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伸ばす手は何処へ

69話はストーリーの関係上、おたよりコーナーは御座いません。御理解の程、よろしくお願い致します。

土下座……それは究極の護身術。相手の怒りを静め、これ以上相手を追い詰めることの出来ぬ究極の構え……それこそが土下座である。


女王陛下の前にはそれはそれは見事な土下座が2つ、鏡餅のように重なっていた。


(エヴァ)「(汚いわヴェラ……見た目もそうだけどクウちゃんを敢えて背に乗せたわね……)」


12歳となってしまったヴェラの頭を足蹴にするのは見た目からしてやりにくい。じゃあ、せめて背中をゲシゲシしようかと思えば、背中に亀の親子のようにクウちゃんがちょこんと乗っている……手が出せない……


(ヴェラ)「この度は誠に申し訳御座いません……その……クウちゃんに接しているうちに段々と惹かれてしまい……」


「ヴェラちゃんをゆるしてあげてほしいですの。そのへいかの……」


ピシピシと傷つく……憧れていたクウちゃんはやはり大人にもなれた。その程度の事は予想もしてたし、あれだけの魔術を使えるのだ。大抵の事はやってのけよう。そもそも生き神だし、ヴェラを若返らせるなんて離れ技をする位だ……


(エヴァ)「エヴァ!……エヴァって呼んで。それともう良いわ……ヴェラは下がりなさい。仕事も貯まっているだろうし、それを片付けて来なさい……今回はそれで目を瞑ってあげるわよ。」


クウちゃんが私を陛下と呼び、ヴェラをちゃん付けで呼ぶ。私の方が好きで待ち焦がれていたのに……このうっかりヴェラは人の初恋の人を……ふぅ……クウちゃんの素晴らしさを知っていたのは自分だけじゃないのを何で考えなかったのか……私はまだまだ子供と言うことか……


(ヴェラ)「陛下!! ありがとう御座います!」


幸せそうな顔をしちゃって……ヴェラおめでとう。あの世の中の男性に愛想を尽かしていたヴェラがまさかね。ひょっとしてこのまま……


(エヴァ)「で、仕事は続けるの? その……妊娠しているのなら……辞めちゃうの?」


正直に言うと困る。ヴェラは確かにうっかりしてる所はあるが、基本スペックは他の者より高いのだ。


(ヴェラ)「その、まだしてから2日しか経ってないので妊娠してるか分からないんです。それにクウちゃんにはお仕事を続ける事を許してもらっているので問題ありません。」


そうよね……クウちゃんに会ってまだ日が浅いし、彼の器は会って間もないヴェラを受け入れていることからも推しはかれる事だ。


あの共にいた彼女達も、全員クウちゃんの女だと言うのなら……


(エヴァ)「……分かったわ………………ヴェラ、いいわよね?」


一番信用してた親友に、男を寝取られた事に対しての確認である。つまり、この先の事に目を瞑り、同意を求めていた。


(ヴェラ)「……今の私に嫌と言う資格は御座いませんので……」


まさか、もう私の物だから手を出しちゃダメなんて、口が裂けても言える筈がない。むしろ、ヴェラちゃんは15歳と言う若さで、それを容認出来る主に頭の下がる思いだった。


「なんの話しですの?」


(ヴェラ)「ごめんなさいクウちゃん。陛下のことは任せたわ。私は貯まった仕事を片付けて来るから。また今晩会いましょうね。」


「いってらっしゃいなの~。あとでさしいれのごはんもっていくからがんばってなの。」


(ヴェラ)「ありがとう、貴方。……ちょ!?…………失礼します。」


貴方の部分でヴェラちゃんにだけ分かるように殺気を飛ばしたので彼女は逃げた。


二人っきりになったエヴァちゃんのお部屋で俺達は色々話しあった。


主に俺の旅路の事を聞かれたので、ウルフ討伐戦、ミリオンバッタの事件、貴族の仲間救出騒ぎ、丼作成秘話、サウザンドスネーク討伐、奴隷解放事件、審議会から死の森への間に起こったこと、エヴァちゃんの嫉妬事件で男の娘化した事件は滅茶苦茶ウケていた…………そして、ヴェラちゃんとの竹炭作り。この時だけはみんなの嫉妬の時の空気と酷似していた……


(エヴァ)「本当にお金は要らないの? 少し待ってくれればちゃんと払うよ?」


「しゅみでやりましたし、たのしかったからいいの。それにヴェラちゃんのことでおわびもしたいし、その……できればうけとってほしいの。」


抱っこされてる状態からペコリと首を揺らして謝罪するが……


(エヴァ)「むーーー!私の方が元々クウちゃんとらぶらぶしたかったのに! うりうり。」


ホッペを片手でムニムニされる俺。もちろん抵抗はしない。


「おおいにはんせいしてますの。でも、ヴェラちゃんはたいせつにしますの。」


(エヴァ)「それだけじゃダメよ。ねぇクウちゃん、私もその中に入れて頂戴。」


画面の隙間から見えるが光っている……コレはマジだね。


「その……エヴァちゃんはこのくにのえらいひとなの。だから、まずいとおもいますの……」


仮にも一国の女王である。その旦那になると言うことは国を納めるもう一人の統治者の誕生である。そうそう簡単に受けていい話ではいない。


(エヴァ)「止めようかな女王…………チラッ……」


俺とエヴァちゃの駆け引きが始まった。


「ぐっ……クウちゃんはもうおとなのおにいちゃんなの……エヴァちゃんのおどしにはくっしないの……」


(エヴァ)「誰にも私の胸を弄ばれたこともなかったのに……汚されちゃったな………………チラッ……」


俺のウィークポイントをしっかりと把握している。自称俺の事を愛してると言うだけあって強敵だ。


「ぐはっ!……これをたえきったらクウちゃん、みんなになでなでしてもらうの……」


(エヴァ)「キングカイザーの30年物を用意してあるんだけどな………………チラッ……」


今度は飴で来たか! しかも猫人族の本能を突いて来た。


「あーーーーーーーー! きこえないないの! ほんわかばんばん! ほんわかばんばん!」


(エヴァ)「ぐすん……皆の者! もう自棄だ! 東の大陸に戦争を仕掛けるぞぉ…」


ちょ!!!マジって俺には分かった。この娘はやるときはやるよ。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!うぇるかむまいわいふエヴァちゃん!!!!クウちゃんとらぶらぶしましょうなの!!!」


(エヴァ)「慎んでお受けいたしますわクウちゃん。」


マリアちゃんもそうだけど、政治の世界で生きてる人にこういった事で勝てる訳がない。


「あぅ~~~だけど! クウちゃん、けっこんしてもせいじはむりなの! とてもじゃないけどそれだけはごかんべんなの……」


(エヴァ)「そこは今まで道理でいいわよ。それに例のゲートがあるんなら、いつでも通い妻をヴェラと一緒に出来ますので。それに王族制から民主制に変えてもいいわ。と言うかね、私はいずれそうするべきだと考えているの……でも今はね、そんな事はどうでもいいの。それよりも……クウちゃんと夜のらぶらふをするのに仮面だけは外せないの……それだけは許してくれないかな?……この下を見られたら……」


…………俺の中で譲れないものに彼女は触れる。


「ちょっとまったなの!」


(エヴァ)「……酷い顔の女の子はやはり嫌ですか?」


震えている……凍傷で確か焼けただれているんだよね。15歳の……ミーナちゃんと同い年の子が顔にトラウマを抱えていたら……


「おはなしをきいてくださいなの。ほらっ!てをつなぎましょうなの。」


(エヴァ)「…………うん。」


彼女の膝の上にちょこんと乗り、祈るように掌を組んでいる手を包むように、俺の手を覆うように乗せて包む。エヴァちゃんの気持ちを察する……だから、俺なりのやり方でいかせてもらう。


「クウちゃんはみんなにみえないきぐるみをじつはきていますの。それはなんだかわかりますかなの?」


突然の禅問答にエヴァちゃんは戸惑いを隠せない。意図が掴めなくて困っている。


(エヴァ)「……突然何?…………分からないわ。普通に可愛いクウちゃんにしか私は見えないよ。」


「なら、くいずをだしちゃうの。クウちゃんのねんれいはいくつでしょう?なの。」


(エヴァ)「一歳よね? でも魔術で大人になれるから違う?」


「かごのちからで30ぷんだけ20さいの……にくたいにはへんかできるの……」


(エヴァ)「20歳にじゃなくて、20歳の成長した姿に……じゃあ、やはり一歳……クイズだからそうじゃないわね……本当はいくつなの?」


「こんじょうは12さいで、ぜんせは52さい、あわせて64さいのおじいちゃんですの。」


それを聞いても彼女になんら変化はない。本当に出来た子だ。


(エヴァ)「…………見えない着ぐるみってそういうことね。」


「なの。じゃあ、それをふまえたうえでおききしますの。クウちゃんとそれでもらぶらぶしていっしょにいきていきたいですか?なの。」


(エヴァ)「変わらないわ。それが事実でも私のクウちゃんは会ってより確信に至ったもの!」


ありがとう。俺の中身を知ってくれた上でそう言ってくれるのなら俺も応えよう。


「なら、クウちゃんもエヴァちゃんのおかおやようしにこだわりませんの。」


(エヴァ)「それとこれとは話が違うわ!」


話をすり替えたと思ったのか……それとも裏切られた時の恐怖がまさったのか、つまり、彼女と俺はまだ繋がっていない。だから、彼女に問う。本当に俺と添い遂げたいか。


「ちがくないの。うんしょ……このきぐるみをぬいだクウちゃんなら、エヴァちゃんによゆうでたおされちゃうの。」


覚悟の証を俺は着ぐるみを脱ぐ事で示す。それだけでエヴァちゃんなら分かってくれるから。


(エヴァ)「何を言ってるのクウちゃん……」


「もし、クウちゃんがエヴァちゃんのおかおをみて、かおをしかめるようなら……このばできりころしてくださいなの。」


逃げないで欲しい。一歩でいいから俺を信じて欲しい。届けこの想い。


(エヴァ)「出来るわけないじゃない!お願いだから止めて……ね?仮面を外さなくてもいいでしょ?」


首を横に振る。そして、まっすぐに彼女を見つめる。


「しんじてなの。クウちゃんのおくさまになるのなら、ひとりのじょせいとしてクウちゃんをしんじてくださいなの。あいははずかしいところもみせてささえあうからすばらしいの。……クウちゃんをあいしてくれますか? なの。もし、あいしてくれるのならしんじてくださいなの。」


(エヴァ)「………………ズルいわ。そんな風に言われたら断れない。」


つまり外しても良いと言うことだ。


「ふふふ、クウちゃんってみんなからいわせるとSらしいのでかくごしてくださいなの。」


(エヴァ)「はい。もう充分に感じています。」


「ではしつれいしますなの……」


そっと仮面の止め金具を1つずつ外し彼女の素顔が俺の瞳に写していく。…………確かに酷い凍傷の痕だ。でも彼女が今、俺の微笑んだ顔を見て泣いている。人の美的感覚は内面の美しさで見た目を凌駕する事だってある。だから、この顔を俺は寧ろ尊くすら思える。


民の為にここまで己を犠牲にし、今まで折れず、曲がらずにこの国を支えて来たんだ。


たった15歳の女の子がだ! 俺なら途中で道を間違えるかもしれない。


そっと焼けただれた彼女の頬に優しく手を添えて口づけをする。


エヴァちゃんの固く、固く祈るように閉じていた手が解放されて、俺の後頭部と背中に優しく回される。


ずっとそうしていたくなる、長くも短い時間が終わり、エヴァちゃんは俺を離した後に深々と頭を下げる。


(エヴァ)「この命が尽きるまで貴方を愛し続けますわ。」


「はい。らぶらぶしていっしょにいきていきましょうなの。おくさんがいっぱいいますけど、みんなあいしつづけますの。」


(エヴァ)「それもいいですけど、一人の時は私だけを見て下さいね。」


「はいですの。ではだんなさまとしてエヴァちゃんにクウちゃんはすてきなおくりものをおくりますの。こうぶつそうぞうはつどうなの!」


着ぐるみを再度着て、俺の掌に彼女の笑顔を作る1つの石を生み出した。にゃん鉱、これに究極の抱き心地と愛を込めて彼女に握らす。


「これをかたときもはなさず……もっててなの……きっと……えがおといっしょに……かめんをはずすひがきちゃうの……Zzzzzzz……」


にゃん鉱を生み出すのにフルパワーを使用した俺はそのまま堕ちる。


そっと俺を抱っこして寝顔を見つめる。俺から渡された宝石からぽかぽかしたものを感じるエヴァちゃんはまるで今抱いている俺の分身のような温かさを感じていた。


ただの宝石の訳がない。この宝石はこの髪と同じく、奇跡を起こす物だと彼女は確信していた。俺の頬に温かな滴が上から落ちてくる。それをエヴァちゃんは何度も何度も拭ってあげるのだった。







ざわざわ……ギルド職員が大きな用紙に殴り書きをする。そこには緊急クエストが書き込まれていた。つまり、災害級のモンスターが発生した場合に出されるものである。


(ミラン)「よりにもよって、クウちゃんやアトラス様がいない時に!」


(ユイ)「コレってセーラちゃんが言ってた変異種の事だよね?」


(シナ)「水中モンスターじゃ無かったの!?」


(ヨウコ)「進化しちゃったんじゃないの……陸にもさ……ほら、書いてあるよ。……全長30m!?」


緊急依頼書にはキングカイザーの変異種であると掛かれており、上陸して他のモンスターも食い散らかしていると書いてある。


今回はどこかの冒険者パーティーが犠牲になったようだ。その生き残りだと思う女が何人かの同業者に肩を抱かれ慰められている。


そして、マダオとか言う冒険者が「それ見たことか!」とギルド職員に詰めよっている。そう言えばあの男はみんなに警告していたそうだ。


ギルドの怠慢と言えばそうかも聞こえるかも知れないが、この男の話では信じられないのも分かる。


(ミロ)「どうなされますか?」


淡々と聞くミロにイラッとする四人。それを今考えている最中だと言うのに……


(ミラン)「じゃあ、どうすればいいと思うか言ってみなさいよ!」


(ミロ)「アスモデウスを全員召集し、全員で強襲を仕掛けて弱らせます。それで倒せれば良し、倒せなくとも逃げようとすれば必ず水中に逃げようとするので湖に向かいます。その途中に皆様は待ち伏せをするか、又は、キングカイザーを捕獲しに向かっているアトラス様と遭遇すれば良し。遭遇しなければ時間を稼いだ後、本国からの増援と一緒に叩けば良いでしょう。重要なのはアトラス様と言うカードがある以上、あの御方から離れずに行動することで犠牲を最小限に抑え、戦略を練る事かと。」


(シナ)「もしあんた達が殺られたらどうするのよ?」


(ミロ)「逃げればよろしいかと?」


(ユイ)「…………街の人を置いて!?」


(ミロ)「ええ、それが現実的な判断です。私の命令は皆様の命を守ること。その命令は絶対です。」


(ヨウコ)「…………あんたさ、すぐにこんな画を描ける事といい、ホントにただの山賊だったの?」


不気味だった……それが四人が思った感想。もっとアスモデウスの連中は能天気な集団だと思っていた。


それがどこぞの策士のようにスラスラと答えることに違和感を感じた。


(ミロ)「ただの山賊です。主に斥候(せっこう)を担当していましたが、一度のミスが運命を分けるのが斥候(せっこう)と言うものです。私はそういう環境で4歳の頃から生き延びてきました。ただの山賊かと言われれば、それでしか生きる事の出来なかった者の力です。」


加害者が被害者を装い同情を集める手だと頭によぎるが、今のミロに意思の自由もない。


エーコちゃん達に悪いと思いながらも心の片隅に湧いた感情を振り払おうと四人はかぶり降る。


(ミラン)「……いいわ。その手で行きましょう。アスモデウスを全員集めて、それからあんた達は他の冒険者達と強襲を仕掛けるか、先行してやっちゃって。私達はギルドの人に話を通しにいく。アトラス様のステータスチェックをした時に私達も見ているから職員さんは分かってくれると思う。ミロ、私達の護衛を一時的に解除するわ。これでいい?」


(ミロ)「畏まりました。アスモデウス全メンバーの準備が整いましたら至急向かいますので、情報の収集許可を与えていただけますか?」


(シナ)「いいわ。……死ぬんじゃないわよ。」


(ミロ)「・・・・・・善処致します。」


他のメンバーを集め、私達とアスモデウスは別に別れて行動する。それにギルドに集まった先輩冒険者達とも行動し、動き出す。私達のようなFランク冒険者の話を聞いてくれたのはやはりアトラス様の影響と……


(リリヤ)「まさか、あの時助けたみんなとこうしてクエストに来る日がもう来たなんてね。」


(リズ)「クウちゃんにいいところを見せてあげないとね。」


白い牙に凍れる刃の面々が勢揃いしていた。私達を救い出してくれたこの2パーティーはみんなBランク以上のメンバーで構成されたベテランパーティー。


その有名な2パーティーが後押ししてくれたのも大きかった。


最終打ち合わせが終わった後、私達は行動を開始した。











坊主です。釣りの用語で言うところの……


(セーラ)「一匹も捕れないわ!! 何で出て来ないの!?」


クウちゃんにサムズアップまでして大見得切ったのに! 一匹も持ち帰らなかったら……


□■□■□■□■□■□■□


セーラの回想


(クウ)「がっかりなの……あれだけクウちゃんにおおみえきったうえに、ねちねちいじめてじょそうまでさせたのに、おみやげもないなんてセーラちゃんなんてもうきらいなの! クウちゃんにはじょおうさまがいるからセーラちゃんはぽいっ! なの。ね~~じょおうさま~♪」


(女王?)「お~~~ほほほほほ! こんな小娘なんか相手にしなくてもいいザマス。ほ~~らクウちゃん、キングカイザーの30年物ザマス。ついでに15年者の私も食べてザマス。」


(クウ)「のこさずたべちゃうの。セーラちゃん、ばいばいなの。」


(女王?)「おほほのほ~ほほほほほほほほほほほ」


(クウ)「なの~おほほほほほほほほほほほほほ」


□■□■□■□■□■□■□


(セーラ)「嫌ぁぁぁぁ!!!!!! クウちゃん私を捨てないでぇぇぇぇ!!!!!!」


髪をわしゃわしゃと掻き乱し、取り乱すセーラちゃん。これも未来視が見せる未来なの? と、ただの暴走な妄想とごっちゃっになり混乱してるのをアイシアちゃんは抱きしめる。


(アイシア)「どーどー…………うん、言わなくても何を想像したか分かるよ。一応言っておくけどセーラちゃん、冷静になろうね。」


親友の意外な一面を最近よく見るなとアイシアちゃんはげんなりとした表情で、頭と背中を擦ってあげていた。


(ミーナ)「ねぇ、流石にこれはおかしいでしょ。こういう時って大抵嵐の前の静けさよね……お義父様、ネイちゃん。撤退を進言したいけどいいかな? 嫌な予感がする……」


(エーコ)「えーー!? 撤退しちゃうんですか!?」


(シエナ)「私も賛成……嵐の前の静けさのような気がする。」


(リン)「…………湖の周りにモンスターの気配すらないね……」


(リア)「うーーー!! せっかくのキングカイザーが……」


(ニア)「仕方ないよ……冒険者をやって行けばこういう日も来るって分かってた事じゃない。」


(ニア)「なにもデビュー戦じゃなくてもいいのに……」


意気消沈する面々だが、ネイお姉さまは踏み切った。


(ネイ)「……みんなよく聞いてくれ。あたいもどうも怪しいと勘だけど……訴えて来ている。何かここで異変が起きたと考えて行動した方が良さそうだ……ここからはあたいの指示とお義父様の指示で動くこと。パーティーリーダーをお願いします。」


(アトラス)「良かろう。何やら雲行きが怪しいな……残念だが、来た道を戻ろう。さっ、セーラさんもそんな顔をしないで行こう。何、クウヤは皆の尻に敷かれている。想像するようなことはないから安心したまえ。あっははは。」


と言うがこっちは笑い事では済まないので少しだけ意地悪をした。


(セーラ)「……本当ですね? お義父様……もし違っていたらカニの着ぐるみを着てもらいますからね……ぐすん……」


(アトラス)「ぐっ………………ああ! 大丈夫だ。約束しよう。」


(アイシア)「(今の間……お義父様、悩みましたね?)」


(ネイ)「(似てるな~……)」


(ミーナ)「(そういうところは似た者親子よね~……)」


みんなの視線にバツの悪いお義父様は咳払いをして背を向けてしまった。


(シエナ)「戻れ! 水魔の槍よ!」


私達は仕方がなく撤退の準備を始め、クウちゃんが持たせてくれた竹炭の (たきぎ) に雪を被せようとした時だった……遥か遠くで轟音が鳴り響き、異変を捉えた。












「おちゃですのオレグおにいさん。」


「パーシャおねえちゃん、めっ!なの。クウちゃんをもふもふしたいなら、おしごとがおわってからなの。」


「アラルおにいさん、このしょるいをさきにやってほしいの。それとこれはもっていっていいのなの?」


「ヴェラちゃん!! じょうないらぶらぶはめっ!なの。しごとばにもちこんじゃめっ!なの。」


「はわわわ!!! エヴァちゃん、ちゅっなの……いかりをしずめてなの。……ヴェラちゃん! やきもちいやかないの! くうきよんでなの!」


「せいむかんのおにいさん、おひるごはんですの~。クウちゃんとくせいのうなどんをどうぞですの~。」


「はーどわーくでクウちゃんばたんきゅうなの……Zzzzzzz……Zzzzzzz……」


エヴァちゃんのお膝の上にちょこんと丸まってスヤスヤと寝息を立てている俺を、みんなは取り囲んで眺めている。


ここは政務室。溜まりに貯まった書類を片付ける為に俺も臨時でお手伝いしながらちょこちょこ動いていた。


(オレグ)「うむ、いいな。陛下、五将軍にしちゃいましょうぜ。」


(エヴァ)「それは良い提案だが、クウちゃんは多分逃げると思うぞ。」


(ヴェラ)「私が既にスカウトしましたが、その……断られちゃいました。」


(パーシャ)「えーーー! ヴェラ姉、奥さんなんでしょ? そこは妻の力で押しきってよ。」


(ヴェラ)「無茶言わないでよ!クウちゃんがどれ程の力を持っているかあんた分かってないからそういう事が言えるのよ!」


(アラル)「そんなに凄いのですか?」


(エヴァ)「私も聞きたいな……報告もまだだったし。」


(政務官)「そうですね陛下。今や各国の話題の中心の人物なんですけどね。なんというか……見た目は本当に愛らしくてとてもそう思えませんな……」


陛下の膝の上でぬいぐるみを着た赤ん坊にしか見えなくて、政務官は苦笑いをする。


(ヴェラ)「そこは否定しないけど陛下やみんなが考えている規模の10倍は……いや、想像以上に凄い……」


みんなは気づいていなかったが、ヴェラちゃんは少し汗をかいていた。


(オレグ)「おいおい姉さん、いくらなんでも旦那様だからって持ち上げ過ぎだろ?…………って、マジかよ、その顔……」


(ヴェラ)「クウちゃんのお父様はあの邪龍皇よ。これだけでもとんでもいないことよ。」


エヴァちゃんとヴェラちゃん以外の全員が一斉に立ち上がる。エヴァちゃんも俺を乗せていなかったら恐らく立ち上がっていただろう。


(エヴァ)「それはホントか!?」


(パーシャ)「じゃあ何!? 死の森まるごと本当にクウちゃんの領土って言うことなの!?」


領土に関しては基本、その土地を最初に納めた者が所有者となるのが、この世界の暗黙のルールである。


(アラル)「そこもそうですが、邪龍皇と言う存在がいる以上、クウちゃんに手を出すことは破滅に繋がるじゃないか……」


(ヴェラ)「それだけじゃないんだよな……もっと強力なのがバックについてるし……(クウちゃんから聞いた、創造神ミラ・ミケオロン様、通称ミーちゃん……あはははは、旦那様は全ての世界を創造された神の頂点に見初められていて、たまにあの世に出向いては出前に行っている。こればかりは彼を愛した者にしか信じられないことだろうな……)」


ここでやっとみんなはヴェラちゃんがうっすらと汗をかいている事に気がついた。


(パーシャ)「姉さん……気になるじゃないですか。かの龍以上の存在なんていないですよ?」


ヴェラちゃんは人差し指を天井に向かって伸ばし、何かを指し示す。


(ヴェラ)「これで分からなければ聞かない方が良いわ。」


(アラル)「神とでも言うのですか?」


(ヴェラ)「その頂点の創造神様、名前も初めて知ったけど、ミラ・ミケオロン様とおっしゃっるそうよ。」


(政務官)「いやはや、ヴェラ様も冗談キツい。それではクウ様はあらゆる世界において最強ではないですか。」


(ヴェラ)「死んだらあの世に行くみたいだし、その時に聞けば真実かどうか分かるわよ。」


あまりにも雲を掴むような話にどう返していいか戸惑う中で変わらぬ男がいた。


(オレグ)「たまんねえな……陛下もヴェラ姉もとんでもない御人を愛したもんだ……」


(エヴァ)「ほう、オレグよ。そなたは信じるのだな……私とヴェラは分かるとして、何故そう受け止められる?」


(オレグ)「馬鹿にしてもらっちゃっ困りますぜ陛下にヴェラ姉。俺の信じたお二人がそうだと言っているんです。なら、クウちゃんはそういった御人なんでしょう。それにですよ? その方が俺は楽しくていいですから!」


ニカッと少年のように笑うオレグを見て各々は別々の反応を示す。


(パーシャ)「あっきれた……あんたが羨ましいは……くすっ……」


(エヴァ)「お前って奴はホントに……あはははは。」


(ヴェラ)「ありがとうオレグ。」


(アラル)「一人で美味しいところを持っていくのはよくありませんよ。」


(オレグ)「おいおい、俺は思った事を言っただけなのによ。」


和気あいあいと盛り上がる中、別室にいたアイナママ達の元に急報が届けられる……そして、部屋へとノックも無しに入って来る。


それを咎めて叱るべき言葉を言う場面だが、アイナママ達から発する空気を感じ取った面々は何事かと問い掛ける。


(ヴェラ)「アイナさんにみんなどうしたの……」


(アイナ)「これを読んで……クウちゃんを起こさないと……陛下、すみませんがお願い出来ますか?」


(エヴァ)「うむ、分かった。クウちゃん、クウちゃん、起きるのだ……」


「…………んっ?……おはようなの……ふっ! ん~~~~なの。アイナママ?…………なにかあったの?」


アイナママにリディアちゃん、クリスちゃん、ルカちゃんまでも暗い表情をしている……どうした?


(ヴェラ)「そんな!?……クウちゃん……」


(アイナママ)「落ち着いて聞いてね……ミロが死んだわ……」










俺はとある貴族と愛人の間に生まれたガキだった。1つ下の妹もいた。


あの真っ赤に咲き誇る花園の屋敷で三人、仲睦まじく暮らしていた。


だけど、あっと言う間に俺の幸せは壊れた。旦那の浮気を許さなかった本妻が俺達に刺客を向けて来た。


その最中、俺は偶然が幾重にも重なって助かった……いや、本当の意味では死んだ人生の始まりだった。


この世は弱肉強食。それがただ唯一の絶対真理であり、全ての生き物に共通する運命だと俺は身を持って知った。


生きる為に他者から奪い取り、糧を得る。それは食事と言う行為1つを取ってもそうだ。


だから、俺は自分の為にひたすら自分を守り生き抜いて来た。


その果てにこのような姿になるとも知らずに……エーコ、シエナ、リア、ニア、レア、ルカ……名前すら俺は姿を変えられるまで覚えてなかった。


あの6人をゴミのように扱い、欲望の赴くままに犯し続けた。そう、いつからだ……俺があの本妻の貴族のように、人の幸せを壊すのを当たり前だと思ったのは……


絶対真理は決して間違ってはいない……だが、母や妹があのような目にあっていたら、俺はクウ様と同じように怒り狂っていただろう……


気づくのが遅すぎた……愚かな自分を呪っても何も変わらない……罪……存在自体が罪だったと言うのなら俺の母は大罪人か?……違う……俺自身が勝手に何かのせいにして間違えた人生に変えてしまった。


このレールから飛びだし抜け出るとしたら奇跡を起こすしかないとあの四人が気づかせてくれた。


奇跡……俺はどうやったら起こせる? この自由すら与えられぬこの身で一体……


(ミロ)「ガアァァァァァァ!!!!!! せいっ!!」


とんでもなくばかでかいモンスターを斬りつけながら、俺の意識は罰から逃れるのではなく、どうやってあの6人に報いねばならないか……俺の罪は消えない……それは同じ目にあっている俺自身がよく分かっている……だからこそ、罪を消す方法をここに至り、俺なりの解答を導き、そして、得た……俺に出来る1つの奇跡……それを行う事で俺は罪と共に消えよう……それが今まで多くの者の幸せを奪い、あの6人と母に詫びて報いる俺の答えだ。


(サキュバス01)「ミロ様、奴が逃げて行きます!追撃を開始します。」


(ミロ)「サキュバス01と02から20までは左翼に展開!残りは俺と右翼にて挟むぞ!湖から外れるルートを取らせるな!」


(サキュバスナンバーズ)「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


この化け物を逃がしはしない……お前の辿り行く先が俺の目的地……そこで全てを終わりにする。


湖に向かう中間地点で待ち伏せしていた冒険者達と合流するも、このキングカイザーの変異種は止まらない。


それでいい、止まるなと俺は願う。突き進んだその先にあの御人がいた。


元邪龍皇アドアトラスが道を塞ぐように立ちはだかっている。


舞台は整った……終わらせよう。俺という存在その者を……










遠くで鳴り響いていた音と振動は徐々に大きくなり、遠くで立ち上がる雪煙でこちらに何かが近づいて来るのが分かる。


私の未来視が捉えたものは情報で聞いていたキングカイザーの特徴と酷似する。ただ、違う点を言うのなら、その大きさはもちろんのこと、若干もっと蒼い色をしていて、キラキラと輝く鱗をしている。傍目からも脂が乗っていて旬だと分かる。陸上を走る魚は地上の上でも中々の速さで移動する。


(セーラ)「お義父様! 5分……いや、後3分ほどでキングカイザーの変異種がやって来ます!」


(アトラス)「了解した。どうやら奴がここら一体のモンスターを根こそぎ喰らったようだな……」


(ネイ)「支援させて頂きます。」


少しウズウズしてるのか、お義父様とアイシアちゃんに打ってもらったブラッドソードを構えるが……


(アトラス)「いや……その必要もあるまい。どうやらミランさんやアスモデウス達で冒険者と組んで追い込んだようだ。…………ふむ、誰かは知らぬが我も手駒として使うか……」


(そこまで用意周到な画を描きながらも穴を作るとは、我を使い狩らせる……何か別の意図があるように思えてならぬ……念の為に下げるか。)


(エーコ)「アトラス様?」


(アトラス)「みんな下がっていなさい。我の冒険者デビューはここからだったようだ。」


右腕を龍に変化させてグルグルと前に回す。ゆっくりと回る……だが、徐々に腕を回す風切り音とスピードが上がっていく。


危険を感じたネイお姉さまとミーナお姉さまはエーコちゃん達の手を引っ張り退避させる。


とうとうお義父様の腕が1つ輪になって見えた時、キングカイザーの変異種は見える所までやって来た。


お義父様の右腕から爆音とマグマと錯覚するような焔が噴き出すと、元の腕からは想像でない程に膨らんだ龍の(あぎと)を開けた手が伸びてキングカイザーの首元に噛み付く。


(キングカイザー)「GAYAUUUUUUUUU!!!!」


首を下から噛みつかれているキングカイザーは空に向かって顔が上がりのけぞっている。そのせいで勢いは止まり立ち止まった。


(アトラス)「一足悪いが先に頂くぞ。済まんなクウヤよ。」


バクン! と盛大な音と共にキングカイザーの喉元を噛み千切られ、辺りに血を撒き散らす。


(アトラス)「旨いぞ!!! これはなんと言う脂の乗った魚だ! ええぃ! しまった……こんなことなら生け捕りにして養殖するんだった……」


モグモグと腕の龍は祖しゃくを続け、お義父様はその味に酔いしれている。


たった一撃……世界最強だと言うことを私やネイお姉さまやミーナお姉さまは一度、お義父様の戦う姿を拝見していたので驚きはしなかったが、エーコちゃんやリンさんはかなり衝撃的なようだった。


(エーコ)「凄い……何もさせずに……」


(シエナ)「ドラゴンハンド無双……」


(リア)「はっ?」


(ニア)「モグモグしてる……」


(レア)「流石はクウちゃんのお父さんだ~……」


(リン)「キングカイザーの変異種もアトラス様からしたら只のオヤツなのね……」


(ネイ)「これは確かに助太刀の必要ありませんね…………お義父様? そんなにいけます?」


(アトラス)「今少し引きちぎってあげよう…………ほら、クウヤにもらった醤油をかけるとだな……」


宝物庫から皿に盛った身と醤油で二人は盛り上がる。


(ネイ)「…………うひょーーーーーーー!! うめえ!!!!!」


(ミーナ)「あ~~~そこのお二人……帰って来て下さい……」


(セーラ)「皆さんいらっしゃいました……!?あの方達は!?」


懐かしい再会で私達は顔は綻びる。白い牙に凍れる刃のみんな。互いに抱き合いその後の近況も話し合う。


そんな最中にキングカイザーを宝物庫に入れる為、移動するお義理父様の前にミロが立ちはだかる。


私達は当初、ミロが何をしてるのか分からなかった。何か報告することをがあってそこに佇んでいるものだと思っていたが、彼が突然武器を構え、殺気を放った。


(アトラス)「……何のマネだ、ミロよ。」


(ミロ)「ここを通すことは出来ません……」


(ネイ)「おいっ、ミロ! 何してんだお前!」


不穏な空気を嗅ぎ取ったネイちゃんが大剣を片手に前に出ようとするが、お義父様が手を横に伸ばしそれを遮る。


(アトラス)「そういうことか……止めよ。そなたの答えは我も考えたものと同じであろうが、事を急ぐな……今はまだその時ではない。」


(ミロ)「貴方にあの時殺されているのが正しかったと気がつきました……俺の答えは変わりません。」


ミロとお義父様は見つめあい、沈黙が訪れる。そして、それを破ったのはお義父様の方だった。


(アトラス)「……皆の者、手を出さずに見ててほしい。エーコさん、シエナさん、リアさん、ニアさん、レアさん、これより贖罪の刻が始まる。しかと見届けよ…………ここにルカさんがいないのが惜しむらく事だが、ミロよ、我が代わりに貴様の行いを伝えよう……それしかないとは言え、辿り着いたか……」


お義父様は何の話をしてるの? 私を含めて話について行けない。贖罪の時って……


(ミロ)「俺の答えは……グフッ!?……」


吐血し、積雪の上にミロの血がしたたる。


(エーコ)「そこを退きなさい! 自分の立場を分かっているの!」


だが、ミロは動かない。絶対遵守の命を刻まれている筈なのに……


(シエナ)「アトラス様!! そこを退いて下さい!私達がそいつを殺します!」


水魔の槍を構えるが、その穂先にお義父様が正面を向き塞ぐ。その行為にみんな驚愕する。


(レア)「何で言うことを聞かないの!?」


呪いが解けた? 何故? 私も含めてみんなは、ミロを逃がさないように、円陣を作り取り囲む。その中には同じメンバーであるアスモデウスも含まれている。


事情を知らない冒険者達は奴隷の反逆と状況判断をしているが、あながち間違っていない。協力して取り囲んでくれるが、手は出さない。ミロの実力を間近で見ていて、迂闊に手が出せないからだ。


(リア)「あんたっ! 何をしたの!? まさか、このまま逃げるつもり? ……そんな事は絶対にさせないんだがら!」


(ニア)「そうよ! あんた達をずっと苦しめるんだから!」


いきりたつ面々を見るミロの目が泣いているように見えるのは気のせい?


(ミロ)「それで皆さんの気持ちは本当に晴れるのですか?…………そして、これから先、永い時を苦しませるのが本当の報いと……ゴフッ……となるのでしょうか……」


首から下がっていたにゃん鉱のネックレスを外し、お義父様に向かって放り投げるミロ。足下に落ちたネックレスを拾い上げて真っ直ぐに見つめるお義父様。彼の行動がますます理解が出来ない。


吐血(とけつ)を起こすような事態。恐らく命令違反のペナルティーが、重度の傷害を引き起こしている筈なのに何故? そもそも自害することも出来ない彼がそれを狙って?


(ミラン)「あんた……あの言葉を……」


(ユイ)「止めなよ! あんたが死んで、何になるのさ!」


ユイの言葉を否定するかのように、返事の代わりに首を振る。そして、ミロはエーコ達を順に見つめ思いを告げる。


(ミロ)「……俺と言う罪が彼女達の中から……ガハッ……消える……俺その者が罪を具現化した存在なら、俺も……ゲフッ……同じ苦しみを与えられている今だからからこそ分かる……ゲホッゲホッ……決して負の思いは消えることはない……だから……グフッ……罪が存在してる限り……許されることは決してない……」


懺悔の言葉と私は受け取る。彼はお義父様に挑んで果てるつもりだ。己の存在意義を掛けて幕を降ろすつもりだ……彼の強い意思を宿らせた瞳が……その後悔に歪んだ顔が……彼から発する空気の全てが物語っている。


(エーコ)「そんな言葉聞きたくない!! あんた達はずっと苦しめばいいのよ! それを受け入れなさい!」


(シエナ)「詭弁だわ! 私達の中にあんたなんかいるわけないじゃない! ふざけんな!」


(リア)「お前らには死でも生温いわ!」


(ニア)「そうよ!……お父さんやお母さんの事を私達が忘れているとでも思っているの!? ふざけんなよ!」


(レア)「お前なんて地獄に落ちればいいんだ!」


生き地獄を味わって来た6人は生涯を通して、これからも永遠にミロを赦す事は有り得ない。でも、ミロ達アスモデウスは罰を受ける為に生かされている。そして、死ぬ事で罰を逃れるのは許されないと私は思っていたが、彼の言う生き残る罪と言う、矛盾した罪が生まれてしまっている……


(ミロ)「地獄ですか……ははは……」


弱々しく笑う……何がおかしいのだろう……追い詰められた者が見せる危うさを今の彼から感じる。


(レア)「何がおかしい!!! 離してアイシアちゃん!!」


近寄ろうとするレアちゃんをすかさずアイシアちゃんが止める。


(アイシア)「ダメっ!! 今のミロに近づいちゃダメ……それにレアちゃんより、私がぶん殴ってやるよ。 その方が苦しむから……」


アイシアちゃんも気づいているんだ……今のミロは危険だ……そう……思い出した……


クウちゃんがエーコちゃん達にお願いされて、家族を蘇らせようとした時に見せたあの目の輝き……破滅に進む者が不吉と宿す濁ったあの輝きをミロは目に……あの時のクウちゃん以上の強い負の光を瞳に宿らせている。


(ミロ)「もう既に……ゲフッ……地獄だって皆さん分かっている……ガハッ……じゃないですか……気づいたんですよ……それでもこんなのは罪を償う罰に値しないと……はは……グフッ…………ぜぇ………ぜぇ……………同じ苦しみを与えて罪を償う? いや、消す?……そこから間違っていたんだ……アトラス様……クウ様より刻まれた真の(めい)を果たさせて頂きます……人に害を為す行為が禁じられてる以上……貴方に頼むしか……はぁ……はぁ……はぁ……」


既に死に体の彼の周りは、重度の吐血より血だらけで立っているのも不思議な位だった。


彼は答えを出そうとしてる。赦されない罪を無くす究極の方法で……


(アトラス)「…………委細承知した。……残念でならぬ……正しき運命の下、生まれていれば……あるいわ。」


止めないといけない! 何かが間違っていると私の中で思いが暴れる。なのに! 手が、足が動かない!? ダメダメダメダメ!


(ミロ)「エーコ様! シエナ様! リア様! ニア様! レア様! ルカ様! そして我が母、オラリア!そして、 今まで手をかけて来た罪無き者達よ! この魂をくだぎ……おれば……ガハッ……どぼにぎえよう……づみと言う……いぎのごっだばづを……ペッ……俺と言う生まれた罪を、この輪廻の輪から消し去ろう!……ガアァァァァァァ!!!………グフッ!?……!!!!!…………………………………………………………………………………………………………………………………」


大量の血反吐に血涙を撒き散らしながらお義父様に斬り掛かったミロは…………その向かう途中で糸の切れた人形のように前のめりに倒れて地に伏した。


………………この切ない気持ちは何……見ていられなくて目を閉じたいのに体が言うことを聞いてくれない……冷たい風が通り過ぎて、静寂がこの場を支配する……彼の髪を結んでいたツインテールの片側のリボンがほどけて風と共に何処かへと飛んで行く。


(アトラス)「…………見事だ。我と一合合わせる事は叶わなかったが、その姿、永久(とわ)に忘れぬぞ。」


みんな動かない……違う、動けない。見たくない、知りたくない事実が突きつけられようとしている。


お義父様はミロに近寄り仰向けにして、お姫様抱っこで抱え、キングカイザーへと足を運ぶ。


その過程でみんなは見てしまった。ミロは息をしていたが、目がかつてのルカちゃん、いや、それ以上の虚空の色をした目。真っ黒……底の見えない無機質で不吉な目の色をしていた。


文字通り彼は死んだ……あのミロはただの器……そんな陳腐な言葉が私の中で駆け巡っていた。


(エーコ)「なんなのよそれ……」


イーティングリボルバーを落とし、両膝を曲げて雪原に膝立ちをしたエーコちゃんは無表情でお義父様の背を……腕からはみ出てしなだれるミロだった者を見つめる。


(シエナ)「イリーナさん……寒い……お願い……抱いて……」


水魔の槍を落とし、口元に手を持って来て震えるシエナちゃん。顔面蒼白で唇の色がどんどん変わり血の気が引いていく。


一番彼女の側にいたイリーナさんに助けを求めるシエナちゃんを、イリーナさんは抱きしめ、余計なものを見せないように努める。


(イリーナ)「見るなッ!! いいからこうしてろ……何も言わなくていいから……」


(マリエ)「リアちやん、ニアちゃん、レアちゃんおいで。ほら、ギュッとしてあげる。」


同族の子供を庇うかの如くマリエさんは素早く三人を抱きしめて保護をする。精神不安定なのは見るより明らかだ。


無関係な冒険者達ですら声が出ない結末に、三人が受けたショックはあまりにも計り知れない。


(リア)「……歯が……」


カタカタカタカタカタカタカタとここから聞こえる位に鳴らして震えている。


(ニア)「・・・・・・・クウちゃんに会いたい……」


(レア)「寒い……嫌だこんなの……」


(ネイ)「……エーコ、大人しくしとけ……今、楽にしてやるからな……眠れ……」


抱きしめて状態を確かめたネイちゃんはすぐに決断する。それはエーコちゃんの首筋に手刀を当てて意識を刈り取り、無理やり眠らせる。……ネイお姉さまはその手に残る感触に顔をしかめていた。


(エーコ)「・・・・・・……………」


(ミーナ)「セーラ! シエナを今ずぐ堕としなさい。姉弟子命令よ! ほらッ! ボーっとしない! 私は三つ子を堕とすから。」


お姉さまは強い。狼狽えている私とはやはり違う。お姉さまの声で我に帰った私は仲間の為に意識を刈り取る。……クウちゃんに会いたい。彼のもふもふした身を今すぐにでも抱きしめたかった。


(セーラ)「…………分かりました。……シエナちゃん、力を抜いて身を委ねて……」


イリーナさんは堕ちたシエナちゃんを抱き抱えてくれる。……重たい空気にどんどん押し潰されそうになる……


(アーロン)「大罪人であったが、見事な最後であった。新米冒険者(ルーキー)共よ、よく見ておけよ……冒険で失敗して道を外す奴がたまにおるが、行く末……ああなるんじゃ……良~く目に焼き付けておけ……」


お義父様が言うには、ミロはあの世にも行かない道を選んだそうだ。魂の破壊……それはクウちゃんの刻んだ(めい)に背いた代償。


だけど、お義父様は言っていた。ミロは真の(めい)には従い散って逝ったと……


ミロは言っていた。自身の存在自体が罪であると、その果てに選んだ方法が魂を消滅させ、共に罪を消し去る……


ミロ……言え、貴方はこれで罪を無くしたというのなら罪人扱いは止めましょう……ミロさん、これしか方法が本当になかったんですか……


エーコちゃん達の中で彼と言う罪は本当に消えたのだろうか……私達は重い足取りでこの場を跡にする。

哀れな創魂が慟哭の中、また失われた……


奴は何処まで罪を重ねれば気が済むのだ……


傷が疼き溢れ出す……


この膿が毒となり、大地を汚す……


創らねば良かったのだ……


犠牲になるのは私と奴だけで良かったのだ……


哀れな創魂よ……


お前を産み出した罪は、姉を止められなかった私の罪……


罪を背負うべきは存在は私の方だ……


いずれ私も母なる虚無へと帰ろう……


その刻まで赦しておくれ……


創造神ミラ・ミケオロン……我が姉にして原初の罪を創りし偽りの輪廻の支配者よ……


貴様の犯した罪を慟哭にて、まずは支払え……


行け……我が想いに応えし使徒よ……奴の光を……惑わされし哀れな赤子の信徒を解放せよ……


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