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感傷

作者: 深田風介

 地下鉄が頭の上を通り過ぎていく。

 地下鉄、という名前からして地下だけにしか通っていないと思いがちだが、地上を通る地点も存在するのだ。

 そんな地下鉄の下を、夏の終わり特有の涼しさを感じながら歩く。線路下の寂れた店を眺めていると、どこか懐かしいような。安心した気分になる。


 暗い、ひと気のない道を進んでいると、世界には自分1人だけしか存在しないのではないか、なんてバカげた考えが浮かぶ。しかし、大通りにでた途端、名前も知らない人や、それを乗せた金属の塊たちと幾度となくすれ違うことになる。


 そうすると、今度は逆に思い知らされるのだ。自分の代わりなどいくらでもいるということに。増えすぎた人間という名の生物の一個体にすぎないのだということに。


 首を反らせて目線を真上にもっていく。

 空と呼ばれるものと宇宙と呼ばれるものの境界線はどこにあるのだろうか、あるいは同一なのか、などの益体のないことを考えながら、たった1つだけそこにある星を眺める。

 思わず、キミは1人で寂しくないのか、と呟き、同時にその問いは無意味だと悟る。

 星に意志など存在しない。自分も含め、どうして人は意志、心など持ち合わせているはずのないものにも、まるで同種のように接し、語りかけるのか。


 そのことについて深く考えるのは今の自分には億劫だと感じたため、目線を再び前に戻す。

 それだけで、ふわふわして浮き足立っていた意識が現実に回帰したような気がした。

 シマウマなどの動物とは違い、人間の目は顔の正面についている。前を向いて、歩くために。だからだろうか。


 どうも今日の自分は感傷的になっている。ようやく自覚した。自覚したところでどうすることもできないが。

 感傷に浸る、言い換えると、心が敏感になっているということ。一種の感動のようなものだ。だから、すぐに過ぎ去ってしまう。

 なぜなら、日常生活を送るには、心を鈍感にしなければならないから。もしこの状態が続いたとしたら、心は数日と経たず崩れさってしまうだろう。だから、たまにでいい。心を無防備にさらけだすのは。


 そんなことを言っている間にも、感傷的な気分は徐々に徐々にひいていく。まわりを見ても特に何も感じなくなり、ただ早く家に帰りたいという欲求だけが頭を支配する。


 家に着くのはあっという間だった。感傷的になっていたときの10分と、そうでないときの10分では時の経つ速さがまるで違ったように感じた。


 ここではない、どこか別の世界に迷いこんでいたみたいだ、なんて思いながらドアを開け、文句も言わず静かに待っていた自分の部屋へと足を踏みこむのであった。

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