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双子の話  作者: ゆか
2/7

雨のなか ⅱ


 彼女は泣いていた。

 五階建てアパートの屋上。

 星がきれいだった。

 そこにいては危ないよ、と声をかけた。

 彼女はそのままの顔でこっちを向いた。

 そして戸惑った。

 なぜだか悪いことをしたような気分になった。

 謝ろうとした。

 しかし彼女は胸に飛び込んできた。

 三分間かけて、僕のTシャツをびしょびしょにした。


 ようやく落ち着いたので、訊いてみた。

 涙のわけを遠まわしに。

 顔にかかった前髪をそっとよけて。

 彼女は真っ赤な目を軽く伏せた。

 静かな声でこう言った。


 わたしはひとり。いつもひとり。

 ふたりはないの。いつもひとり。

 おねえちゃんも、とられちゃった。

 けれどもそれは、もういいの。

 これはせめてもの つみほろぼし。

 わたしはじつは しあわせもの。

 あのこはいつも しばられてた。

 おかあさんに しばられてた。

 あのこになって きづけたの。

 だからひとり。いつもひとり。


 詳しい事情は分からないけれど、

 双子の姉がいたらしい。

 その子と彼女は入れ替わり、

 彼女は姉の生活を、その実態を知った。

 彼女は自らひとりを望み、

 ひとり寂しく泣いていた。


 ふと気がついたら一緒に泣いていたらしい。

 真っ赤な目が驚いたように僕の顔を見つめていた。

 つらいの、と訊いてみた。

 首を振って答える彼女。


 だいじょうぶなのよ。このくらい。

 ちょうどいいの。わたしには。

 だけどひとつ、かなうなら。

 わたしはふたりに なりたいな。


 嬉しくないわけがなかったんだ。

 僕は彼女を抱き上げた。

 互いに静かに微笑みあって。

 そしてひとつは宙に落ちた。


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