きれいきれいにするの
慣れって怖いね。あれほど心をガリガリ削っていた作業も数時間経つと手慣れたものでかなりの量を肥料たっぷりの土に変えていた。
いい汗をかいた俺は一旦休憩を取りおねんねだ。体は一歳児なのにこんなに動ける方が元々おかしいのだ。
「クウ様…寝てしまわれたか………いくら神様とはいえやはりまだ幼児ですな♪」
「あなた、余り無理をさせては罰が当たってしまいますわよ♪」
最初に出会ったクライムさんの奥さんである。俺は彼女の腕の中で丸くなって抱かれている。
「確かにそうだがお前………口実にしてただ抱きたいだけだろ?」
「うふふ♪分かります?こんな可愛い神様で最高に抱き心地がいい子初めてです♪誰にも渡したくなくなってきちゃいます♪」
「おいおい。私の奥さんのハートは神様に取られてしまったみたいだ♪」
何…このイチャラブ夫婦…そんなやり取りをしてると遅れてやって来たアイナママ達が町に到着して来た。
「クライム!この状況を見て駆けつけて来た………クウちゃん!」
「ああ~~わたしにも抱かせて!!もふもふ成分が~~!」
「クウの奴なんかやったな?ミリオンバッタが出たのにみんな落ち着き払っているし…」
「クウちゃん!もう放しませんわよ♪」
「これはアイナ様!ようこそおいで下さいました。クウ様を遣わして下さり町は難を逃れました。たいしたおもてなしは出来ませんが我が家へどうぞ♪」
「ええ~ありがとう。私達も詳しい話を聞きたいからお願いするわ。」
こうして一行はクライムの家に招かれ一連の事情を聞くのであった。
「……事情は分かったわ明日は私達も手伝わせてもらうわ。」
「助かります。クウ様のおかげで難を逃れたといえ、まだまだ当面は凌ぐだけで精一杯です。王都に遣いを出しましたが支援はあまり期待出来ませんし…」
「ごめんなさいね………王都もここの町以外の対応で精一杯なのよ。蔑ろにしてる訳じゃないのよ…」
「分かっていますとも…死の森から出たモンスターの被害はこの町にも耳に届きますよ。まだ、我が町は遠く離れて被害が少ないだけマシです。」
「調査で今年も見てきたけど、12年前から驚くほど森から出る瘴気が薄くなってきていて…近いうちに森は浄化されるかもしれないと言うのが私の見解ね。だけど、あそこは絶対に人が踏み込んじゃダメ…………邪龍皇が死んだなんて馬鹿な事言ってる連中がいるけどとんでもない…」
「やはり龍は未だに健在するのですか?」
「ええ~……その強大な力は変わらず健在よ。人の…………いえ、この世界でもし勝てるとしたら神様位じゃないかしら。だから、逆鱗に触れたら誰にも止められないわ…」
「ではクウ様に世界の危機を防いでもらいますか。神に遣わされた子ならひょっとしたら…」
「神の子じゃなくて私の子です!戦わせるもんですか!」
「うるさいの~♪……………あっ!?おかえりなさいなの♪」
騒がしくて起きる俺をぐるっとみんなが囲んでいた。
「クウちゃんごめんなさい!ママ達もうケンカしないから置いてかないでね!」
俺の方こそごめんね。今度からは相談するから。
「クウちゃん私も1日1時間でもふもふ我慢するから!」
十分な時間だと思うのは俺だけ?
「クウはやっぱちゃんと見てないとダメだな。だから子供扱いに戻す。」
複雑だけどそれが本来の形だから仕方がないか。
「クウちゃん。あなたって呼ぶのやめますね。でも私!いつかそう呼ぶ立場になれるようがんばるんだから!」
セーラちゃんマジだ………どうしよう…
「クウちゃんもそうだんしないできめてごめんなの…」
「いいのよ。それに四人でクウちゃんと同棲することに決めたし。」
「ちょっとまつの!!みんな!なんでそうなるの!!」
「ママはクウちゃんから離れなければ基本何人でも良いわよ。スキンシップは少しするけど。それにクウちゃんとセーラちゃんだけじゃ王都で何かあっても困ること多いだろうし私の力が必要になるはずよ。」
確かに俺とセーラちゃんでは問題が起こった時にアイナママの不思議な権力と無双武勇伝が役に立つよな。
「だってね?私は寮だったけどクウちゃんの家に住めばそこそこする寮費だってなくなるし、師匠も住むっていうから何時でも魔術の指導をしてもらえるしクウちゃんがいるからマジックポーション代が浮くでしょ?師匠に付いて来たのだって割のいい仕事だからネイちゃんと一緒に護衛してたんだよ。だから、経済的に楽になるの♪」
こっちは切実過ぎて断れん。貧乏学生で色々切り詰めているみたいだし無理だ。俺に見捨てる事なんて出来ん。
「あたいもクウとパーティー組むんだし、同じ所に住めば色々と都合いいだろ?それにクウの一番の保護者はあたいだろ♪」
三人が暴走した時にネイさんがいないと俺の身がやばい。
「私は皆さんがいてもクウちゃんの治療が受けられれば問題ありませんし、アイナ様とミーナお姉さまには魔術の手解きを教えていただけます。ネイさんには学園で教えてもらう以外の実戦でのイロハを。なので五人で住むことに賛成ですわ♪」
セーラちゃんの意見も反論出来ん。………ここらが落とし所だな…
「わかったの。それでみんながけんかしないならクウちゃんはみんなといっしょにすむの。こまかいるーるはみんなでおうちきめてからはなしあうの。」
「「「「は~~~い♪」」」」
「なんか楽しそうで羨ましいですわ♪」
「クウ様美女に囲まれて羨ましいですな。」
「ならかわってほしいの。」
「妻に殺されちゃいますよ!」
「クライムさんもくろうしてるの。」
「男同士今夜は語らいますか?」
こうして無事仲直りが手来た。そして、夜が更けるのであった。
さて、夜と言えばやはり楽しみはご飯。この世界にテレビやネット等勿論ないので夜は風呂か体を拭き身を清め、ご飯を食べてすぐ寝るという原始的なライフスタイルが一般的なのだ。
一部、大人の楽しみや光魔法やランプ等が使えれば読書を楽しむ人もいるが灯りは貴重な為に少ない。ならせめてご飯に彩りを付けたいのだが今晩のお夕飯はウルフ肉だけと言うこの状況………栄養も片寄るし何か寂しく俺は感じた。
そこで町の為に必死で働いた人達の苦労を労って俺が一品足すことに決めた!出すメニューはこちら!!じゃじゃ~ん♪愛情100%のペロ縁日の綿菓子サイズ食感粉雪バージョンMP1を振る舞おうと思う。
クライムさんにお願いしてお皿を沢山用意してもらった。ちなみにネイちゃんに試食してもらった処……20歳の乙女とは思えぬほどヨダレを垂らしまくり食べた瞬間跳び跳ねていた。
俺は某漫画のリアクションを何故か連想してしまった。
「う……うまいぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!なんという方旬な香り!そして!このフワリとした食感!まるで空に浮かぶ雲をこの口に入れたような~あぁ~浮かぶ!浮かぶぞぉぉ!さらに舌の上で粉雪の如くサラリと溶けひろがる食感と無限に凝縮された旨味!!!そう!!これは食の革命だぁぁぁぁぁ!!!」
一堂どんびきだったがその後みんなのリアクションもそう大差なかった………そして、俺は懸命にせっせかとペロを作っていた…
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おかわり!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「みんなまつの!ちゃんといちれつにならぶの!そこっ!よこはいりめっ!なの。ちゃんとならばないとあげないの!ネイおねえちゃんおすわりなの!」
町の人々は俺のペロを貪るように食べてくれた。よっぽど美味しかったみたいだ♪ちなみにアイナママ・ミーナちゃん・セーラちゃんは三回目のおかわりに来た時に恥ずかしそう顔を赤らめていた。なので俺は気を効かせて何度も来なくていいように大盛りにして上げたら色々言い訳して可愛いかった。えっ!?ネイちゃんですか?それは……………
「クウ頼む!!あと一口だけ!後生だクウ!!今夜あたいを好きにしていいからお願いだ!!でないとあたいまたクウをペロペロ………」
またもやペロリストに堕ちたネイさんはなりふり構ってられないので止めを刺した。これは言いたくなかったのだが…女性に禁句の一言を………………………
「これいじょうたべるとふとるの♪」
一歳児の言葉がネイさんのボディーに突き刺さると四つん這いになりながら項垂れた。食べ過ぎは体に良くないからね。ネイさんを放って置いて俺はセーラちゃんの目の治療をして床についた。
「クライムさん!おはようなの♪きょうもいちにちよろしくなの。おくさんもおはようなの♪」
「「おはようございます♪」」
「クウ様おはよ~♪」
「こらっ!セージ!!なんだその挨拶は!クウ様にはちゃんと敬語を使え!!」
「そんなことでけんかはめっ!なの。なかよくなの♪」
「そうそう♪親父…血圧上がるぜ♪」
「セージお前!あとで説教な。すみませんクウ様…今日もお願い致します♪」
「きにしてないの。よろしくなの。またきょうもためしたいことがあるからおてつだいしてもらうの。」
「ええ~喜んで…はぁ~…………セージもこれだけ素直ならよかったのに…」
「親父ひどっ!?こんないい息子いないぜ?」
「ぬかせ!さっさと飯食って用意しろ。クウ様より後に来たら拳骨な!」
「鬼!悪魔!母ちゃんに頭あがらないくせに!」
「おま!?それは関係ないだろ!!」
見てて飽きない家族である。ケラケラと笑ってるとアイナママ達みんなが起きてきて俺の配ったプルルとコルルの実で朝食をとった。
「「「「「ギャーーーーーーーーーー!!!」」」」」
俺の作業工程を見て悲鳴をあげるアイナママ達の四名。まあ、無理もないと思う。いくらアイスバードの着ぐるみを着ているからと言ってもバッタをね…こうプチプチと潰してはそこに腕を突き刺しているんだからおぞましいにもほどがある。
「ちょっと待った!作業中止!!!」
やっぱりこうなったか………
「キャーーー!!!世界のもふもふが!もふもふが!」
ミーナちゃん………俺の存在価値っていつもそれだけ?………泣くよ?
「クウ!!お前一歳で汚れ仕事は早すぎるだろ!!」
ネイさん上手い事をおっしゃっる♪
「キャーーー!!!!昨日!!その手で!その手で私の目を!?イヤーーーーー!!!」
ちゃんと洗ってからって…大分見えてきてるね。順調順調♪
「う~ん…でもこうしないといつまでもたってもおわらないの。」
そう、ミリオンバッタと言う名の通り大量いるのだ。一つずつやっていては埒があかないが他に方法がない以上どうしようもなかった。
「私の魔術を使います!風魔法でバッタを全て集めてから土魔法で固めた箱を作るのでその中にバッタを入れて圧縮します。その箱をクウちゃんが綺麗にすれは完了ね。」
「ばったさんいっぱいなの!そんなにおっきなはこつくれるの?」
「クウちゃんがママにハグしてくれればいけるわよ。ウルフの時みたいに大きな箱位余裕よ。もちろん、箱は宙に浮かせたままだから大地には侵食しないわ。だからクウちゃんはママとしばらく一緒よ。」
「流石、アイナ様これで町から一気にバッタがいなくなる♪」
「絶対に師匠、クウちゃんを独占する為に提案したわ。」
「ここで足止め喰うのもあれだし仕方ないって…」
「アイナ様!クウちゃんがんばってですわ♪」
「アイナママいっきにばったさんせんめつなの!」
俺はウルフ戰の時と同じようにアイナママに肩車をして後頭部に張り付きスタンバイした。
「じゃあいくわよ!!」
アイナママが詠唱を始めると風が巻き起こりバッタが舞い上がる。町の上空に集まる虫玉。その大きさは500メートル位だろうか。足下にあれだけ転がっていたバッタが一掃されるとまた次の詠唱に入る。
「おお~凄い!流石師匠!私もいつか………」
「ミーナお姉さま!私も一緒に!」
「魔術師はやれる事の規模がデカイ分が大きな隙が出来るのが弱点だ。二人ともそういった点もよく見て学ぶんだ。実戦では相手の弱点をいち早く見つけるかで戦局が変わるからな。」
町の人達が固唾を飲み見守る中、アイナママの姿に様々な感情を馳せるのであった。そして、詠唱が完了すると町の外の大地から大量の土が舞い上がり上空の虫玉を包み込む。アイナママは両手で目の前の虚空に軽く手を伸ばし、まるで虫玉を握り潰すような動作をすると上空の虫玉も徐々に縮んでいく。
「ん~~~~~~!!」
「ママがんばなの!ふぁいとなの!」
「ん~~~~~ご褒美があったらもっと力が出せそうだわ♪チラッ♪チラッ♪」
ちょっと!!!!!!!脅迫だ!!!何が狙いなの!?
「師匠最低~~~~………………」
「姐さん……………………………」
「私の知ってるアイナ様はどこに……………」
みんなが白い視線を送る。だが、ここで失敗は許されないのだ…………どうしよ。ご褒美が思い付かない………と言うか完全に脅迫だ!
「クウ様お願いします!!!町の為!この通りです!!!」
「みんなやめてなの!!!ぬぅ~…」
町の人総出で土下座である。この状況でだが断る!!なんて言えるほど俺のハートは強くない。う~ん………ダメだ詰んでる。
「クライムおじさん!!」
「はい!!クウ様!?」
「かし!ひとつなの!…………しくしくしく♪」
「我が町の住民一堂!クウ様の為なら何でもお申し付けください!感謝いたします!!」
「わかったの!ママごほうびはなにがいいの?あまりむちゃはめっ!なの………」
背に腹は変えられない……無理なお願いじゃありませんように…………
「クウちゃんはこれから♪みんなと毎日お風呂に入る事♪ママのご褒美はそれでいいわ♪」
ぐはっ!?何言ってるの!?セーラちゃんとだって死闘?だったのにみんなとなんて!!!
「師匠ナイス!!ふふふ♪これは断れないわね♪」
「クウと風呂か!姐さんナイスだ♪」
「みんなとお風呂♪楽しみですわ♪」
「いくらなんでも!!それは……それは……」
「あぁ~力が………」
ヘナヘナと肩の力が抜けていき虫玉が崩れそうになる。
「おに~あくま~むぅ~~~~~すきにするがいいの!!しくしくしく♪」
「「「「いえ~い♪」」」」
「クライムおじさん……………かしはおおきいからかくごしてなの…しくしくしく♪」
「クウ様……その歳で苦労してますね…」
「わかってくれるだけでもうれしいの………しくしくしく♪」
そんな俺を見て苦笑いするクライムさんであった。
「うぅ~~ママ!これでしっぱいしたらクウちゃんおこるの!!!」
「失敗なんてするものですか!!!おりゃ~~~~~!!!」
上空の虫を包んだ玉……………虫玉でいいよね。が見る見ると縮み…そのサイズはサッカーボール位の大きさまでになった。とんでもない質量である。それがゆっくり降りてくるとアイナママの目の前まで来た。俺はアイナママに抱っこされたまま虫玉に触れると真っ黒な虫玉が徐々に変化し、色が変わってくる。流石に質量がハンパないので夕方まで完全に浄化するのに掛かってしまったが無事終了した。
「町が救われたぞぉぉ!!!クウ様~~!!!」
俺に抱きついてくるみんなと喜びを分かち合う。なんと清々しい時間なのだろうか。こうして夜は昨夜と同じウルフの肉とペロの変わらぬメニューだが、昨日よりも美味しく味わえたのは俺だけじゃなかったはずだ。俺もペロ味わえればな………ちょっと残念だ。こうして夜は更け床についた。
ふつおたコーナー(MC:たまご丼)
ペンネーム「紅の牙」さんより頂きました
Q:彼がたまに作ってくれる料理に我を忘れる程食べまくる事があります。あたいはどうすればいいだろうか?
A:無理な食事制限はダメダメ!好きな物を食べても体を動かせば大丈夫!紅の牙さんなら増えない!増えない!そういうわけでシーユー♪
ネ:た・体重計乗るか・・あたいは冒険者だよ!年中動いてるし増えるわけ・・・・あれ!?目が霞んで見えないや・・・・