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しあわせのかたち

 

 俺は幸せ者だ! 目の前の龍に惜しみ無い愛情を注がれ、日々すくすくと育ち、息子として育てられた事に感謝と尊敬の念を心の底から思うのであった。


 ちょうどあれから12年の年月が経ち、俺もやっと12才を迎えた。


 だが、あのふざけた邪神達のせいで、実際の成長具合は未だ1才と言う、とんでもない事態である。【育成速度遅延】恐るべし……


 その事を気にして落ち込む俺に父は優しく語りかけてくれる。「どの種族も龍族に比べれば余りにも短命過ぎるので、生き急がないでくれ!」と、切実に訴え、世界最強の龍が半泣きである。


 こんな父の姿を見れるのは、この世において俺ただ一人。親バカと言われるかも知れないが、正直嬉しいものだ。


 さてさて、そんな俺は今、何をしてるかというと、父とささやかであるが、あの次元の穴より落とされた日を誕生日とし、12才をお誕生日会を開いて祝福してくれるのであった。


「クウヤ~、誕生日おめでとう。今日でクウヤも12才か~、父はとっても嬉しいぞ~」


 父が満面の笑みで祝福してくれる。そんなニコニコで笑顔な父を見て、俺も自然と笑顔になる。


 中身が前世の記憶を持っている、50過ぎのオッサンだとしても、どれだけの時を過ごしたか解らない父と比べれば、俺なんて言葉通り小さな赤子である。


 俺はこの人、正確には龍だが、敢えて人として呼ばせてもらうと、この人から注いでもらった愛情を、俺は何倍にも返して喜んでもらう為なら、

 父が望む可愛いクウヤで在り続ける事を貫こうと心に誓った。


 俺が父に対して出来る恩返しが、今はそれだけしかないと感じているからだ。だから、期待を裏切らないように俺は努める。


 それが俺が父に対して出来る、愛情表現だから。


「おとうさん、ありがとう。クウもうれしいよ~、ん~~~スリスリ」


 父の大きな顔に、俺の小さな顔を擦り付けて、スリスリと気持ちを乗せて頬擦りをする。しばらくそうしてスキンシップをしていると、

 父は長いヒゲを触手のように器用に動かし、俺を優しく抱き上げ、顎の上へ乗せた。


「ふふふ、クウヤの為にプレゼントを用意したぞ。気に入ると良いのだが……これを受け取ってくれ」


 なんと!? 父がプレゼントまで用意してるとは、今年のお誕生日会はいつもと違うな……


 父が亜空間から取り出した物は、三つのアイテムであった。いつ見ても思うが、流石は異世界文明。


 文明レベルは父に聞く限り、中世ヨーロッパレベル。ファンタジー小説に出てくる設定で、良く見かけるけど、こういった魔法やアビリティ等はまさに前世の現代科学を越えるチートだと、改めて思い知らされる。


 しかし、父の所有する財宝の量は、ほんと半端無いっすわ……


 なんでも、かつて父を狩ろうとした冒険者や大国の王が、一斉に襲い掛かって来たそうだが、完膚なき迄にフルボッコで返り討ちにし、反省させる為にも、所有する全ての財産を撒き上げる。


 そして、数百年経つと、父の行った反省を忘れた世の中に、そんなアホがまた湧き出るらしく。永遠と繰り返していく内に自然と、ありとあらゆる財宝が父の元へと貯まると言った訳だ。


 いい加減に飽々としてきた父は妙案を実行する。貯まれば貯まる程に人はその欲望を抑える事が出来ぬ為、亜空間に全ての財宝を納め、人の目に触れぬさせぬようにした父。


 これにより父の目を盗んで財宝を頂こうとする輩はいなくなった。


 そして、流石に幾多の伝承が世界に広まったのか、父へ喧嘩を売る者は極端に少なくなった反面、その余りの強さだけがまた、世に伝わり、恐怖の対象に経緯がある。


 しかし、俺に言わせれば、父に喧嘩を売るなんて自殺志願者以外の何者でもない。もし、俺が鑑定スキルを持っていたら、父のステータスを第一に優先して見ただろう。確実にその力を調べて、引くだろうが……


 そんな事を考えながらも、俺がわくわくして父からのプレゼントを待ちわびていると、父が一つずつ俺の前へと置いて説明をしてくれた。


「まずはこれ、【バンパイアニードル】だ。吸血鬼の牙を溶かして幾重にも重ね、鍛え、削った針だ。

 刺した相手の血を吸収し、その度に鋭さが増す逸品だ。これならばクウヤでも扱えるであろう。手頃な大きさで軽いから、気をつけるんだぞ」


 綺麗な赤色のアイスピックみたいだ。確かにこれなら俺でも扱えそうだ。ちょいと、ある童話の主人公っぽいが……


「おとうさんだいじにするね。これでおとうさんのてきをクウがたおしてあげるの! えいっ! やあ~!」


 仮想敵を想像し、軽い突きを何回かするが、傍目には微笑ましい光景である事に俺は気づいていない。


「そうかそうか、ありがとうクウヤよ。でも、父は強いから誰にも負けやしないぞ」


 上機嫌な父はヒゲで俺の頭を優しくナデナデしてくれる。こちょばゆいが我慢である。嬉しそうにナデナデしてるし。俺もそんな父を見るのが嬉しいよ。


「二つ目は【フェアリーリング】だ。これを腕に付ければ自由に浮けるぞ。但し、浮いてる間は常にマナを使うから、MPの残量には気を付けるんだぞ。

 まあクウヤのMP保有量なら余裕だろうが、それでも絶対はないからな」


 うわ~まじっすか! あいきゃんふらい! っすか! ワクワクが止まらないっすよ!


「おとうさん!! とんでみてもいい?」


 今すぐに飛んでみたい俺は、待ちきれずにお願いをしてみる。いくら異世界とは言え、人は大空に羽ばたいてみたいと、一度は願うと思うんだ! それが今まさに叶う。


「ああ~いいとも。だけど余り遠くに行ってはダメたぞ。まだプレゼントは終わってないからな」


「はぁ~い。うわぁ~~、おそらにういてるよ~、おとうさん。みてみて~」


 元気よく返事をすると左腕にリングを通す。するとサイズが変わり、ピッタリと俺の腕に収まる。空を飛ぶイメージをすると、体がフワリと浮かび、思い通りに飛べる。


 父の周りをキャッキャッ と言いながら、しばらく俺は空への散歩を堪能するのであった。この腕輪は最高の贈り物だ! 異世界最高~♪


「たのしかった~うんしょ」


 どれくらいはしゃいでいたのか分からないぐらい、十分に堪能した俺は、父の顎の上へと着地し、ちんまりと座り直す。最後のプレゼントは何かな? ワクワクして父を見つめる。


「ふふふ、随分と気に入ってくれたみたいだな。こんなに喜ぶのならもっと早く作ってあげるのだった。さて……では最後のプレゼントはこれだ!

 魔法のリュック。これは普通のリュックとは違いたくさんの物が入る不思議なアイテムだぞ。

 しかも、()()()モンスターの良質な部分の皮をふんだんに使い、我の秘術をタップリと込めた逸品だからな、そこらの魔道具とは比較にはならないリュックだぞ」


 ちょ!! 父よ……息子の為にわざわざ素材まで吟味して手作りしてくれるとは……いかんいかん。泣いてはいけない。父の前では常に笑顔笑顔だ。しかし……()()()モンスターって何だ?


 ……はっ!? そう言えばこの間、寝ぼけてあちこち擦り剥いたって言ってたが……あれはまさか……もし俺の予想が当たっているとすればあの傷は……


 ……何してるんですか父よ! しかも、俺の着ている服は、父が一から編んで用意してくれた服ばかり……まさか……やはりこのリュックは父の皮で作られているのでは……


 ダメだ……怖くてとてもじゃないが聞けない……いろんな意味で……俺が寝ている間にチクチクと縫っていた父を想像すると、聞く事すら躊躇われる……


「クウヤよ、どうしたのだ? まさか気に入らなかったか!? ぬぅ、もっと可愛いのが良かったのか?

……『もう何パターンか作るか……まだまだ他の部位の皮でも剥がして……』」


 父が後半ブツブツ言いながら、物騒な事を呟いていたので俺は必死に止める。


「おとうさん!!! クウうれしいな~、これがいちばんいいの! ほかのじゃいやなの!!!!」


 両手で包み込むようにリュックを抱え、ニッコリと微笑む。これで父の表皮は守られた筈。父よ……嬉しいのですが、体をちゃんと労って下さい……


 俺は心の中だけで叫んだ。……父の愛、恐るべし……


「ん? 我の取り越し苦労のようだったな…………さて、クウヤよ……」


 ん? 父の纏う雰囲気が若干変わり、空気が入れ変わった気がした。これから大事な話をするのかな? なんとなくだがそう感じる。


「おとうさんどうしたの?」


 父が地面に俺を下ろすと、真剣な顔で話し始めてくれる。


「クウヤが天より降りて来てからもう12年の月日が経った。本当にあっと言う間だ……父の体の中の瘴気も、クウヤのおかげで完全に消え去って、こうして元の破邪の力も取り戻した」


 そうなのである。父は元々邪龍皇と呼ばれるような存在ではなく、聖なる龍、聖龍皇アドアトラスと呼ばれた大地の守護者であった。


 それが永い時経て、次元の隙間より大地に降り注がれる瘴気を我が身を受け、大地の盾として守り続けた結果、体を蝕まれ、ダークサイド的な方へクラスが変わってしまったのである。


 だが俺のアビリティー、究極の抱き心地による状態異常の回復。究極のマナ味による極上の栄養価の摂取。そして、トーヤ男神による加護の神薬によって激変する。


 この神薬は服用すると、5分間だけあらゆる効果を何倍にも高める効果があるのだが、副作用で使用後の5分間無気力になるという副作用がある。


 効果に比べれば、大した副作用でもないのだが、端から見ると死んだように写り、無気力になってしまう為、その間は死んだ魚のような目になってしまう。


 それをかつて見た父が危険と判断し、今は使用禁止となっている。


 そんな事もあったが、俺のスキルとアビリティーのコンボよって、体内に蓄積されていた瘴気を体内から浄化した父は、完全復活を果たし、元々備わっていた破邪の力を持って徐々にだが、己と森を浄化していたのであった。


「森も徐々にだが浄化され、次の次元の隙間から瘴気が吐き出されるまでの数百年は無事であろう……」


 喜ぶべき事なのに悲しげな顔をする父。


「我が息子クウヤよ。この12年の時でお前は、この世界で生きていく(すべ)を学んだ。この森より羽ばたく時期がとうとう来た。

 本当はもっと早くこの事を伝えるべきだったのだが…………父は思っていたより弱かったみたいだ…………」


 父の顔を真っ直ぐ見つめながら俺は黙って聞く。こうして父の愛情に触れ、言葉は不要だからだ。


「クウヤよ、世界は広い。お前の知らない世界が多くあり、それがお前をより大きくしてくれるだろう。もちろん、その道のりで苦しい事も多く待っているだろう。

 だが! その目でかつての父と同じように、多くの事を経験し、沢山の物を見てくるんだ。父はこの地からお前の事を常に見守っているぞ」


 父よ……俺……本当に!! 本当に!! あんたに拾われて良かったよ。


「おとうさん………クウしゃーわせだよ」


 父のその大きな瞳が大きく開かれる。


「おとうさんにひろわれてよかった」


 ここまで愛情を持って育ててくれてありがとう!


「おとうさんのこどもでよかった」


 俺ずっと誇りに思うよ!


「また、うまれかわってもおとうさんのこどもがいいな」


 次の転生で、今度こそ自由に選べるなら、俺は迷わず決めるよ! あんたの息子として生まれて来る事を!


「だから、おとうさん、ありがとう」


 だから、お父さん、ありがとう。


「クウヤ……う……う…………う……我こそ……我こそ……」


 父の顎の上に乗り、その固い鱗を優しく撫でる。誰が想像出来るだろうか。最強とうたわれし龍を泣かす小さな存在を、可愛いは最強だ。


 こうして、父の愛情をその身に12年受け続けて来た俺は、父の愛情に包まれた装備品を片手に旅に出かける。




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【名前】クジョウ クウヤ

【年齢】12

【性別】男

【種族】猫人族

【クラス】着ぐるみ師


【レベル】1

【HP】2/2

【MP】1,000,001/1,000,001

【力】2

【技】2

【耐久】2

【敏捷】2

【魔力】10001

【運】2

【魅力】10001

【もふもふ】∞


【スキル】

調理LV1  家事LV1 農業LV1 もふもふ魔法LV2 魔力操作LV1 


【アビリティ】

究極のマナ味 着ぐるみクリエイト 究極の抱き心地 育成速度遅延 言語翻訳・翻訳



【加護】

サーヤ女神の加護

トーヤ男神の加護

聖龍皇アドアトラスの加護


【アイテム】

バンパイアニードル

フェアリーリング

聖龍皇皮のリュック

特別転生の番号札

絹の袋

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