第七話・城…崩壊
結構、ベタな展開になってきました。疑問もあるかもしれませんが…深く考えずに楽しんで下さい。
…吉岡さんがとびだしたあと、お店は大変だった…
松永さんはお代を払い、すぐに吉岡さんを追いかけにいった。
僕も追いかけたかったが、バイト中という理由で松永さんに止められた。
真理絵さんはというと、カウンターでずっとケラケラ笑っていた。
…一言、言わずにいられなかった。
「…いいですか!? 次に吉岡さんが来たら、ちゃんと謝ってくださいよ!?」
「はいはい、わかってるから。」
「…また今度、おもしろ半分で吉岡さんを傷つけたら…絶対にゆるしません!」
「…そんな怒らなくても…」
めずらしく怒った僕に、真理絵さんもやっと事の重大さに気付いたみたいだった。
…片付けをしてる内に、また新しいお客さんが来て…結局うやむやになった。
…そんな感じで今は自分の部屋にいる。
本当は早く寝ないといけないのに、いろいろ考えてしまい…全然眠れない。
一瞬浮かんだ期待を、僕は全否定するように思い描いている。
…僕が友達だから、キスを止めたんだ…
…普通はそうだ…バイトとはいえ仕事中に、キスをする友達を見たら僕なら止める。
…よく考えたら、好きでも嫌いでもあの場面を見たら…止めるのが普通の人だと思う。
…しかもそれをバカにされたんだ…吉岡さんが怒るのも当然だ。
…でも、もし…
吉岡さんは友達思い…で片付いたはずなのに、僕が苦しんでる訳はこの…『もし』…である。
…もし、本当は吉岡さんも僕を好きだったら…
…もし、キスを止めたのが嫉妬だったら…
頭の中に、吉岡さんの顔がたくさん出てくる…
…笑った顔…
…怒った顔…
…驚いた顔…
吉岡さんの泣いた顔以外は、全て覚えている…
本当に僕は、吉岡さんが好きなんだと自覚する。
…そして自覚すればするほど、あの時のように困らせたくないという気持ちも強くなった…
…何も考えず、吉岡さんに好きだと告白した…
本当に僕は、それだけでよかった。
ただ…その後の二人の仲が、どうなるかまで予想するべきだった…
…顔を合わせるたびに、視線を反らされる…
…話しかけても、ごめんと言われる…
そうしてやっと気付く。
僕の好きな吉岡さんは…もういない。
僕は自分で、好きな人を消してしまったのだ…
普通に顔を見て、普通に話をして…
そうやって僕の好きな人は存在していたのに…
…苦しかった。
人を好きになるのが、凄く苦しかった。
あんな想いをするなら僕は一生…好きな人と友達でいい…
…そう自分に誓った。
それからしばらくして、松永さんが仲を持ってくれて…ようやく仲直りした。
…それでやっと、あの笑顔が見られる日々を過ごしている。
だから今日の事も、明日きちんと説明して…
…今まで通り友達として、過ごしていこう。
それが、好きな人の側にいられる…条件だから…
………アラームが鳴る。
いつの間にか、寝ていたらしい。
…起きたくなかったが、習慣とは恐ろしく…すぐにシャワーを浴びていた。
そして…いつものように学校へ向かう。
…太陽は、僕のためには輝いていない…
………来なかった。
吉岡さん、それに松永さんまで…欠席だった。
理由は………きっと僕のことだろう。
二人揃って風邪なんて、そうそうあるもんじゃないからね。
徹はいつもと変わらない…でも、全然気分が乗らない。
明日、遊びに行こうと言われても…断るしかなかった。
…ああ、そうか…明日は土曜日で学校は休みだ…
久しぶりに、僕は部屋の掃除をしようと考えていた。
…部屋が綺麗になれば、気分も晴れる気がして…
…バイトが終わり自分の部屋に帰る途中で、僕はやけに大きいトラックを何台も見かけた。
…大規模な工事か何かだろう…もう少し、税金を役に立てて欲しいものだ。
行政に文句を言いつつ、部屋へ向かう最後の角を曲がった…
心の兵士A
「隊長! 報告があります!」
心の総隊長
「どうした!?」
兵士A
「仲野猛の部屋が、見つかりません!」
総隊長
「意味がわからんぞ!? 現状を報告しろ!」
兵士A
「はい! 仲野猛の部屋があるアパートが、存在しません!」
総隊長
「そ、存在しないだって!? な、何があったんだ!?」
…心にいる、兵士と隊長さんでした。
さて、彼らが話してた通り…アパート自体、存在しませんよ。
続にいう…空き地です。
ええ、空き地ですとも。
〇らえもんに出てくるような、立派な空き地。
僕は今、夢でも見てるのかな?
きっとそうだ…早速目を閉じて、ゆっくり深呼吸をして…
…そして…目を開けてみると…
………松永さん?
…あれは多分、松永さんだ。
高そうなスーツを着けて、こっちへ来る松永さんが…ちょっと怖い…
僕の2m手前で止まると、松永さんは口を開く。
「仲野様ですか?」
「…松永さん?…一体、これは何な…」
「仲野様ですか?」
…こっちの話は聞く気がないらしい。
仕方なく、僕は黙って頷いた。
「…ここのアパート、及び仲野様の部屋は…差し押さえました。」
「さ、差し押さえ!?…僕は借金なんか…」
「知らなかったのですか? ここのアパートの持ち主の方が、我がメイリーグループの金融会社から二億の借金をしていまして…」
「二億!?」
…と、途方もない額だ…宝くじに当たれば貰えるお金を、一体何に使ったんだろう…
使い道を気にしてた僕に、松永さんは一つ咳ばらいをした。
「それによりここの土地、及び建物は当方に強制売却させられました。」
「そんな…頭金は、どうなるんですか!?」
「…当方に責任はございませんので。」
…僕はすでに、目の前の女性が松永さんであることを忘れて話している。
…今日から、どうやって生活すれば………!
ふと気付いて、スーツの女性に質問する。
「…荷物は? 僕はお金借りてないから、荷物は僕の物のはずだ。」
「はい、その通りです。」
「………」
「………」
「いや、早く返してよ!」
そのまま流そうとしてるスーツの女性に、久々にツッコミをしてしまった。
その言葉にやっと反応したらしく、微笑みながらその女性は突然歩き出した。
訳がわからない僕は、その場で立ち尽くしている。
するとスーツの女性【松永さん】は、僕に優しく話しかける…
「…私について来て下さい。」
「あ、あぁ…はい。」
「そんなに、緊張しなくて大丈夫ですよ?」
…緊張させてるのは、松永さんなんだけどなぁ…
僕は恐る恐る、松永さんの後を追っている。
…見る人が見たら、警察を呼んでしまいそうな程だろう。
どこまで行くのか、車に乗せられたりするのか…もしかしたら、軽い誘拐かも知れない。
相手がクラスメイトだということを忘れ、とても
不安げに追いかけて…
「…こちらです。」
「へ?」
「早速、入りましょう。」
…少なくても、ここではないと思ってた。
僕の部屋【すでに無いが…】の日照権を奪っていた…隣の高層マンションに、松永さんは入っていく。
オートロックのはずが、簡単に入っている姿に…僕は妙な感覚が芽生えている。
…もしかして…
聞くのも怖いから、とりあえずついていくだけの僕…
…いや、そんなまさか…
エレベーターに乗ると、松永さんが絶対にオカシな質問をしてくる。
「そうだわ…仲野様は、何階がお好きですか?」
「…そんな唐突に、好きと聞かれてもさ…」
「15階までなら、どこでもいいですよ?」
「…じゃあ2階。」
「あ、すいません…ここのマンションは、3階まで駐車場になってます。」
「………なら、どこでもいいよ。」
「かしこまりました。」
松永さんは、最上階のボタンを押した。
…ある意味、確信した。
エレベーターが開くと、部屋は左右に一つずつあった。
松永さんが、笑顔で指を左右に振っている…
「…左が好き。」
「では、こちらへどうぞ。」
「あのさ…」
「何か質問ですか?」
…この状況で、疑問がない人を紹介してほしい。
多分、全ての部屋のカギを持っていたのだろう…松永さんの手に、30個ほどのカギがぶら下がっていた。
…やっぱりそうなるか…
音がなくスーッと開いた扉を支え、僕に入るように促している。
先に入って、続けて松永さんも入ると…扉が音を立てずに閉まった。
…その瞬間…
「…ごめんね、仲野くん。」
「良かった…普通の松永さんに戻ったんだね。」
「あのね、これには訳があって…」
「ちゃんと説明してください。」
「…外だと誰に見られてるかわからないからね、敬語で話してたの。」
「松永さんの態度のことじゃないよ!!!」
…本日二度目のツッコミ。
僕のキャラじゃないけど、僕しかいないから僕がつっこんだ。
松永さんはごめんごめんと言いながら、僕に簡潔に説明した。
「今日から、ここに住んでね!」
………いつもより、星が近くで輝いていた…
作者です。物語がやっと本線に乗り始めました。ですが私としては、二人の出会いや沙織の家柄も、詳しく書きたいところです。ゆっくり進む展開に、痺れを切らさず楽しんでもらえたら幸いです…