睦と皐の夏休み
「ねー、睦ー」
「……何、皐」
「機嫌悪いね」
「そうですね」
「何で?」
「今ね、僕はね、一生懸命に夏休みの宿題をやっているの。それなのに、話しかけられなきゃいけないなんて、耐えられません」
「耐えてー」
「嫌ですー」
「お、割とノリがいい」
「まあね。今日の分の数学が終わったから」
「睦、偉いね。一日にやる量、ちゃんと決めているんだね」
「まあ、計画的にやった方がいいと、僕の価値観からは判断されているから」
「私は九割くらい終わったー」
「今日やる分の?」
「うん、そう」
「やっぱり、皐も決めてやっているんじゃん」
「まあねー。私の思考回路は、ほとんどが睦と同じだから」
「そうだねー。でも、本当の理由は違うんでしょ?」
「いいえ、違いません」
「何で? だって、皐が今やっているところ、僕があさってやろうとしているところだよ?」
「一日にやる分量までお兄ちゃんと一緒にしてほしいの?」
「やめてください気持ち悪い」
「いいじゃん、別に。早く終わらせたいだけだよ。夏休みの最後一週間は遊びほうけるつもりなの。だから今頑張るの」
「だから、理由が違うでしょー」
「違いませんー。というか、何を根拠にそのようなことを言っているの」
「僕は、知っているのだ。あなたが、日向君に教えてあげるために、そして、教えた後は一緒に遊ぶために、早く宿題を終わらせようとしているのだと」
「今出てきた、私が勉強を教えようとしていると睦が妄想している相手ってさ、何者? 誰それ?」
「あなたの彼氏です」
「いつからそのようなものがこの世に存在するの?」
「ゴールデンウィーク明けに告白されたと、あなたの口から聞きました」
「それは、夢の中での話だと思う」
「うーん、そういうことにしようかな。皐のせいで、かなり面倒臭くなってきた」
「しておいてー」
「りょうかいー」
「……終わった」
「あ、やっと?」
「うん、やっと」
「よかったねー」
「よかったよー」
「これで、彼に教えてあげられるねー」
「うん。今日のお昼に会う予定なんだよ」
「あらー、ラブラブだねえ、お二人さん」
「そういうものとは全くもって違います」
「さいですか」
「さいです」