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異世界に転生しました。

閲覧して下さる皆様に感謝を!

 思い返せば特にこれといった人に自慢できる人生ではなかった俺、名前は「九条(くじょう) 空夜(くうや)」。


 年齢はビンテーシ物みたいに味が出てくる52歳、会社勤めのサラリーマン。他人から見ればどこにでもいるモブキャラの一人、それが俺だった。


 家族はいないので自由気ままな独身貴族……今日、この日までそれなりに薔薇色な? 人生だったと思う。


 そして、そんな通勤勤めも素敵な自由気ままな老後まであと僅かといったところだったのになぁ……どこか地方に家でも建てて、余生をまったりと農業ライフでもしながら過ごそうと、人生設計を立てていたんだが……


 俺のささやかな夢は田舎でスイカでも育て、それを近くの小川に浸してキンキンに冷やし、お日様の下でビールを片手に、スイカをツマミにして楽しむ……あぁ~、そんなささやかな贅沢をしてみたかったのだが、不幸って奴は突如として現れては動き出し、俺の人生に終止符を打ちつけた。


 だけど、俺もタダで死んだわけじゃない。電車通勤の俺は今日も満員電車に乗る為に、駅構内でじっと電車が来るのを待っていた。


 すると俺の前に自分とは別次元の人生を送るであろう見目麗しい………ようするにイケジョ&イケメン爆発しろ的な小学生の兄妹がいた。


 今日は普段より人が混雑しており、溢れかえっていた。かくいう俺も背中を押され……その結果、構内の人ゴミに押された形で妹さんは線路の上へと落とされてしまった。


「今助けるぞ(さや)! 兄ちゃんが行くからじっとしてるんだ!!」


 落ちる前に手を伸ばしたが掴めなかった兄。そして、颯爽(さっそう)とかけ降りる姿はやはり子供でもイケメンだった。


「痛っ!! あ、………足が痛くて起き上がれない………冬夜(とうや)兄さん………」


 落ちた際に強く打ちつけたのか、痛みのせいで涙目になり、立ち上がれない少女は不安気に顔を歪めていた。


 周りを見渡すと、俺と同じく突然の出来事に立ち尽くす大人達ばかりで、誰も助けに向かわない。それを見かねたお兄ちゃんの方は助けを求め叫ぶ。


「誰か手を貸してください! お願いします!」


 妹を抱き抱え、構内へと持ち上げようとするが、如何(いかん)せん男の子とは言え、子供一人の力ではうまくいかず、周りは狼狽えているばかりで一向(いっこう)に手を差し伸べられない。


 この現状を見かね、俺は(がら)じゃないと思いつつ、上着の背広を脱いで人垣を掻き分けて進む。そして、線路の上でかいがいしく妹を抱く兄を見下ろして、俺は声を掛けてから初めて線路へ降りた。怖っ……


「っと……男の子だな、偉いぞ!! さすが、お兄ちゃんだ」


 そこまではしっかりと記憶に残っていたが、その後で俺はどうなったかと言うとご想像通り……二人を助けた(のち)、俺はマヌケなことに足を挫き、逃げ遅れてプチっと電車にひかれて逝ったと思う……そう、死の恐怖のせいか……この辺りの記憶があやふやなのだ。


 しかし……人生なんてあっと言う間だな………幸いというか俺は天涯孤独で、里親になったじいちゃん以外に家族と呼べる者はいなかったし、コミュ症で友人も(ろく)にいなかったので、亡くなったとしてもそれで泣いてくれる人も余りいない寂しい男だった……だが、まあ~これはこれで満足だ。


 だけど、この世にまったく未練が無いわけではないが、仮にも幼い命を助けて逝くんだ、顔も見た事のない両親もきっと納得してくれるだろう。

 だから、この兄妹も残りの人生をいっぱい謳歌(おうか)して欲しい。人は自分の子で無くとも、この歳までくると(いつく)しみ、愛することが出来るんだな。今なら分かるこの想い。


 だから後悔が余り無い事から、そんなことを死の間際に思って逝けたのかもしれない。



 ………………

 …………

 ……

 …



 気がつくとそこは役所や銀行のような場所だった。そして、俺は受け付け前にある長椅子に腰を掛けていた。思わず……


「は!?」


 と、(つぶや)いてしまった。


「九条 空夜さ~ん! 九条 空夜さ~ん! こちらの番号札を持って特別転生者の受け付けまでお願い致します。…………あっ!………やっとお会いする事が出来ました」


 混乱の最中(さなか)、俺を呼んだ女性の方へと顔を向けると、その容姿に驚いた。だって! 天使様ですよ!? いや、この場合は女神様なのか? 

 背中から伸びる真っ白な羽。頭上には光輝く煌めく綺麗な光輪。そして、腰まで伸びる艶やかな金髪に素晴らしい体形のプロポーション。


 超がつくほどの美女である。コミュ症な俺には直視するのも畏れ多い次元の彼女は、これまたとても優しい笑顔で俺に微笑んでくれる。眼福やね~♪


 顔を真っ赤にしながら慌てて視線を反らし、ついでに周りを観察すると、俺と同じように女神様や男神(おがみ)様に名前を呼ばれる老若男女の人達が大勢いた。


 こちらが周りを観察していると、目の前までやって来た女神様は、優しく俺の手をとって受け付けの椅子まで案内してくれる。


「わたくし、第2級神一種(人属)限定のサーヤと申します。九条様の転生の担当をさせていただく事になりました。

 禁則事項で答えられない事が御座いますが、それ以外の事ならお答え出来ますので、分からない事がこざいましたらなんなりとお申し付け下さい」


 落ち着け俺……このままじゃ逆に失礼だよな。


「あのすみません。ではその前に色々教えて欲しいのですが、その……よろしいでしょうか? あと、神様に様付けされるような者でもないので、出来れば呼び捨てにしていただけますか?」


 突然の出来事に流されていた俺だが、少しづつだが、落ちついて来たのかもしれない。女神様はそんな俺を見て、軽く微笑んでから、少しだけ口調を崩してくれた。


「では、空夜さんと呼ばせてもらいます。後……私の事も出来ればサーヤと呼んでください」


 すみません!! ムリゲーです! 女神様を呼び捨てにするなど、俺のハートは強くないんです! 言わばガラスのハートなんです!!!


「神様を呼び捨てにするなんて、恐れ多いです!!!」


 ちょっと残念そうな顔をする女神様は、それでも説明を続けてくれた。


「そうですか?……とても残念です。では説明の続きを……突然の出来事に驚かれていると思いますが、その辺りのことも含めて説明しますね」


 驚きの9割は女神様によるものですと、喉まででかかったが、それを言う度胸は俺にない……


「よろしくお願いします。で、まずここはどこで……………その、やっぱり俺は死んだのでしょうか?」


 流石に俺でも、今のこの状況と最後にぷちっと逝った記憶かあれば、だいたいの予想がついたのだが……やはり誰かに言ってもらうことでちゃんと整理をしたかったんだと思う。


「ここは空夜さんが想像している通りの場所……所謂(いわゆる)あの世と呼ばれる所ですよ。

 ただ、厳密に言うと……過去・現在・未来のあまたある世界へと繋がる場所でもあるんです。

 そして、残念ながら……空夜さんはあの世界での人生を終えられました」


 女神様はうつ向きながらもそう説明してくれた。


「なるほど、つまり人の理解の越えた次元の場所って事ですね。……それはそうと顔を上げてください。

 死んだ俺が言うのもなんですが、立派な最後を迎えられたと思いますよ。あの兄妹も助かったみたいですし、悪い結果では無かったから後悔なんてしてませんよ」


 あはは! と笑った後……ニッコリと頑張って笑顔を製造してみた。俺の笑顔では、作ると言うより製造という言葉の方が似合うからだ。つまり、余り慣れてないんです……


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 悲痛な顔をこちらに向けた女神様を見て、やっぱりやってしまったかと後悔しながら、空気を変えようと、俺は質問をすることにした。


「そういえば俺が助けたあの兄妹は、その後どうなりましたか?」


 女神様なら教えてくれるかな? と思い、ダメ元で聞いてみる。


「大丈夫ですよ……禁則事項もあって全てをお伝えする事は出来ませんが……幸福な人生を全うし……一つの想いを胸に抱いて……あの世に召しあげられましたから……」


 あれ!? 過去形? それとも運命と言う奴で先の未来も見えてるのかな? あと……


「あの~……一つの想いって何の事ですか?」


「……禁則事項なので言えません。ごめんなさい……っていけませんね。ちゃんとお仕事! お仕事!!」


 女神様はそう儚げに言うと再度、元気な笑顔を作り、説明を続けてくれた。ちょっと気になるが、目の前の笑顔にハートを鷲掴みにされる。

 本当、耐性ないな~俺、と痛感する。無理も無いのである! だって超綺麗なんだもん!!


「あの~……空夜さん?」


 いかんいかん! ちゃんとしなければ。女神様が心配してこちらを(うかが)っている。


「あっ、はい。ちゃんと聞いてますよ。あのでは、あの子達の無事と幸せなその後が分かったので転生? の説明をお願いします」


 そう! 転生である!! ファンタジー物で定番であり、チートなスキルを貰って色々と無双しまくりなあれなのである。


 この歳になってもやはり胸の鼓動が高まるのである。そして、重要な事を女神様は教えてくれた。


「実は空夜さんは通常の転生ではなく、特別な転生を(おこな)っていただきます」


 なんと!? 勝ち組キターーーーーーーーーーーーーーーーー!!!! 今、特別って言ったよね? これはハーレム確定かな?


「特別って、通常とどう違うのですか?」


「実は空夜さんが助けた兄妹はその後、人類をある病魔から救う技術・新薬を開発して人類の救世主として讃えられたのですよ。

 そんな兄妹を救った空夜さんは生前に行われた偉業に対して、特別な転生として創造神様より大いなる恩恵を与えられ、転生していただく事に決まりました。

 これは中々あることではないんですよ」


「大いなる恩恵って具体的に言うと、何があるんですか?」


「本来は神々がその人の持つ生前に行った善行を元に数値化……つまりポイントですね。それを割り振り下界に送るのですが……」


 その先は予想出来たので、つい、口をはさんでしまった。


「つまり、それを任意に割り振る事が出来るって事ですね?」


「ふふふ、それだけじゃありませんよ。前世の記憶を引き継ぎ、種族や生まれる家柄等も選べる上、ポイントも通常の何十倍もありますよ。

 更にシークレット事項を転生先の世界で行うと、死後なにかの恩恵が発生します!

 これも禁測事項なので秘密ですが、空夜さんならば達成出来ると信じてます!!」


 勝ち組決定。俺の中の株価がストップ高値まっしぐらである。死んでいるけど、生きてて良かった。


「最後の奴は達成できるかわからないけど、今度の人生は前世の分も含めて生きてみるよ」


 自然と女神様の目を見て言えた事に、ちょっと驚きつつも……そう、何となく納得してしまうのであった。


「では、奥の転生陣で準備を行い、支度をいたしましょう」


 奥の転生陣に向かうと、そこには一人の男神(おがみ)様が作業しておられた。何か大きな水晶の上に浮かび上がる幾何学模様を、まるでキーボードの用に扱っては打ち込んでいる風に見えた。


 こちらに気がつき作業を中断する男神(おがみ)様。彼も女神様と同じくビジュアルが高い。金髪の容姿端麗……くっ、男の俺から見ても十分にイケメンである。


 最初に案内があった時にも思ったのだが、あの世とは美男美女の勢揃いである。まさに神レベルである。


「九条空夜さんですね。生前のお勤めご苦労様でした。微力ではありますが、より良い転生の補助担当を行う事になりました、第2級神一種(人属)限定のトーヤと申します。大船に乗ったつもりでお任せください」


 彼が両手で熱く握手をしてくるのを、俺は不思議と嫌と感じなかったのである。さすがはイケメン……やっぱり、ここまでレベルが高いと同性でも素直に受け入れられるものなんだな。ちなみに俺はノーマルである。


 彼がなぜキラキラした瞳で俺を見つめているのか、とても不思議なのだが、神様だからと言う理由で結論づける事にした。


 そうでないと俺の中の大事な何かが、音を立てて崩れそうだからだ……察してくれ……


「ありがとうございます。神様にそう言っていただけると安心して、次の人生の旅路に向かえますよ」


 ここからは大事な局面だ。失礼のないように気をつけなければ……。


 万が一にも機嫌を損ねて、「やっぱミジンコになれ~」とかされればお先真っ暗である。相手は神様なので冗談では済まされない。そんな不謹慎? な事を考えていると……


「兄さん、準備はどう?」


「ああ、もうほぼ終わっているな。後は九条様の希望を聞いて打ち込むだけだ。今日この日をどんなに…………絶対に………俺達はその為に……」


 お兄さん? この二人は兄妹なのか!? レベル高いな~って……その兄よ? お~い、帰ってこ~い……その瞳に熱い? 何かをたぎらせ、別世界に行っている兄を妹が呼び覚ます。


「兄さん!! ちゃんとしなさい!!! まったく、もう! 空夜さん大丈夫ですからね! おほほほほ」


 ペシっと兄の後頭部を叩く女神様に、再起動するその兄神(おがみ)を見て、少しだけ不安に感じたけど、そんな不安なんてこの後に起こった出来事に比べれば些細な事だった。



 ………………

 …………

 ……

 …



「全員動くな~! よ~し……いい子だから動くんじゃねえぞ! 変な真似すると体に風穴空けるぞ!」


 怒声(どせい)と共に悪魔がこの場に現れた。天使な神がいるのだから、悪魔な邪神が居てもおかしくなないのだろうが、何故にこのタイミングで現れますか?


 邪神は全部で三人。幾人かの神様は傷つけられ床に伏し、辺りは邪神のその手に持つ凶器で破壊されていた。……状況はいきなり最悪だ。


「転生者はこっちに集まれ!」


 リーダー恪の邪神が転生者を一ヶ所に集めようする。俺も仕方なくそちらに向かおうとするが、何故か邪神が俺を引き止める。


「おいッ! おっさんはそこで止まれや!」


「兄貴、こいつ例の……」


 何やら邪神共が小声の密談をしてる中、兄妹神の二人が俺の耳元で(ささや)く。


「『九条様……ここは俺が時間を稼ぐので、妹と一緒に逃げてください!!』」


「『空夜さんは私から決して離れないように付いて来てください!』」


 二人が俺を逃がす為に覚悟を決めてるが、俺は冷静に状況を把握していた。まず、床に倒れた神質がいる上に、足手まといの俺までいる。


 二人がどの程度の力を持った神様か知らないけど、即それを行っていないところを見るに、この三人の邪神を退けるには格好のタイミングと、援軍が来るまでの時間稼ぎが必要であると俺は考える。……ならば俺の取るべき選択肢は限られている。


「『無理だ! 足手まといの俺がいる上に、怪我をしている人質もそこらにいる。彼等を盾にされたら逃げれない。ここは大人しく従ってチャンスを待つんだ』」


 神様相手なのに、ついタメ口になってしまったがしかたあるまい。


「『そんな!! せっかくこの日の為に……』」


 密談が終わったのか、リーダー恪の邪神が俺に顔を向け、顎で転生陣を示し来いと指図(さしず)する。俺は言われるがまま、仕方がなくだが従った……それに二人もついてくる……


「おいッ!………………ちっ、まあいいか。……こいつの数値を計れ!」


 二人が一緒について来た事に怒鳴るが、一向(いっこう)に引かない二人。ある種の決意の宿った顔に押されたのか、邪神はとりあえず同行を許す。


 そして、邪神の一人が例の水晶で何かを行うと叫び出した。俺を指差しながら……


「兄貴!? ちょっと見てくれ! 間違いない……コイツだ!」


「ビンコだ! 運が悪かったな~おっさんよ! 危ねえ危ねえ~……こんな数値の奴が下界に降りたら圏属の奴等なんて皆殺しだったな……」


 どうやら俺の特別転生とやらが、邪神共にとってはマズイものだったらしい。ちくしょう! まだ援軍は来ないのか! 敵地の真っ只中だと言うのに……ついてないにもほどがあるぞ……


「よ~し! おっさんよ! 下界行きの設定………ククク、俺がしてやるよ」


 リーダー恪の邪神がとんでもない事を言い始めた。最悪だ……本当にお先真っ暗になるとは……


「げっへっへ~、兄貴……そんな事より今ここで殺したほうが良くないっすか?」


 邪神が下品な笑いをあげながら言うと……


「まあ、そうなんだが、それよりもちょっと落としたい場所があってな、例の吹き溜まりのトカゲの上にな……ククク……もうそろそろアレも限界だろうしな……」


 邪神の笑顔が堪らなく怖い。言ってる内容から(ろく)でも無い事くらい、さすがに予想ができる。


「まあ~こんだけポイントもあるしな、派手に振ってやんよ! おい、おっさん。種族だけどなんになりたいよ?」


 ……どうせ言ったところで聞いちゃくれないだろうが、言わないと向こうにいる人質が録な目に合わんだろうから、とりあえず成りたくないドワーフと答えておく。俺はモジャヒゲが嫌いなのだ。


「チッ!……オークやゴブリンはないのかよ。よ~し、しょうがねぇ……」


 邪神は目を瞑ってキーボードのような物に向かって適当に指すと、ゆっくりと目を開く。


「猫人族か……まあ~こんなもんだろ」


 案の定、予想通りに希望はスルーされたが、最悪ミジンコとか選択肢になくてよかった。だとしてもだ……あぁ~この邪神殴りてぇ! 適当すぎんだろ!!


「年齢はククク………0才だ! 俺って寛大だろ?」


 良く言うぜ。さっきトカゲの上にとか言ってたのを俺はしっかりと聞いている。……マズイ最悪だ。


 逃げる事さえ出来ればどうとでもなる等と考えていたが、実に甘い考えだったようだ。流石に0才児では何も抵抗出来ずに人生が終わってしまう。


「レベルはそうだなやっぱ1だよな! レベル100の0歳児とかありえんし、ステータスは…………………トカゲの為に魔力関連以外はオール1! スキルは前世のを引き継ぐんだからパス!」


 やめろ……お願いだから止めてくれ!


「ガハハ!! 兄貴最高だぜ! 俺にも決めさせてくださいよ」


 ……俺の人生……またなのか……なんで、クソッ!……


 真っ青になって震えている俺の手を、左右にいる二人がギュッと握ってくれる。そして、手のひらを通して何か暖かいものが入ってくる……そう、二人は俺の為に何かをしてくれていた。


「最期はアビリティだな……ククク……残りはそうだな……お前が決めていいぞ」


「あざ~す!! 美味しいとこを子分に譲ってくれるなんて流石兄貴だ! さ~て、アビリティ設定でトカゲの為に魔力に味を付けるか?

 ガハハ!! そんでもって着る服がないと困るだろうから……これをっと!……プププ……後……そうだな~……長く下界にいたいだろうから、これをほほいと……

 おいおい、こんなふざけたポイント振りなのにまだまだあるよ!? めんどくさいから残りは猫だし……やっぱオール1はなんだから……魅力に全振り……

 まだ余るか……しゃ~ね~な……新たにスキルも……ステータスも追加で……残りは全部これでいいや!! 兄貴、バッチリだぜ!!」


 俺の心の準備も間に合わぬ内に転生への支度が整ってしまったようだ。短い間とは言え、俺は二人の神様に感謝の気持ちを込めて、別れの笑顔を無理矢理にでも作る。


 そして、ありったけの怒りを込めてリーダー格の邪神を睨んだ。最後に反撃でもしてやろうかとポケットをまさぐったが、女神様に渡された番号札しか入っていない。


 とりあえず何も無いよりマシだと思い、いつでも叩きつけられるように準備をする。


「恨むなら正義面してる天使達を恨むんだな。おっさんがこうなったのもそういうこった! まぁ~すぐに戻ってこいや!! 破壊神様の元で今度は俺が面倒を見てやる! 行って来いやぁ!!!」


「ちょっ…………それは………ど………」


 最後は言葉にならず、しかも反撃する事も叶わぬまま、こうして俺は下界へ飛ばされ転生した。



 ………………

 …………

 ……

 …



 悪い子はそこに捨ててしまうと、親が子供の躾に使うくらい有名な森があった。この世界の常識で死の森として恐れられ、決して人が踏み込んではいけない未踏の地であった。


 そんな大森林の中心に、森の生物の頂点として君臨し、全てから恐れられる存在がいた。


 邪龍皇と呼ばれしその龍は、太古の(いにしえ)の時代より存在し、その体から溢れる瘴気はあらゆる生物を死へと至らしめ、口から吐き出されるブレスは全てを滅ぼし、その爪から繰り出される一撃は、大地をも抉ると伝えられてきた。


 事実、大森林の外側を覆うように円状の底の見えぬ深い谷を、邪龍皇がその爪を大地に振るって作り出し、外界との隔絶を生み出したと伝承に残っている。


 邪龍皇のいるこの森は、入った者も中にいる者も決して外に逃がさぬ死の森なのだ。それゆえに、邪龍皇の瘴気によって生まれた魔獸や魔物は、森の中心には絶対に近寄らず、鳴りを潜めて生息していた。


 また稀にだが、邪龍皇の目を盗み、森の外へと抜け出した凶悪な魔獣や魔物が問題となっていた。


 その邪龍皇のいる森を中心とし、東西南北の位置にある4つの大国が、自分の領地に面する森の側に防衛要塞を築き、これの対応にあたっていた。


 死の森から抜け出した魔獣や魔物は、それほど人類にとって脅威の存在であったからだ。


 そんな森の主である龍は今、混乱の極みに至っていた。原因はその龍の顎の上……つまり鼻と眉間の間にうつ伏せなっている獣人の赤ん坊が、すやすやと寝息を立てていたからだ。


 その赤ん坊は次元の破れ目から吐き出され、空から淡い光に包まれながらも、龍の元へとゆっくりと(いざな)われるかのように落ちてきた。


 そして、今の状況に至る。


 龍は古の時代よりこの場所に(とど)まり、世界を蝕む瘴気を、その次元の破れ目から大地に落ちる前に、その身に吸収し、幾度となく世界を瘴気の毒から守っていた。この事は、この世界に住む者達が知らぬ事実であった。


 辺り一面に漂う濃い瘴気の中、何事もなく寝息を立てる赤ん坊。その正体を探るべく龍は、鑑定のスキルを使って赤ん坊を調べる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【名前】クジョウ クウヤ

【年齢】0

【性別】男

【種族】猫人族

【クラス】着ぐるみ師


【レベル】1

【HP】1/1

【MP】1,000,000/1,000,000

【力】1

【技】1

【耐久】1

【敏捷】1

【魔力】10000

【運】1

【魅力】10000

【もふもふ】∞


【スキル】

調理LV1 家事LV1 農業LV1 もふもふ魔法LV1


【アビリティ】

究極のマナ味 着ぐるみクリエイト 究極の抱き心地 育成速度遅延 言語翻訳・翻訳



【加護】

サーヤ女神の加護

トーヤ男神の加護


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 う~~~~~~~~~む…………………


 ますます分からんと言うのが龍が率直に感じた事だった。この赤ん坊が世界に害を()すかと言われれば……とてもじゃないがそうは思えなかった。


 確かに目を見張るほどの魔力値に、異常なMP保有量だ。それに見た事もないスキルやアビリティがいくつかあるが……いくらなんでもこれはない。


 まるで我に対する哀れな供物にしか見えず、龍はやり場のない怒りに支配される。


 あの次元の向こう側で何が起きてるか知る(すべ)はないが、このような赤ん坊をこのような場所へ落とすとは……見えぬ何かの意図に深い怒りを感じる。


 我の(アギト)の上に感じる生命の息吹き。久しくと共に忘れていたこの温もり……それ故に一層赤ん坊に哀れみを(つの)らせる。


 とりあえず、巨大な魔力と見たこともないスキルやアビリティを更に詳しく調べねばと、龍は鑑定を再度使い、意識をさらに集中する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【もふもふ魔法】


 マナをもふもふ状に変化させ操る。強度・形状・硬度は術者のイメージ及びレベルによって影響する。


【究極のマナ味】


 体外に放出されしマナは、究極とも言える極上の味となる。マナ濃度が濃いほどに味と香りと栄養価が増す。但し、能力者は自身のマナから作り出しているので、食べても味も栄養価も無く、その芳醇な香りも感じない。


【着ぐるみクリエイト】


 魔石からその元となった魔物の力を纏った着ぐるみを作成できる。サイズはフリーサイズで誰でも着用可能。だだし、作成者以外の者が着用する場合、その効力は1日で失われる。


【究極の抱き心地】


 能力者の体の一部(衣服も体の一部とする)に触れる事によって、一定の割合と速度で回復する(HP・MP)。

 状態異常も同様に回復するが、症状によって快復までの時間が変わる。なお、体への密着面が多いほど、割合と速度は増える。


【育成速度遅延】


 一年で1ヶ月の身体的成長しかしない。ただし爪や毛髪等は該当しない。


【言語翻訳・翻訳】


 あらゆる種族の言語を、自動で通訳翻訳する。


【女神サーヤの加護】


 加護を受けし者の、あらゆる状態異常を防ぐ。


【男神トーヤの加護】


 神薬を1日に一本念じる事で、瞬時に受け取ることができる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 神の加護がありながらこのような地に堕ちるとは………………この瘴気が溢れる森の中、赤ん坊が無事な理由や我が身の中に永く溜め込んだ瘴気が微量だが、徐々に減りつつあるのはそういった理由(ワケ)か。


 確かに我が体内に溜まりし瘴気のせいで、我の魂もあと僅かで闇に堕ちるとこだったかもしれぬ。


 もし仮に、この赤ん坊を我が取り込む事を企んだとして、この地へ堕としたとするなら……


 赤ん坊が堕ちて来た理由をただの偶然等と推測しなかった邪龍皇は、風魔法で優しく赤ん坊を包み込み、しっかりと防音をしてから天に向かって吠え、轟かせた!


「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!」


 その叫びは大地を揺らし、遥か遠くの地までその雷轟を轟かせる。湧き上がる怒りを! 龍皇としての誇りを見くびられたことを!


 何よりも、無垢な赤子を……未来を築く命を……それを粗末な供物として扱うなど、誇り高き龍は決して許しはしなかった。


 何処のどいつだか知らぬが、我を舐めるな!! この赤ん坊は我の誇りにかけて育ててみせる!


 怒りが治まらぬ龍だが、グズリ始めた赤子を前にしてやっと怒りを静めることができた。


 そして、風魔法を解き放っては優しく自身の上に降ろし、龍のヒゲを触手のように器用に扱って、龍の財宝を溜め込んだ亜空間の中から、育児に使えそうなものを探し始めるのだった。


 なお、余談としてこの後、4つの大国では非常警戒体制が発令され、各大陸のギルドで緊急ミッションが発令された。



ふつおたコーナー(MC:たまご丼)


ペンネーム「転生しちゃいました」さんより頂きました


Q:邪神のせいでいきなり大ピンチです。俺はどうしたらいいでしょうか。


A:諦めちゃダメダメ! どんなことでも気持ちが大事! できることからどんどん試しちゃえ! 転生しちゃいましたさんならいけるいける! というわけでシーユー♪


九:あ~……あ~……!?(声はなんとか出せるが、目が……体が……やはり0歳だから)……ふぐっ……うぅ~……ぐすっ……(泣くもんか……諦めるもんか)


龍:ぬ?……起きたかクウヤよ。我は龍皇アドアトラス。


九:……ふぎゃあああ!!!!(例のトカゲって奴か……こ、殺される……う、うぅ……)


龍:今日から(なんじ)の父親代わりになる者だ。安心せい、我は決して見捨てぬ。この龍皇の誇りに掛けて立派に育ててみせる。おーよしよし。泣きやんでおくれ……


九:ふぎゃあああ…………ばぶ?(へ?)……


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