きぐるみきたの
「すぅ~~すぅ~~すぅ~~きゃは、う~♪」
俺は今、絶賛お昼寝中である。だって、体は一歳児なんだから日中ずっと起きてるのはムリゲーっす。馬で移動中、ミーナちゃんの腕の中で俺はすやすやと寝息を立てていた。
そして、ついに! 念願の着ぐるみ(ゴブリン)を着たのである。その着ぐるみはどちらかと言うと、フードのついたパジャマみたいに構造になっており、背中の部分に付いたファスナーから中に入ると、俺のサイズに合わせて伸び縮みした。
更にフードの部分は、ちゃんとデフォルメされた可愛い顔のゴブリンである。
今の俺と組合わさって、見た目がまさに生きたぬいぐるみである。ファンシーな破壊力?が増して三人をメロメロの状態にしていた。
「この組み合わせは反則だよ。きゃはって、どんな夢を見ているのかな? ツンツン。しかも、抱き心地が相変わらずもふもふだし、あぁ~、至福の時なり~♪」
俺のホッペをツンツンしないの! あと、なり~♪って……
「クウが着ると効果が倍増だよな。可愛すぎて放っておけないし……しかし、クウは一体何もん何だろうな?
……あ、あのさ姐さん。王都に戻ったらクウの事どうすんだ? クウの事さ、何だったらあたいが引き取っても構わないぜ!
ほら、クウもあたいに結構なついてるし! あたいに兄弟が多かったのは姐さんも知ってるだろ? だからさ……」
「いつも以上に饒舌ね? ペロリストのネイ」
半目でじっとネイさんに顔を向けるアイナさん。そんな白い目でネイさんを見ては彼女の治りきっていない傷(黒歴史)をつつく。
「ぐっ、姐さん勘弁してくれ。あれはあたいの人生で中で一番忘れたい出来事なんだからよ……」
耳と尻尾をしんなりとさせるネイさん。あの事件は彼女のメンタルをガリガリと削るトラウマと既に化している。
「ペロリストから守るからね~♪」
ミーナちゃん、君も案外容赦ないよね……
「グハッ!!」
集中砲火を受け、口から魂?が漏れ出しているネイさん。もうやめてあげて!
「ミーナ、もう止しなさい……ネイのHPは既に0よ」
気持ちが通じたのか、ミーナちゃんを咎めるアイナさん。
「どっちにしろペロリストには渡さないけど、この子は悪用されると危険過ぎるし、そもそも私が離れたくないわ。上には何か適当に理由をあげて、私が責任を持って預かるわ。……ってネイ? 聞いてるの?」
「ペロ…………リ………」
ネイさ~~~~~~~ん!!! うぅ~、オーバーキルしやがった。もうホントやめてあげて! 白化したネイさんの心の中では恐らく、ドナドナのBGMが流れているに違いない……
「護衛は……しばらく無理ね。あっ、ミーナ! ちゃんと20分経ったら交代だからね!」
「え~~、ぶ~ぶ~!」
「ぶ~ぶ~じゃないの! あんたがやってもちっとも可愛くないのよ」
「ひどっ!! こんな可愛い弟子なのにね~、クウちゃん」
知らんがな! 騒がし過ぎるな、もう……
「ミーナちゃんな~に?……う~~ん……おはようなの~……」
ぼ~っとする頭でゆっくり伸びをし、目を覚ます俺。
「私の番が……」
「おはよう、クウちゃん。もう少しで街に着くからね」
「はぁい……ネイおねえちゃんまっしろなの。いったいなにがあったの?」
「「気にしなくて大丈夫よ」」
うん、なんか想像できるし……また苛めたな、全く。ネイさんのお腹へと移動し、俺はピトッと張り付く。
しかし俺も結構大胆になったものだ。こんなスキンシップ、数日前の俺では考えられないことだよ。そう、ここ二日で俺の女性耐性はかなり強化されたようである。
「あぁ~クウちゃん行かないで!」
「私の番だったのに……」
二人を無視してネイさんを慰める。この二人は無視だ無視!
「ネイおねえちゃんげんきだしてなの」
「はっ!? クウか、おはよ~。もうお昼寝はいいのか? 街まであと少しだけど、寝てていいんだぞ」
「だいじょうぶなの。おめめぱっちりなの」
やっぱ俺の保護者はこの人だ。俺がネイさんのお腹に頬を当ててスリスリをしていると、上から大きな手で頭をナデナデしてくれた。
「「ネイずるい・ネイちゃんずるい!」」
「ふんッ、知るか!」
三人はいつも通りの通常運転だ。俺にはこういう関係の友達が前世にはいなかったから、ちょっと羨ましかった。
やはり前世の記憶を持つ俺にとって、比較対照できる人生があるって言うことは、こういう時にありがたく感じる。だって、前に感じなかった事に色々と気付かされて前向きになれるのだから。
「見えて来たわね。クウちゃん、街に着いたわよ。あれがレクドナルドの街よ」
……俺はつっこまないぞ、察してくれ。
「ここの街のポテポテの実がホクホクでおいしいんだよ。街に入ったら一緒に食べようね。あれならクウちゃんも食べれるだろし、楽しみだな~♪」
やめて~~~~!! この街はツッコンだら負けなの? 俺だけにしか分からない振りが存在する街なの? だめだ、気にするのはよそう……
だから誤魔化す?意味でボケてみた。
「おっきなおうちなの。ここがおねえちゃんたちのおうちなの?」
んなわけないのは百も承知だけど、子供の微笑ましい質問として三人は受け取ってくれる。
「可愛いな~もう。残念だけど、お姉ちゃん達のお家はもっと先にあるのよ。それとね、ここは沢山の人のお家が集まってるのよ。
なるべくモンスターに襲われないように。だから、クウちゃんとはまだまだ一緒だよ」
そこそこ大きな街だった。長く大きな丸太を真っ直ぐに立て、それを街の周りに囲むように隙間なく建てられている。
そして街への出入り口は、俺達がやって来た西側の街道側と、反対側にある東の王都へと続く街道の計二ヶ所であった。
時刻はお日様の位置から判断して午後三時くらいだろうか? 予定よりだいぶ早めの到着だが、無事に辿りついて良かった。
……と、ホッとしたのも束の間。ネイさんの顔つきが変わったことで事態は変わる。
「!?……姐さん、何かあったみたいだ。守衛がこっちに駆けてくる」
「急ぐわよ!」
間髪入れずに駆け出す三頭の馬。ネイちゃんを先頭に俺達は馬を駆けらせ守衛の元へと急ぐ。こちらに駆け寄って来た守衛は息切れを起こしながらも、俺達の側までやって来ると絞り出すように話し出した。
「やはり……アイナ様でしたか! 取り急ぎお願いしたい事が……ございます。よろしいでございましょうか?」
息切れを起こしながらも話す男にアイナさんは急がせる。
「いいから用件を言って! 火急なら尚すみやかに!」
何かただならぬ空気が張り詰める。
「警備隊長のガイア様が瀕死の重傷。命からがらパトロールから戻って来ましたが、依然意識が戻らず詳細不明……隊長の努力を無駄にしない為にも、魔術のお力をお貸しいただけないでしょうか!」
悔しそうに、必死の思いを言葉で伝える守衛。
「分かったわ、ともかく案内して。詳しい話はとりあえず後で先で判断するわ。ネイ、ミーナ、聞いたわね? 急いで向かうわよ。後ろに乗って」
「はい、師匠」
「了解、姐さん」
「・・・・・・」
俺は黙ってネイさんにくっついてた。そして、自分に出来る事を考えていた。
街へ辿り着いた俺達は急いで門を潜り、5分ほど進んで見えて来た二階建ての白い建物で足を止める。
既に建物の入り口には、野次馬の山が出来ており、不安げな顔をした人達が状況を物語っていた。恐らく重傷者の関係者なんだろう。各々の顔は神に祈るように俺には見えた。
「師匠、馬は私が小屋に運びますので先に」
無言でアイナさんとネイさんは手綱を渡すと、守衛の後へと着いて行く。
「道開けて! こちらです!」
ここはどうやら病院のようだ。だだっ広い室内に、適当に並べられた質素なベッド。そして微かに匂う消毒液の臭い。
診察する場所もお粗末な木のテーブルと椅子が2つあるだけ。前世の医療レベルと比べると、あまりにも格差があり過ぎた。
異世界は魔術が進んだ分、医療があまり進んではいないのか。様々な事がこの広い空間から伺える。
そして案内された場所で目にした者は、ベッドを幾つか横に並べ、そうしてようやく納まる程の大男であった。
生きているのか……? 前世も含めてここまで凄惨足る状態の人を俺は見たことがない。
「ガイア……貴方ほどの男が……一体何に襲われたの」
「おっちゃん……嘘だろ。あんたがこんなになるなんて……」
明らかにショックを受けている二人の様子。知り合いなのか。知り合いがこんな目に遭うなんて、内心は不安でいっぱいだろう……
周りには大男の部下と思われる数名の隊員が居て、皆一様にアイナさんへ土下座する。
「アイナ様! お願いします。どうかどうか…………」
「すまん、この老いぼれの力では手の施しようがない」
この病院の医師だろう。70歳を越えたくらいだろうか? 腰が少し曲り、顔には深い皺がある。他にも看護師のおばちゃんだろうか? 数名後ろに控えておじいちゃんを支えていた。
皆の視線の先にいる大男は、胸が微かに上下している事から、まだ生きてる事が判別できる。
だが、全身にくまなく負った傷が真っ赤に染まる処ではなく、その色は所々真っ黒である。濃い血は黒く染まる……
ポーションを降り掛けた跡が見られるが、所詮焼け石に水である。そして何より酷かったのが、食いちぎられた左腕と、下腹部からはみ出している腸……素人目に見ても匙を投げるレベルだ。
この状態で街まで命からがら逃げて来て、まだこうして生きてるのだから絶句である。それだけ伝えねばならぬ事があったと言うことだろう。
「……悪いけど、私の魔術では無理です。いえ、私以外の者でも恐らく同じ事を言うかと……」
死刑宣告に等しい一言。誰もアイナさんに詰め寄らない。無茶なお願いは皆わかっているのだ。
「だけど、一つだけ可能性があるわ……」
アイナさんがゆっくり顔を動かし俺に向ける。その瞳が語る意味を事前に察してた俺は真っ直ぐ見つめ返して頷く。
釣られるように皆の視線がネイさんに抱えられた俺へと集まる。
「ここで起きたことは一切他言無用です。時間がないので信用します。決して裏切らないでね。お願いよ」
凛とした顔で言い終わるのを見計らってから、俺は準備を始める。一堂は病院内を覗いてた人達を追い出し、次々と窓を閉じ始める。
「隊の誇りにかけて守る。隊長を救ってくれ! この通りだ! 頼む!」
「儂からも頼む! もちろん秘密は墓まで持って行くわい!」
「ガイアさんがいなければ何度生きていけなかったか分からないわ。もちろん、秘密は守るわ!」
同意する隊員にご老人に看護師のおばちゃん達。
俺は宙へと浮かび上がり、虚空からクリスタルで出来た小瓶を生み出す。父に禁止されてたトーヤ男神の神薬である。
キラキラとした虹色を放ち、その神秘的な輝きが周りの視線を一挙に集める。突然起きた奇跡にざわめく一堂。
「静かに!」
それを一喝したのは、いつの間にか戻っていたミーナちゃんであった。彼女の一声で我に返り、静まり変える室内。
そして再度、俺へとみんなの視線が集まる。
「これのんだらすこしだけなんにもできなくなるの。でも、すぐになおるからあんしんしてなの」
三人は笑顔で頷いて返事を返してくれた。
ゴキュ……ゴキュ……ゴキュ……ぶはっ。飲み終わると共に虚空へと消え去る神薬のビン。そして沸き上がる奇跡の効果。
「いまいやしてあげるの!」
宙から大男の胸へと静か乗り、うつ伏せにくっつく。
「一体なにを………………!?」
大男を淡く優しい光が包み込み、全身に負った傷は映像の巻き戻しの如く癒えていく。
下腹部からはみ出していた腸は中へゆっくりと戻っては塞がり、左腕は千切れた先から徐々に肉が盛り上がり、腕の形を為していき…………元のたくましい腕へと再生した。
裂傷の完治はこれで良いとする。あとは体内から失われたエネルギーを補充するだけだ。そう、大男は今、命を繋ぎ止める為に大量の血を失っている。その為にも最後の仕上げを俺は行う。
「だれか、おじさんのおくちあけてなの!」
この光景に唖然とし、口を開けていた面々は俺の言葉で我に返り、急いで大男の口をこじ開ける。そしてすぐさまに俺はもふもふ魔法を発動させる。
大きさは飴玉サイズに設定! 濃度は100MP消費量でいいだろう。栄養価満点のネイちゃんをペロリストに堕とした……命名【ペロ】を大男の口へと放り込む。
「おくちとじてなの……そろそろ……げんかい……なの……クウちゃん……そろそろ……なにも……できな……」
俺の目から光が失われて、まるで死んだような状態へとなり、無気力タイムへ突入する。
すると同時に大男の上半身が物凄い勢いで起き上がる。その結果、大男の胸の上に乗っていた俺は、
カタパルトに飛ばされる砲弾のように吹っ飛ばされ、その勢いのまま壁際に大の字に叩きつけられ…………めり込んだ。
ぐはっ!?
一方、大男は身体中の血管が浮かび上がらせ、肌は元の赤みのある、張りのあった鋼の肉体へと完全復活を遂げていた。
「「「キャーーーーー!!! クウ・クウちゃん!!!」」」
慌てて駆け寄る三人。奇跡的にも着ぐるみがクッションになっていたのと、着ぐるみのステータスが上乗せしてたおかげで俺は無事であったが、危うく逝くところであった。
悲鳴をあげる俺の体……めっちゃくちゃ痛すぎる! 副作用が無かったら大声あげて泣き叫んでたと思うほどに、体中に激痛が走っていた。
おいこらっおっさん!!! 命の恩人に何て事をするんじゃい!!! しかもタイミング良く無気力タイムへと突入した俺は、
まさに死んだ目になっており、そのせいで一堂は大パニック。ホントに逝ったようしか見えない三人はガチ泣きをしていた。
めでたし……めでたしなわけあるかぁ!! 痛いよ~……しくしくしく……
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【名前】クジョウ クウヤ
【年齢】12
【性別】男
【種族】猫人族
【クラス】着ぐるみ師
【レベル】4
【HP】3/11 +40
【MP】1,089,911/1,090,001 +10
【力】5 +50
【技】11 +20
【耐久】5 +40
【敏捷】14 +30
【魔力】10301 +5
【運】5 +5
【魅力】10010+1
【もふもふ】∞
【スキル】
調理LV1 家事LV1 農業LV1 もふもふ魔法LV2 魔力操作LV1 +棒術LV1
【アビリティ】
究極のマナ味 着ぐるみクリエイト 究極の抱き心地 育成速度遅延 言語翻訳・翻訳
【加護】
サーヤ女神の加護
トーヤ男神の加護
聖龍皇アドアトラスの加護
【アイテム】
バンパイアニードル
フェアリーリング
聖龍皇皮のリュック
特別転生の番号札
絹の袋
【着ぐるみ】
ゴブリンの着ぐるみ
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ふつおたコーナー(MC:たまご丼)
ペンネーム「東の巨人」さんより頂きました
Q:我輩、命の恩人に対して恩を仇で返してしまったのである。生き恥を晒す我輩は一体どうすれば良いのであろうか?
A:世の中には不可抗力って素敵な言葉と、お金さえ積めば何でも解決してくれる人達がいるから悩むだけ損損! 証拠隠滅なら急ぐが吉! 東の巨人さんがんばれ! それじゃシーユー♪
ネ:あれを食ったもんはみんな仲間だな・・あれ?目から汗が? 不思議だな・・・