じゅんびするの
「ありがとう! 坊やは街の救世主だ。街を代表して感謝する。本当に本当にありがとう!」
半泣きで礼を述べるバーツさん。そして同じく礼をする一堂……これからウルフ討伐の奇襲を仕掛ける前なのに、まさか救世主になるとは思わなかった。
そう、あの後が大変だった。ガイアによる突然の着ぐるみ試着シーンを見せられる一堂。一体誰得なの?的なイベントが強制的に始まり会議室は阿鼻叫喚の地獄と化した。
若干回復しHP1状態でやっと起き上がったとしても、着ぐるみを着たおっさんを見てオーバーキルを起こし、また再起不能になると言う悪循環が永遠と起こる。
俺は早速おっさんに作った借りを返して貰った。そう、まさかこんな形で返して貰うとは……
「おじさん、クウちゃんへのおれい、いまかえしてもらうの! いますぐおうちにもどっておようふくきがえるの! はやくなの! はんろんもめっ!なの」
「ぬぅ……クウ殿が言うのなら我輩分かったのである。折角皆にこの服の良さを伝えようと思っていたのであるが致し方がない。
皆も疲れが貯まっているのか、堕ちるように寝ているので、その間に我輩着替えて来るのである」
「はやくいくの! じかんがもったいないの!」
「了解したのである。しかしこんな事で大恩の無しにするとは………はっ!? これから戦場に向かう我輩に一切の迷いや憂いを持たせぬ為……なんと謙虚な子であろうか! 我輩ますますクウ殿が気に入ったのである! ヌハハハハ!」
おっさんが外へ颯爽と飛び出してから数分後に悲鳴が聞こえて来た仕方あるまい。こうして一人一人にもふもふ魔法で生み出したペロ(MP1消費)を口に投入しては、再起不能から復活した人に心から礼を言われ、今に至る。
俺は悟った。着ぐるみは着てはいけない人種がいるという事を……。
前世の着ぐるみ師?達がいかに夢と平和を守っていたか、その身をもって知るのであった。
「ネイおねえちゃん、もうだいじょうぶなの。いいこ~いいこ~なの」
「うぅ~怖かったよ。あたい、あたい……」
見た目は大きくとも、すっかり幼児化してしまったネイお姉さん。今は日頃のお返しに優しく介抱した。
「クウちゃん、ママも暖めて! 寒気がとれないの……」
「もふもふプリーズ! お願いクウちゃん……」
「バーツ様! あなたの部下でしょ! ちゃんと手綱を取ってくださいよ! 今後もあれが起こるようならギルドは今後一切協力しませんからね!」
「無茶を言うな……あれをどうしろというのだ。あぁ~また心労が……」
カオスである。ここはもう俺が仕切ろう。今なら一歳児の俺だろうと聞いてくれる気がする。と言うか、俺の着ぐるみのせいでもあるし……
「みんなきいてほしいの! おようふくはおじさんでもちゃんときれたの。だから、けいびのおじさんたちのおようふくできたら、
おおかみさんのとこにめっ!しにいくの。じゅんびができたら、アイナおねえちゃんのところにしゅうごうなの!
いどうしながらさくせんねって、しつもんあるならいまのうちなの。……ないようならしたくかいしなの!」
こうしてる間も件の狼は傷を癒し、虎視眈々とこの街を狙っている。今は一分一秒だって惜しい時なのだ!
……って、あの状況を作り出した俺が言うのもなんだけどね。
「じゃあ、おばちゃんは夜食の準備をするわ」
「俺達は馬の準備と装備の用意! それと出発後、街の警の備見直しを行うぞ!」
「ギルドからも警備へ人を回すわ! それで街の防衛を強化してください!」
「ネイ、私達は装備の点検と確認。それと警備隊ともう一度確認を取ってから軽く仮眠するわよ!
ミーナは大規模戦闘を経験するのは今回が初めてだから、もし今から寝れるようなら先に休みなさい。
長丁場の上に数が多いから覚悟しなさいよ。クウちゃんは基本ミーナから離れちゃダメよ? 但し、最初の切り込みの時に派手にやるからその時はママの所に戻って来る事。
後は状況しだいでみんなの所に移動ね。ネイはミーナのカバーに入って。……質問なければ行動開始!」
「分かったわ師匠! 狼なんて返り討ちにしちゃうんだから!」
「一丁派手に暴れますか。姐さんの本気を久しぶりに見られるかもしれないし」
各々やることを再確認し、それぞれ動き始める。ざわめく会議室内はやっと一歩を踏み始めた。
「エイシャ様! 魔石持ってきました!」
「お~い、間にあったか? 商会からいくつか見繕って集めてきたぞ! これで足りるか?」
「こっちにおねがいなの! アイナおねえちゃんなんちゃくつくればいいの?」
「バーツにエイシャ……私達三人と警備隊二十人と……クウちゃんに耐久性の高い魔石を……計24個見繕って頂戴。後は街の警備の人数も入れるなら、その分もお願い」
「……坊やも連れていくのですか?」
「アイナ様? 理由があるのでしょうが……」
「申し訳ないけど、クウちゃんの為に聞かないでくれないかしら。今でも結構ギリギリなのよ……」
「アイナ様がそう仰るなら我等はそれに従うまでです。それに聞くのはなんだか野暮な気もします」
「私はクウちゃんが無事に戻ってくればいいです! 後でもふもふさせてね~♪」
「だいじょうぶなの! クウちゃんはおねえちゃんにまもられてるいるの」
「クウちゃんには指一本だって触れさせないわ!」
「あたいの目の届く範囲に居れば、ミーナも含めて大丈夫だ!」
魔石を見繕い、あれこれと決めていく。集まった魔石はゴブリン、コボルト、オーク、オーガ、グリーンラビット、ロックタートル、アーマータイガー、アイスバード、バーサーカーベア、ホーリースライムの計10種類。
この中で実物はゴブリンしか見た事がないが、それでもよく聞く定番のモンスターが何体かいる。
アイナさんは各々にあった魔石を選び、警備隊の人と打ち合わせをしている。俺はその内の1つの魔石に興味を引かれる。決まってしまう前に交渉しなくては……
「アイナおねえちゃん、おねがいがあるの。クウちゃん、このアイスバードのませきがほしいの」
「あら? クウちゃんにはロックタートルを着てもらおうかと思ってたんだけど、どうして?」
あれ? 何で皆さん俺に注目してるの?……なんかまずったか?
「かめさんもいいけど、とりさんならクウちゃんもまほうがつかえるとおもったの」
「確かにアイスバードなら離れた相手を凍らせる【コールド】に氷の槍を飛ばす【アイスランス】が使えるけど、
う~ん、あの魔法をクウちゃんは使っているから魔力操作の基本は抑えてるし、まぁいけるかな?
ちなみにクウちゃんの魔力値とMP保有量はいくつなの?」
これから向かう所は戦場だ。嘘を伝えて誰かが大ケガでもしたら、俺は自分を許せないだろう。だから、正直に言おう。
それに他の人のMP保有量を俺は聞いた事がないし、父は規格外の人(龍)だったから比較対象にすらならない。
「う~んと……きのうれべるがよっつにあがって、いまはまりょくちが1まんと、MPが109まんなの。アイナおねえちゃん、クウちゃんまほうつかえる?」
「「「「「「「「「「はっ?」」」」」」」」」」
目が点になる一堂……な……なんだこの空気。ひょっとして少ないの? それとも多いの? だって、だって……人と出会ってまだ二日だし……世間一般の基準なんて知らないし……ぐすっ……
「わ~~~!! クウ泣くな! お前は何にも悪くないぞ。よしよし……あたいもびっくりだよ」
「嘘………私クウちゃんに負けた?、っていうか師匠ですら……」
こめかみを抑え、ピクピクしながらアイナさんは語る。
「あ~~~分かってると思うけど、私も事後処理の事を考えると、もう一杯一杯なのよね。みんなクウちゃんには大きな借り作る訳だし、好奇心猫を殺すから……
ハッキリ言うわ! いざとなったら手段選らばないから他言無用で」
物凄い笑顔で皆を見るアイナさん。笑顔の脅迫だ……皆さんなんかごめんなさい……
「領主の儂が禁を破った者を罰すると約束しよう。また、禁を犯そうとする者に対しても同様に罰するから安心して下さい。
……それ以前にアイナ様に暴れられたら街が跡形も無くなりますよ」
「ギルドも同じく。私地方に飛ばされたくありません」
なっ!? アイナさんってそんなに凄いの? たまに壊れるエルフなのに……
「徹底して頼むわ。んっんん! じゃあ、クウちゃんはアイスバードの服で少し練習してみようか? そしたらご飯食べて、ママと少しおねんねしましょうね」
アイナさんごめんよ~~~! 微妙にお疲れ毛が跳ねている。せめて仮眠の時にもふもふしてあげよう。後、ドサクサに紛れてママって……
「はぁいなの。じゃあさきにおようふくつくるの」
机の上の魔石を全て着ぐるみに変えてから、俺は早速アイスバードの着ぐるみに着替えた。その際に何人か悶えてたが無視をした。
キレイな水色の雀みたいに見える。両手は羽だしこれで翔ぶのもありかも。着心地はもちろんいい。よし、ステータス確認だ!
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【名前】クジョウ クウヤ
【年齢】12
【性別】男
【種族】猫人族
【クラス】着ぐるみ師
【レベル】4
【HP】3/11 +70
【MP】1,089,911/1,090,001 +120
【力】5 +10
【技】11 +20
【耐久】5 +30
【敏捷】14 +60
【魔力】10301 +60
【運】5 +20
【魅力】10010+50
【もふもふ】∞
【スキル】
調理LV1 家事LV1 農業LV1 もふもふ魔法LV2 魔力操作LV1+1 +氷属性魔法LV1 +氷属性耐性LV1 +MP回復速度上昇LV2
【アビリティ】
究極のマナ味 着ぐるみクリエイト 究極の抱き心地 育成速度遅延 言語翻訳・翻訳 +浮力上昇
【加護】
サーヤ女神の加護
トーヤ男神の加護
聖龍皇アドアトラスの加護
【アイテム】
バンパイアニードル
フェアリーリング
聖龍皇皮のリュック
特別転生の番号札
絹の袋
ゴブリンの着ぐるみ
【着ぐるみ】
アイスバードの着ぐるみ
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氷属性魔法LV1、氷属性耐性LV1、MP回復速度上昇LV2が付いた。俺のMP保有量はチートみたいだから、撃ちっぱなしでもMP回復速度上昇の恩恵ですぐに回復が追い付きそうな……
深く考えるのはよそう。おっ? 魔力操作LV1+1となってるから、同じレベルの奴は上乗せされるのか!
これは有難い。アビリティも浮力上昇がついてる。詳しく分からないのが残念だ。そのうち鑑定スキルを持ったモンスターを狩れればいいな。
アイナさんに戦力報告をして氷魔法の練習をする時であった。警備隊の制服を着たおっさんがひょこりと戻って来たのである。
「いや~~遅れて済まない! 我輩ちょっと皆が疲れ寝ている間に着替えて来たのである。どの辺りまで話が進んだのか教えてほしい」
さっきまでの活気に溢れた空気から殺気溢れる空間に大変身……
「クウちゃん……魔法の試し撃ちしようか? そうね~、アイスランスをガイアに向かって撃ってみようか」
あっ、目が笑ってない。あれは本気と書いてマジと読む目ですね……
「ひとにむけたらあぶないの!」
「撃ってくれないと、すっごい!ちゅ~~~~しちゃおうかな」
アイナさんはその妖艶な唇を舌で舐め潤すと、両手を俺の頬に添えて俺を逃がさない。目を閉じ、本気でキスをしようと顔をかしげた処でポキンと、俺の中の何かがアッサリと折れた。
「いえっさーなの!」
おっさん許せ……恨むなら自分を恨んでくれ!みんな黙認してるし、まさか異世界でこの言葉を使うとは……何故こうなった?
「待つのである! 大事な戦の前なのである。話し合うのである!」
「あいすらんすなの。えいっ!」
おっさん相手とはいえ危ないので消費MP1で俺は発動させる。部屋の中には兵士が一般的に持つとされる二メートルサイズの氷の槍が、所狭しと宙に現れ部屋を埋め尽くした。
「ぬおっ!? これは不味いのである!」
一斉に放たれる氷の槍。おっさんは二階の窓を突き破って飛び降り、槍の雨を咄嗟に回避する。突き破られた窓へと急いで向かい確認する。
おっさんは無事だった。怪我というものは一切していない。
だが……
窓際一面の壁が氷の槍でズタズタに破壊され、一堂窓際に集まり眼下を見下ろす。……そこには氷の槍の山が出来上がっていた。息を飲む一堂……当然俺へと視線が集まるのであった。
「アイナ様……この坊やは一体!?……いや、聞かぬ約束でしたな。しかし坊やは凄いな。我が領地にすまないか? 儂はいつでも歓迎するぞ」
「ご、ごめんなさいなの! おかねためてべんしょうするの!」
お屋敷ぶっ壊してしまった!? ど、どうしよ。牢屋に入れられるのかな?
「坊やがそんな事を気にする必要はないよ。子供が元気なら壁の一枚や二枚何て事ない。よしよし」
俺の頭をナデナデするバーツ様。すげぇ~、壁を壊しても怒らない何て、器がでかすぎる!
「この魔力……アイナ様の隠し子? いや、猫耳だしハーフ? どっちにしろ有望株」
王都に行ったらちゃんと登録するよ。
「あはははは……無詠唱と大魔力による大質量と多重並列具現化現象のオーバードライブ……私は魔術師見習い……あはははは……ぐすん……」
ミーナちゃんはしゃがみこんで床にのの字を描いてる。あっ!……目が死んでる。ミーナちゃん……俺は邪神のせいでチートだから君の方が本当は凄いんだよ?
ポ反吐までして修練して、一から力を学ぶ事の方がどんなに偉い事か……あ~~~~! 本当の事を言えたらどんなに楽か……
「あはははは! クウは不思議で面白いから一緒にいると楽しいな。ギルドで登録したら、一緒にパーティー組もうな。あたい今から楽しみだよ」
「クウちゃんもネイおねえちゃんといっしょならあんしんなの」
ええ~! もちろん喜んで。俺をいつも守ってくれるネイさん。まだ短い付き合いだけど、もし姉がいたらこんな感じなのかなと思ってしまう。
「クウ殿はまさに神が遣わした子だ! この力、我輩たぎってきたのである。ハイウルフめ、貴様の首洗って待ってるがよい! ヌハハハ」
ちょっとだけドキッとした。神が遣わしたか……邪神の意図しない形へなったけど、半分は合っているし、おっさんってどこか油断出来ない鋭さを持っている。
「クウちゃんは可愛くて本当に凄くて面白いね。私の人生の中でも君みたいな子は初めてよ。じゃあ、ご飯にしましょ。
ミーナ! いつまでもいじけてないの。貴女は貴女よ。魔術とは己と向き合い真理を探求する道の事。他の人と比べる事に意味はないわよ」
「はぁぁぁい……ダメね。こんな事で挫けちゃ!よ~~~しやるぞ! でも少しだけ慰めて、クウちゃん」
ミーナちゃんは俺を拾い上げるとおばちやん達の所で夜食のスープを貰い、しばらくしてから俺達は仮眠を取り、夜の内に出発するのであった。
ふつおたコーナー(MC:たまご丼)
ペンネーム「隠居して心を癒したい」さんより頂きました
Q:私の職場に普段は優秀なのですが、時々手がつけられなくて困ってしまうがいます。そのおかげで心労が貯まり寿命が縮んでしまいます。儂はどうすればいいでだろうか?
A:自分の下に名前だけの適当な役職を作って責任を押し付けちゃえ! 人生楽したもん勝ち! 隠居して心を癒したいさんならいけるいける! というわけでシーユー♪
バ:また報告書が何々、街で不気味な笑い声をあげた2Mを越すマッチョなゴブリンが夜に……儂にどうしろっていうんだ……