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おてつだいするの

 

 清々しい朝! お日様も爛々! 爽やかな空気! そんなベストな朝なのに、目の前にはネイさんの土下座があったりする。


 この世界に来てから二度も土下座を見る事になるとは……耳が垂れ下がり尻尾もしんなりとして、彼女の土下座の上に縦線の幻視まで見えてしまう。


「ネイおねえちゃん、かおあげてなの。クウちゃんもうだいじょうぶなの。それにクウちゃんのせいなんだから、たちあがってなの」


 昨夜のペロペロ事件から現行犯逮捕された、ペロリストことネイさんは、仲間の二人から白い視線を向けられてた。


 居たたまれなくなった彼女はそのせいもあって、こうして土下座中なのであった。もともと俺が余計な事をしなければ、

 ネイさんは普段通りだった訳であり、逆に俺の方が申し訳なくて、居たたまれない思いだった。


「ネイ……そろそろ顔あげなさい。クウちゃんが困ってるじゃないの。反省したのなら、ほらッ、旅の支度をする」


「あのネイちゃんが子供を押さえてペロペロ……ぷぷ……王都に帰ったら何奢ってもらおうかな~」


 この子ちゃっかりしてんな……世渡りがうまいのかもしれない。


「うっ……ちゃんと奢るから、絶対誰にも言うなよな!」


 こうして色々あったが、俺はこの三人に保護され王都へ向かう事となった。今朝の朝食時に俺の持ち物であるリュックや装備品、

 もふもふ魔法やアビリティ等を説明したところ、大変驚ろかれ、信用出来ない者にはなるべく秘密にするよう言われた。


 悪用する輩が現れないよう心配してくれた。三人はやはりいい人みたいだ。チョロイって? 仕方ないだろ……男なんて……特に俺はそんなもんだ。


 話を戻すが、やはり邪神達が設定したスキルとアビリティーは完全にオリジナルで、聞いた事も見た事もないらしい。


 あの父ですら知らなかったくらいなんだから、そうだろうとは思っていたが……俺はこの世界では異質な存在みたいだ。


 力は正しく使わないと危険である事をもっと自覚せねば、でないと昨夜のような事になってしまう。父はそういった事も分かっていたからこそ、俺を外の世界へと送り出してくれたんだろうな。


 さて、今俺は三人の馬に並走する形で浮かびながら移動している。だって、馬の上だと揺れが凄そうなんだもん。


「しかし、クウちゃんのお父様って一体何者なのかしら? どれもこれも古代神話級の装備品ばかりだし、プルルとコルルの実なんて、エルフ長の誕生祭でたまたま食べたことのあるくらい、高級食材よ?」


「美味しかったですよね~。クウちゃん、またお昼に頂戴ね」


 ウインクをされてお願いされてしまった。ドキッ…………小悪魔め!


「まだまだいっぱいあるからわかりましたなの」


 チョロイ俺である。笑いたくば笑えばいい。しくしくしく……


「あたいもいいかな? もふもふは我慢するからさ」


 ちょ!? ネイさんヨダレヨダレ。もふもふと聞いて条件反射みたいになっているな……俺も自分で食えたら良かったのにな……残念だ。


「あんた達少しは遠慮なさい。まったく……私はいらないから、その分もふもふさせて」


 油断ならないな、拒否すると余計に悪化しそうだし……ここは1つ……


「いいけど……おむねをいっぱいあてるのはめっ!なの」


 これは譲れない。もう恥ずかしくて堕ちるのは嫌です。


「分かったわ。うふふ~、照れちゃて可愛い」


 (もてあそ)ばれてる……しくしくしく……


「次、私予約です!」


 この子もどこか油断出来ないんだよね……


「おまえら嫌がる事……なんでもないです……」


 ネイさんごめんよ~~~! ああ~、俺の罪悪感メーターがうなぎ登りだ。そんなやり取りをしながら進路を東へと進める俺達に、招かねざる客がやって来る。


 それに一番早く気づいたのは、ネイさんだった。


「……前から臭うな。恐らくゴブリンだな……」


 徐行し、戦闘体制に入る三人。……ついに来た。俺にとっての初戦闘体験。異世界と言ったら避けて通れない道だよね。


「師匠、ネイちゃん。ちょっと試したい事あるんだけどいいかな? ねぇクウちゃん、お姉ちゃん、ちょっとクウちゃんにお願いしたい事があるんだけど、いいかな? お願い」


 ん? なんだろう……今の俺じゃ邪魔にならんよう、みんなの後ろに隠れているしかやる事がないと思うんだけど。


 まぁ、何かの役に立つのなら協力は惜しまみませんよ。


「ミーナ、クウちゃんに危険が及ぶようなら師匠として許可は出さないわよ」


 真剣な表情だ。不謹慎かも知れないが、真面目な顔も出来るんだ。


「あたいも同じだ。実戦だからな……ゴブリンだからって甘く見てると痛い目に合うぞ」


 ネイさん目付きがさっきまでとは全然違う。これがこの世界を生きる人達の、もう一つの素顔か。


「クウちゃん、やくにたつならおてつだいするの!」


 気になるってのもあるが、ここは快く引き受けよう。


「危険はないから大丈夫。クウちゃんはここにいてね」


 ミーナは俺を持ち上げると、頭の後ろ……つまり後頭部に俺を移し、肩車をして固定する。


「しっかりと掴まっててね。ふわぁ~、やっぱりクウちゃんはもふもふで気持ちいいよ~♪」


 ご機嫌で腰から下げた杖を取り出し、前方のゴブリンに向かって構える。


「パーティー申請をするから受け取ってね」


 ん? 頭の中に突然文字が浮かび上がる。


 *パーティー申請をされました。受けますか? Y/N


 もちろんイエスだ。


 *パーティー申請を受諾しました。


「いまのってなんなの?」


「パーティー申請と言ってね。一緒に戦う場合はパーティーを組む事で、経験値が均等に入るようになるんだよ。

 クウちゃんが理解するにはまだ難しいかもしれないけど、後ろで支援する人は直接モンスターを倒さないから経験値が入らないの。

 だから神様の力で創られたパーティー申請は、古の時代からある仕組みなんだよ。クウちゃんがもっと大人になったら詳しく分かるかもね」


 確かに後衛の人だと魔術が使えないと、弓か何か投げれる物でモンスターを倒すしかないし、基本、無理だよな。


 しかし神様が作ったシステムか、神と言っても邪神もあの世には存在しているからな……


「来たぞ! 数は20……結構いるな。ミーナ、何をするのか分からねぇけど! ゴブリンだからって油断するなよ!」


「私は待機して何が起こっても平気なように見ているわ。ミーナ、クウちゃんを泣かせたらただじゃおかないわよ。いいわね?」


「了解! じゃあ、いくわよ!」


 ミーナは杖を前に出し、詠唱を唱え始める。おお~、これぞファンタジー! 父も色々見せてくれたが無詠唱だったし、声に出して唱えるのって、やっぱ雰囲気が出るよな。


「清浄なる大気よ! 我が意に従い形と成せ! ウインドカッター!!」


 透明な三日月型の風の刃が、前方50メートルにいるゴブリンの首を斬り飛ばす。うわぁ~~……グロイな。血が吹き出してえらいことになっている。


「ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!!

  ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!!

  ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!!

  ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!! ウインドカッター!!」


 一体ずつ首を跳ねるごとに焦り始めるゴブリン達。その数が半分に達すると負けを悟ったのか逃げ始める。


 だけど容赦なく風の刃が次々とゴブリンを襲い、首を跳ね飛ばしいく。一方的な攻撃を前にしてゴブリン達は(またた)く間に殲滅した。


 ミーナすげぇ~! 見直したわ。心の中ではミーナちゃんに格上げだ。これで見習いか。じゃあアイナさんはもっと上なのか? ……パナイな。


「ミーナちゃんすごいの。ごほうびになでなでなの」


 あっ!  思わず言っちゃった。だけど気にしてないみたいだし、まっいいか……


「あはは、ありがとね。でも実はクウちゃんのおかげなんだよ。今朝クウちゃんから聞いたアビリティーでいけるかなって思ってたんだけど、全く問題なかったよ。君は最高だよ!! ウリウリ」


 肩車の状態からミーナちゃんの顔が俺のお腹正面に向きを変えると、頬でスリスリして来た……パッと明るく喜ぶ笑顔を見たら、ここは恥ずかしいけど我慢だ。


 よしよし、良くやったナデナデ。究極の抱き心地を利用して、MPの回復効果を狙ったわけか。


「クウのアビリティーを知られたら、ギルドでスカウトの嵐だな」


「……クウちゃんがいれば魔術師の弱点の一つが消えるわね。MPの消費効率と回復の運用は魔術師の永遠のテーマですもの……

 いや、HPもMPと同じ回復速度なら前衛の武技も同じかしら? というかその場合ヒーラーも出来るわけだから、生存率が更に引き上がるわけだし……

 あぁ~もう、クウちゃんは可愛くて面白いな~♪」


 俺って常時回復アイテムみたいな存在になれるな。パーティー組む場合はこのポジションが迷惑かからなそうだ。


 ただ相手は選びたいな。あまりむさ苦しい人とか、不潔な人とかに密着させたくないし……


「ねねクウちゃん。魔法の練習する時に手伝って欲しいの。ポーションをガブ飲みで吐きながら練習してるから辛くて辛くて……お礼ならちゃんとするからお願い!」


 涙目で必死に訴えるミーナちゃん。うら若き乙女がポーションを吐く。血反吐ならぬポ反吐だな。そりゃ~キツいだろうな。


 お腹がタプタプになるまでやった後にそれなんだから。流石にこれは俺も想像して同情する。時間の空いてる暇な時なら手伝っても構わないだろう。


「魔術師の通る道よね……私の時代も早く修得する為に飲んでは吐いたわね。しかも今みたいに甘い味じゃ無かったし、

 酷かったあれは……みんな通る道とはいえ、私からもお願いするわ……しくしくしく……」


「り、りょうかいしましたなの。ただ、クウちゃんがいそがしいときはごめんなさいなの」


 どこか遠い目をしてるアイナさん……色々聞きたいけど、触れちゃ不味いんだろうな。


「ありがとう! もう大好き! ウリウリ」


 よしよし、お手伝いしますか。と言っても肩車をしてればいいだけだし、俺も練習を風景を眺めることによって、どうやって魔術の修行をするか学べるし、丁度いい。


「前衛は飯食えばいいからな、その分まだマシだな……それでも少食な奴は腸を鍛える為に食わされるから……あまり変わんないか?」


 ゲームなんかでは薬草やポーション等、いくら使っても影響はなかったが、現実世界じゃそうはいかないよな。想像してなかった現実と空想の差がここにある……


「さて、出番がなかったから素材の回収は私がやりますか。討伐部位と魔石を取るから二人は周りの警戒をお願い」


 お、魔石を取るのならぜひ近くで見て勉強したいな。今後絶対に必要となる技術だし。


「クウちゃんもおてつだいしたいの」


 アイナさんが有無を言わさずミーナちゃんから俺を奪い抱っこをする。そして、体勢を変えると羨ましかったのか、同じく肩車に俺を配置した。


 ミーナちゃんがこちらを恨めしそうな目を向けるが、その師匠は完全スルーだ。


「ええいいわよ。ただ怖かったら胸に飛び込んできてもいいわよ。ゴブリンの死体だからね」


「だ……だいじょうぶなの。がんばるの」


 うん、本音を言えばちょっとビビってます……だってしょうがないじゃん! 逆に慣れていたら怖いわ!


 こうして俺は異世界の常識(ルール)を更に知るのであった。


ふつおたコーナー(MC:たまご丼)


ペンネーム「マジックポーション安くなれ」さんより頂きました


Q:私がお世話になっている先生が、私の好きな人を独占します。どうすればいいでしょうか?


A:そんなの奪ったもん勝ちだよ! ツバつけちゃえ! 先生より早く既成事実を作ってぶっちぎっちゃえ! 彼もそんなキミに期待してるよ! マジックポーション安くなれさんならいけるいける! というわけでシーユー♪


ク:ピンポーン♪ おや? だれかきたみたいなの。

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