つながっているの
ここは女王の間。俺の預かり知らぬところでこの国の関係各所の大臣や官僚が集まり緊急会議を開いていた。議題は冒険者クウへの処罰について。
「法務大臣、彼の処罰ついてはどうなる予定なの?」
「陛下、恐れ多きながら申し上げます。違法の奴隷商人、つまり闇商人達を殺害した件に関しては歴然とした法に触れた行為なので罰は免れますが、環境大臣を殺害した件やバーシュ家やレイモンド家の当主並びに使用人の殺害については因果関係が掴めていない以上、冒険者クウの死罪は確定かと。」
激しく机を叩き一堂を見るその顔には有無を言わせぬ迫力があった。
「何を言っているのか分かっているの?クウちゃんに手をかけてみなさい!!あの子の後ろにどれほどの勢力があると思っているの!!・・・・・・・・・・・アイナ先生は確実に立ち上がるわ。それだけで済めばまだいい・・・私達の首が飛ぶだけで済むのだから。」
「何を言われます陛下!!それ以上に何があると言うのですか!!」
「・・・知りたい?でも、そちらの御方が答えてくれるようよ。」
入り口に一人の龍人がいつの間にか立っていた。そう、誰にも気づかれる事もなく、さも当然といわんばかりに。
「ほう!?我の存在に一早く気付いたか東の女王よ。」
格が違い過ぎる。その場に居た者達はあらゆるところを巡り、日々国の為に様々な人物と出会い交渉に長けて来た者達ばかり。おおよそ、相手に怯み怖じ気づくなんて事はありえないほどの経験を積んできた者達の筈なのに、男を前にして微動だに出来ずにいた。それほど、目の前に突如として現れた男は自然の佇まいだけで一堂を黙らせた。
「ええ・・・伊達に女王をやっていないので、初めまして、女王のマリアよ。クウちゃんの関係者だと思うけど、どちら様でしょうか・・・・・・・・」
ある程度は予想しているが相手に名乗らせる事で主導権を握り思考を誘導させようと女王は巧みにタイミングを計っていた。
「貴様等に名乗るのもどうかと思っていたのだが礼を尽くすのであれば答えるしかあるまい。あの子とは血は繋がってはおらぬが我が拾いあげ、育ててきた里親の元邪龍皇アドアトラスだ。今はあの子のおかげで瘴気を取り除き、聖龍皇アドアトラスと元の名を名乗っている。」
皆に自己紹介してるように一件見えたるが、アドアトラスは目の前の女王しか見ていなかった。そう、瞬時に他の者は交渉のテーブルから除外されているも同義であった。王と皇の対話。中身が伴わなければ対話すらならないからだ。
「「「「「「「「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
女王以外は驚愕の表情で言葉すら失っている。普通なら失笑する類いの自己紹介だがそれを否定出来ぬ存在が目の前の男から突き付けられればいくら否定しようが意味のない事である。なら、証拠を見せて見ろと言いたくもなるだろうが、それが事実ならその瞬間にセイギフトは廃壊と化す。口が裂けても言えぬ言葉であった。
「一言忠告しておこうと思ってな・・・・・何、簡単な事だ。」
場の空気が変わる。異変に気が付いて飛び込んで来た騎士団一行やミズチちゃんがさらに飛び込んで来て場が緊張する。ゼルさんやミーティアさんはマリアさんの楯になるよう前に立ちはだかり剣を構え魔法を発動させる。ミズチちゃんは死角から隙を窺うが聖龍皇アドアトラスは完全に無防備であった。恐らくミズチちゃんが全力で襲ったところで蚊に刺された程度なのだろう。それをミズチちゃんも理解したのかその場で機を窺うのだった。女王の間は一触即発の緊張感に包まれた・・・・・がマリアちゃんはそれをうち消す。
「止めなさい!!!客人に失礼よ!剣を収めよ!これは命令である!ミズチ、貴女もクウちゃんの御父様に手を出しては駄目!それにミイの事も考えるのなら下がりなさい!・・・・・部下が失礼しましたわ♪クウちゃんの里親の聖龍皇アドアトラスさんですか・・・・・・それでその忠告とは何でしょうか?私達もクウちゃんを大事に思ってますのよ♪それを知った上でお聞きいたしたいですわ♪」
先程までの空気を無視して笑顔で問いかけるマリア女王陛下は毅然とした態度で問いかける。女王にとってこの程度の狂気等、何処吹く風か。
「(この殺気の中でここまで平然と意を示せるとはな。仮にも一国の王であると言うことか。消すには惜しいが・・・ )我の息子に傷の一つでも付けてみよ。その時は我の逆鱗に触れると知るが良い。あの子の為に今は退くが貴様等の命はあの子のおかげで繋がっているものと思え!!!貴殿の勇気に応え今しばらくは我も控えよう。ただし、あまり時間がないものと思え・・・・」
そのまま入り口から立ち去って行く男に誰も動く事すら出来なかった。
「みんなよく耐えたわ。私の予想は嫌な方では当たるみたいね・・・・最悪だわ。」
平然とした様子を見せる女王は一先ず、この場で犠牲者が出なかった事に安堵した。
「我等の首が飛ぶだけならマシと言う意味が分かりました・・・」
そう、下手をすれば国そのものが物理的に無くなると言う未曾有の危機。そして、それが一人の赤子の処罰に関わっている事。事態はより大きく膨らんでいた。
「あの子の命はこの国の命だと言うことを理解したかしら?」
「ですが法を破るわけには!それこそ国が崩壊しますぞ!」
「その為にも環境大臣とバーシュ家、レイモンド家の捜査を行いあの子の無実を証明しなさい!これは厳命である!かかれ!」
「「「「「「「「「「「「ハッ!!」」」」」」」」」」」」
「(いざとなれば偽の証拠を作ればいい。密偵からの報告や前から黒い噂が絶えない両家だ、どうせ黒だと分かりきっているのだから、事実は今更どうでもいい。それよりもこれはチャンスだ。クウちゃんのバックにはとんでもない後ろ楯がある。それも決して裏切らない愛情と言う名の鎖があの最強の龍をも味方につけている。この騒動でそれを知り得られたのは行幸だ。そして、あの龍は穏やかである事も分かった。マリアの花を愛でたのか、残り香が微かにだが嗅ぎとれた。愛する息子が生んだ花だからね。そう、この都も息子が愛する場所。クウちゃんが絡んでなければとっくに救い出してる筈。つまり、あの龍は最後の一線を越えない限り安全無害。最強ゆえの歯痒さね。でも、それが我が国にとってこれ以上ない防衛力になるわ。存在その者がすでに影響を与えるのだから、ここセイギフトに留まる限り他国は手を出せない♪先生~♪クウちゃんを連れてきた事に感謝しますよ♪)」
国の為に使えると判断した物は何でも利用しようと考える女王であった。
暇だ。手錠も外され簡素な椅子と明かりが少しだけ入ってくる小さな窓。装備も着ぐるみもリュックも没収され、俺はミーティアさんが置いていってくれた暖かい毛布に身を包んでいた。これも本来は違反行為になるらしいのだが見て見ぬふりを牢屋番のお兄さん達はしてくれた。それどころか時折こっそりと独房の入り口に設けられている小さな穴からコッペパンや飲み物にコリンと言う小さなりんごみたいな果実を入れてくれて優しく扱ってくれていた。これらの行為は恐らく罪悪感を誤魔化す事と罪の意識から来てるのだと思う。独房に差し入れをしてくれた時、たまたま俺と目線が合った二人は辛そうに顔をすぐに反らし、こちらを直視出来なかったほどだ。そんな遠くに離れた二人の会話が微かだか聞こえてくる。
「先輩!こんなことがあっていいんですか!」
「そう思うのはお前だけじゃねぇよ。そもそも違法な人さらいをあの子は退治しただけだろ。それに加わっていた貴族に汚職大臣がついでに死んだだけだしな。あの魔法だって対象者以外にゃ何とも無かったしな。消えるまで俺なんて普通にあやしてたくらいだしよ。奴隷にされてた奴等の為にクウちゃんまた秘蔵のコインを出してゼンガー隊長に託したんだろ・・・・・」
「ゼンガーさん荒れてましたね。大人が子供を守れなくて何が騎士だって・・・・そういえばクウちゃん、お祭りの時に俺達騎士団も誘ってくれて頭下げてくれましたね・・・・・・」
「都の平和の為にいつもありがとうございますってな・・・・・・・いい子だよ。うちの嫁や娘だって言わねえのにな。」
「そう言えば娘さん、クウちゃんを連れて帰るって駄々をこねてましたね。」
「家に帰ってからも凄かったんだぞ。弟か妹を今日作ってとお前言われた日にゃもう、俺も嫁も娘からのプレッシャーがな…」
「あららら、微笑ましい限りじゃないですか♪」
「それがよ・・・もしも、あの子を処刑台に連れてくようなことが起きたら娘は俺を軽蔑するだろうな・・・」
「先輩・・・・あのアイナ様も動きますし大丈夫ですよ!それに都はクウちゃん支持派ばかりですからね。」
「ああ。それに関しては俺も感じてる。あれほどの逸材は出ないぞ。あの料理に戦闘力。そして、規格外の装備にアイテム。クウちゃんがいたからサウザンドスネーク討伐に俺達は向かわずに済んだが・・・・・あれを相手に俺達は無事でいられた保証はねえよ・・・しかもよ聞いたかあの話。」
「なんのことですか?」
「肉だよ。蛇の肉。市場に出るたんびに俺達が出張るあのお騒がせの肉。」
「例の特効薬の肉の事ですね・・・・・あれが絡むと奴等ってとんでもない力を出しますからね。ところで先輩、その肉が何か?」
「クウちゃんが凄い安値で卸してるらしいんだ。」
「え~~~~!!!あんなに貴重な肉をですか?」
「ああ。アイナ様に安値で卸してとお願いしたらしくてよ。分け前を半分もらったルウって奴もクウちゃんがそういうのなら同じ安値で全然構わないって事でよ。マジカルボアの肉の値段位の庶民でも手が出る値段にしたんだよ。まあ、転売防止に300グラム限定だけどな。」
「まじっすか、あれって確か数グラムで騒ぎが起きてたのに・・・・・ヤバイっす俺、今すぐにでも出してあげたくなってきました。」
「それだけじゃないんだ。ここからが泣かせる話なんだが、女の髪は女性の命だから更に安く、そして、優先して売ってくれだとよ。もうよ、俺も今いたたまれねえよ。それとあれだ、セレンの奴が巡回中によ遭遇したらしいんだが、女性の冒険者達が実際にアイナ様の自宅に押し掛けると迷惑が掛かるからってよ、その女冒険者達はアイナ様の自宅の方向に向かって泣きながら頭を下げていたらしいんだ。それ位しか出来ることがねえってな。セレンの奴からそれを聞いて俺はますますクウちゃんを好きになったね♪と言うかこの件以前に例の貴族の一件でクウちゃんが礼を求めない、親切とは知られずにやるものって言うことでアホ貴族には依頼主が誰だか分からないようにしてくれって事でギルドもアホ貴族には教えなかったみたいだが、流石にこれだけ噂になっているから当の本人もそれをどこかで聞いたんだろうな。で話を戻すけどよ…」
「先輩・・・・もう勘弁して下さい・・・」
建物の外から人の叫び声が聞こえる。
「騎士団はクウちゃんを解放せよ~~~!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「解放せよ~~~!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「クウちゃんは都の恩人だ~~~!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「恩人だ~~~!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「クウちゃん!!!俺等魔術学園のみんなは君を助けるぞ!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「助けるぞ~~!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「俺達市場の連中も忘れるな!!クウ待ってろよ!」
「冒険者を敵に回して無事で済むと思うなよ騎士団!!!!」
「この国の待望の商人をお前らは潰す気か!!!あの数々の至高の品がこれから先!この国をどれだけ発展させると思うてんのや!大体な、あれらを生み出すのに何十年、いや、何百年掛かると思うてんのや!!!!そんな計算も出来んのかこのドアホ!!商売抜きでも我等がこうして来てる事を察しろこの脳筋共が!!!」
「私よクウちゃん!レイよ!あなたの託してくれたお金でみんなを治療や!売られた家族を取り戻したり!弔ってあげているわ!!この恩を私達は忘れない!!!今解放させてあげる!!騎士団!!貴様らの仲間が行った数々の非道の行い!この国の連中が北や南の大陸の住人を拐って来た罪を思いしれ!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「思いしれ!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「今こそ借りを返す!!!この命はクウちゃんの為に!さぁ~騎士団よ!世間が俺の事をアホだバカだと言うがその通りだ!!俺を代わりに処刑しろ!!!あの子のおかげでみんな助かったんだ!!俺を代わりに殺せ!!離せ!!!クウちゃ~~~ん!!!必ず助けるぞ!!ガハッ!」
「騎士団!?てめらそれでも血の通った人か!!!!!!!!!やっちまえ~~!!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「うぉ~~~!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「俺達だってな!!!好きでやってると思ってるのか!!くそっ!!暴徒鎮圧開始!!!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おお~~!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
外でみんなが暴れているみたいだ・・・・・リディアちゃん!聞こえたら返事して(リディアちゃん!)
(クウ様!ご無事ですか!あぁ~~おいたわしや・・・クウ様が命じて下さればリディアは)
(まだ、そのときじゃないの。いま、どくぼうの
そとでみんながぼうどうをおこしてるの。だから、リディアちゃんはしきゅうむかってやめるようにいって!くうちゃんがけんかめっ!ってつたえて!おねがいなの!)
(畏まりました。クウ様、今お父様と相談をみんなでしています。必ずお助けしますから!)
(しんじてまってるの!それじゃあよろしくたのんだの♪)
(はい!我が愛しき君♪)
喧騒が鳴り止まぬ中、俺はみんなの無事をとにかく祈った。
あれから3日が経った。リディアちゃんを通じて俺は事の次第を把握していた。俺が殺した例の貴族と大臣はお約束通り裏で繋がっていました。しかも、例の奴隷屋は大臣が経営し本当の主と言うとんでもない事が露見し、今後、マリアちゃんの任命責任が問われる問題になるみたいだ。そして、あらゆる方面から調査をして生き証人となる無実の奴隷が新たに続々と発見された。無実の奴隷として多くの貴族や大臣の家から発見された人達は生き残れただけまだマシであった。何故なら大半の屋敷からはその何倍もの奴隷とされた者達の遺体が発見されたからだ。そして、この事実に最悪な要素が付いていた。それはマリアちゃんにとって最悪な展開であったのだが、例の違法奴隷商人達は他国の住民を拐って来ては無実の奴隷にしてたと言う事実だ。これは他国から道義的にも賠償を請求されるだけでは済まない事態になるだろう。下手をすれば戦争に成りかねない事件である。それと元奴隷の証言により第四騎士団の数人の非業な行いも判明され極刑も免れぬ事に決まった。そう、俺の行いはこれらの事情により情状酌量の余地がありと言うことである程度の罰金を支払い、後は開かれる審議会で釈放されるのを待つだけであった。そして、目の前でその審議がなされようとしていた。
「これより冒険者クウのセイギフトの要人並びに都民殺害についての審議を行う。被告人は審議官が抱き上げて差しあげなさい。」
審議官のお姉さんに抱っこされながら中央の証言台に立つ。傍聴席にはアイナママ達六人に顔見知りのみんなが来てくれている。事前に状況を聞いているからこの場に立たされても心に余裕があった。予定通りならすぐに釈放される。問題はその後だ。あの地獄から解放された人達の面倒は俺がみよう!ご飯もおぼんがあるし、みんなに相談すればやれない事はない。それで少しずつでも心のキズを癒してほしいと俺は切に願う。それほどあの場所は地獄、いや、地獄すら生温い場所だったから…
「それではまずクウの一連の行為についての正当性を審議する為、この場で証拠品の検証を行います。弁護側、審議官が事前に提出された証拠品を用意しますので準備をお願いします。」
不謹慎だけどワクワクする。ちょっと裁判ごっこしてるような空気だけどね。そこまで形式ばったものでないのには驚いたけど。
「・・・・・・・・・・ありません!!!」
「今なんと?」
「証拠品が見当たらないのです!」
「よく探しなさい!至急全員で確認するのです!静粛に!静粛に!」
会場はざわめきで溢れかえっていた。
「何処にも見当たりません!恐らく盗まれたかと・・・・・」
「騎士団は至急周辺に怪しい者がいないか確認を」
えっと・・・どうなるの?会場は騒然だ。蜂の巣を突いたような騒ぎだ。
「おねえさん・・・クウちゃんやっぱりしけいなの?・・・・・」
抱っこしてくれるお姉さんに聞いてみる。
「事前に提出された証拠品のおかげで審議会はクウちゃんの情状酌量の余地を理解しているから死刑にはならないけど・・・この審議会は個人に対し年に一度しか行われないの。だから、証拠品がない以上審議会は審議保留の判決を言い渡さないといけないの・・・・・・・・」
保留?一年もまたあそこに入れられるの?可哀想と言わんばかりの顔をして俺を優しく抱きしめてくれる。なんだ!?無事に終わったんじゃないのか?マリアちゃんも来ていたのだが審議長に食って掛かっていた。
「『分かっているんでしょうね!あの子を失うことがこの国にとってどれほどの損失に繋がるか!!!』」
「『そう言われましても法は国の礎である以上儂にも陛下にもどうすることも出来ません!!』」
「『その椅子に座れなくてもいいのね!あの子を失ったら先生までも出ていくのよ!!その影響を分かっているのならなんとかしなさい!!!あんたの孫への未来も躊躇なく刈り取るから覚悟するのね・・・・』」
「『儂を脅す気ですか!?いくら陛下と言え許されませんぞ!』」
「『孫と言わず一族全員をあの世に送るのに許してもらう必要ないわ。この国の為ならどんな手段も厭わないのが私よ・・・選べ。貴様ら程度などいくらでも替えが効くわ。私はあそこで見てるから覚悟するのね・・・・』」
すっといつもの表情に戻ると特別傍聴席へと戻る。その背中を見つめ背中に冷たい汗をかき、周りにばれぬよう必死に平静を装う審議長であった。
「(陛下は本気じゃ・・・あの目と口調。冷酷な先代ライネス様と全く同じ目・・・いや、娘の方が狂気を含んでいる分説得は不可能。儂だけ責任をとっても陛下は孫も殺る。あれはもう狩る者の目じゃ・・・・どうすれば・・・だが!儂は法の番人!例え家族が人質にされても退けぬ!)」
「検団側、証拠品がないのなら特にありませんが審議長殿。都民から絶大な信頼を得ているクウ殿に是非、慈悲ある判決を!彼はこれからのセイギフトを築く礎です。以上です。」
「弁護側も同じ意見です!事前に提出した時点で彼の情状酌量の余地は明白であり、審議会側もそれはご承知の筈です!それに保管管理を行った審議会にも過失の一端はあるのですから!慈悲ある判決を!」
会場は喧騒の如く騒がしく荒れていた。
「静粛に!静粛に!女王陛下の御前である!!守らぬ者は即時拘束させる!」
バンバン槌を叩き静粛させる。そして、遂にみんなが見守る中で俺への判決が下る。
「被告、冒険者クウを国外永久追放処分とする!その理由は以下の理由による。セイギフト憲章により審議不明の者はその理由により国民の生命及び財産を脅かす可能性が考慮され、身体及び財産、地位を拘束、又は剥奪せぬ代わりに他国へ移住する自由意思を尊重する事でその尊厳と生命を守るものである。よって一年後の再審議にて被告の無実、または酌量の余地の確認が行われれば再度入国を許可するものである。以上の事から冒険者クウには国外永久追放処分を執行する。期間は今より2週間の滞在猶予を与える。それ以降は不法進入または滞在と見なし対処されるが故に忘れぬように、以上これにて閉会!」
・・・・・・・・・・・・・・えっと、あれ!?無事に終わる筈じゃ。どんな形であれ、人の命を奪ったことへの罰なのか。こんなにもあっさりとセイギフトともお別れか。
「おねえさん。クウちゃんのにもつかえしてほしいの。いそいでじゅんびしないと。」
「・・・・・・・・・グスン♪ごめんなさい。そうね。一緒に行こうか。まだ釈放の手続きしないと出れないから行こうね。」
「ありがとうなの。」
その後の事はよく覚えてない・・・・淡々とみんなが俺に話しかけて来たが、頭が真っ白になっている俺は言葉が理解出来ずポカンとしていた。
騎士団の詰め所から出るとみんなが迎えてくれた。
「・・・・・・・・・・・」
「クウちゃん!心配しないでママはずっと一緒だから。」
「あたいもずっと一緒だ!家族なんだからな!当たり前だ。」
「みんながいないのに魔術師も学園もないわ。というわけでとっとと卒業申請を出してミーナちゃんも付いてくわ♪」
「勇者様のお側には姫は付き物です♪目も完全に治してもらうまで離さないんだから♪」
「リディアはクウ様がいればどこでも幸せです♪新天地いいではないですか♪」
「あたしも付いてくよ♪お父さんに言ったらそれでこそ俺の娘だって誉められちゃった♪」
「我も付いていこう。道中心配だからな♪そうだ!一度我が家に招待するか♪我の本当の住みかは北の山脈にあるからよってみるのもありかもしれない。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・皆さん申し訳ない。少し二人だけにしてくれませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「では向こうで待ってますので。いくわよ。」
アイナママが促すとみんな黙って移動した。残された俺と父だけ。
「来なさいクウヤ。」
「・・・・・・・・・・・・・グスッ♪」
「みんなのまえでよく耐えたな。偉いぞ。立派に成長したな。クウヤの行動で救われた者がいる。その者達は決してクウヤの事を忘れぬだろう。よく聞きなさい。お前は立派だ!この都でクウヤを助ける為に体を張ってまで騎士団へと無謀に向かって行った者達を見た。地獄から解放された者達はその大恩を返す為に震える体を必死に抑え立ち向かって行った。噂の貴族も誇りを取り戻し、本来の姿である誇り高い真の貴族であった。商いばかりの商人が商売抜きで感銘を受け助けよう立ち向かった。他にも色々来てたな。我はその一人一人を見て確信している。クウヤが彼等を変えたのだ。人を変えると言うことはどんな事よりも凄いのだぞ。胸を張れ!涙を拭くんだ!お前の事を信じ笑顔を待つ者の為に!それでこそ我の世界一の愛する息子だ♪」
ありがとうお父さん♪
遠くで見守る六人が居た。
「ママじゃ、お義父様には敵わないな♪」
「姐さん妬くなよ♪ここはクウのオヤジさんに華を持たせなきゃ♪」
「ふふふ♪やっぱり男の子は父親が特別なのね♪」
「たった一人の肉親だから私にも気持ちが分かりますわ♪」
「良かったですねクウ様♪今は偉大な父上の胸の中で♪」
「お義父様には悪いけどやっぱり慰めてあげたい!」
セバスさんが周りに気づかれぬようこちらにやって来る。アイナママにそっと耳打ちをするとそのまま一緒に離れて行ってしまった。
「言ってた通りだな。万が一がホントに」
「師匠の怖さを改めて思い知りました・・・」
「流石はオールラウンダー!」
「我はアイナとは争いたくない。恐ろしい・・・」
「完璧よね♪クウちゃんも凄い人に惚れられたもんだ♪」
誰もいない路地裏にこの国の二大トップが秘密裏に顔を合わせていた。
「先生。単刀直入に言わせてもらいます。都に残って下さい!一年後の再審議で必ずクウちゃんの再入国許可を取り戻すので!」
「マリア。私がどう答えてどう切り返すかもう分かっているんでしょ?」
「・・・・聞いて見なければ分かりません。」
「なら私も単刀直入に言うけど出ていくわ。後の後任手続きも済ませてある。学園の方もローラに頼んだわ。」
「確かに業務だけなら出来るでしょう!しかし!」
「ミイちゃんが同じ状況なら貴女は待っていられる?」
「くっ!・・・・・・・やはりそう返して来ましたね!ええ!私は待ちますよ!」
「マリア、止めなさい・・・・」
「セイギフトには他の国と違って神も英雄も不可欠なんです!今までは先生と言う英雄がいたからこそなんとか保たれていた均衡があったのに!」
「その均衡も他国のスパイに証拠品を消されては元も子もないわ。マリア貴女、クウちゃんのお父様の事で浮かれて油断したわね。」
「なっ!?この私が油断なんて!」
「ではこの失態は何?ツケは自分で払うものよ。それにセイギフトの力は今も昔も英雄や神なんて言う存在によるものじゃない。今度の騒動でそれすらも見失ってたのね・・・・・セイギフトの力は団結と知略でしょ。」
「・・・・・・・・・・・先生の言ってる事は理想による空想と詭弁です。現実には圧倒的な武力を持つ者の前には力を持たぬ者は淘汰されるだけなのです!それは延いて国も同じ事です!!」
「なら新な道を作りなさい!私がいるからその発想も出ないのね。この国はそんなにやわではない!そんなものだけに頼る国ならミイちゃんの未来はないわ。」
「考え直してくれませんか?」
「私の進む道はクウちゃんと共に歩む事。それ以外にはありえないわ。それにそうさせたのも生き神が私の願望を叶える事をあなた達が隠してしてたからでしょ?」
「・・・・・・・仰っている事の意味が分かりませんわ…」
「・・・・そう。ならそういう事にしておくわ。でも、貯まったツケは払わないとね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ~~クウちゃんはやっぱり先生を拐って行きますか・・・・先生が冗談にマジ切れした時に危ないな
~って思ったけど現実になってしまいましたか。これ以上ごねても意味がないので止めておきます。ただ、一年後には戻って来て下さいね。先生はそう言われますが現実には必要と言うのは変わらないですから。」
「それはクウちゃん次第よ。決めるのは彼で私は付いてくだけだから♪」
「もっとクウちゃん苛めとくんだった!!!!苛められてるのは私の方よ!!!」
「じゃあ、一年後にクウちゃんの気が向けばまたね♪」
交わる事のない師弟がまた会う日は一年後かそれとも・・・・・・・・・
国外永久追放処分まであと2週間。移動する時間も考えると都にいられるのって実質、今日入れて2日位しかない。父の背に乗って行く手もあるが今のところ無用な混乱が起きるかも知れないので最終手段として保留しておく。そして、みんなはすでに旅仕度を終えていた。どうやらアイナママが様々なケースを考えていたらしく、中には審議中の俺を強奪して逃げ去る事まで計画していたらしい・・・・・話を聞いたときマジか!?と顔に出したらみんなはさも当然!と言う顔で返された。逞しすぎて頼りになるみんなである。俺はとにかく時間がない!お世話になったみんなへしばしの別れの挨拶に明日、天丼パーティーを開くことに決めた!なので商人ギルドへ顔を出し会場の準備をお願いしたところ、快く引き受けてくれた。それから、みんなのところへご挨拶とパーティーへのお誘いをしてから自宅へ戻った。そして、残念な事があった。王家と騎士団は辞退するとのこと。今回の一件で都民の不満が高まっており、参加すれば煽る事になるので気持ちだけ頂くと両守衛の人から伝えられた。せめてもと思い、天丼とお酒をリュックから大量に取り出し置いていった。それともう一件、ハルトさんに依頼していた装備だが間に合わないとの事。なので、新たな街の職人さんに託してくれと依頼料と例の入れ槌と金敷と素材類一式が返された。娘の事は気にしてないし耳の治療を頼むと頭を下げられた。一年後の再審議で戻ってこれるかも知れないんだ!少しの別れだ・・・・・そう自分に言い聞かせても一人になる時はつい涙腺が緩くなる俺であった。
「みなさんおあつまりくださりかんしゃなの♪きょうはみなさんにおせわになったかんしゃのきもちをこめてしんさくりょうりのてんどんをごちそうしますの!どうぞ、うみのさち、やまのさちをふんだんにつかったりょうりですのであじわってくださいなの♪ではごいっしょっにいただきますなの♪」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「クウちゃん!!ヒナはクウちゃんを守れなかったよ~~!!ごめんよ~~!!!」
ポロポロと泣いちゃって仕方がないな・・・お姉さんなんだけど妹的な感じでちょっとほっとけない。それでいて家族思いで苦労してるところは微塵も見せなくていつも周りを明るくしてくれるそんなヒナちゃんに泣き顔は似合わないよ。だから、イジってあげますか♪
「ぷんすこ!ヒナちゃんにまもってもらわなきゃいけないほどクウちゃんよわくないの!それとこのはんかちでふきふきするの。」
リュックからハンカチと、ついでに金貨を一枚取り出しヒナちゃんにハンカチを渡す。
「あははは♪そりゃたしかにそうよ!ヒナ♪」
「酷い!クウちゃんもカーラちゃんも!!」
「『カーラちゃん♪これおにくのついかぶんなの♪ヒナちゃんいっかがぴんちになったらよろしくなの♪」
こっそりとヒナちゃんがハンカチで顔を拭っている間に金貨一枚をカーラちゃんのポッケに入れて
耳打ちをした。
「ちょっと!!今度は二人で内緒話?いいもんいいもん!やけ食いしてやる!!」
やっと拭き終わった顔をこちらに向けた時に俺とカーラちゃんの姿を見ていじけたヒナちゃんは天丼を取りに行き戻って来るとこちらを見ながらガツガツと頬張っていた。うんうん♪ヒナちゃんはこうでなきゃ♪
「ふふふ♪しんそうをしりたければいちねんごのおたのしみなの♪」
カーラちゃんにアイコンタクトをしてよろしくね♪と送っておいた。親切ってのはなるべく知られずにやるのが俺のやり方だ。
「『こんなに!?クウちゃん・・・あんた』・・・・あぁ~♪子供にしとくのは惜しいよ♪それに比べてヒナあんたは・・・・・」
ポッケに入った金貨をこっそりと確認したカーラちゃんは俺の気持ちを察してくれて返事はうなずく動作で答えてくれた。そして、幼馴染みをじと目で眺めてた・・・
「じゃあ、ほかのひとのとこにいくからまたなの♪」
「帰って来たら今度こそ、うちに誘うから!」
「うちは最高の肉をごちそうしてあげる♪」
「たのしみなの♪それじゃまたなの♪」
冒険者ギルドの受付の四人は俺が近寄るとすでに涙目であった。たった数日でも一緒に仕事した仲間だもんね。
「うっ・・・・うう・・・」
大きな耳も今はシナシナと垂れ下がりポロポロと泣いてしまっているキャロットさん。俺を抱きしめ上から頭を優しくスリスリしてくる。
「泣くの止めろよな。俺まで移るだろ。」
俺の前で泣き顔を見せないよう明るく見送ろうとしてくれたんだろうな。ボビーさんらしかった。
「そうよ笑って・・・・・グスン♪送ってあげるのが大人でしょ。」
そう言いながらも耳に長くてフサフサの尻尾も今はシオシオになって垂れ下がっている。エリシャさんは笑顔で明るくしているが涙が少し溢れていた。
「みんなの言うこと聞いて無茶をしちゃダメよ!」
近寄り頭をナデナデしながら明るく努めてくれる。四人の中じゃミーコさんが一番お姉さんなのかも知れない。
「キャロットおねえさんいいこ~いいこ~なの♪ミーコねえさんりょうかいなの!できるだけばれないようにむちゃするの!」
う~んこんな事態を起こしたばかりですからね・・・今度やる時は足がつかないよう殺ることを覚えたよ!
「そうじゃないでしょ!・・・クウちゃんだし無理か・・・・」
その通りです!呆れた顔をしながらヤレヤレとポーズをとっている。
「はぁ~この至高の料理も一年は我慢か・・・」
ありがとう。でも、ボビーさんに必要なのは料理じゃないよね・・・
「ボビーおにいさんはとっととこくはくしておよめさんをもらうの♪」
「なに!?あんたまさか私達の誰かにほれてるの?・・・・ニヤァ~~♪へ~♪クウちゃんナイス置き土産♪」
そうなの!?俺の予想とは違った形で話が流れていく・・・
「なっ!ちち違っ!!!」
「えっえっえっ嘘!!不潔!!」
「ないわ~~・・・・ボビーはないわ~・・・」
「変態!ハレンチ!すけこまし!この阿呆鳥!」
「潤い欲しいな~~・・・・・・・・・・・」
哀れ・・・フルボッコ過ぎる。せめて道連れにしてあげよう!
「ふふふ♪いちねんごにだれがうれのこりかたのしみなの♪」
ホントにカップルが成立したらお祝いしてあげるから♪頑張れ若人!
「「「「なっ!?」」」」
「じゃあまたね~なの♪」
何でエルフはポンコツで残念なの?ってタイトルの小説でも書こうかな・・・そう思えるほどに見た目と言動にギャップがあった。
「ラストもふもふ~~♪あ~~ん一年後絶対に帰って来てよ♪」
俺を掴んではムギューと抱きしめて萌えている。何時ものシャイラさんだ。
「ラストとか言わないの!!ポンコツエルフが!」
ペシっと頭を叩くミレイさんは今日もピシッとしてるな。
「お姉さんクウちゃんについて行きたいのよホントは!でもそうすると血が足りなくなるから・・・・・・」
彼女だけには俺のアビリィティが通用しない処か、逆に出血が激しくなると言う謎のお姉さんのアレーシアさん。悲しそうに俺を見つめて近寄ろうとするが同僚のミレーヌさんが後ろから羽交い締めをして止めていた。
「もう、やたらめったら人に甘噛みしちゃダメよ!」
その節は失礼しました・・・躾はアイナママにやられて体で覚えました。
「非常に残念だクウちゃん・・・・上の奴等は分かってない!君が他国に渡る事の意味が・・・一年後に君が必ず戻ってこれるよう我等ギルドも支援するから帰ってくるんだよ。」
苛立ちと切なさが混ざった顔をしながらも手を差し伸べてくれたのでこちらも返した。
「みなさんのごいけんこころにきざんでおくの♪それじゃあ♪またねなの♪」
すでに出来上がった巨人がそこにいた。自称俺の弟子のバランさん。お米の酒。つまり日本酒の奥深さにハマリあれから毎日研究してるらしい。短期間でまだ米を使ったお酒は完成してないが一年後ならひょっとして・・・
「師匠!俺は!俺は!」
言葉が喉に詰まって出て来ないんだよね・・・大丈夫。分かっているから。その全身から溢れている態度だけで俺には通じてるから。せめてもの置き土産にこれを・・・
「みなまでいわなくていいのきょうはとくべつにこれをよういしたの♪あつかんなの♪のんでみよなの♪」
日本酒の凄い処はこれだよ。四季おりおりのあの世界でもそうだったが、どの気候にだって合わせられるお酒なんてそうそうないと思うよ。
「酒を温めるとは・・・・しかし、この香りに人肌の温度は・・・・・!?。!!!!!!!!!!。」
「すばり!とうきのいれものにゆせんをかけてじかにねつをとおさないのがぽいんとなの!おこめのおさけはこんなたのしみかたもあるの♪」
「このバラン!またもや感銘を受ける次第であります!!酒は常温か冷すの二択のどちらかしか無いものばかりと・・・」
その常識を俺が壊す!日本酒に限界はないし、他のお酒だってまだ未知の可能性があるやも知れぬ。バランさん頑張って!
「いちねんごにどんなおさけがまってるかたのしみなの♪それじゃあ♪またなの♪」
どの器具もしっかりとした作りに用途に合わせた品揃え。ゲインさんがいなければ俺のこれらの料理は完成しなかっただろう。こちらの都合で急遽、調理器具や食器類を用意してもらうハメになったにも関わらず、抜かりなく用意する為に足りない物に関しては同業者に頭を下げ、その分の仕事を取られても準備期間と品質に拘った仕事をしてくれた。だから俺は、あのお祭り以降の器具や食器類はゲインさんのお店でしか買わなかった。
「残念だよ。うちの器具を使ってこんなに素晴らしい料理を作るクウちゃんを他所の国に出すなんて・・・」
ここにも心から礼を言わなければならない人がいる。・・・心の中でなら少し位泣いてもいいよね・・・・
「ありがとうなの♪このりょうりもゲインさんのおかげなの♪それとクウちゃんはさらなるしゅぎょうのためによそのくににいってぎじゅつをぬすんでくるの♪」
明るく努めなければ!それが俺の恩返しでもある・・・
「ああ!一年後を待っているよ!必ず戻っておいで♪それまでにうちの品揃えも増やしておくからね♪」
「りょうかいなの♪じゃあまたね~なの♪」
・・・・・切なさが胸をしめる。奴隷達を解放した事は間違っていない。けど、行動の結果の先をもっと考えるべきだった・・・・
「クウ・・・すまねえ。守ってやれなかった・・・・・俺の息子達をこんなに立派にしてくれたおめえよを」
「あんた・・・・・ごめんなさいね。昨日からずっとこの調子で・・・全く!」
お酒の飲みすぎはダメだよガイさん。あんたのおかげでうな丼が食べれて、今では天丼まで食えるんだから。
「おくさん!びしびしやっちゃってなの!クウちゃんいずれもどってくるからそのときまでこんじょうたたきなおしてなの!」
しっかりとした奥さんだな。この奥さんがここに居てくれて助かった。人を元気にしてくれるいい奥さんだ。
「任せといて!あんたバキバキ!いくわよ。」
「おまっ!?クウが言ったのはビシビシじゃねえか!バキバキじゃ死ぬぞ!!」
冗談にならないようにしっかりと頑張ってねガイさん♪
「じゃあ!しぬきでがんばればいいの♪またねなの~♪」
何でエルフはポンコツで残念なの?2がここにもいる。
「イヤイヤイヤ!クウちゃん行かないで~♪先生も付いていきたい~!」
そりゃ俺も出て行きたくないけど仕方がないのよ!今のうちに抱きしめて満足して下さい。俺が泣いた時もこうやって優しく接してくれたな・・・
「こらこらローラ先生・・・・これからは貴女が学園長何ですから。ふぅ、まだまだクウちゃんの偉業をこの目に納めたかったんだが残念だ。それとね、クウちゃんに伝えたい事があるのです。それはこの国を恨まないでいてほしい事です。騎士団も王家も今回の決断は苦渋の選択だった筈です。大人の勝手な都合を押し付けといて理解しろと言うのも無茶な話ですが、どうかこの国を恨まずに戻って来て下さいね♪」
大きな体に大きな器を持つ人だ。例の一件で俺はこの人にどれだけ救ってもらったか。騒ぐ生徒を立ち去らせ、俺の下駄箱への引きこもりも容認してくれてずっと励ましてくれたし。決して人を厳しく叱りつけるのではなく、遠くから見守りながら背中を押してくれるそんな人だった。二人共ありがとう♪
「なでなでなの~♪もちろんそんなきもちはないの♪だってみんな・・・・ことばにするのやめたの♪いわなくてもおもいはつたわるとしんじてるの♪」
言葉は時にどんな表現でも陳腐なものになるから言わないでおいた。
「みんな・・・愛人ね!!クウちゃんたらお・ま・せさんなんだから♪いやん♪」
思ったそばからこれだ・・・・しかも愛人って・・・・もし、過去に行ける機会があれば大本になったエルフを教育してポンコツで残念な遺伝子を直しちゃる!
「ああなってはダメだよ・・・・儂の仕事も益々増えそうじゃな・・・」
普段はこうじゃないとよく周りから聞くが、俺の知る限りじゃこんなんばっかだ・・・・
「えるふのひとってみためもぽてんしゃるもすぺっくたかいのになんでこうざんねんなの・・・・あっ!?そうなの!!おこめとろーずおっとーのきのめんどうをよろしくなの!このびんにクウちゃんのまなをたっぷりこめたじゅえきをいれてあるからすこしずつあげてなの。あと、はなせんしないとあまいかおりにわれをみうしないむさぼりたべちゃうからごちゅういしてなの。」
「そう言われると味見したくなるな・・・・」
最後まで期待を裏切らないのね・・・
「儂が責任を持って預かろう。ローラ先生だと食べられてしまいそうだからね。」
「それではよろしくおねがいしますなの♪またねなの~♪」
あ~~何人の女性を俺は泣かせてしまったんだ。ごめんなさい・・・・・
「グスン♪グスン♪ごめんねクウちゃん・・・恩を返すなら今なのに!」
猫人族は恩義に厚いとミーコさんも言ってたし、俺もルウちゃんもそうだから尚更だよね。
「クゥ~ン♪・・・・・・」
このまま旅立ってはダメだ!ここは・・・
「あまいのルウちゃん!」
「えっ!?なんで!?」
「バウッ♪」
秘技!話題反らし!無茶振りをすれば大抵は変わる!筈・・・
「おんとはかえそうとしてもかえせないからおんなの!だから、クウちゃんがしていするの!」
「指定?えと・・・・・なんの話かなクウちゃん?」
「バウ?」
「いちねんごのさいかいまでにふっふっふ~♪」
「・・・・・・・嫌な予感。」
「ハッハッハッハッ♪」
「Bきゅうぼうけんしゃになっていることなの!」
「無理言わないで!!私Dランクなのよ!!たった一年でなんて!!」
「バウッ♪」
「はんとしでいちだんかいあがればいいの♪それじゃあげんきでなの~いちねんごがたのしみなの♪」
「ちょ!!まって~~!!!!」
「カブ♪」
「離しなさい!!あんたのご主人はあたしでしょ!!ああ~~行っちゃったよ・・・あたし生き残れるかな?」
ティーユさんにマーカスさんがこちらち来てくれた。
「なんでなんでなんでなの!!クスン♪あんのっピー貴族と大臣が悪いのに・・・クウちゃんは悪くないよ・・・いいこ~いいこ~よ・・・ポロポロ♪」
「済まねえな・・・同じ生業で飯を食ってる俺がクウちゃんの前に顔を出せた義理じゃねえが・・・あんな外道ばかりとは思わないでほしい・・・。」
「ふたりともきてくれてありがとうなの♪ティーユさんなでかたがうまくなってクウちゃんきもちがいいの♪マーカスさんわかっているの。クウちゃんはそんなことでさべつはしないの。あのばしょにはいったときにおねえさんがたからおしえてもらったの。いきるためにみんなほこりをもってひびがんばっていることをなの。だから、いちねんごにはふたりのおみせにかおをだしにいくの♪」
「ええそうよ!クウちゃんうちのお店に来ないでジェネスにだけ会いに行くんだから。来てくれないといじけちゃうよ♪」
「是非来てくれ♪本当の奴隷商とはどういうものかその目で見てくれ。それと、結果はこうなったが俺はクウちゃんにますます惚れたよ。絶対戻ってこいよ♪」
「かならずもどってくるの♪きょうはてんどんいっぱいたべてせいぎふとのためにじょおうへいかをたすけてあげてなの♪」
「任せておいて♪」
「ああ!承知した♪」
「それじゃあまたねなの~♪」
グルグルと皆さんと挨拶にを一通り終えた俺はパーティーを閉める為に壇上に上がり一礼をする。
「ほんじつはてんどんをたのしんでいただけたでしょうかなの?ここにおあつまりのみなさんへもてなしができたのならクウちゃんはしあわせなの♪このつづきはまたらいねんにひらきたいとおもいます。なのでみなさんにはえいきをやしない、ここせいぎふとでだんけつしてじょおうへいかとともにもりあげていってくださいなの♪けんかしていたら、らいねんおしおきしちゃうのでかくごするの♪そういうわけでしめっぽいのはめっ!なのでまたらいねんなの♪おやすみなさい♪」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ♪鳴り止まぬ拍手にうるっとくる。でも終わらせなければね。会場から出る人達と握手をし、ハグをして再会を誓った。そして、会場に人がいなくなりお片付けをスタッフさんとしている時だった。上空からミイちゃんを抱えたミズチちゃんがゆっくりと俺の前に降りてきて、抱えていたミイちゃんが俺の胸元めがけてに飛び付いてきた。
「ごめんねネコちゃん・・・ごめんね・・・・」
目を真っ赤にさせてずっと泣いてた跡が分かる。
「お父さん。お母さんがどうしても会いたいと言うのでこっそりお城を抜け出して来ました。お許しください。」
「ふたりともよくきてくれたの。まだ、てんどんあるからたべていってなの♪すたっふさんここはいいからほかのおかたづけをおねがいしますなの♪」
無言で頷き察してくれるスタッフの皆さんは静かに移動してくれた。
「ママにね、何度もお願いしたの・・・でもねママ・・・・お願い聞いてくれなくて・・・ごめんなさい・・」
一番見たくない涙だ・・・しかも親子喧嘩等してほしくもない。
「なかないでミイちゃん。あと、おかあさんのことをせめちゃめっ!なの。」
「なんで!?ママは女王で一番偉い人よ!命令すればネコちゃん出て行かなくていいのに!!」
ミイちゃんの為にもここは大事な事を教えてあげないと…
「それはちがうの・・・・よくきいてなのミイちゃん。マリアちゃんがえらいのはこのくにのみんなのへいわのためにおしごとをしてるからえらいの。それはじょおうだからえらいんじゃないの。」
「確かに皆はママの事を女王だから好きなんじゃない・・・いつも一生懸命に頑張るから好きで偉いって分かる・・・・でも!でも!!それでもママはネコちゃんを助けるべきよ!だってネコちゃんは悪い人達をやっつけていい人達を助けてあげたんでしょ!」
納得のしてない顔。法による定めでも理不尽と感じるミイちゃんには腑に落ちないみたいだ。
「それでもクウちゃんはこのくにのるーるをまもらないといけないの。それはここにすむひとりとしてのぎむなの。」
「なんで?ネコちゃんは大人の勝手なルールのせいで追い出されちゃうんだよ?それでいいの?ミイはネコちゃんと離れたくないよ・・・」
純粋な瞳に純粋な心。真っ直ぐに人を想いやるその気持ちに俺は愛しく思うよ。本当にいい子だ。
「クウちゃんもずっとここにいたいの。でもねミイちゃん♪クウちゃんはしんじていることがあるからへいきなの♪」
伝わって欲しい、俺がここセイギフトで築いたものを。
「なんでネコちゃんは笑っていられるの?何を信じているの・・・・」
「それはきずななの。るーるのせいでたしかにでていかなければいけないけど、そのるーるでまたいちねんごにはもどってこれるの♪そのためにせいぎふとにすんでるみんながクウちゃんのためにがんばってくれるとやくそくしてくれたの♪ならクウちゃんはしんぱいすることはなんにもないの。マリアちゃんもミイちゃんもクウちゃんにとってはだいじなひとなの。だから、このきずながあるかぎりどこにいてもクウちゃんはかえってこれるの。ミイちゃんはクウちゃんのことばをしんじてくれる?」
時を共に過ごす事を前世では無駄にしてしまったが今は違う。短い時間でも切れない絆が必ずあることをミイちゃんには分かってほしい。この子はそう遠くない将来に沢山の人と絆を結ぶのだから。
「もちろん!ネコちゃんはミイにとって一番大事なお友達だもん!いつも夢のような時間と魔法を見せてくれる素敵なネコちゃんだもん!」
「ならクウちゃんのいうしんじるものとおなじなの♪それがきずななの♪」
分かってくれたみたいだ。心から納得しないとミイちゃんは大声で叫ぶからね。
「ネコちゃん・・・・」
ずっとそばで俺達を見守っていたミズチちゃんが口を挟む。
「お母さん・・・・お父さんは一年後に戻ってきますわ。マリア様と仲直りしてお父さんが戻ってこれるように一緒にお手伝いしましょ♪」
ミイちゃんの後ろから包み込むように抱きしめるミズチちゃん。
「・・・・・・わかったミズチちゃん。ネコちゃんが帰ってこれるようミイいい子でいるから!」
「いいこ~いいこ~なの♪しんさくりょうりをじゃあたべてなの♪おいしくてびっくりなんだからなの♪」
リュックから天丼とお茶とミズチちゃんに渡すコインの入った袋を二つ取り出す。
「何も食べてないからペコペコなの。いただきます♪」
「では私も頂きます♪『これは?お父さん一体・・・・』」
「『どれいたちのけんでくににばいしょうもんだいがでるだろうから、こまったらこれをつかうの。ミイちゃんやとみんのみんなにしわよせがいくのはいやなの。だからむりにでもマリアちゃんにわたすこと!ミイちゃんのこともふくめてたのんだのミズチちゃん♪』」
「『畏まりましたわお父さん♪お母さんの事にこのお金の件、お任せください♪』」
俺には勿体ない娘である。あと、ミイちゃん・・・この子の前で涙を堪えられて良かった。ありがとうミイちゃん。ミズチちゃんもいない間よろしくね。言葉にしなくとも伝わると思い、ミイちゃんが食べてる間、俺は優しく頭を撫でてあげていた。
ふつおたコーナー(MC:たまご丼)
ペンネーム「あの世なので過労では死ねません」さんより頂きました
Q:上司が暴れて大変です。俺はどうしたらというか助けてくれ。
A:ここにそんなお便りしちゃダメダメ!でも選んだ以上答えるなら!もう、こっちも物理的に抑えちゃえ!あの世なので過労では死ねませんさんならいけるいける!というわけでシーユー♪
カ:通しませんよ創造神様!!!あの世のルールで下界に手出し無用は絶対厳守です!!それにクウちゃんを信じてあげましょう!
ミ:クウが閉じ込められているのにこの私が黙っていられるか!!!愛の力を防げると思うなよカリウス!
カ:この創造神様のだらしない姿コレクションをクウちゃんに見せようかな・・・・チラッ♪
ミ:うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!やめれ~~~!!




