて、俺のポンポン(お腹)の上に置いてくれた。

 これで手持ちの所持金が残りの20ロンと、今回の報酬分の120ロンで、合わせて140ロンとなった。所持金が三桁になったことで、心に余裕が生まれる。正直ありがたい。


 そして、麗子ちゃんから授かった知識の中に、ギルドにお金を預ることができることを知っていたので、とりあえず100ロンほど入金しておいた。

 まぁそんなことは有り得ないだろうが、もしこれでトーマスさんの家に泊まれない事態が起こったとしても、素泊まりの宿でとりあえず一泊は確保できる。備えあれば憂いなしだ。


 全財産の140ロンから100ロンの入った小袋をメルシーさんに手渡すと、周囲から鼻をすする音が聞こえてくる……あれ?……周りに視線を向けてみると、そこには憐憫(れんびん)を帯びた視線を向けられる俺がいた。


(プレイヤーD)「なんだろう……凄く切ない」


 120ロンの報酬で喜ぶ俺に対して……?  


(プレイヤーE)「クウちゃん、ちゃんとご飯食べてる?」


 まさか、食費をケチって、宿に泊まっていると思われているのだろうか……?


(プレイヤーF)「スレで野宿してたって書いてあったけど……ぐすっ……困ったら、いつでもいいから俺に相談してくれ」


 仮想空間と言えども、心優しいプレイヤーさん達……死活問題にならないとわかっていても、俺の今の状況を不憫に感じてしまうらしい。


「あー、えーと……きょうしゅくですの」


 家無き子的な扱いをされて、同情を一身に買ってしまう。そのなんだ……この状況にどう言葉を返したらいいか、正直困る。

 うーん、とりあえず、これからはこんな風にあまり同情されないよう、心掛けて稼がなければ……要らぬ心配はあまりかけたくないしね。


 さてさて、その為にもまずは身近な人に協力を求めることが今は必要かも……事態は俺が思っているより、周りに心配を掛けているようだからな。


 ここはひとつ、ぬこラブさんこと【ぬーちゃん】に連絡が取れないかな? 彼女ならきっと俺のお願いを聞いてくれそうな気がする。


 そう思って開いたウィンドウ画面のフレンドリスト覧……更にその備考欄には、「只今クエスト中」のメッセージが()えられていた。つまり、只今連絡が取れない状態であると言うことだ。


 なら思いきって野良PTって奴に参加してみるのはどうだろうか? うーん、ただ昨日の一件で良い人と組める可能性がどうしてもイメージできない。

 ゲーム開始直後に押しの強い人達ばかりを()の当たりにしてきたせいか、ああ言う人達と組むことはやはり気が進まなかった。

 ああいう人達って自己中心的なイメージがあるし、出来れば避けたいんだよな。だが、こうしていても状況は一向(いっこう)に変わらない。


 なら仕方がない。とりあえず一人で昨日出掛けた森へとまた足を運んでみるか? もふもふトラバサミがあれからどうなったか気になるし、向かっている途中で再度、ぬーちゃんと連絡が取れるかもしれないしな。


 早速予定を立てた俺はギルドを後にして、大通りを抜けて南の街門に向かう。この時、後ろに数人ほどついて来ているような気配を感じたけど、特に気にすることなくそのまま進んだ。


 そして、街門に辿(たど)り着くなり、守衛さん達にやたらと森へ向かうのを止められたけれど、「かせがないと、いきてけないの」と切実(せつじつ)に訴えると、ギルドの時にされた反応(同情)をここでもされてしまう俺であった。


 結局、引き止めることが救いにならないと察してくれたのか、渋々ながらも門を通してくれる守衛のお兄さん達。まあ最悪異世界人だしね、殺されても教会に出戻りするだけだから。そう言った意味合いもあって、ここは通してくれたんだと思う。


 それに俺が街門を越える時、横に並足するようついて来ていた兎人族のお姉さんと、普通(ノーマル)の人族のお姉さんが居たので、守衛さんもそれならばと引いたんだと思う。だって彼女達……凄い強そうだし。

 一応、この二名のプレイヤーさん達にお礼を伝えてヨチヨチと門を(くぐ)る。はぁ~、一歳児が冒険に出るのも一苦労だ。


 ところで……このお姉さん達、こんな初期フィールドに何の用があるんだろ……?



 ………………

 …………

 ……

 …


 

 か……かはっ……ふ、二人のお姉さんのプレッシャーに敗けて……ふ、フレ登録しました。用は……これだったのか……


(?)「「いえ~い!」」


 ハイタッチをして勝ちどきをあげる二人の女性。あの後、ずっと俺を挟むようにして並足する彼女達は、特に話し掛けてくることもなく、ただただ、ずっと俺の横から一定の距離を保ちつつ歩いていた……そう、ただ歩いているだけ……だった……?


 ……じーーーーー……


 森に向かうまでの長閑で牧歌的な一本道……ポカポカ陽気の下をひたすら前を向いてハイハイをする俺。じーーーーーっと俺を見下ろす2つの視線を、さっきからヒシヒシと感じていた。

 そんな視線にいつしか堪えられず、クルッと右上を振り向くが、まっすぐに前を向いた兎人族のお姉さんが、素知らぬ顔で口笛を吹いていた。


「・・・・・・」


(?)「~♪」


 ……今じーーーーーっと見てたよね? 絶対にじーーーーーっと見てたよね?


 ……じーーーーー……


「ぬ~~~~はっ!?」


 すると今度は反対側からじーーーーーっと見つめる視線を感じ、急いで振り向くが……


(?)「~♪」


 コチラも同じく口笛を吹きながら、素知らぬ顔で前を向いていた。


「・・・・・・」


 ……じーーーーー……


 すると、またまた反対側から(以下略)……


 ……ぐ……ぐぁあああああああああ!!!


(?)「~♪」


「~~~~~~~~なの!!! こうさんなの~~~~~~!」


 ……と言うわけで、永遠と繰り返されるこのコンボに根を上げた俺は、草原でうつ伏の状態で大の字になったと言うわけであった。もしアイテムボックスに白旗が合ったら、このままの状態でパタパタと振っていただろう。


 ムクリと顔だけを上げる。ここまでするんだ、相手は俺の事は知っているとは知りつつも、改めて自己紹介をする。すると向こうもすぐに自己紹介をしてくれた。


 兎人族のお姉さんが【ペパーミント】さん。クラスは魔弓士。


 アッシュグレイのセミロングヘアーに、およそ160cmの身長に真っ赤なジャージで上下を揃えている。体格は至って平均的な体型。スリムなラインは出るとこは出ているが、太りすぎてもいないし、痩せてもいない。


 至って平均的な体型である。そんな彼女の背中には、自身の身長よりやや短いくらいの大弓を背負っていた。


 この大弓……所々(ところどころ)に見られる細かな細工もそうだが、武器その物が放つオーラというか、見る者の心眼を試すような風格が、その殺傷力(火力)の高さとランクをアピールしているように感じる。


 父の宝物庫の中にある数々の宝具をそれなりに見納めてきた俺の目には、そう思えるものがあった。


 そして、もう一人の人族のお姉さんが【カモミール】さん。クラスは魔拳士。シルバーブロンドのショートボブヘアーに、およそ170cmの身長の彼女は、ペパーミントさんよりも若干一回り大きくしたような、均整の取れた体型であった。


 何か運動をしているのだろうか? ややガッシリとした体格は、一見(いっけん)細マッチョな感じに見える……そのせいか、お胸は少し寂しく感じた。


 そして、こちらも軽装と言うか、真っ黒なジャージに、手にはキラキラと輝く白銀の手甲をはめている。そして、手甲だけでなく、靴も同様の輝きを放つ見事なグローブを履いていた。


 それらを総じて感じること。ビギナーな俺でもハッキリとわかる……


 ぺパーミントさんにカモミールさんもそうだが、どう見てもこんな初期のフィールドに遊びに来るような人達じゃないのが、携えている武器や、その(たたず)まいだけでも一目に入れれば、(おの)ずと分かるものだろう。


 明らかに格上のプレイヤーさん。はっきり言ってしまえば、俺とつるむのに全くメリットが見えてこない……


 つまり、俺と彼女達の関係は、不釣り合い……分不相応(ぶんふそうおう)な組み合わせなのだ。


「おねえさんたち、クウちゃんまだしょしんしゃなの……だから、その……クウちゃんといっしょにぼうけんしても、あまりたのしくないとおもうの」


 そう、彼女達は俺に一緒に狩りに行こうと言ってくれたのだ。だから俺を心配してついてきてくれているのなら、付き合わせることは悪い。


(ペパーミント)「いいのいいの。それよりミントちゃんって呼んで。もしくはミントお姉ちゃんでもいいよ? ふぁ~、クウちゃんって凄いぬくぬくだよ~。凄いよ凄いよぉ~。うはははは! 何なのこれ~、つきたてのお餅よりも気持ちいいって有り得ないよぉ~」


 赤ちゃんをあまり抱っこした経験がないのかな? それとも興奮しててうまく抱っこができてないだけなのかな? 正直抱っこの仕方が下手で、ぎこちない手付きだった。

 その都度、俺が動いてポジショニング調整をすることで補正をする。それに気がついていたカモミールさんはやきもきしながら見ていた。


(カモミール)「……ミント、アンタ猫被り過ぎ。あ~!!!それとそこはもっとこうやって……ああっ!! もうっ違うったら! そうそう、そうやって優しく抱っこする! で、あたしのことはカモさんって呼んでね。クウちゃんよろしくね」


 ちょっと八重歯が覗く笑顔を浮かべながら、カモさんは俺の視線に合わせて膝を折り、小指をそっと目の前に差し出してくれたので、握るようにして握手をする。

 少しだけ……うん、ほんの少しだけネイちゃんのように男らしさ?を感じる人に見えた。あー、こう言うとネイちゃんは怒るな。

 うん……勇ましい感じなお姉さんと言い直す。あまり強く握らないように、力加減を計りつつニギニギと握手をすると、色々と強弱を変える度に表情を緩ませて微笑んでくれた。


(ペパーミント)「あんたねー……第一印象ってとっても大事なんだからね。これでクウちゃんに嫌われたらどうするのよ」


 あはははは。ガラッとキャラが変わるミントちゃん。こっちが元の素の顔なのね。ちょっとだけぶっきらぼうに話す彼女に、逆に親近感を覚えた。

 そして、そんな裏表のない二人のやり取りに、俺は内心苦笑いをしてしまいつつも、少しだけホッとしてしまう。まぁよくも悪くも、気軽にお付き合いできそうな二人で安心した。


(カモミール)「あーはいはい、怒らない怒らない。クウちゃんはあたしらとの差なんて気にしなくていいんだよ。そのね、レベル差って言ってもこのゲームに力を押し図る要素? 明確なレベル差ってないしね。

 それに異能スキルの使い方次第と、装備による組み合わせで勝敗なんていくらでも左右するし……更に言うなら、体調やその時の環境次第でだっていくらでも変化するから。

 ようはそれらをいかに上手く扱うかコツさえ掴めば、初心者だろうがなんだろうが、古参や廃人プレイヤーを(ほふ)れるのが、このゲームの醍醐味でもあるし、楽しむ要素だからね」


 ……とおっしゃっいますが、こうして森へ向かう間も彼女達は時折、明後日の方向に向かって突然遠距離攻撃を放っているように見えた。

 と言うのも、それぞれの武器で振るうそのモーションが俺には速過ぎて、何がなんだかよく捉えきれない……つうか、まったく見えん!

 なんとな~くだけど、モンスターがずっと現れない事と、少し離れた所からモンスターの断末魔(だんまつま)が聞こえ、響いてくる……この二点からそう判断せざるを得なかった。


 ぬーちゃんどころか、予想斜め上の助っ人プレイヤーの参戦……ホントにいいのかな~? 


「おねえさんたち、とってもつよそうなの~」


 もう、ほへぇ~!!!と感心することしかできない。ゲームと言えども、俺のいる異世界に突然やって来ても、十分に通用するだけの実力と下地(したじ)があるように思えるのだ。


(ペパーミント)「ミ・ン・ト!」


(カモミール)「カ・モ・さ・ん!」


 めっ!って腰に手を当てて、ギロッと半目で睨まれてしまう。あー、名前で呼んでほしいわけね。


「えーと、じゃあ、ミントちゃんとカモさんってよばせてもらうの。クウちゃん、このさきのもりにわなをしかけたから、かくにんしにいくところなの。その、ふたりにごえいしてもらえるなら、クウちゃんあんしんしていけるの」


 だが、そんな俺の言葉に対して、彼女達の表情が変化する。あれ? なんか変なこと言ったかな? 二人は顔を合わせて少しだけ怪訝な顔をした後、俺に質問するのであった。


(ペパーミント)「あれっ? クウちゃんのクラスって、たしかマジシャンって言ってなかったっけ? あれ? 聞き間違いかな……本当は罠士なの?」


 俺は首を横に振る。


(カモミール)「あたしもマジシャンって聞いた」


 口で説明するよりも見てもらった方が早い。なので、その場でもふもふ魔法を発動し、おにぎりもふを両手に乗せて二人に手渡した。


(ペパーミント)「ちょ!? これっておにぎりなの!? あははは、もふもふしてる(これってユニークスキル!?……ほへぇ~♪……こりゃあ~大当たりかもしれないわね)」


(カモ)「綿菓子みたいな異能力なんだ……へぇ~、これでトラップを作ったって訳か! あははは、面白い異能力だなぁ~♪ あは、クウちゃんと一緒でもふもふしてる」


 二人はこのゲームがホントに好きなんだね。もふもふおにぎりを『うにょ~ん』と伸ばしたり、ホントに口に入れてあむあむと食べたりと、色々試している。

 そして、抱っこされながら森へと向かう間にも、更に次々とお願いをされてもふもふ魔法で(こた)える俺であった。 


 ……それにしてもこの二人、ホントに色々と思いつくな……それは早速、(あらわ)れた二匹のゴブリンで試された。


(ペパーミント)「もふもふアローー!」


 そんな異能力は俺に無い。即興(そっきょう)で名付けたウエポンスキルで、彼女達がそう言ってるだけなんだが、もふもふ魔法で作った矢に笛と同じように幾つかの穴と、矢の芯の部分に空洞を作った。


 そして、特に(やじり)の部分は粘着力を高め、矢が突き刺さると同時に抜けないようにした。しかも全体的に弾力性を高めに設定してるので、力を加えて折ろうとしても、弾力に(はず)んでいるので決して折れることがない。


 まるで強力なゴムのように、いくらでも曲がって元に戻るのだ。そして、突き刺さったゴブリンの胸元からはドバドバと血が溢れ落ちる……当然、ゴブリンは出血多量で息絶えるのであった。


(カモミール)「もふもふフィンガーー!」


 こちらもふもふ魔法で同様に厚手の軍手を作った。そして、特に掌の部分の粘着性を高め、同じく弾力性を持たせる。ゴブリンの鼻と口を覆うように張り付けると、もがいて苦しむゴブリンは、そのまま窒息を起こして息絶えた。


 二人とも、一連の動作を意図も容易く(おこな)っているよう見えるが、それはハイレベルな立ち回りによる、無駄のない動きがあるからこそ、意図も容易くやっているように錯覚(さっかく)するのだ。


「うわぁ~、ふたりともすごいの~」


 だからありのままの感想を呟く。そんな俺のキラキラとした眼差しに、ちょっとだけ照れた様子の二人は照れを隠すためか、わざと咳をしながら誤魔化し、口元のニヤケを隠すように手で(おお)っていた。


(ペパーミント)「んっんん。そんなことないよ。それよりもね、クウちゃんの異能力は応用の幅が広いね……これ、素材無しでいくらでも作れるし……それに・・あははは、MPがリングになってるってありえないでしょ……ラグナロクで魔導砲見つけたら撃ち放題とか、運営は何考えてるのよ……」


 俺を抱っこし、何故かあんよをニギニギしながら、ミントちゃんは相方のカモさんに意味ありな視線を送る。何か不味い事があるの? そんな俺の視線に気がついたカモさんは、それに答えるかのように、説明してくれた。


(カモミール)「HPはその分真逆だとしても、これはこれでもはや1つのチートだし……それにクウちゃんを抱いていると常時回復って……さっきわざとつけたポイズンダガーの傷と毒も……あー、やっぱ回復してる。

 こりゃあ~、タンクと相性良すぎだろ……うーん、早めに会いに来ておいて正解だったかもしれない。【クリムゾン】や【ホーリーベル】辺りなんて、クウちゃんの性能を知ったらしつこく付きまといそうだし……あと【レジェンド】もかな~。その次に【くらむちゃうだー】や【あにまる兵団】とかも、あー、なんかもう、スカウトの嵐しか浮かばない……」


 もしの話をするカモさんが、そんな未来図を淡々と呟く。その1つ1つにミントちゃんがコクコクと真面目な顔をしながら頷いていた。つまり、身内の立場から見ても、そう的の外れていない予想だったようで……おうふ……


 二人が言うには、このゲームではログイン開始時刻すぐ、つまり、始まりの1週間の初めに開催されるクラン参加型イベント『ラグナロク』で、支援役は重要なポジションにあるらしい。ちなみに、1クランに付き参加人数は6名まで。


 特別フィールドに転送されて対人戦闘を行うこのイベントでは、特殊フィールド兵器【魔導砲】が用意されていた。

 MPをとんでもなく使い、大量を注がなければ使えないと、まぁ、微妙に使いづらかったりする仕様らしいのだが……うん、そこに俺を当てはめれば、ネタ兵器からチート兵器に大変身だね。


 この魔導砲なる兵器、格上プレイヤーに対抗する為の手段として、運営が用意した物なのだが、ラグナロクフィールドのどこかに設置されているらしい。毎回ランダムで、そうそう見つかる物じゃないらしいのだが、それでもだ……俺の存在は十分、バランスブレイカーになってしまうのであった。


(ペパーミント)「あまりクウちゃんはラグナロクには参加しないほうがいいかもしれないね。その、騒がれるのって、クウちゃん嫌でしょ?」


「なの。せっかくあそびにきたのにさわがれたら、もっとあそべなくなっちゃっうの。それはごかんべんなの」


(カモ)「そこでさ、うちは大手クランでそこそこ有名だけど、ラグナロクの参加もクエストの協力も自由。更に好きにプレイして、嫌になったら自由に辞める。特に縛りはないよ。だからさ、もし良ければうちのクランに来ない?」


 ミントちゃんとカモさんが俺に手を伸ばしてジッと待っている。……悩む。現状既に騒がれていて、さらに異能力の有用性を知られると面倒なことになると教えてくれた。


 二人のクランは俺にとって最適な条件かもしれない。だけど、ぬーちゃんや師匠と言った人達の居るクランにも、無論、興味があるわけで……


「とりあえずほりゅうというか、たいけんにゅうだんにさせてもらってもいいですかなの? その、ごめんなさいなの……いますぐにはへんじはかえせないの」


 逆に今度は、俺の伸ばした手を二人がどうするか待った。いや、待つと言うほどの時間は実際にはなかった。


(ペパーミント)「これからよろしくね! 和が同士よ! もふもふもふ~♪」


(カモミール)「気が早いっての、ミントは。全然構わないよ。どんなクランか体験してから決めてね……そうね、できれば返事は今週末にしてくれると助かるかな。まぁそんな訳だけど、1つよろしくね」


 ちっちゃな俺の手を気遣って、二人は小指で握手に応じてくれた。


*クラン【フリーランス】へ入団しますか?


 YES/NO→……YES


*プレイヤー【クウちゃん】は、クラン【フリーランス】へ(仮)入団しました。



 ………………

 …………

 ……

 …


 

 【フリーランス】に(仮)入団した俺は、早速メンバーリストを見せてもらった。在籍数は10名。そのうちIN率がもっとも高いのが、この二人を含めた6名らしい。


 なんと、クランの中には小学生から社会人と、幅広く活動しているらしい。俺も少しはリアルのことを話した方がいいのかな? でも、リアルに異世界からやって来た猫神様とか言ったとして……あーあかん……只の頭の痛い人か、中2病をこじらせた人(猫)だと思われる……


 そんな感じでウンウンと悩んでいたら、リアル申告は各自の自由と教えてくれた。それと無理に聞くのはNG。だけど教えて欲しそうな瞳を二人は俺に向けていたような気がした。


 そんなこんなで交代しながらもふられること30分。ついに目的の場所(森)へと到着した。マップ画面を出して、昨日仕掛けたポイントへと早速向かう。


 まず1つ目のポイント……獲物は無し。もふもふトラバサミはちゃんと仕掛けてある。ハム太郎師匠に教えてもらったポイントである。また誰かに教えることがあるだろうから、ここは少し横にポイントをずらして置き直すことにしよう。師匠、ありがとうね。


 2つ目のポイント……同じく獲物は無し。


 3つ目のポイント……!? ヒット! ビックラビットが罠に掛かっていた。コチラの気配に気づいた途端、逃げだそうとするが、ビヨンビヨンとトラバサミが伸び縮みして逃げられない。粘着性と伸縮性が活かされている。


(ペパーミント)「任せて!……クウちゃん矢!」


 ら、らじゃー! カモさんに抱っこされている俺は、慌てて胸元に手を添えて集中する。


「りょうかいなの。うにょうにょ~やじりが~うにょうにょなの~」


(カモミール)「くすくすくすっ(可愛すぎ)」


 できたてホヤホヤの矢を手渡すと、彼女は素早く弓につがえ、ビックラビットの眉間のめがけて放つ。これだけの至近距離、彼女の腕前でもちろん外すことなく、吸い込まれるように突き刺さる。


 おお~、出血死を待たずに即死で光の粒子と散り、パッと残滓(ざんし)を残して消えちゃった。そして、その跡にはお肉の塊と毛皮が虚空からポトリと落ちていた。あ、よく見るとお金も落ちている。


(ペパーミント)「おめでとう。初ドロップだね。今拾って渡すからね……あれ? カモさん、アイテム拾えないよ。リーダー分配からまだ変えてないの?」


 そう言えばさっき、せめてコブリンのドロップアイテムを拾ってお手伝いしようとしたが、リーダー分配となっていた為に拾えなかったことを思い出す。


(カモミール)「うんにゃ? もう個別分配で設定組み直してパーティー組んでるぞ。もう一回やってみ」


 だけど何か弾かれるようにドロップアイテムに触れられないミントちゃん。ヴァルハラではモンスターの落としたアイテムは、触れることで体内に吸収され、専用ボックスに(おさ)まる。


 そして、パーティー状態の時のアイテム取得方法には二種類ある。1つは止めを刺した人がアイテムドロップの権利を獲得すること。残りのもう1つは、パーティーリーダーが全ての獲得権利を保有し、後で自主的に分配する方法だ。


 と言うわけで、今回は止めを刺したミントちゃんがドロップアイテムの獲得権利者の筈なのに、【以前】としてアイテムが拾うことができなかった。


(ぺパーミント)「……まさかバグ? えー、せっかくクウちゃんの罠で記念すべき初ドロ(ドロップ)なのに……」


 うさ耳をペタンとさげて、しょげるミントちゃん。気にしてないよと言わんばかりに俺は、カモさんの腕の中でピコピコ?と動いた。


(カモミール)「働け運営……ドンマイ、クウちゃん。こういうのもMMOの醍醐味だよ」


 二人してポンポンと優しく頭を撫でて励ましてくれる。だけど、うーん……解せないな。


(ペパーミント)「クレーム入れちゃる!」


 と、プチ怒のミントちゃんだが……ホントにバグなのか? ……まさかと思うけど、ひょっとして……


「カモさんおろしてなの。ためしてみたいことがあるの」


(カモミール)「ん? 今降ろすからちょっと待ってね。ミント、もふもふタイムは一旦ストップな」


 俺を抱いてる時間のこと? 5分交代だから今はノーカンってことらしい。ハイハイでドロップアイテムに近寄り手を伸ばす。すると光粒子となって俺の中に吸い込まれていった。


「やっぱりなの!」


 ウィンドウにはしっかり獲得のログが残っている。しかも良く確認してみれば、コブリンの討伐も俺のログに残っていた。


(ペパーミント)「なんで!?……あ、あああああ!」


 弓を放ち止めを刺したのはミントちゃん。でも、その弓矢を生み出して渡しのは誰? そう、俺なのだ。


(カモミール)「この場合、クウちゃんの魔法攻撃判定になるのか!?」


 今回は俺のもふもふ魔法の矢が止めを刺した。つまり魔法で止めを刺した俺がドロップアイテムを取得する権利があると言うことになった。


(ペパーミント)「これなら分配しないでもレベリング出来るね」


 一応このゲーム、経験値なるものは明確に記載されないが、止めを刺した者にはステータス値の上昇や異能力や通常スキルなどに影響すると運営は発表している。


 なのでPTを組んで止めを刺す以上、このように代理でやってもらえることは大きなアドバンテージなのだ。


(カモミール)「それだけじゃないぞ。クウちゃんの紙HPがネックだったけど、武器化で後方に下がれば前衛でやる必要がないな……(それどころか、武器を作成して相手に渡せば、街で待機しててもレベルアップできなくないか……? いや、その範囲も不明だから、目視できる範囲ぐらいに限定しといた方がいいか……)」


「つかえるんだか、つかえないんだかびみょうなの」


(ペパーミント)「いやいや、全然使えるよ。って言うか、生産と戦闘の完全融合キャラじゃない。くぅ~、私も赤ちゃんプレイしたい! ついでにもふもふになりたい!」


(カモミール)「親が聞いたら泣いて誤解するような事を叫ぶな。何はともあれ、良かったね。頑張って狩りしていけば、徐々にステータスも上昇するからね」


「おお~。これでのじゅくをしなくてすみそうなの」


(ペパーミント)「そういえばクウちゃん、噴水のベンチで野宿してたって書いてあったけど、マジだったんだ……」


「まじなの。もふもふまほうでおふとんつくってねてたの。あー、やっぱりもふもふまほうはつかえるの!」


(カモミール)「野宿で使えた事を喜んじゃダメでしょ!」


「えーなの」


(ペパーミント)「あははははは。ワイルドにゃんこだなぁ~」


 新発見と初討伐?を見事達成し、4つ目、5つ目のポイントに向かうも獲物は無し。「ひょっとしたら、他のプレイヤーに狩られちゃったかもしれないね」と二人は教えてくれた。

 罠士の仕掛ける罠の場合、掛かったモンスターは仕掛けた罠士か、その罠士を含めたパーティーのみに、狩れる権利が発生するのだが、俺の場合、もふもふトラップは魔法扱いだから、そのシステムに制限がないのだろう。


 それでも師匠のおかげでビックラビットを狩り、こうして前に進む事が出来たんだから気にしない。じゃあ全部回ったし、帰ろうかと二人が言ったところで俺は思い出す。


「あ、ふふ、ふふふなの」


(ペパーミント)「な~に? 急に変な笑い声出して。つんつん」


(カモミール)「まだ何か見せてくれるの? ぶにぷにぷに」


 森の中央に開けた場所があることを伝え、そこに向かって俺達は移動した。


 6つ目…………!!!!!!!!!?


(ペパーミント)「うそーん……」


(カモミール)「なっ、なんじゃこりゃ~!!!」


 ペタンと腰を抜かして地べたに座る二人。そして、俺もその拍子に地面へとコロンと転がり落ちた。開けた場所なのに、太陽を遮る影が辺りを包む……そして、見上げるとそこには懐かしい光景が待っていた。


「おーー。ほっとするの」


(ペパーミント・カモミール)「「なんでホッとするのよッッ!!!」」


 えー……だって、大きな龍(全長30m?)が罠に掛かっているんだもん。父に比べれば全然小さいし、全体の白い鱗や皮膚など良く見れば綺麗なものじゃないか。俺の目には美しく(そび)える龍にしか見えなかった。


 ギョロっとこっちに長い首を伸ばし、「なんだ? この者達は」と顔をもたげる謎の白龍(ホワイトドラゴン)


「こんにちわ~ですの。ありゃりゃなの。いまはずしますから、じっとしててなの~」


(白龍)「!!?……GURUUUUUUUU」


 白龍との距離を縮める為にヨチヨチと近寄ると警戒したのか、唸り声を上げて、『来るな!』と威嚇しだす。だが俺は龍の生態を理解しているので、ところ構わず突き進む。


(ペパーミント)「『ダメッ、クウちゃんッ! お座り! ほらッ! お座りッ!!!』」


 パニクって俺を犬扱いするし。って言うか、ペット枠なのね、俺……


(カモミール)「『ハウス! クウちゃんハウス!』」


 両手を広げて胸元に帰って来いコールをする。んー、カモさんのお胸をお家にしていいのか?


 ……俺にとって龍って恐怖の対象じゃないんだよね。むしろ博愛の象徴であり、誇り高く気高くて、尊敬に(あたい)する至高の生物。父に育ててもらった俺にとって、龍とはそういう存在だ。

 それは例えゲームであったとしても変わらない。だから、もしパクッと喰われても構わない。それ以前に龍という生き物を信じている。



 俺は食べられない、絶対に。



 ヨチヨチと近づいて、白龍との距離5m手前で止まり、コロンと仰向けになってじっと待つ。一般の獣が見せる服従のポーズと言えばわかってもらえるだろうか?

 とにかく、相手に害意を示さないポーズとして、これが最適な対処法だと父に教わっていた。


 誇り高き龍なら、服従、または降伏のポーズを取っている相手にトドメを刺すなど、龍の風上にもおけないと父は言っていたし、俺もそう思う。


(白龍)「GURUUUUU……UUU……スンスン」


 警戒音を出していた白龍は、首をゆっくりと降ろし、俺の身体に鼻を近づけて臭いを嗅ぐ。その間、俺はじっとしてる。それを近くで二人はハラハラドキドキしながら静かに見守ってくれた。


(ペパーミント)「(クウちゃん度胸が据わりすぎでしょ! 中身は何者なの? どっかのエージェントなの? それとも、よーしよしいいながら動物を愛でるおじさんなの?)」


(カモミール)「(はははは、こりゃぁ大者だわ……それか頭のネジが何本かぶっ飛んでる……)」


 スンスン匂いを嗅ぎ終わったのか、警戒音が徐々に消えていったので、俺は上半身のみゆっくりと起こし、ちんまい手を白龍の鼻先にそ~~~~っと伸ばし……触れる。


「はじめましてなの~。りゅうさんのかかっているとらばさみをはずしたいだけなの。だからしんじてほしいの。クウちゃんはきけんなことをしませんの。だからおとなしくしててくださいなの」


(白龍)「・・・・GARU」


 俺の言葉が通じたのか、舌先をチョロリと出して、全身をペロペロする白龍。ペロペロは【信愛】の証。こうなると龍は警戒心を解いて心を開いてくれる。

 龍は賢い生き物だ。こちらから危害を加えなければ大人しい生き物である。それは高ランクで知性の蓄えた龍になればなるほど、顕著(けんちょ)である。


「ありがとうなの。じゃあじっと……ぬぁ!? ぺろぺろははずしたあとでしてなの」


 すっかり警戒心を解いた白龍と俺を眺め、二人は呆然としていた。そして俺は龍を捕らえているトラバサミに触れて解除する。もふもふが無散してトラバサミが消えた途端、白龍はすくっと立ち上がって羽を広げ、大空へと高く飛びたって行った。


「ばいば~いなの。…………ん?」


 白龍が飛び去った上空から何かがヒラヒラと落ちてくる。それはキラキラと光りながらもゆっくりとこちらに降りてきた。そして、ツンツンと確認するかのように触れると、俺の中に粒子となって吸い込まれる。


 とりあえずログを確認するのは後にして、二人の元へとヨチヨチと戻った。だが、二人の意識は軽くフリーズを起こしたままなので、戻って来るまでカモさんのお膝の上に丸まって、ハウスにさせてもらった。


 ……お胸は流石にしないぞ? 俺は紳士だからね。


 ………………

 …………

 ……

 …



 時は少し(さかのぼ)る。ヴァルハラ入社2年目のスタッフ【武藤(むとう) (つかさ)】は、連日の夜更かしで寝不足気味であり、酷く集中を欠いてタッチパネル前に腰を掛けて仕事をしていた。


 そして、通常なら有り得ないことであるが、イベントで使う筈のレイドボスモンスター【ホワイトエンシェントドラゴン】をこともあろうか、初心者が最初に向かう採取の森の上空に誤ってホップ配置してしまったのである。


 この通常有り得ないランクのミスに、もちろんシステムが警告を発し、チーフSEの【二階堂(にかいどう) (つよし)】が速攻で駆け寄って、寝惚けた武藤の頭を慣れた手付きではたいた。


(二階堂)「またテメェか、武藤! 今度は何をやらかした!?」


(武藤)「……げっ……き、企画に上がってたイベント用のレイドボスを……ホップしちゃいました……」


 時が凍る……または時が止まるとは良く言ったものである。この時の二人にはまさに、時が状態異常を起こしていた。


 画面に向こう側に映る【ホワイトエンシェントドラゴン】はまだまだずっと先、下手すると来年辺りに攻略組がやっとアタックに差し掛かれるかもしれないランクのボスモンスターであった。しかもいくつものクランが組んで討伐するクラスのレイドボスだ。


 それをこんな初心者が(つど)う森の上空に放てば、辺りは阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄絵図になることは、馬鹿でも分かることだ。


 急いでタッチパネルを操作し、回収しようとするが、【ホワイトエンシェントドラゴン】が地上に降り立った場所に、たまたまプレイヤーが仕掛けた罠に引っ掛かるという不幸の奇跡が起こる。


 こうなってしまうとプレイヤーにはモンスターの狩る権利が発生してしまい、それを勝手に外して対処するとなると、規約で定められた補償の対象となりかねない。いや、補償の対象とこの場合なる。


 つまり、運営の一方的な事情によるプレイの妨害に移すとなると、昨今、携帯端末からあっと言う間に世間へ情報として広がり、社にとって無視できない案件となってしまう。


 更に事態がこうなってしまうと、揉み消しは不可能と考えるのが無難だ。そう、上への報告が必須な上に、現場だけの判断で動けば、後々つつかれてくるのは目に見える。

 末端のミスとは言え、現場の責任を取る為に他の者より多少多く給料を頂いているからこそのチーフである。とばっちりを受けた二階堂はこの後、何度目かになる上司へ直訴をまた起こし、早期の武藤の人事移動を訴えることになるだろう。


 が、とりあえず今はそのことを頭の隅においやり、思考を目の前のことへ集中する。まず手始めにGMでINして事態を対処せねばとセッティングしようとしたところで、(こと)は思わぬ方向へと急変する。


 おいおいおい……よりにもよってこのプレイヤーが被害者かよ。嫌な汗が吹き出す。


 会長直々に社に辞令の下ったプレイヤーが、この事件に絡んでいた……最悪だ。


 しかも、そのまさかのプレイヤーが逃げ出さずに、無防備な状態でレイドボスに近寄って行くのである。見た目と一緒で、無垢で恐れの知らぬヨチヨチ歩きの赤ちゃんに、見ているこちらの方は気が気じゃない……手にうっすらと汗が滲み出る。


 ……厳島グループの総帥(そうすい)である、厳島(いつくしま) 麗子(れいこ)から、追加でヴァルハラに専用に用意されたブラックボックス。それを急遽(きゅうきょ)設置する為、系列外部の者が突然ワラワラとやって来て、サーバーを追加するのだった。


 更に、ついでと言わんばかりにメインサーバーも中を色々といじくりまわされ、俺達は一切触れることも許されない未知の領域(ブラックボックス)が気づけば出来上がっていた。

 終始我が社は(かや)の外で、正直いい気はしないが、会社の所有者でもある会長に逆らえる者がいる筈もなく、深くこの事を追求出来る訳もなかった。

 この猫人族の赤ちゃんのコントロールシステムは一体どうやって汲み上げているのか。体格差をどうにか出来るシステムがあるのなら、何故それをこちらに回してくれないのか、全て謎である。


 今まさにこの謎の塊の赤ちゃんが、問題のレイドボスと対峙していた。この時二階堂は武藤に抑えきれない殺意を漏らす。この馬鹿はそれでやっと状況がのっぴきならない事であることをやっと理解したのか、口を閉ざして沈黙を貫く。


 こんな時だけ賢明な判断のできる武藤にヘイト値が益々上昇するのは皮肉としか思えない。そういった意味ではできる男なのに……


 画面向こうで赤ちゃんが龍に飲み込まれるショッキング映像と共に、懲戒免職決定と思った瞬間、赤ちゃんはコロンとその場で仰向けになり、レイドボスとコンタクトを取っているように見えた。


 ひょっとしてリアルスキルを応用したテイム法を試しているのか!? 


 スキルシステムによるテイムより確率は低いが、プレイヤーの容姿やスキル構成、又は種族によっても左右されるテイムは、例えスキルを保有していなくとも、テイム自体を行うことは可能である。

 ひょっとしたら奇跡が起こる? 画面に映る赤ちゃんに一縷(いちる)(のぞ)みを(たく)して見守る二人が祈った事は、まさにそれであった。


 そして、じっと状況を見つめる中、ついに奇跡が起きた。パラメーター画面と平行して見てた二人は思わずガッツポーズを握る。

 そう、ヘイト値がゆっくりとマイナスに下降していくのだ。無論、テイムはこの赤ちゃんの総合ランクが届かない為に実行されなかったが、画面の向こう側では無事に戦闘は回避され、レイドボスは赤ちゃんをペロペロして(なつ)いていた。


 なら、このまま上手く事を運べばゲリライベントと言うことで丸く収めることが出来るのでは? 失敗(ピンチ)をチャンスに……ミスを上手く挽回出来るのでは?

 この時二階堂の頭の中では1つのストーリーが組み上げられ、事態を収束(しゅうそく)させるストーリーが完成した。迅速に行動に移すべく、まずはイベントの報酬としてドロップアイテムを即座に構成し、赤ちゃんの元へと落ちるようシステムに強制入力をした。


 通常なら上からかなり叱責を喰らう案件になることだろう。なんてったって、こんな高ランクモンスターの落とすアイテムドロップを公式ホームページに告知すること無く、

 一プレイヤーのみにたまたま渡すこと自体が既に問題なのだが、この赤ちゃん……恐らく会長となんらかの特別な関係で繋がっていることは間違いない。

 そして、その人物に対して我が社は、謝罪の意味も兼ねて便宜を計ったと、今回の一件を上はそう読み取ってくれる筈だ。


 端的に言えば賄賂である。上だって今の状況を理解すればそうする筈だ。それにこの程度のことで治められれば、それを望む筈だ。長い物に巻かれなければ今回のミスは社にとって深刻なダメージを与えかねん。


 こんな重大な案件を(した)()に処理させんなよ!と声を大にして叫びたいが、武藤を後でど突く事で、今は押さえるしかない。


 頼むぞ……どうかこの俺が即興で造り上げたコレで、手を()ってくれよ。画面に映る赤ちゃんに祈りを込めてタッチパネルの最後のエンターキーを激しく打つ。

 そして、額に血管の浮かび上がった二階堂は、始末書を書かせるついでに、武藤へ大説教を始めるのであった。


 それから数日経ったある日。結果を見れば彼の首は繋がった。むしろ上から今回の件、上手く対処してくれたと軽いお小言と始末書で許してもらえた。

 割りを食ったは俺だけだがな……仕方がないとは言え、やるせない……そして、流石に武藤は俺の希望に沿()って別の部署へと左遷される。

 なんせこの件について、会長が社にわざわざ足を運び、幹部全員の首根っこをまるで掴んだかのような威圧で言い放ったそうだ。


 「次はない」と……


 警告をするためにわざわざ社まで足を運んでやって来た念の入り様だ。その警告で我が社の人事は、謎の赤ちゃん次第でどうとでも転ぶと言うことを、一番上の者から末端まで含めて理解した。


 ……本当に何者何なんだ? この赤ちゃんプレイヤーは……まぁおかげで、武藤の面倒を見る必要が無くなったのが、俺にとって唯一の救いだった。


 そうそう。別系列の会長の息の掛かった出向組の何名かと新たにチームを組まされる事になって、監視の付いた日々が始まった。


 プレッシャーをヒシヒシと感じる職場にはなったが、俺のストレスの原因である赤ちゃんプレイヤーの観察もこの頃悪くはないと思い始めた事と、赤ちゃんが欲しいイコール……んっんん、出向組の中にちょっと気になる()がいるので、業務と恋に今日も励むのであった。



 ………………

 …………

 ……

 …



 白龍事件から魂の抜けた二人は、クウちゃんを抱っこして、無事に始まりの街へと帰還した。そして何故か、NPCのお宅で家族の一員の様に歓迎されているクウちゃんを、若妻のNPCに渡して別れるのであった。


 色々と整理のつかない二人の心境は、とにかく落ち着いた場所で一息入れたいの一言であった。なので、クランの本拠地である『ポートセブン』へとワープポータルに乗り移動する。


 ポートセブンは海に面した街で、現在ヴァルハラで最も進んでいる最前線の街であった。そのポートセブンの港に巨大客船の1つが浮かんでいる。他に浮かぶ周りの船よりも、圧倒的なサイズと華美な装飾に(いろど)られた船であった。


 彼女達はその豪華客船へと乗り込む。そう、この豪華客船こそ本拠地であるフリーランスのホームであった。中に入ると豪華で華美な洋室であしらわれたホールへとまっすぐ向かい、二人はソファーに雪崩れ込むかのようにうつ伏せで寝転がった。


 と、向かい側のソファーでお茶を一人楽しんでいたクランメンバーが帰宅に気付き、一旦席を立って、お茶を淹れて迎えるのだった。


(?)「おかえり~♪ ん? 二人ともどうなはりはったん? なんかえらく疲れてはりますな~? あ、今お茶いれるさかい。あ、ええねええねん、そのまま、そのまま」


 二人の名にちなんだぺパーミントとカモミールのお茶を用意してあげる。疲れた様子の彼女達の前に、2つのティーカップがそっと置かれ、二人は手でありがとうと上げる。


(ペパーミント)「さいっち、ただいま~、ありがとね~……あー、ちょっとね……」


(カモミール)「ただいま~……さいっち、ありかと~……あのさ、今度紹介したい体験メンバーが来るからよろしく~」


 二人がソファーから顔を上げれば丁度、さいっちと呼ばれるメンバーが二人の向かいに座るところでであった。二人はムクリと起き上がり、淹れてくれた紅茶に手を伸ばす。


 口の中で香りを楽しみ、一息着いたところで、ちゃんと座り直す二人であった。


(さいっち)「えっ!? 新メンバーが増えるの!? もうメンバー増やさんゆうてなかった?」


(ペパーミント)「ふふふふふ。もっふもふ♪」


(さいっち)「……ミントはんが壊れてはる……」


(カモミール)「いや、そのもふもふが今度の体験メンバーだ。ネームは『クウちゃん』。今スレで話題になってる赤ちゃんプレイヤーのこと」


(さいっち)「嘘っ!? えっ、えっ、二人とも勧誘成功したの!?」


(ペパーミント)「嘘だと思うならリスト見てみなよ……ニヒ、ぶい♪」


(さいっち)「おおおおおおお!!! よくやったで二人とも! で! で! どこにおるん?」


 立ち上がってキョロキョロと辺りを窺うさいっちに、二人は苦笑いをする。


(カモミール)「だから今度って言ったじゃん」


(さいっち)「えー……連れて来てや~……SS見たけど、めっちゃっ可愛いやん。今からうち会いに行きたい! どこの宿に泊まっとるん?」


 カモミールとぺパーミントは顔を合わせた後、ポツリと呟いた。


(ペパーミント・カモミール)「「……NPCの家」」


(さいっち)「は?」


(カモミール)「マジなんだこれが……しかも幼女二人に若妻NPCに家族の一員にされてた……」


 ズズズ……紅茶をすする音がヤケに響く。


(さいっち)「NPCの家って泊まれるんだ?」


 当然の疑問である。そもそもNPCの家に泊まる必要がないのだから。本来プレイヤーは各街に用意された専用の宿に泊まるか、本拠地であるホームに泊まるのが一般的である。


 稀に、ダンジョン遠征などで現地にテントを張り、そこで寝泊まりをすることはあるが、それでもNPCの家に寝泊まりするのは一般的ではないと言えるだろう。


(ペパーミント)「ぷぷぷぷぷ。普通招待されないから泊まれないんだけどね。あ~~~♪ クウちゃんは今日みたいに、ずっと飽きさせてくれないんだろうな~♪」


 クスクスとほがらかに笑うぺパーミントに、さいっちは興味をひかれる。


(さいっち)「何々? ひょっとして何か事件の帰りとか? それで疲れてはったん?」


 ニンマリと笑みを作る二人に、話が尽きなさそうと感じたさいっちは、お茶菓子をアイテムボックスから取り出して、テーブルの上に置くのだった。


(カモミール)「ふふふ。まぁそうなんだけど……とりあえず話は最後まで聞いてからしてくれ」


 起こったことをありのまま伝えると、さいっちの瞳はますます輝いていく。こりゃ~無理してでも連れてくるべきだったか? と、彼女の変化にそう思う二人であった。


(ペパーミント)「全長30m級のレイドボス見上げて、「おーー。おちつくの」にはぶったまげたよ……」


(カモミール)「クウちゃんマジで大物か、頭のネジが2~3本吹っ飛んでるよ……」


 げんなりとした表情で語る二人。だが、目はげんなりどころか、凄く生き生きとしている……さいっちの手前、彼女を気遣って淡々と話す二人だが、瞳の色はそれを隠しきれておれず、もちろん、さいっちはそれを見逃す筈もなかった。


 つまり、ズルいっ!と彼女は嫉妬する。


(さいっち)「ちょっと~! 動画撮ってへんの? うちも見たかった~~~!!!」


 ソファーにうつ伏せになって、ジタバタと暴れるさいっち。そんな彼女に二人は反論する。


(ペパーミント)「無茶言わないでよ! 茂みから出たらいきなりレイドボスよ? リアルなら確実に漏らしてるわッ!」


(カモミール)「漏らすとか言うなし。でもあれさ、絶対運営のミスだよな。ステータス鑑定があっさり弾かれたし、実際良くデスペナせずに帰ってこれたと思うよ」


(さいっち)「……もうクレームはいれはったん?」


(ペパーミント)「うんにゃ。クウちゃんがドロップアイテムに喜んでたし、なんか龍にエライ懐かれていたから問題にしないって。それにしてもね~、知りたい? どうしようかな~♪ にひひひ」


 知りたい?とは、それだけのボスクラスのドロップアイテムのことである。ランクの高いボスを討伐すれば、それに見合っただけのアイテムが発生する可能性があるわけで……


 ゲーマーな彼女達にとって、ボスのドロップアイテムほど興味の惹かれる物はない。


(さいっち)「ちょっと~、勿体ぶってないで、早く教えてや~」


(カモミール)「今のところクランだけの秘密な? ……例の教会への招待状。そう、あの教会の例の開かずの間……広まったらしつこく売ってくれだの、その時に参加させてくれだの、押し掛けて来るのが目に浮かぶからな」


(さいっち)「嘘っ!? 開かずの間って、うちらがボコボコにされたゴーレムがきばってはる、あの開かずの間?」


 正確に言うと、絶対に倒せない破壊不可の番ゴーレムであった。ダメージが通らないので、いくらやっても無駄なのであった。それを知らずに当時は永遠とバトッた彼女達であった。


(ペパーミント)「その例の開かずの間の招待状。手紙を見せればゴーレムが通してくれるって説明に書いてあったから間違いない」


 さっきまでの少し浮かれた空気から、攻略組のゲーマーとしての顔が浮き上がる。この情報の価値に、自然と声を抑えてしまう三人であった。誰にも聞かれることのないホームでの会話だと言うのに、それでもこの話はそうせざるを得ない空気を生み出していた。


(カモミール)「直ぐにでも行きたいけど、クウちゃんに二人でお願いして、クランメンバーが揃った時にって、必死にお願いしたんだぞ」


 そう、クウちゃんも初レアドロップと言うことでワクワクしていた。それはもう今すぐに向かう勢いであった。それを二人は必死に頭を下げて(もふもふスキンシップ)、押し(とど)めたのである。


(さいっち)「カモさんGJ! うわぁ~♪ ドキドキが止まんりまへん! で、は~や~く~、連~れ~て~き~て~!」


 結局振り出しに戻る彼女達であった。


(ペパーミント)「だから~、明日になれば会えるから」


(さいっち)「い~ま~会~い~た~い」


 段々ウザくなってきた二人である。それと、さいっちの食い付き方に不安に覚えてくる二人。そんな様子を察して、ぺパーミントがカモミールに目で訴える。その視線の意味を理解している彼女は口を開く。クランのリーダーであるカモミールが、ここでさいっちに念を推すように注意した。


(カモミール)「一応言っておくけど、あんまりしつこく(せま)ったり、嫌がるような事はするなよ? 基本、大人しくて我慢強い性格をしてるみたいだけど、押しの強い人にはハッキリと逃げちゃうみたいだから、絶対気を付けてね」


 コクンと頷くさいっち。だけど渋々といった(てい)であった。そんな空気を濁す為に、ぺパーミントが突然話を振った。


(ペパーミント)「でもさ~、うちの猫と一緒で、引いて見たら釣れるかな~って試してみたけど、まさかこんなに見事に釣れるとわね……あはははは! クウちゃんには悪いけど、いや~笑った笑った」


(さいっち)「ぬ~~~~~!!!」


(カモミール)「さいっち暴れない」


(ぺパーミント)「それとさ、クウちゃんのあのもふもふ具合……あれってちょっと異常じゃない?」


(カモミール)「あぁ! それな。こう抱っこした時に思わず面喰らったよな~。正直驚いたよ……あのもふもふは異常すぎる……あー、でもさ~、まさか魔法まで――」


 大人しく話を聞いてくうちに、とうとう忍耐と言う名の我慢メーターが限界ギリギリまで膨らみ……ピキッと亀裂が入る。

 そして、それを表すかのように、ソファーで泳ぐようにジタバタと手足を動かし暴れるさいっち。二人の言うことも理解できる……が、その後に聞くクウちゃんのもふもふ話についに彼女は我慢できなくなる。


 僅かな可能性を掛けてさいっちは、クウちゃんによろしくメールを送った後、「まだかな~? まだかな~?」と、ずっと返信を待っていた。ひょっとしたら今すぐにホームに来たい。もしくは会いたいって言ってくれるかもしれない。そんな僅かな望みを込めて送る、健気(けなげ)なさいっちであった。


 因みに、しばらくして返ってきたメールの返信には、何故かNPC一家全員にもふられているSS……最初の方のSSは鬼ごっこ?……と、全文字ひらがなの挨拶文を読んで、三人は大爆笑をするのだった。


 NPCの楽しそうな笑顔。それにクウちゃんの話をしている時の二人の顔に、ぺパーミントの飽きさせないと言う発言に、嘘偽りはないと確信するさいっち。……とても今夜はホームに来る可能性がなく、仕方がなく諦める彼女である。


 だけど、再度二人の話に耳を傾け、代わりに人形を抱いてその夜はひたすら我慢するのであった。

ふつおたコーナー(MC:たまご丼)


ペンネーム「拾われた子猫」さんより頂きました


Q:まだ会ったことのない人から、SSを送って欲しいとお願いされてしまいました。どんなSSを送れば喜んでもらえるでしょうか?


A:深く悩んじゃダメダメ! 普段のままの様子を写したSSでいこう! ただし、多少相手にクスッと楽しんでもらえるくらいのSSは撮るべきだ。お下品にならないくらいで面白いSSを撮っちゃえ! 「拾われた子猫」ならいけるいける! というわけでシーユー♪



レーヌ:クウちゃん、何してるの?


クウ:あたらしいおともだちからおてがみがきたの。うーん……なにかクウちゃんのSSをとっておくってほしいってかいてあったけど、どんなのおくればいいかな~なの。


アンナ:あのね! アンナ、クウちゃんのオムツを代えてあげるとこを、パシャパシャ(撮影)したい!


ユナ:ならユナはユナは! クウちゃんのしーしーを手伝ってあげているところをパシャパシャするの!


レーヌ:う~ん、じゃあママは、クウちゃんにおっぱいをあげるとこをパシャパシャしちゃおうかしら? うふふふふ。


クウ:!!? と、トーマスさん! へるぷみーなの!


トーマス:はははは! クウちゃんはハーレムだな~♪ あ~、今夜も平和だぁ~♪ ひっく……


クウ:ちょ!? ぜんぜんへいわじゃないの!……!?……さんにんともえがおがこわいの……こっちにきちゃめっ!なの……にゃ、にゃ~~~~~~~~~!!!!


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