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うんえいのわななの

 

 四人を拉致って来た俺は、パーシャちゃんとロビーソファーでキャキャウフフと(たわむ)れていた。主にパーシャちゃんが俺をもふっているだけなのだが、本人が至福の時間と感じているので、俺はとことん甘えてあげた。


(テツ)「・・・・・・」


(ミキ)「・・・・・・」


(ユイ)「・・・・・・」


(ジン)「・・・・・・」


 で、こちらの四人はOSを再起動中なので、俺とパーシャさんの向かいにて放置していた。だが、かれこれ30分以上経つのに戻って来る気配がない。なので少し俺は()れて来ていた。


「もうそろそろ、もどってきてほしいの」


(パーシャ)「うーん。私はクウちゃんとのプチデートが終わっちゃうから、まだこのままの方がいいんだけどな」


 彼女の胸の谷間に顔を埋め、寄り掛かりながら俺は蕩けた顔を見上げる。普段はキリッとした顔をする彼女が、彼氏の前だとデレる。これにやられない男はいない。


「パーシャちゃんかわいいの。だからこんやもらぶらぶしちゃいましょうなの。ちゅ」


 少し背伸びをするように顔を上げてキスをすると照れた彼女にガッチリとホールドされる。こんな彼女を見れば見るほど、俺も幸せになるのだった。


(パーシャ)「もうやだクウちゃんたら。でへへへ。そう言えば今夜はどうするの?」


 話題が夜のらぶらぶへとなったことで振られた。もちろん俺は隠さずに言う。


「エーコちゃんたちのことなの?」


(パーシャ)「うん。それとあの上の世界から来た人達も参加するの?」


 エーコちゃん達は嫌と言ってもらぶらぶします! なんと言うか……ミロの野郎に負けたくないと言う思いがあった。あ、だけど、それだけで彼女達とらぶらぶするんじゃない。アーちゃんの部下である【深淵】に取り囲まれる前に俺が思った気持ちは……失いたくないだった。

 あの時に俺はどれだけ彼女達のことを大事にしていたか、改めてわかった。もちろん、それ以前からこんな俺の為に親身に慕ってくれる彼女達に心を動かされることが多かった。だけど、自分の気持ちってわかっているようでわかっていない……だからよりハッキリと自覚したのはあの時だった。


 そして、ミーちゃんに双子のサーちゃんにトーちゃん。ミーちゃんとは既に仲良しだし、彼女といると楽しかった。まだ共に過ごした時間は短いかも知れないが、彼女はその……放っておけないお姉さん的な感じがするのだ。父性本能的なものなのかな? 

 なんにせよ。彼女は雲の上の神ながらも俺は単純に好きだった。だからそれでいい。問題は双子だが、もちろん好きだ。うん……好意はあるかないかで言えば、滅茶苦茶ある。あの事件での一連の行為に、こんな俺のために……いかん。涙が出てきそうになるほど嬉しい。


 だからわかる。今夜拒否しても双子は俺にあの手この手で(せま)ってくるだろう。トーちゃんなんて俺とらぶらぶするためにボク娘にするくらいだ……なんと言うかいいのか? と言いたくなるが・・・・俺が父にだったらクウ娘でらぶらぶしてもいいと言うのと同じなんだろうな。


「ミーちゃんはもともとそのよていだったからいいの。それとサーちゃんとトーちゃんはクウちゃんきらいじゃないの。それによせてくれるおもいとおんがあるから……それなら、らぶらぶしてもいいの」


 そんな俺の言葉を聞いたパーシャちゃんは何か思案した顔で俺を見つめる。はて?……


(パーシャ)「むふ・・ねぇクウちゃん」


 ニヤニヤした顔になる。出た……小悪魔フェイス……俺の中で女性がこの顔をすると録でもないことしか起きないのを嫌って言うほど体験している……


「そのおかおはなんですの……」


(パーシャ)「アスカくんにあげちゃえば? クウちゃんの純潔」


 みんな俺がそのために連れて来たと思っているな……


「む・・・・なんどもいいますの。アスカくんはたまたまあっただけで、とってもぴゅあなおこさまですの。クウちゃんはそういうもくてきでつれてきたのではないですの」


 が、パーシャちゃんの小悪魔フェイスは止まない。そんな期待した目をしてもめっ!とバッテンマークを腕を交差させて作る。


(パーシャ)「・・・・でもクウちゃんに抱かれたらアスカくん……元気出るだろうな~・・・・・・・・チラッ」


 汚っ! そういう視点で攻めて来るのはズルいよ! それに俺は基本男だよ?


「クウちゃんおとこのこ(子)なの!」


(パーシャ)「男の娘よね? それに暴走してた時にオレグやアラルのを食べようとしたじゃない?」


 おうふ……あれは事故なんです……黒歴史が……


「あ、あれはいれぎゅらーなの」


 平静を(よそ)いつつも即答で返すも、パーシャちゃんから大事な進言(アドバイス)をいただく。


(パーシャ)「ねぇクウちゃん……」


 急に真面目な顔をしても嫌だよ。俺はお尻を押さえて神妙な顔をする。


「なんですの……」


(パーシャ)「またそのイレギュラーがまた起きた時にオレグみたいな変態と、可憐でかつピュアっ娘のアスカくんのどっちがいい? クウちゃんのことだからまた同じことが起きないとは思えないし……後悔してからじゃ遅いと思うのは私だけかしら…………」


 もう二度とあんなことは起き・・・・ないって言えないよな。こんなに自分と言う者が信じられんとは、とほほ……だけどパーシャちゃんが言いたいことはよくわかる。

 大体において、人の想像できることって確率の差はあるけど、起こり得る事だから……しかも俺の場合は未知の部分を占めてるから、それらが本当に起こっても納得出来てしまう。


 例えば酔っぱらって目が覚めた時にオレグさんが横で寝息を立てていたら……俺は立ち直れないだろう。アスカくんならその点、綺麗な思い出として心の整理をつけられることは間違いない。


「ぐぬぬぬぬなの。せいのかべをのりこえるって、せいりをつけるのがむずかしいの」


 だが、俺は腐っても? 男である。その最後の一線を越えると……もう後戻りができなくなるだろう。違った意味で怖い……


(パーシャ)「じゃあ、こう考えればどうかしら? オレグ。槍。触手。アスカくん。この中で選ぶ未来はどれがいい?」


 とんでもない4択だよ……ここに並べられるアスカくんが不憫でならない。アスカくんのご両親が聞いたら俺殴られるだろうな……


「まえの3つはありえないといえないからこわいの……でも……アスカくんのはじめてがクウちゃんでいいのかななの……クウちゃんのべーすはおとこなの。なにかアスカくんがかわいそうなの」


 そうだよ。アスカくんもにゃん鉱の力でいずれは治る。歳だって若い。だから今が病弱だとしても、それを理由にしちゃうのは違うと思う。


(パーシャ)「甘いわねクウちゃん……将軍からのありがたいお言葉を授けてあげる」


 肩書きになんとなく弱い俺は少し怯む。むむむ。我が奥さんは何を言う気だ!?


「しょうぐんさまのかくげんがきけますの!?」


(パーシャ)「愛に垣根はない! 同性がなんだ! 女子騎士訓練校に行ってみなさい。日夜百合の華が咲いてるわ! もちろん男子騎士訓練校だって!」


「なんですとーなの!? ま、まさかパーシャちゃんも……」


 パーシャちゃんってお姉様って呼ばれて人気ありそうだもんな……この容姿に将軍になったポテンシャルを考えると……


(パーシャ)「クウちゃんにやられてばかりだから私の指技テクニックを見せてあげられなかったけど、ふふふ。妻の中で私を越える者はいないと思うわ! なんなら伝授してあげてもいいわよ? クウちゃんならその身を持って覚えられるでしょうし」


 彼女のバックに雷雲と稲光(いなびかり)の幻視を見てしまう。ら、ラスボスがここにいたとは!? 興味が湧く。俺とのらぶらぶを経験し足腰が立たなくなるまで翻弄(ほんろう)された彼女がここまで自信を持って宣言するとは……ふふふ。これはもう、受けて立つしかないよね。


「クウちゃんのせいたいマナちゃんにひってきするわざをパーシャちゃんがもっているとは……ごごごごごですの」


(パーシャ)「整体マナちゃん? クウちゃん何か開発してたの? だけど、マッサージと私の指技テクニックを同じにしてはいけないわ!」


「むむむ! そんなことないの。これはしょうぶですの?」


 互いに同意の意味を込めてほそく笑む。


(パーシャ)「いいわ。でも誰で試すの? できれば同じ人にやるのがいいんだけど、立て続けてやれば後者の方が圧倒的に有利よね。なんてったって敏感になっているだろうし」


 ようは同スペックの人が二人以上いればいいのだから問題ない。今まさにうってつけの人形があった。


「それならもんだいないの。すたっふのぼうそうでどっぺるクウ娘ちゃんがたくさんあるから、それをつかえばいいの。さいわいアスカくんがさんたいほどきどうしているから、おかりすればいいの」


 同スペックだから別々にやっても問題ないし、フーコに感度のデーターを結果として出してもらえば正確に判定できる。なんせ彼女は俺とみんなのらぶらぶを%で計れるくらいだからな……


(パーシャ)「いいわよ。じゃあ、クウちゃんは私に負けたらアスカくんに純潔をあげること! で、私はそれをこっそり見学するわ!」


「ちょっとまつの! アスカくんがしたいかわからないの!」


(パーシャ)「大丈夫。100%拒否しないから平気。お姉さんの鑑定は間違いないから」


 自信を持って鑑定する彼女に俺は複雑な気持ちになる。確かにアスカくん……拒否しないだろうな……


「なんだかクウちゃんふくざつなの……それじゃあ、クウちゃんがかったら……パーシャちゃんになんでも1ついうことをきいてもらうの」


 今は思いつかないから保留の形にしたけど、着ぐるみを着てゲッタンダンスとかしてもらおうかな?……いや、離婚されても困るし止めとくか……たまに自分のSっぷりが怖い……


 俺がボソッと『ゲッタン』と呟いたのを聞いたパーシャちゃんは『ゲッタンって何?』って互いに心ここに在らずで呟いていた。と、そんな状態から互いに復帰しあった俺達は顔を合わせる。


(パーシャ)「ま、負けないからいいよ!(アスカくん。お姉さんが必ず勝っていい想い出を残してあげるからね!)」


 と、その時になってやっと、テツさんが帰って来てくれた。


(テツ)「・・・・ふー……クウちゃんただいま」


「おかえりなさいなの。みんなじきにめをさますの。そしたらまいりましょうですの」


 テツさんの帰還を皮切りにし、再起動が完了した四人を連れてゲーセンへと向かうのであった。


 ………………

 …………

 ……

 …



 丁度俺達が到着すると、ミーちゃんもアーちゃんも来ており、遠目だが、何やら(にぎ)わっているのがわかった。


(ミー)「おい、ドッペルクウ娘ちゃんを寄り代に、何をやっとるんじゃ、おのれらは!!!!」


 ドッペルクウ娘のメイド服の(えり)を掴み三体を引き寄せると、青筋を立てたミーちゃんが至近距離から威圧を放っていた。もちろん極力抑えてだが……


(ユーミ)「えー? 今休暇中ですし、別に規定には違反していませんよ?」


 襟を掴まれている状態にも関わらず、両手を広げヤレヤレといった感じで小馬鹿にしているドッペルクウ娘……な、何があった?……


(レイナ)「それに残りの寄り代にはプロテクト掛けておいたからもう平気ですし。むしろ未然に大量の降臨を防いだんですから、褒められてもいいくらいなんですけど?」


 両手を腰に当ててふんぞり返るドッペルクウ娘。その目は反抗的だった。


(カミラ)「って言うか。創造神様だってプライベートな案件で降りて来てるのに、うちらだけ批判されても困りますよ!」


 逆ギレ? いや……その顔怒っているよな……遠目だから何を話しているのか聞こえないが、三体は明らかにミーちゃんに対して有り得ない態度を取っていた。


(テーママ)「あはははははっ。そりゃそうだ。人のことは言えないよね」


(アスカ)「三人ともどうしちゃったの? 雰囲気が変わったような……」


 目をパチクリして戸惑うアスカくん。三体の雰囲気が急変したので、どうしたらいいかわからなく狼狽えてしまう。それをフォローするようにサーちゃんがアスカくん側についていてくれてた。


(サーヤ)「ごめんね。実はあの中身に女神が入っていたの……まさかドッペルクウ娘ちゃんを寄り代にするだなんて……」


(トーヤ)「言われてみれば確かに寄り代に足るよなコレ」


(アー)「何でもいいから静かにせんか。創造神よ。神の格を落とすようなみっともない姿を慎まぬか」


(ミー)「それを貴様が言うか!」


 それもその筈。UFOキャッチャーで数多くの景品を取り、両手には大きな袋を下げていた。つまりゲーセンを満喫していた。オリジナルの(やしろ)に閉じ込められた生活の反動か、俺の手前実は抑えているが、アーちゃんは猫庭の楽園をもっと周りたかった。


(ロジャー)「創造神様。当楽園の施設をご利用なさる際はなるべくお静かにお願います」


 抑揚のない無機質な声を出すロジャーさん。俺が近くにいたら絶対に彼を問いていただろう。彼の敬語とは裏腹にその声質は拒絶の色を含んでいた。


(ミー)「誤解なのよロジャーさん。貴方が思うようなことを私はね、望んでないのよ」


 ちょっと涙目ですがるように手を前に出し、ロジャーさんに近づくが……


(ロジャー)「左様でございますか。御意見受け賜りました。あ!? クウ様、お帰りなさいませ」


 適当に流してさっさと俺のところへ駆け寄るロジャーさんであった。残されたミーちゃんはその姿勢のまま固まり凹む……


(ミー)(ガーン・・・・私に対する態度があからさますぎる……うぅ。どうすればいい……)


(トーヤ)(あーあー。気持ち0の対応だな……あー・・やっぱり豆腐メンタルだな、この人)


(サーヤ)(やっぱりこうなったわね……私達の仕事(お守り)が増えるのね……)


 双子が軽くため息を吐くと同時にみんなの元に来た俺は軽く一連のことを把握していなかった。


「ただいまですの~。なんだかにぎやかなことになってますの! あー、アスカくんおつかれさまですの。せいかはいかがでしたの?」


 大量のハズレの人形にチケットやプラチナ人形まで置いてある。その種類に俺は期待する。


(アスカ)「リストに載っている奴は一通り出したけど、例の何か? は出せなかったよ……ごめんね……」


 いやいやいや……むしろこの短時間に全種類制覇って過去最高のリアル運の持ち主だよ! その証拠にパーシャちゃんも驚いている。


(パーシャ)「ええっ!? いやいやいや。UR全部当てたの!? 凄いじゃないの。私なんて中銀貨一枚は使ったけど、未だに当てたことないわよ」


 そう……ガチャって運営の罠って言われるくらいに当たらないものなんです……


 そして、俺の連れて来た四人はガチャ筐体を見上げひとしきり驚いたあと、荷物をスタッフさん達に預け支度に入るのだった。


(テツ)「すげぇー・・・・思ってたよりデカイな」


(ジン)「よーし! 俺がサクッと当ててやる!」


(ミキ)「バカ! 1日で終わったら報酬が少なくなるじゃないの!」


(ユイ)「大丈夫よ……ジンに当てられたら苦労しないわよ。クウちゃん、ガチャを回すお金ちょうだい」


 スタッフが既に用意してくれていた袋を手渡す。アスカくんほどの強運の持ち主でも出ないとなるとコレは長期戦になるかもしれない。


「はーいですの。ええっと……しょうぎんが2000まいはいっていますの。はいかきんでかならずげっとしてくださいなの。ロジャーさん。よにんのしょくじやきゅうけいもろもろよろしくなの」


俺は四人に頑張ってほしいという気持ちも込めて、一人ずつ首にハグをして健闘を祈った。ユイさんが離してくれなくて軽い笑いが起きたのは、まあ、予想の範疇だ。『お仕事しなきゃ。めっ!なの』とペチンとオデコを叩いたら蕩けてた。


(ロジャー)「畏まりました。その、クウ様……アスカ様と少々お話したいことがございますので、しばしお預かりしてもよろしいでございましょうか……」


 はて? 珍しい……ロジャーさんがこんなことを言うなんて。言わば私的な要件があり、俺には聞かれたくないと彼が遠回しに言うなんて……


「なの? なんのはなしなの?」


(アスカ)「男同士の秘密だよ。仲良くなったんだよボク達。だからごめんねクウちゃん。しばらくクウちゃんのスタッフさん達を借りるね。あ、そうだ。創造神様達も是非お話をお聞かせ下さい。ボク、お父さんから創造神様の伝承を聞いたことがあるんです。よろしくお願い致します」


 あの、アスカくん? 俺いいって返事してないんだけど……あれ?……帰りが遅くなって怒っている? 


(ミー)「おお~! 私のことを知っている者がいたか。……そうか!! アスカくんのお父さんはハイ・エルフか。う~~~む、それなら知っていてもおかしくはないな。よかろう。クウ。少しだけアスカくんを借りるぞ」


 この空気でダメとは言えない。流石はアスカくん。彼を取り巻くコミニュティーが完成してる……こ、これが天然の男の娘の力か……お、俺のような訳がわからないのと違う魅力って奴だな……しょぼーん・・・・なんだかちょっと寂しいな……ぼっち耐性がこんなになくなっているとは……


「なんだかさびしいの……でもりょうかいしましたの。あと、みんなにいっておくけど、アスカくんにへんなことしちゃめっ!なの……あと、ちょうどよかったの。アスカくんたくさんURをあてたからこのさんたいはかいしゅうしますの。そこのどっぺるクウ娘ちゃんたち、こちらにくるの」


 彼には既に5体ものドッペルナンバーズがいる。そこにこの三体はいくらなんでも多すぎだろう。それにこの三体、遠目だがちょっと様子がおかしかった。


(ユーミ)「夢にまで見たクウちゃんだ~~~~」


 ゆ、夢!?


(レイナ)「クウちゃんおひさ~~~~。また会えたね」


 えっと……初対面とだよね……


(カミラ)「凄い!!!! これがリアルクウちゃま!!!!」


 オリジナルをリスペクトしてくれるの? な、なんだこの三体……何があった!?


「このたんじかんになにがあったの!? なんかへんなほうこうにあっぷでーとしてますの!」


(アスカ)「ふふふ。ボクにかかればこんなものだよ」


 ちょ!? アスカくんマジで何をしたの!? その自信は何!? ドッペルナンバーズも大丈夫か!?


(サーヤ)「さぁ、アスカ君は私達とお茶にしましょうね。…………クウちゃん……」


 サーちゃんの体から、ゆら~と陽炎(かげろう)のような殺気を感じる。


「さ、サーちゃん?」


 怒っている? な、何?


(サーヤ)「覗いていたからその三体をこれから何に使うかわかってますけど……遠慮なく殺っちゃって下さい」


 あー・・・・これはあれだ……殺意の沸点が低いと起きる現象だ。サーちゃん怖い……


(トーヤ)「本気を出して、3馬鹿柱をサクッと送り還して下さい……たくっ……ここをなんだと思ってるんだ」


 トーちゃんも切れてる……3柱か……あー・・・・なんか理解したかも……それでミーちゃんが怒っていたわけか……


「り、りょうかいですの。パーシャちゃん! いざしょうぶですの! ごごごごごなの」


(パーシャ)「ふふふ。まさか神様にこの技を使うことになるとは……全力で行くわよクウちゃん!」


(テーママ)「行きたいところがいっぱいあるよ・・・・あぁ! アイシアちゃんがエーコちゃん達の下着選びに参戦してるし! クウちゃんとパーシャさんの勝負も捨てがたい! この四人が何かを出すところも見たいし! アスカくんとお話もしたい! どうすればいいの、オリジナル!」


(アー)「好きにしなさい!」


(アスカ)「あはははは。破壊神様の身分け様は元気がいっぱいですね。いいな~。ボクにもそのパワーを分けて下さい」


 場を(なご)ます為におどけてみせたアスカくんにテーママは即断する。彼をヒョイと抱えると自分の胸の谷間に埋めるのであった。無論刺激の強すぎる行為にスチームのように赤くなるアスカくんであった。


(テーママ)「いいわよ。やっぱりアスカくんとお話しますか。うりうり」


「テーママめっ!なの! アスカくんもそのおねえさんにはきをつけてなの! ミーちゃん! アスカくんにおいたをしたらめっ!していいの」


(ミー)「了解って、睨むなテイレイアよ……まったくオリジナル共々……はぁ~・・・・」


(テツ)「まだまだぁ~!」


(ユイ)「ハズレの人形カワユス! もふもふ」


 なんだかテーママじゃないけど、俺も四人くらいに別れて動きたいと思ったよ。エーコちゃん達の様子も気になっていたし、体1つじゃ足りないとワクワクした日常を感じていた。さて、俺はとにかく純潔を守るために勝負! 



 ………………

 …………

 ……

 …



 4つの場所でイベントが進行している中、実はここ、猫庭の楽園に設けられた新政務室でも事件は起きていた。いや、起きる前だった。


(ヴェラ)「ミーナちゃんありがとう。あ、これ陛下にお願いできる? ごめんね~」


 もちろん、嫌な顔をせずにテキパキと事務仕事を手伝うミーナちゃん。やれることはほとんど雑用なのだが、アクアパレスの近くで発生したキングカイザーの変異種事件の影響は多岐に渡って発生していた。


 そのため、政務室にいた優秀な高官達もそちらの対応に回しなんとか対処させていた。今は雑用に回す人ですら足りない現状に申し訳ないと思いつつ助かっていた。


(ミーナ)「はい、エヴァ。ヴェラさんからこれもらって来たわよ。これとこれはいいのよね? 政務官さんに渡しておくね」


 笑顔が振り撒かれる度にエヴァちゃんは元気が出ていた。いつもの国務も今はあたたかい。それだけに押し寄せるもう一方の気持ちも誤魔化せなかった。


(エヴァ)「ごめんねミーナ。魔術の修行で忙しいのに……それにクウちゃんのスタッフのみなさんにまで申し訳ないわ……」


(ミーナ)「丁度いい息抜きになっているからいいのよ。気にしないで」


(スタッフOW)「何をおっしゃっいますか奥様。御身の為に奉仕するのが我らの存在理由と得る至福でございます。それにパーシャ様の笑顔をみたら私共も俄然(がぜん)やる気が出てきました」


 この場にいないパーシャちゃんは、それは嬉しそうに出ていったのをみんなは見ていた。スタッフはその光景を作り出せたことに至福の喜びを感じていた。


(オレグ)「ったく。パーシャの奴……プチデートじゃなかったのかよ……」


 机にかじりつき書類を片付ける彼は、軽く愚痴る。まあ、本気で言ってないのだが、猫庭の楽園に入れば……いや、クウちゃんに会いに行けば何かしら面白いことがあるので、彼は別の意味で()いていた。


(アラル)「いいじゃないのオレグ。こうしてミーナさんやスタッフさんがわざわざ手伝って来てくれているんだし、猫庭の楽園にこうして素敵な政務室と休憩所も用意してもらったんだから」


 希望通りの間取りに設備。フリードリンクやオヤツにドーナッツやケーキ類まで常備してある休憩所。更に猫庭の楽園のスタッフの援助とアクアパレスと城までの【にゃんこ】ゲートの移動。細かいことを言えばたくさんあるのだが、これだけ改善された現状は快適の一言であった。


(政務官)「まったくでございますよ。おかげで仕事が(はかど)りますよ。アクアパレスに直接行けるのがこんなに楽だと、やり取りが早くて助かりますし、クウ様には他の街にもこのゲートを作っていただきたいぐらいですよ」


 素直な感想を述べる政務官の一人。それだけにエヴァちゃんは画面の下で苦笑いを作るのであった。


(エヴァ)「気持ちはわかるが、あまりクウちゃんの負担を増やしたくないからな。我慢せい」


 お願いすれば嫌な顔をせずにクウちゃんはやってくれる。それがわかるだけにさせたくはなかった。


(ミーナ)「エヴァは夜の為にもクウちゃんに体力残してほしいものね。むふ」


 親友がちょっとイジワルなことを言う。3%事件のことを言っているのはすぐにわかった。実際に暴れた私を再度クウちゃんかざらぶらぶしてくれたことで、どれだけ大切に扱ってくれたかわかった。その直後に拉致事件が起きてやっと素直になれた。%なんてつまらないものになんで(こだ)っていたのか。


 彼が私を愛しくらぶらぶしてくれた。この一点があればいいのに。それにあの手加減なしのらぶらぶはヤバイ……ってイケナイ! 思い出したら危険……今は仕事中……


(エヴァ)「う、……ミーナのイジワル。そんなことを言うとクウちゃんと二人で責めちゃうだからね!」


(ミーナ)「いいわよ~! じゃあお返しに私もクウちゃんと責めてあげるんだから」


 冗談を切り返された瞬間に私は想像してしまう。それはドナちゃんのミルクを吸う、クウちゃんとアスカくんの光景。あれを私、クウちゃん、ミーナで置き換えてリアルな想像をしてしまった。


 ボシューと画面の下から湯気が立つのを見られ、ミーナが私を見てニヤニヤする。もう!!!!!


(エヴァ)「嘘よ嘘! もういやぁ~」


 机の上に突っ伏して顔を隠す。ミーナのことだから本当に実行する。この私の態度でそれは確定してしまった。しかもアラルが何か想像しているし! もう! ミーナのバカバカバカ!


(アラル)「…………トイレに行って来る」


 そういう話を聞いて反応してしまったのか、それともただ単にトイレに行くタイミングと重なったのかわからないが、彼は一言告げるとスーっといなくなる。

 そして、彼が5分経っても帰って来ないので邪推する男がいた。


(オレグ)「あははははは! わけぇな。スタッフさん、良かったらアラルを足腰立たなくするくらいにタップリと慰めてやってくれ」


(スタッフOW)「畏まりました」


 すっとデスクから立ち上がり、軽くオレグの背中に向けて会釈すると、髪止めをほどいてスッと部屋から出て行ってしまう。まるでそこの物を取ってくらいの気軽さでアラルさんのいるトイレへと向かう忠実なるメイドさん。


(オレグ)「なんて・・・・・・な? あれ? スタッフさん?」


 もちろん振り返った時にはその姿はなく。他の面々もサラッと迅速に行動するスタッフに呆気(あっけ)に取られ、何も言うことができなかった。政務室を包む空気は一変してしまった。ミーナちゃんは額から一滴の汗を垂らす。そして、オレグさんに警告をする。それは彼の認識を改めさせるために。


(ミーナ)「……わかってないわねオレグさん。ここのスタッフさんはクウちゃんにまつわることでなら何でも迅速に迷わず……それこそ躊躇(ちゅうちょ)なく命だって捧げるわよ……」


 いつも魔術の修行を終えると必ず清潔なタオルと笑顔を準備して待っていてくれるスタッフさん達。邪魔にならぬよう常に視界の隅や死角に待機し、頃合いを見計らって何時(いつ)でも控えてくれるのは最早(もはや)当たり前。


 たまたま夜中に喉が渇いて目が覚めたら、上半身を優しく起こしてくれて、適温のホットミルクを寝ぼけたままの飲ませてくれたくらいだ。あまりのスムーズな一連作業にそのまま寝てしまい、翌朝寝ぼけた頭が目覚めた時に、やっと事の次第を把握し戦慄した。翌朝からスタッフさんに少し怯えたミーナちゃんであった。


 彼らは常に猫庭の楽園に泊まっているお客様のため、主のクウちゃんの(えき)となることに心掛け奉仕している。それに制限はない。できる範囲でなら何でも躊躇(ためわ)らずにする。だから、猫ちゃまふぁみりーの面々はそれらの経験からうかつなことは極力(きょくりょく)言わないよう気をつけていた。


(ヴェラ)「ええ。特にアラルは私達4将軍の一人よ? 陛下や私とパーシャの同僚なのよ? 猫庭のスタッフさんがどうするかなんてわかりきった―― 」


(アラル)「きゃ―――――――――――― っ!」


 同僚の甲高い声が政務室に届く。それはまるで可憐な乙女が恥じらうが如くあげる声。それだけで何が起こっているか、だいたいの予想ができた。


(エヴァ)「・・・・・・・・・・・・」

(ミーナ)「・・・・・・・・・・・・」

(ヴェラ)「・・・・・・・・・・・・」

(オレグ)「・・・・・・・・・・・・」

(政務官)「・・・・・・・・・・・・」


 しばらくアラルさんは帰って来れないだろうと思うと、45分後くらいに身なりを整えたスタッフさんが戻って来た。


(スタッフOW)「オレグ様。アラル様へのご奉仕ですが、かなりお貯めになられていますのでまだ完了いたしておりません。なので別室にてスタッフ数十人が引き続きを継続してしておりますので、私はこちらのお手伝いに戻らせていただきます。それと応援にあと20名ほど参りますので御指示を下さいませ」


(オレグ)「お、おう……」


(スタッフOW)「それとアラル様より伝言をお預かりしております。『逃げるなよ』と一言だけお預かりいたしました。以上です。何かまた御用の際はお申し付け下さい」


(オレグ)「わ、わかった。仕事するか……」


 黙々と仕事をする一堂。その後のスタッフの増援もあり、ノルマを大幅に越える書類の整理に成功したのだが、職場を包む空気がいかに大事かを知る一堂であった。


 ………………

 …………

 ……

 …



(アルテイシア)「お帰りなさいアスカくん。……凄い面子を連れて来たね。あれ? クウちゃんは?」


 クウちゃんに聞かれたくない話をするので、ここに来ることはないだろうと、ドナちゃんの部屋にやって来た一堂。また、アスカくんがやっぱりドナちゃんの体調を気にしていたと言うこともあり、納得するのであった。


(アスカ)「何かお姉さんと勝負をするって言うから別れてきちゃった」


(クリス)「初めましてアスカくん。私はクウお兄ちゃんの妹のクリスよ。よろしくね」


 差し出され手を取り握手をする二人。クウちゃんの妹さんと聞いて驚く彼は繁繁(しげしげ)とクリスちゃんのことを見る。そして、当然あることを尋ねるのであった。


(アスカ)「クウちゃんに妹さんがいたんだ!? じゃあ、やっぱり神様なんですか?」


(クリス)「私は違うよ。あと、赤ちゃんにはなれないからね。まあなんと言うか……お兄ちゃんはちょっと特殊(アレ)だから」


 アレと言う言い方にアスカくんは思わず笑ってしまう。クウちゃんはぽかぽかしていてたまに変なことをする雰囲気がある。多分そのことを言っているんだとアスカくんは受け取った。だからか、クウちゃんを取り巻く人達、神様達が凄く(まぶ)しく見えた。


(アスカ)「ふふふ。クウちゃんはたくさんの人に囲まれてて幸せだな」


 と、アスカくんとの簡単な挨拶が済んだところで本題を切り出すことにしたアーちゃん。ここにいるみんなはアスカくんと既に自己紹介が済んでいるのと、話し合うことをクウちゃんが戻って来る前に決めていたので遠慮なく始めるほであった。


(アー)「挨拶も済んだところでいいかな?」


(アスカ)「はい」


 各自適当に落ち着けるところに腰を降ろし、アーちゃんの方へと向く。アスカくんはソファーに降ろしてもらい、サーちゃんとテーママに挟まれていた。


(アー)「では……単刀直入に言うが許してくれ、アスカくん。君の体のことは我等神の前では全て筒抜けだ。君の中に宿る創魂の灯火(ともしび)が我等には見える。助かりたければそこにいる創造神にお願いをするんだ」


 ピッと指差され、ビクッと固まるミーちゃん。ストレートな誘導にミーちゃんは焦る。まだこちらの意見を言う前に彼の希望を(つい)えては、彼も話を聞いてもらえないからだ。しかも悪意をそこはかとなく感じ、またもため息をつきたくなるミーちゃんであった。


(ミー)「破壊神! 貴様……(私自ら見捨てるように仕向ける気か! く、……)」


(サーヤ)「(そう来ますか……ボヤボヤしてるから先手を打たれてしまうのですよ)」


(トーヤ)「(静観だな……どう出るアスカくん)」


 天界サイドの三柱は沈黙する。今は何か言うタイミングではないと各々判断したからだ。


(テーママ)「アスカくんにわかりやすく説明するとね。そこの創造神の輪廻の輪の中に君は組み込まれているんだけど、それをこっちの破壊神の輪に入れば君は今のままずっと生きられるの。だから創造神に許可をもらおう。ボクを見捨てないで下さいって」


 目はミーちゃんをまっすぐに捉える。訴えていた。わかりやすく、怒りの色を込めて。助けろと!


(クリス)「ドナちゃんから聞いたよ。私もアスカくんとは違うけど……いつかそう遠くない日に消えてしまうかも知れないの……」


 突然の告白。それは彼女の中の主人格の覚醒。その時に自分は消されるとクリスちゃんは考えていた。その兆候も徐々にだが現れている。知らない筈の物を何故か知っていたり。いずれは消えてしまうと言う意味ではアスカくんの気持ちを理解してあげれた。


(アスカ)「クウちゃんはそのこと……」


(クリス)「うん。お兄ちゃんは知っているよ。受け入れてくれたと言うか……その時が来たら無茶をするって。お兄ちゃんらしいよね。……たがら君の気持ちが少しわかるよ。ミー様……お立場があるでしょうが兄の妹として、そして、これから同じ妻となるものとして、彼の為にどうか今一度御一考ください……」


 彼女は創造神と言う立場。義妹。同じ者を愛する妻。様々な立場を含めて考えてほしいと願った。そう……恐らく(ひるがえ)すことはないと理解している。できるのならすぐに対処している筈だからだ。

 でも……自分がもし……その時が同じように来たら兄は……それが怖くて……だからアスカくんをどうミーちゃんが動くか、それをクリスちゃんは今後のためにも知りたかった。


(ミー)「みんな……ここに今後も私は居るから聞いてほしい。破壊神よ。私の言うことに怒りを覚えるだろうが、意見はとりあえず最後まで言わせてくれ」


(アー)「御託はいいから進めろ。今は彼の救済しか考えておらんわ」


 アスカくんの瞳から逸らさぬようまっすぐに捉えて話しかけるミーちゃん。これから話すのは幾度となく伝えてきた言葉。つまり彼女は(さだ)めを(さと)そうとしていた。


(ミー)「了解した。……私はあらゆる生命体を誕生させ……そして殺してきた者である。アスカくん。君もそんな中の1つの命である」


(アスカ)「はい、創造神様。お父さんから魂の旅路については教えられています」


 一言で言えば輪廻天性。魂も自然の一部であり、それが巡りに巡っていつか遥かなる聖域へと繋がると彼は父であるエルフから教えられて来た。だからこそ、今も笑顔を作ることができた。父と母の子で良かったとすら考えて来られた。


(ロジャー)「(破壊神様の予想が的中のようですね……彼は創造神側の信仰者かもしれない……)」


(ミー)「ハイ・エルフの父君だったね。なら聞いた通り、君はこれからも幾万と転生を繰り返し、その創魂を進化させ行く旅に出る。私はその為に君達を無の存在から有の存在へと昇華させた。その対価は何物には代えることのできない神秘の奇跡。それを私は支払った時点で既に義務を終えている。そこからは先の仕事があるとすれば君達を見守るのが我等、神の職務にして、できることの慈悲。そして、天界の神々が君達に介入するのは何かイレギュラーなことがあった場合のみ。済まないが今の君に・・・・サーヤよ。拭いて差し上げろ」


 ぽたぽたと床に落ちる滴。目を(つぶ)り唇を噛み締め。声を押し殺す少年をテーママはそっと肩に手を回し、その巨大に寄せて抱きしめ包みこむ。そして、同じことをしようとしてたサーヤ女神をしっ、しっ、と追い払う仕草をすると、両者の間で火花がバチバチと散るであった。


(テーママ)「能書きはいいわ創造神。いいからとっとと彼の権限をこっちに寄越せ。可哀想に……」


 結局言ってることは見殺しの一点。テーママはオリジナルの言う通り御託を言う創造神に吐き気を(もよお)していた。 酷く醜悪な神。しかも(いびつ)で偽善。オリジナルの記憶も多少なり引き継いでいるテーママはきつく睨みつけていた。


(アルテイシア)「テイレイアさん。今はこれでアスカくんを」


 差し出されたハンカチ。そして、サーちゃんも同じく差し出す。


(サーヤ)「私が拭くから。テイレイアさん。天界サイドだからってヘイトをするのは止めて頂戴。あんまり酷いとクウちゃんに言いつけて泣いちゃうんだから」


(テーママ)「あんた!? 可愛い顔してサラッと酷いこと言うわね……わかったわよ。でも仕方ないでしょ……」


 ずっと沈黙をしていたトーちゃんは考えがまとまったのが口を開く。彼はこの時、心の中で九条空夜の姿を思い出していた。成すべき正義。あの笑顔。そのための手を差し伸べる。


(トーヤ)「アスカくん。君はどう思ってるんだい? 俺はどっちの味方でもない。クウちゃんの信者だ。君が救いを求めるならこの創造神に牙を(剥む)いたって構わない。だから、ゆっくりとでいい。自分の正直な気持ちを言ってごらん」


 とても穏やかな心で語りかける。そして、偽り無き言葉で語りかけたからこそ、アスカくんは涙を拭き取って話出そうとしていた。


(アー)「(奴のとこには惜しい者だな)」


(ミー)「(コイツもカリウスと同類か……)」


(サーヤ)「(兄さんらしいわ。アスカくん。兄さんを信じて)」


(テーママ)「(クウちゃんが救った双子か。兄は私と似たタイプね。……妹は沈着冷静な腹黒タイプか。ふふ、面白い)」


(クリス)「(頑張ってアスカくん!)」


(アルテイシア)「(創造神様の言い分は正しい……ですが、それで本当にいいのですか? 創造神様。……貴女の正論は聞こえはいいけど、私のような者が出た理由をもっと考えるべきです……)」


 各々が心の内で言葉を吐く中、アスカくんが今まで押し込めて来た胸の内を吐き出す。


(アスカ)「……こ、怖いです……えぐっ……でも、それ以上に……えぐっ……お父さんとお母さんを苦しめたくないです……で、でも……ボクは……お父さんとお母さんをあの世で待つと約束しました。そのボクがいなかったらお父さんもお母さんも悲しみます……だから……」


 怖い。だけど彼はそれ以上に両親を愛してる。だから救われることも恐れる。それは少年には脅迫観念とも言えるものだったのかもしれない。でも、彼が想うそれは、彼の魂の格を上げる、神達が見守りたいと思える(きら)めきであった。


 創造神の胸中を知る(すべ)はない。彼のような存在はあまたの如くいる。だが、目の前にしてその慟哭の嘆きを聞くと心がいたたまれなかった。それ故に言葉を失っていた。


(ミー)「………………」


 彼はある意味高潔な選択をした。その想いを汲み取るべくトーヤ男神(おがみ)は決意する。そして、万に1つの助言もする。


(トーヤ)「そうか。なら、俺が君の担当をしよう。あの世に行ったらお父さんとお母さんを一緒に待とうじゃないか。だから、安心しな。それに俺もサーヤも元は君と同じ人間だ。でも今は神になった。だから君にもチャンスはある。常に諦めないことが大事なんだ」


 ここでトーちゃんは自分の役目はここまでだと感じ目を瞑る。後の推移を見守る為に……


 案の定、それに納得しない破壊神のアーちゃん。彼女はアスカくんもご両親も幸せで過ごす未来を得るべく動く。それは彼女の存在理由だから。だからアスカくんがなんと言おうが彼女は引かなかった。否、引けなかった。


(アー)「アスカくんの考えはわかったわ。創造神よ。一旦彼を私に寄越せ。リソースを回復してそちらに返す。無論そのまま返さないなどと言うことはせん。この破壊神の名に誓って守る。…………破格な条件だろう? 面子を気にするなら貴様に土下座もしてくれる。ここまで私がするんだ。今までとは違う……だから、ここは彼の為に慈悲を寄越せ!」


 ぎょっとする面々。アスカくん以外の者はその重さを理解できた。殺したいほど憎んでいる因縁の相手に土下座するなど、破壊神ともあろう者が一介(いっかい)の者のためにそれを行おうとしている。

 それは慈悲の成せる技なのか。それとも想い人のために成せることなのか、その心中を押し計ることはできないが、この取った行動の意味は大きかった。断れば慈悲の無さ、器の小さな者として破壊神は二度と創造神に歩みよることはないだろう。

 クウちゃんのおかげで今の状況があることが自体が奇跡なのだ。そして、ここで受け入れれば破壊神と創造神の間でほんの1欠片(かけら)だが、その距離が短くなる可能性がある。それはいずれは起こる聖戦の回避を意味していた。


(ミー)「土下座はいらん」


(アー)「…………条件次第では考えると受けとるぞ……何が望みだ」


 固唾を飲み込む一堂。歴史が動く瞬間。まさにそういった想いが渦巻く中、呟かれる。


(ミー)「…………ミケお姉ちゃんだ」


(アー)「……何を言ってる貴様……」


(ミー)「今後、ミケお姉ちゃんと笑顔で呼んでくれたら、考えてやってもいい………………チラッ」


 アーちゃんの顔面のいたるところに青筋が浮かび上がる。自分が宿敵である者にこれ以上ない条件を提示し、彼と言う存在を狂った運命から解き放とうとしてるのに……この女は単純に破壊神を馬鹿にしているとしか思えなかった。

 クウちゃんとの約束がなかったら彼女はここで一戦を既に繰り広げていただろう。漏れ出す殺意と瘴気(しょうき)に近い物が分身体である今の彼女からも発生していた。


(サーヤ)「(とんでもなく空気を読まない要求をぶっこんで来たわね……破壊神の頬がひくついてるし……)」


(トーヤ)「(カリウスさぁまぁぁ~~~無理だぁぁ! アンタ以外にこの人の面倒を見るの不可能だぁぁ!)」


(テーママ)「アスカくん。お姉さん達とちょっと部屋の外に移動しようか? あと、ロジャーさんとクリスさんにドナちゃんもおいで。巻き込まれるわよ。オリジナル……本気でキレてるわ……」


 実はテレパスでアスカくん達を早く外に出せとオリジナルから怒濤の声がなり響いていた。それでテーママは確実にキレているとわかっていた。


(アスカ)「え? え? え? えーーーー!?」


 事態が飲み込めないアスカくんは狼狽える。既にテーママに抱き抱えられ、彼等は部屋の外に避難を開始していた。


(クリス)「お兄ちゃん呼んで来る?」


(ロジャー)「空間を閉じます。それと呼びたくございません(破壊神様、頑張って下さい!)」


 ロジャーさんの珍しい態度に事情の知らないクリスちゃんとドナちゃんはギョッとする。客人を差別するところなど初めてだったからだ。


(サーヤ)「私達も出るから閉じないで!」


(トーヤ)「ロジャーさん。俺らも次元凍結を手伝うから待ってくれ。それにアンタだけじゃ無理だ。つうかテーママさん。アンタも手伝え!」


(テーママ)「はぁ・・わかったわよ。トーちゃん」


(アスカ)「クウちゃんのお城壊れませんか?」


 創造神対破壊神の一戦。アスカくんはまさか自分を中心に世界の二大頂点が争うことに目が点になる。クウちゃんのお家なんて跡形もなくなるのではと……そう考えるのも無理はなかった。


(ロジャー)「その時はクウ様に嫌われていただきましょう(主に創造神が)」


 プチハルマゲドンが一室で開催されることになり、部屋から出て行く一堂。そんな中……


(アルテイシア)「私のお部屋が~~……しくしくしく……まだ途中のドラマが……」


 ここに約一名、部屋の主である被害者が崩れ落ちるのであった。そして、そんなことがあることなど知らずに別の場所では、ドッペルクウ娘(女神入り)を相手にマッサージ? 対決が繰り広げられていた。


ふつおたコーナー(MC:たまご丼)


ペンネーム「くまなのだー!」さんより頂きました


Q:お仕事でもらったチケット(R:レストランホール・シークレットメニューチケット)でお食事をしていい事になり、早速使いましたが、あまりにも贅沢なご馳走のために私は他の仲間に悪い気がします。この場合、どうしたら良いでしょううか。


A:遠慮してちゃダメダメ! 本当に仲間ならわかってくれる! どうしても気になると言うのならお持ち帰りしちゃえ! くまなのだー!さんならいけるいける! というわけでシーユー♪


ミ:これが噂のウナドン……お、美味しい~♪……みんなにも食べさせてあげたいけど……む、無理よ! はぐはぐはぐ……


 ………………

 …………

 ……

 …



ジ:お帰り~。ん? なんかいい臭いするな……


ユ:ホントだ~! ひょっとしてミキちゃんが当てた例のチケット? あ~いいな~、私も出ないかな~


ミ:お土産にその……お茶を入れて来たよ……(ごめんなさい……残り一割の具の入った器に、ただ珍しいお茶を注いで誤魔化しただけなの……あ~私のばかぁ~)


テ:うめぇ~♪ なんだよ、お茶って言うより美味しいスープじゃないか。


ミ:奇跡が起きた! これこそ本当のシークレットメニュー!


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