きぐるみつくるの
とうとうこの日がやって来た。なんのだって? 俺がこの12年間一度も使わなかったアビリティーが1つあった。それは【着ぐるみクリエイト】。
そう、魔石から着ぐるみを作り出すという、邪神の気まぐれ?によって生み出された、世界に1つしかないオリジナルアビリティー。
元となるモンスターの力を纏う着ぐるみを作れる、非常に強力なアビリティーな訳だが、父の教訓で俺は使うことを禁止されていた。
父いわく、何かの切っ掛けで大いなる力を得てしまった者は、大事なものを身につける前に力に溺れてしまうと教えてくれた。
それは何故か?……失敗した経験を積んで来なかった為、成功した後の事を考えない視野の狭い者へとなってしまうからだ。
つまり、反省をせずにそこから何も学ばないから努力を放棄する。かつて幾度と父に挑んで来た冒険者や大国の王達がまさにそういった輩であり、
話を聞かない! 他者の気持ちを理解しない! 自身を神だと宣う!と言った、三拍子揃った痛い者達が自滅をしていく樣を、その目に納めて来たからだ。
その者達は父の目から見ても溢れる才能に輝き、秘めた素晴らしい素質があったにも関わらず……活かすことなく散っていく……
どんな生き物も魂を宿す限り、生は常に限界はなく、目指せる進化の領域があるとあの父が言い切った。
これを俺は失敗してもそれを活かして進め。そして正しい道の先には終わりがない。それは例え猫人族の俺であろうが父のように偉大な龍であろうが変わりないと。そう解釈した。
だから父は難しい言葉でもありのままに伝えてくれたんだと思う。いつか俺にもその言葉が届くと信じてくれて。
このアビリティーの力を使う日が来る時、過去の者達が進んだ道を俺が辿る事のないように……そして、父は俺自身の力で魔石を掴み取る事を願っている筈だ。
……協力って言う形だけどいいよね? ミーナちゃんの頭にくっついてただけかもしれないけど、一応俺も協力して頑張ったから。
ゴブリンの死体までアイナさんに肩車されながら、俺はそんな事を考えていた。
「クウちゃん大丈夫? ママの胸に飛び込んでいいのよ?」
はい、通常運転ですね。俺の中に合ったジーンとした想いは跡形なく無散する。ふふふ、アイナさんにはいろんな意味で敵わないな。
「だからおむねはめっ!なの。かわりにすりすりでがまんするの。すりすりすりなの」
たまには反撃だ! 銀髪のサラサラヘアーに頬を当ててスリスリしてあげた。どや?
「クウちゃん!? ふぁ~、ふぁ~、ふぁぁぁぁ!!」
……エルフって皆こうなのか? 俺の中で激しくエルフ株が安値まっしぐらだった。
「姐さん! 頼むから騒がないで!! モンスターが集まるから! 血の臭いで今やばいから……クウも姐さん壊れるからスリスリダメ!!」
「いいな~師匠……私がそのまま回収するんだった」
怒られちゃった……反省。
「はぁい、ごめんなさいなの。アイナおねえちゃんかいしゅういそぐの!」
歓喜にうち震えているのか返事はしなかったが、頭を上下に動かし代わりに応えてくれる。
アイナさんは足下に転がっているゴブリンの頭を真上に蹴り飛ばし、袖から取り出したナイフで落ちて来た頭の耳を一閃する。
は?
ゆっくりと流れる時の中で見えたのは、宙にクルクルと回るゴブリンの耳。あまりにも鋭く迷いのない閃光の太刀筋。
そしてそのまま首のないゴブリンの胸にナイフを突き刺し開く。シュッと風を斬る音が鳴った後に既に掴んでいる魔石……いつ回収したの? この間僅か6秒である。
なっ!? 余りの一連の流れに、目の前の頭を見つめてしまう。……アイナさんって魔術のエキスパートらしいが、それ以外でもスペックが高いのかもしれない。いや、そういう次元じゃないか……達人?
出会ってまだ二日間程度だが、余りにも残念なところばかり見過ぎたので、とても残念なエルフと言うことしか頭になかった。
……普段は何してる人なんだろ? 王都に着くまでの間に聞いておいた方が良さそうだ。そんな事を考えてる間にも、アイナさんは回収作業をテキパキとこなし……あれ? あと一体しか残ってなくね? ちょ!? か、考えてる暇ないぞ。
「アイナおねえちゃん! クウちゃんもおてつだいしたいの……」
ストップ! ストップ! と言う感じで彼女の耳をピコピコと摘まんで揺らす。そして、俺がしょんぼりと猫耳と尻尾をしなさせてしょげた声を出すと、我に返って気づいてくれた。
「あっ!ごめんね。クウちゃんの肩車があまりにも気持ち良くってつい。じゃあ~このナイフで耳を取ってみようか?」
上の空だと!? オートで回収してたんだ……底が見えないぞ。父とは違った面でチートをアイナさんからヒシヒシと感じる。鑑定スキルでぜひ調べたかったな。
と、今はそれどころじゃない。俺のターンだ!
「クウちゃんはこれをつかうの。」
腰に下げた専用の筒からバンパイア二ードルを取り出し、ゴブリンの耳へと刺す。その手応えが……あれ? 全く手応えがない?
でも刺さってるし……ちょっと横にずらしてみようと動かしたら、スッーっと切れた。やばいぞこれ……切り口から血が出てこない。
あまりにも切れ味が良すぎて抵抗を一切感じない。まるで渾身の業で捌いた刺し身の切り口のように、美しく光って見える。
見つめ合う俺とアイナさん。何?この切れ味……二ードル……針だよ!? 突き刺すのに特化した針が何でこんなに切れんの? おかしいよ?
「クウちゃん……この二ードルって血を吸うことで鋭さ増すって言ってたけど、何の血を吸ったのかな? お姉さんちょっと想像がつかないんだけど……」
アイナさんの額から若干汗が滲み出ているのが良く分かる。かくいう俺も同じだったりするからだ。
「わ、わからないの……おとうさんがクウちゃんにくれたから、ほんとうにしらないの」
血を吸う……血を……血……ケガ……皮……リュック!? 父~~~~~~!!! たっぷり吸わせましたね!?
やる……あの父なら息子の為と、ついでに吸わせるくらい造作もない。証拠はないけど俺の中では確実に黒だ。
お願いですから体を労ってください。そんな父を思う俺の心では、ドヤ顔の父が思い浮かんだ。
「危ないから今はこっちのナイフ使おうね~」
「はぁ~い」
アイナさんと暗黙の了解が結ばれ、初めて息があった瞬間であった。
ゴブリンの胸の上に股がり、ちっちゃな両手でナイフを逆手に持つ。その手の上からアイナさんの手が覆い、正しい位置を教えてくれる。
そして、一人じゃ力が足りないので、アイナさんが代わりに上から押してくれた。
そうして俺はやっと魔石まで肉を開く事が出来た。この魔石は俺の旅の第一歩……他の人には価値の低い物かも知れないが、俺にとっては何よりも眩しく目に写る魔石だった。
そんな俺の心の内が分かったのか……それとも顔に出てしまっていたのか分からないが、アイナさんは俺をとても優しい瞳で見下ろしていた。
俺も振り返って顔を合わせた時に、自然と笑みが溢れてしまった。
「おとうさんきこえる? クウちゃんやっとませきとれたよ。きこえるといいな……おとうさんのところまで」
両手に掴んだ魔石に向かって思わず呟いてしまった。
「大丈夫よ。クウちゃんのお父様って凄い人みたいだから、きっと届いてるわよ」
アイナさんが俺の背中から手を回し、俺を包み込むようにして包容する。優しく包まれた彼女の腕に、恥ずかしいとか照れと言った感情は消えていた。
とても自然に包まれている時間はとても心を穏やかにさせてくれた。
「師匠ッ! 抜け駆け禁止です! もう離れて!」
「おっ、クウやったな! これで冒険者の仲間入りだな」
「おねえちゃんたちみてなの。これがクウちゃんのやくそくのいっぽなの!」
俺は魔石を握り、想いを乗せてアビリティーを発動させた。
ふつおたコーナー(MC:たまご丼)
ペンネーム「森の民の長」さんより頂きました
Q:ユグドラシル証券取引所で聞いたんじゃが、老後の為に買い占めたエルフ株が謎の大暴落してしまった! 儂は一体どうすればいいのじゃ?
A:アルバイト雑誌片手にがんばれば若返るしお金も貯まるし一石二鳥! 若者に負けない根性見せつけるんだ! 森の民の長さんならいけるいける! そういうわけでシーユー♪
ア:ふぁ?