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くちくするの


 ゴゴゴゴゴ……まさにそんな擬音が聞こえる中、これからウルフの群れ、推定千匹はいるであろう森の中へと戦いを挑む、街の勇者達を見送る為に、街の人々は夜中であるにも関わらず集まった。


 そして……多くの者が視線を……逸らした。


 警備隊奇襲メンバーのマイケルの息子ダニエルは、父を尊敬していた。幼い頃から父の姿に憧れ、いつか自分も警備隊へ入隊することを切望していた。


 だが、少年の夢は無惨にも……その瞳に写るオークの着ぐるみを着た父の姿を捉えた瞬間に砕け散った。


 警備隊奇襲メンバーのロバートの妻キャシーは、結婚してから5年が経った今でも、夫の事を変わらず愛していた。


 可愛い子供を二人も授かり、幸せ一杯な一家の大黒柱である夫のロバート。これが夫の最後の姿になるやもと、その姿を心に刻む為、子供を連れて夫の姿を探して見れば

 ……ロックタートルの着ぐるみを着て、息巻いている姿を捉えた瞬間、夫への愛情が無散した。


 警備隊奇襲メンバーのリュークの父アレンは、60歳を過ぎたこの街出身の隠居人であった。領主のバーツとは古くからの付き合いで、身分は違えど、階級の垣根を越えた、そんな数少ない友と言える間柄であった。


 そんな彼の元へ大事な息子を送り出した彼の瞳に写る姿……ホーリースライムの着ぐるみを着た息子であった。


 馬が大地を踏みしめる度に『ぷるるん』と鳴る謎の音……その瞬間、彼は友に会う為に領主館へと殴り込みをかけた。


 ……こうして奇襲隊一堂は街から出立した。そんな様々な想いが交錯する中で唯一、平治(へいじ)と変わらぬ格好の男が一人いた。


「皆ズルいのである。我輩だけ何時もと変わらぬ姿。折角クウ殿の魔装を着て、ウルフと一戦交えるのを心待ちにしてたのに……」


 そう、おっさんは試着の一件により、領主のバーツさんから厳命で、着ぐるみの着衣禁止が出されていた。


 仕方がなく警備隊の標準装備である普段着を着用し、大馬に股がったおっさんは愚痴を吐く。だが建て前とは別に……おっさん一人が戦力的に飛び抜けているこの現状、

 俺の用意した着ぐるみは、他の隊員へ回した方が良いと、バーツさん以外の者にも説得されたのである。


 ……この温度差が、今の空気を作っている……


 ああ~止めて……おっさん空気読もうよ。空気が張り詰めて『ピシッ』って鳴ったよ。重い、重た過ぎる。警備隊の皆さんに負のオーラが(まと)っているのが見える。……常日頃、苦労してるんだろうな……


「……隊長はどこまでも行っても隊長なんですね」


 一人の隊員が全員の気持ちを代弁して少し皮肉を乗せて毒を吐く。


「何を当たり前の事を。我輩の家族はお前達であり、この街の全てに住まう人がそうである。その為なら例えこの身にいかな事が起ころうとも、我輩は盾となった守り抜く所存である。ヌハハハッ!」


 隊員全員が頭をガクッとうなだれては、深い……それは深いため息を吐く。おっさんはこういうところでポイントを稼ぐから、なんだかんだと無茶をしても嫌われないんだろうな。


「貴方達……何かあったら王都まで来なさい。見てて不憫だわ……」


 無言で頷く隊員達。アイナさんも苦笑いだ。


 そんなアイナさんの今の姿は、俺が着ていたゴブリンの着ぐるみを着用している。美人なお姉さんが可愛い着ぐるみを着るこのギャップ! 


 正直クラッときた。周りの隊員達の皆さんも同じようで、目にハートマークが浮かんでいる。


「この歳でこういうのを着ると、ちょっと恥ずかしいわね。でも、みんな着ているし、クウちゃんが作ってくれたお洋服だもんね~」


「ね~なの」


 アイナさんの腕の中でもふられている俺は、可愛く相槌を打つ。ふふふ、ちょっと照れてるアイナさんがこれまた可愛い。


「師匠、凄く似合っていて可愛いですよ。それに師匠が着れないなんて言ったら、世の中の全ての女性が着れませんよ」


「ああ~、姐さんは可愛いんだから、もっと自信をもってください。でないとあたいらの方が余計恥ずかしくて、自信なくしちゃいますよ」


「そういう二人もとっても可愛いわよ。ネイもたまには可愛い服着てオシャレしなきゃ」


「クウが作ってくれたから、今回だけですよ。あたいみたいな大柄な女には似合わないですよ」


「ネイちゃん勿体ないな~、でも、ふふ……クウちゃんの作るお洋服って可愛い過ぎ。クウちゃんはこれだけで食べていけるね。

 まず王都の貴族が子供の為にこぞって買うでしょ。あと、詳しくは知りませんが、殿方が行かれる夜の舞踏会にも、

 こういうのが好きな方が多いと聞きますし、警備隊の方々はどう思われますか?」


 ニンマリとした顔で楽しそうに意地悪な質問するミーナちゃん。小悪魔め! 大人をからかって遊んでやがるな。


 目を逸らす隊員達。うん、分かるよ。俺もそういうの嫌いじゃないし、むしろ好みです。


「私達には貴族様の事は分かりかねます。んっんん」


「下品だぞミーナ。そういうのはあたいくらいの歳になってから言うもんだ」


「ミーナちゃんおげひんなの?」


「ちょ!? クウちゃん、違うわよ! おねえちゃんはまっしろできれいきれいよ?」


 これからウルフの群れに突っ込むと言うのに、俺達は緊張していなかった。いや、わざとそうした空気にしないよう、軽口を言い合ってたのかもしれない。


 これから行くのは死闘の地。みんな無事に帰るんだ。腕の中にいる俺を見下ろしていたアイナさんが微笑む。


 だから自然と俺も微笑み返して(なご)んだ。そうこうして、森へと辿り着いてから俺は、アイナさんの頭へと移動し、肩車をしながら彼女の頭に寄り掛かる。


 相変わらずサラサラで綺麗な銀髪である。彼女が歩を進める度に揺れ動き、月夜に反射して幻想的な光を放つ。ついつい撫でてしまうと彼女は嬉しそうに声を漏らしていた。


「ここからは我輩が先頭で行く。傷の癒えきらぬ奴のことだ……じっと動かず、傷を癒しているだろう。

 そうすると……うむ、ここから歩いて約三十分くらいの森の奥、そのどこかに身を潜めているに違いない。……皆、気を引きしめて参るである」


 静かに活を入れるおっさん。ファンシーな俺達の姿と空気のギャップが激しいなと内心ごちる俺。


「そっから先はあたいの鼻に任せてくれ」


「途中でも言ったけど、自分の身の安全を最優先に。あと、見つけ次第群れを叩いてボスをあぶり出す。長期戦の上に暗闇での戦闘になるから気をつけて……決して一人にならないこと。三人一組でなるべく固まって対処する事。いいわね?」


「「「「「「「「おう」」」」」」」」


 静かに気合いを入れ、森へと入る。


「ライティング」


 アイナさんが魔術を唱えると一人一人の頭の周辺にサッカーボール大の光の玉が浮き、辺りの闇を払う。


「クウちゃんのお陰で全力でいけるわ。それにもう回復しちゃった」


 手を伸ばしてポンポンと撫でるようなタッチをされる。俺の方は顔を上に上げて「ほえ~」と感嘆してる。


「アイナおねえちゃんすごいの」 


「ママって呼んでくれないのね。いいのよ? ママで! って言うか、ママって呼んで!」


 ……そんなに言ってほしいのか。よし、ならムリゲー指令を出して諦めてもらおう。ふふふ、討伐のご褒美は既にあるのだから。


「おおかみさんをいっぴきもにがさず、めっ!できたらよんであげるの」


 ふふふのふ~♪ 諦めるのなら今の内なのだ! 『二兎を追う者は一兎をも得ず』ってことわざが、異世界にもあるか知らないが、アイナさんにはここで身をもって体験してもらおうじゃないか。


「……ママ本気出しちゃうわ」


 ピタッと……そう、彼女の動きが止まった後、不気味な何かを俺は感じた。あれ?……なんかアイナさんの空気がおかしくね?


「ウルフが不憫である。オールラウンダーの称号を持つアイナ様に本気を出されるとは……我輩は奴との決闘以外はあまり出番がなさそうでありますな……」


 おっさん?……何しょげてるの?……


「アイナ様の全力だって!?」


「俺達は巻き込まれないよう、後方で待機してますね」


「森の形が変わってしまいますな……アイナ様、出来ればほどほどでお願いしますね」


 隊員の皆さん顔色が既に違っている。マジか……


「クウちゃん! 師匠にやる気起こさせちゃダメ! 師匠! 森を破壊しちゃダメですからね! 聞いてます?」


 その汗は何? 俺地雷踏んだ?


「姐さん、本気は不味いですって! あたい達がいるんだから……聞いてます? あちゃ~、嫌な予感がする」


 さっきからちょいちょいでるその『オールラウンダー』って称号? アイナさんって、生きるレジェンドとかなんかなのか?……や、やばいぞ。チートの香りがプンプンと立ち込めてくるような、そんな予感がする。


「お、おーるらうんだーって、なんなの?」


「少し説明が長くなるけど、簡単に言うと……オールラウンダーと言うのはクラスの一種で、あらゆる武器を自在に操り、またあらゆる武技を極め、納めた者……その中には当然素手による格闘術も含まれていて、

 さらに全属性魔術を使いこなし、全てのポジションで力を行使出来る者、そこから全能者こと、『オールラウンダー』って言われているのよ。

 世界で認定された人が十人もいない伝説のクラスで、師匠はその数少ない内の一人なんだよ。つまりもっと分かりやすく言うと、何でも出来る人ってことだよ」


 アイナさんの存在自体がチートだと!? ポンコツエルフの(よそお)いはカモフラージュなのか!? 


 うぅ~、分の悪い賭けをしてしまったよなこれ。やっぱ賭け事はダメだね……反省……


「クウちゃんぴんちなの……」


「うふふ、クウちゃんもうダメよ~~~♪ 悪いウルフはどこだ~♪ 良いウルフもどこだ~♪ みんなまとめて~どこだ~♪」


 エルフの美声をまさかこんな即興の詩で聞くとは、流石残念エルフのアイナさんだ。しかも結構うまいから、少しだけ腹が立つ。


「クウ殿、これも人生の勉強ですぞ」


「クウちゃんご愁傷さま……」


「姐さんと勝負はいくらクウでも無謀だったな」


 みんなヤレヤレって顔をしてるし……


「ま、まだわからないの! うぅ~」


 そうは言いつつも、人は失敗しないと学ばないと言うのは、父の言った通りですね。


 歩いてちょうど三十分経った頃であった。辺りの木々に何かの爪跡が刻まれており、おっさんと例の奴と激闘を物語っていた。


「我輩が奴と戦ったのがここ、ネイ殿、臭いはどうだ?」


 より声を潜めて辺りを窺う。場の空気がより引き締まる。


「このまま進んだとこからプンプンすらぁ。意外と近いぜ。向こうも気付いてるだろうから戦闘準備開始だな」


 いよいよか。皆、装備を構えて闇の先を見つめる。大規模戦闘がいよいよ始まる。大丈夫だ……みんなをきっと守ってみせる。


 ゆっくりと歩を進めた時だった。闇の奥から遠吠えがあがり、一斉に前方からウルフの大軍が川の如くこちらへ押し寄せて来る。


 だが、俺はアイナさんの事を思い知るのはこれからであり、彼女の舞台はこれからが序章だった。


 両手を高々と空へと向けて、マナの宿った、なんとも不思議な(いん)を含んだ声を奏でる。


「大地よ唸れ! 我が声を聞け! その身に寄り添う愚者に滅び戒める牢獄の檻を!! 【コンビクトケージ】!!!」


 突然大地が揺れ、周囲10キロ近くあるの森を、四方を覆うようにして現れた馬鹿デカイ檻が閉じ込める。そのあまりにも現実離れした光景に目を疑う俺達とウルフ。


「……うふふ」


 闇夜に木霊(こだま)するアイナさんの声。虫の鳴き声や鳥の奏でる音も聞こえない。キーンと耳鳴りがする中、彼女の小さな呟きが大きく聞こえる。


「……もう……誰も逃がさない……」


 ウルフの大軍が止まる。いや、後ろから押されて先頭のウルフは必死に前に出ないよう踏ん張っている。 あれ?……俺震えてね?


「……絶対……確実に……殺す……」


 みんな無言だ……時が止まったように静寂だ……


「みんな……死ね!!!!!!」


 静かに呟いたそれが開始の合図となった! 無詠唱で火・水・氷・風・雷・土・闇・光の玉が、槍が、剣が、矢が、斧が、次々とウルフへと向かい、燃やす! 溶かす! 切り裂く! 焦がす! 貫く! 消し去る! 爆ぜる! 


 ……もう一方的な殺戮である。慈悲の欠片もない。本当にこの人は俺の知っている、あのポンコツエルフのアイナさんなの?


「ぼ~~っとしないで行く……パーティーで撃破数は分かるから……そうね、一人30匹以上討伐すること……出来なかったら……罰よ。

 クウちゃんはいいからね~、あらっ? 寒いの? ママにしっかりついているのよ」


 アイナさんの後頭部に肩車をしている俺はガクブルしてた。本当に彼女なのか? そう思い、後ろを振り返った彼女のその口は……三日月型に笑っていた。


「姐さんの……クレセントムーンがでた。あれはマジだ。本気だ! あ、あたいは罰が怖いからやるぞ! ミーナ、お前の護衛してる場合じゃなくなった……が、がんばれ!」


 真っ青な顔をして特攻を仕掛けるネイさん……追い詰められた者特有の素早い行動は、アッサリと仲間を見捨ててた。


「ちょ!? ネイちゃん酷い! 手伝ってよ~~~! あの夜はもういやぁ~~~~!」


 ミーナちゃん必死である。過去に何があった?


 必死な形相で特攻をかけるネイさんとミーナちゃん。そんな二人を見てみんな恐怖に駆られ、ウルフへと向かい走り出す。


 彼等を見届けたアイナさんは森の中を悠然と歩く。そしてその度にウルフの死体の山が幾つも出来上がる。


 何体かウルフ以外のモンスターも襲い掛かって来たが、そんな些細(ささい)なことなど関係無く、死体の山へ加わっていた。


 そして、ウルフへと駆け出した警備隊の面々はと言うと……


「ベアジャブ! ベアストレート! ベアアッパー! ……浮かせてからのベアキック! ベアタックル! ベアニーキツク! ベアローキツクからのベアハイキック! 止めのバーサークトルネード!!!」


 オーバーキルな上に清々しい笑顔……楽しんでいる?


「亀の固さを舐めるなよ! 貴様らの牙など、この耐久力の前ではこそばゆいわ!」


 一方的に攻撃してる。おおー! 地味だけど安心して見てられる。


「ラビット殺法! とうっ! 天空垂直刺し! 我が天空に届かぬ下朗共よ! 我が兎脚の前に平伏すがいい! とうっ!」


 上空にいる時間が長いな……アレじゃウルフは降りた瞬間にしか狙えないけど、みんな巧みに連携しているから、そこも邪魔されて狙えない。


「オーガの腕力と再生を舐めんな! その程度の噛みつき等温いわ! おらぁ!!」


 既に捻り潰している。豪腕の前に下手な武器は不要か。


「ゴブリンと警備隊の力をなめるなぁ!! その力、只の二倍と侮るな!! 比翼三包陣、突撃!!!」


 こちらはチームプレイが見事である。そしてゴブリンのステータス上昇効果を発揮して、余裕をもって殲滅してる。


「コボルトのスピードを舐めるなよ! そんな噛みつきなど、当たらなければどうということはない。そこか!! 見える!!! 見えるぞ!!」


 こっちはスピード特化を活かした攻撃を繰り広げている。ちょっと別のステージにいってる感があるけど……


「ホーリースライムだってやれるんだ! いくらでもマジックポーション飲んで回復してやる! キュア、えいえいえいえいえいえいえい! キュア」


 『ぷるるん』言わせながら戦う姿はどこか愛嬌がある。けど傷つけばその場で回復する彼は、コンスタンスに討伐数を稼ぐ。


「ウルフ如き獣がタイガーの俺様に敵うと思うなよ! タイガージェノサイド!! 力が溢れる!! 俺を止められると思うなよ!!!」


 パワー、スピード、テクニック、その3つが合わさって無双をしている。あれは格の違う魔石だったもんな。


 むぅ……みんなノリノリである。着ぐるみの効果は一応見た限り抜群のようである。普通の状態でも強い彼等が、

 何倍も動ける上に能力の恩恵も授かっている……もはやチートだな。邪神め、悔しがるがいい。


 で、こうなると不満を爆発させるお方が約一名いた……おっさんである。


「ぬぅ~、やはり我輩も着たかったのである。クウ殿!! 次こそ、我輩にも一着」


 おっさん……襲い掛かって来るウルフを余裕で千切ったり、潰したり、地面や木に叩きつけているあんたにはいらんだろ!


 規格外だと思っていたが、このおっさん相当な実力者であった。


「ガイア、おでましよ。あれは譲るからさっさと片付けなさい。……今度はしくじらないようにね」


 のそりと何かが動く気配……ギラギラとした目だけが闇の向こうに見える。  


 おっさん! 負けんなよ!


「今度は不覚をとりませんぞ。掛かって来るが良い!! 今度は一対一のサシで勝負である!!」


 デカイ!! 体長四メートルはゆうにあるんじゃないだろうか?……首の所に怪我を負っている。あれがおっさんが決死の覚悟でつけたキズか!今度は負けるなよ、おっさん!


 ヒシッと、アイナさんの頭に抱きつく力が込もってしまう。


「GRUUUUUUUUUU!」


 群れを殺られて怒り狂ってるハイウルフ。その身から溢れでる殺気……二人……いや、二体の獣が一斉に飛び掛かった。


 ハイウルフはその巨体を生かしおっさんに体当たりをかます。おっさんはそれを腰を落として左肩を前に突きだし、跳ね退けようとした。


 両者互角の威力でその場に佇む……だがハイウルフは巨体に似合わぬスピードでおっさんの頭を噛み砕こうと迫る。


 そこをすかさずおっさんは、開いた口へと手を伸ばし、その大きな牙を両方とも掴む。


「その首で我輩の力を受けきれるか、いざ勝負!」


 おっさんは両手に持った牙を時計方向へと強引に回す。膨れ上がる筋肉。ミシミシとしなる音が聞こえて来る。


 徐々にだが、その力に負けつつあるハイウルフは、姿勢を横へと倒して、その腹を空へと向ける。するとおっさんは直ぐ様馬乗りになり、牙を掴んでいた左腕を放すと、ハイウルフの腹へと突き刺した。


「GAIIIII!!?」


 暴れるハイウルフ。だが馬乗りの状態から微動だにしないおっさん。徐々に力を失っていくハイウルフは次第に動かなくなり、遂に決着がついた。


 肩で息をするおっさん。アッサリと勝負がついたように見えても、その実は、見た目ほど楽な死合ではなかったようだ。


 ダランと舌を出して息絶えた宿敵を、熱の冷めた目で見下ろし、語りかける。


「貴様の首の傷がもし癒えていたら……こうはならなかった筈である。貴様の最大の過ちは我輩に止めを刺さずに逃げた事である。

 殺れる時に殺らねば、殺られるのは己である。……いささか賢く成りすぎたのが仇となったな」


 完全決着がつき、空気を読んだ俺はここでおっさんの元へと飛んで行った。


「おじさんやったの。いたいとこあったらクウちゃんなおすの」


 だけどおっさんは軽く手を振ると、よっこらしょとその場に座る。


「我輩ピンピンである。だからクウ殿はアイナ様からはなれぬようにしてくだされ」


「はぁい♪」


 要らぬ心配であったようだ。……それよりも心配なのはこっちの方か……違った意味で……


「うふふ♪ うふふふふ♪ おでこの『チュッ』はこれで完了ね。あとはサクッと纏めて殺りますか……混沌より淵よりいでしものよ……」


 いかん。これまでの経緯を見ていると、デストロイモードのアイナさんは無茶する可能性大だ。ミーナちゃんやネイさんの言葉から、

 森一帯を吹き飛ばすくらいのことをしてもおかしくない。なら、みんなを守るにはこれしかない!


「おじさん! クウちゃんおねがいあるの! しばらくクウちゃんのそばにいてなの!」


「ぬ? 我輩は構わぬがクウ殿どうなされた?」


「あとでせつめいするの。いまはきんきゅうじたいなの!」


 詠唱を破棄し、こちらを伺うアイナさん。チャンスだ!


「クウちゃんどうしたの? もうすぐ帰れるようにするからもう少しだけ我慢してね。ふふふ、混沌より淵よりいでしものよ……」


 …………みんなの為だ俺!!! 今は俺は赤ちゃんのクウちゃん……九条空夜は今はどっか行け!


 プルプルと震える俺は、赤面する顔を必死に堪えてアイナさんに近寄る。だぁ~!!! 漢は度胸!!! 負けんな俺。


 アイナさんの前髪を掻き分けて……


「ママ、ごほうびさきばらいなの。いつものやさしいママにもどってなの……ちゅ♪」


 やっちまったよ……あ、アイナさん、(ほう)けた顔をして俺を見ている。何されたかわかってないな……むう!!! こっちなこんな思いをしてるのに!!!


「…………!!!!???? ふぁ!? ふぁあああ♀●▽%⇒※♀◇●▼仝♂◆%○▽!!!!」


 やっと理解が追い付いたのか。声にならない雄叫びをあげ、真っ赤になったアイナさんは幸せな顔をして気絶した。


「これであんぜんをかくほできたの! おじさんはここでみんながくるまでママをごえいなの」


 彼女の頭に移動して、俺のあんよを入れて膝枕?をする。ダメだ……アイナさんの顔を見る度にさっきのシーンが脳内再生される。あう……


「ヌハハハハハ! 了解したのである。まさかアイナ殿が倒されるとこを見れるとは、誰に言っても信じてもらえんであろうな」


 にっこり笑うおっさん。俺は今結構きてる。さっきのシーンが脳内再生されてて恥ずかしいのだよ。だからやけくそ気味に言う。


「クウちゃんがさいきょうなの!」


 目が点になったおっさんはこっちを見て盛大に笑う。


「くっくくく! あっはははは! 愉快愉快。我輩さらにクウ殿の事が好きになったであります。これからも良き友人でいてくだされ」


 元おっさんだから仲良くしますか。こうしてみんながウルフを駆逐し、戻ってくるまでおっさん同士、戦場で親睦を深めた。


 ゆっくりと日が射し始め、暖かくなっていく。さあ、みんなで帰ろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【名前】クジョウ クウヤ

【年齢】12

【性別】男

【種族】猫人族

【クラス】着ぐるみ師


【レベル】8

【HP】14/14 +70

【MP】1,210,001/1,210,001 +120

【力】9 +10

【技】23 +20

【耐久】9 +30

【敏捷】30 +60

【魔力】10701 +60

【運】9 +20

【魅力】10022+50

【もふもふ】∞


【スキル】

調理LV1  家事LV1 農業LV1 もふもふ魔法LV2 魔力操作LV1+1 +氷属性魔法LV1 +氷属性耐性LV1 +MP回復速度上昇LV2


【アビリティ】

究極のマナ味 着ぐるみクリエイト 究極の抱き心地 育成速度遅延 言語翻訳・翻訳 +浮力上昇 


【加護】

サーヤ女神の加護

トーヤ男神の加護

聖龍皇アドアトラスの加護


【アイテム】

バンパイアニードル

フェアリーリング

聖龍皇皮のリュック

特別転生の番号札

絹の袋

ゴブリンの着ぐるみ


【着ぐるみ】

アイスバードの着ぐるみ 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ふつおたコーナー(MC:たまご丼)


ペンネーム「父の背中に憧れていた」さんより頂きました


Q:幼い頃から父の働く姿に憧れ、同じ道へと目指してきました。でも先日、目を疑う父の姿を見てしまい・・私はどうすれば良いでしょうか?


A:ネガティブにお父さんを見ちゃダメダメ! お父さんの新たなステージに寧ろ応援してあげなきゃ! 父の背中に憧れていたさんならポジティブにいけるいける! というわけでシーユー♪


街娘:例のアレ見た? なんかキモ可愛いよね~。私なんか一瞬抱かれたいって思っちゃった。え~、ありだって。


ダ:父さん! 俺警備隊入るよ!

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