第六話・嫉妬こそ、恋!
えーっと…ちょっとグダグダになってしまいました。わかりにくかったらすいません…
………何なのよ…
…何で私がイライラするのよ…
…別にいいじゃないの…バイト先のお姉さんが、カワイイだけなんだから…
…仲野くんのバイト先の…背が小さくてカワイイ…大人の女性…
………カワイイ…
…大人の…女性…
「うわーーーーーーーーーー!!!!!」
私は自分の部屋で、喉を枯らす勢いで叫んだ。
…あ、あ、あ…仲野くん…仲野くん…
私の声を聞いて、玲奈や使用人達が、部屋に駆け付けた。
…ベットに座って、小声で仲野くんを呼び続けている私…
部屋を開けた玲奈は、その様子から大体の予想は出来た。
使用人に説明して、玲奈一人残しそれぞれ自分の持ち場に戻った。
放心状態の私の両肩に、そっと手を置く玲奈。
一瞬、ビクッ! と反応したが…動く気がしない。
ため息を一つして、玲奈は語り出した。
「…アンタさ、甘えすぎじゃないの?」
「………」
「仲野くんはね、アンタが好きだから告白したのよ?」
「………」
「それを拒んどいて、今更なに? バイト先の人の話しただけで人生終わったみたいな顔して、調子に乗るのもいい加減にしたら?」
玲奈はこれでもか! っていうぐらいに、私を罵倒した。
…なんで私が怒られるのよ…
私は玲奈に文句を言われて、怒りが込み上げてきた。
そして、自分でも嫌になるぐらい感情がねじれた…
「………潰してやる。」
「沙織?」
「…その喫茶店、潰してやるんだから!」
「あ、アンタ自分がなに言ってるかわかってんの!?」
「ええ、私はものすごい冷静よ。パパに頼んで、その店を完膚無きまでにブッ潰してやるわよ!」
私は笑っていた。
仲野くんを取り戻せるなら、神の命だってアリと一緒。
…私たちの障害は踏み潰して、絶対に振り向かせてやるんだから!
私の仲野くんに手を出したら、絶対に許さ…
バシッ!!!
…意味がわからなかった。
玲奈が真剣な顔で、私の頬にビンタした。
痛くはない…それより、涙がとめどなく流れ出した。
「…自分でもわかってるでしょ?」
「…うん………私…最低だね…」
「今のは最低だった。だから私は…アンタを叩いた。」
「………ごめん…なさい…」
「…沙織…」
…玲奈に抱きしめられた。
最低な自分に優しくしてくれる玲奈の胸で…私は号泣していた。
前までの私なら目が腫れるのを気にして、泣くのさえ我慢していたはず…
たった一人の親友のお陰で、少し素直になれた気がした。
…私は仲野くんが好き…
…変わらなきゃいけないのは、私なんだ…
「…落ち着いた?」
「うん、ありがと。」
「ホントにバカなんだから。」
「うるさ…一部、認めるわよ。」
素直になるって決めた、だから…私は素直になる。
さっきの私は…最低のバカだったわ。
「…一部、ねぇ…」
「な、なによ!?」
「いいじゃない! バカになるぐらい…仲野くんが好きなんでしょ?」
…黙ってうなずいた。
見つめた玲奈は…笑顔を返してくれた。
つられて笑った私に、玲奈は優しく言った。
「…仲野くんのバイト先の喫茶店…一緒に行く?」
「!!!…でも、きっと仲野くんは…」
「…はぁ、アンタねぇ…本気で仲野くんが、そのバイト先の人に惚れたと思ってるの?」
「…うん。」
私は真剣に答えた。
玲奈はため息をついてる…いったい玲奈のため息は、これでなん回目だろうか…
呆れた様子で、だけど目は優しいまま…玲奈が喋り出す。
「そうよね…恋は盲目なのよね…」
「? 意味わかんないだけど…」
「あ、気にしないで。褒め言葉だから。」
…絶対に褒めてない…
本能で感じた私は、玲奈に問い詰めようとした。
だがそれすらも感じた玲奈が、先に話を切り出す。
「じゃあ明日の放課後、その喫茶店に行くからね!」
「え!? でも…私、どうしたらいいか…」
「普通でいいんだってば!」
「…仲野くんの前だと、普通がわからなくなるの…」
…仲野くんはきっと、本当の私を知らない…
素直な自分が怖い…私はまた、涙が出てくるのを感じた。
実は自分に自信がなくて、泣き虫な私を見せたくない…
でもそのせいで、気が強くてわがままだと思われてるのも…本当は嫌…
どうしたらいいかわからずに、私は膝を抱えて泣いた。
「あ〜ん、もう! 素直なアンタが一番好き!!!」
「や、やめてよ玲奈…」
落ち込んでる私を、玲奈がギュッ! と抱きしめてくる。
…嫌じゃないけど、こっちのテンションを考えてよね…
「よし、任せなさい! この私が絶対に仲野くんと、ラブラブさせてあげるわね!」
「ら、ラブラブって…そんな…」
「知ってんだから!…お風呂でこっそり、キスの練習してたでしょ!?」
「!!!!!」
…まただわ…いつの間に覗いてたのよ…
こうなったら私は、もう生きていけない。
…玲奈を殺して、私も死んでやる!
枕に顔を埋めて、自分の顔から火が出るのを押さえながら…合気道の達人を殺す方法を考える。
一方、ここはチャンスとばかりに玲奈が更に攻撃してくる。
「な・か・の・く・ん…チュ!」
「うるさい、うるさい…うるさーい!!!」
「アンタさ、ファーストキスもまだなくせに…大人のキスも練習してたでしょ?」
「!!!…いつか絶対、殺してやる!」
全力で枕を投げたのだが、玲奈は軽々とキャッチした。
枕をベットに優しく投げ返した玲奈は、トドメと言わんばかりに…
「鏡を汚しちゃダメだぞ?…沙織ちゃん!」
…と言って、部屋を出ていった。
私の怒りが、ピークを越えてしまう。
でも…ラブラブしたい気持ちに嘘はつけず、玲奈を殺すのは…仲野くんと付き合ってからにすると決めた。
この日、私は格闘技を習うことを誓う。
…もちろん、あの悪魔を倒すために…
次の日、朝一番に仲野くんに謝った。
なぜか仲野くんも謝ってきたが、とりあえず仲直りは成功。
…別に喧嘩はしてないんだけどね。
それから、喫茶店に行く許可をもらう。
「え…大丈夫かな…」
「なにが?」
「だって、真理絵さんがいるし…」
「あ、大丈夫。私…もう誰にも負けない!」
「…負けない?」
「え!?…あ、その…格闘技のことよ!」
私は口で、シッシッ! と言いながら…握りこぶしを前に突き出した。
仲野くんが不思議そうな目で、私を見つめている。
…恥ずかしくても、本当の私を見せるんだ…
いつも玲奈と話すように話していると、仲野くんは当然ともいえる質問をしてきた。
「…吉岡さん、今日はどうしたの?」
「あ…やっぱり変かな?」
「ううん、そんなことないよ! むしろいつもと違って、その…カワイイなぁって…」
…刺さった…
…天使の矢が、いたずらに私の心を打ち抜いた…
…好きな人に…カワイイなんて言われたら…死んじゃう…
…気付いたら、玲奈に担がれていた。
どうやら、頭に血が上りすぎて倒れたらしい。
でも…私、幸せ…
「…玲奈…」
「あ、起きた?」
「…素直になるって、あんなに幸せなの?」
「そうね…沙織はどうなのよ?」
「…毎回たおれるなら…ちょっと大変かも。」
…二人して笑いあった。
そして今度は、私から玲奈を抱きしめて呟いた。
「…玲奈…大好き。」
「突然なによ?」
「…ただ、素直な私が言いたかっただけ。」
「そうなの?…じゃあ私も…好きよ、沙織。」
…その日の授業は、全く覚えていない。
…仲野くんにカワイイって言われた…
もし私が日記をつけていたなら、今日のページは永久保存版だ。
ちなみに目の前で倒れた私を心配してる仲野くんは、玲奈の…『あれ貧血。』…という一言で納得したらしい。
もう少し、心配してほしかったのは…誰にも言えない。
私は玲奈のように、一つため息をついた。
…放課後は、ついに喫茶店に行くのね…
なにも考えず、ただ仲野くんを見つめ続けた…
…ついに、ついに来た…
ここが最後の城、ライラックなのね…
愛する勇者を救うため…ただそれだけでここまでやってきた。
…仲間は、武道家が一人だけ…
たまに味方も攻撃するけど、いないよりはマシね。
ゆっくりとドアを開けて、敵地に乗り込んだ。
「いらっしゃいませ!」
「あ、吉岡さん。いらっしゃい!」
「え? 猛くんの知り合い?」
私は軽く会釈をする。
玲奈もしたようだが、私の目はすでにある一点を見つめていた。
…確かにカワイイわね…でも、どこら辺が大人のじょせ…!!!
…あ、こ…声が出ない…
「ちょっと沙織! どうしたのよ?」
「…反則よ…」
「???」
「あんな胸、凶器よ凶器!」
「え? ああ、確かに大きいわね。Eカップぐらいじゃないかな?」
「Eーーー!?」
A・B・C・D…Eカップ…
「…私、帰る…」
「コラコラ! 席にも座ってないのに帰るな!」
玲奈に襟首をつかまれて、窓際のテーブル席に向かい合って座った。
ゆっくり近づいて来た仲野くんは、手にお水を持っている。
「いらっしゃい、来てくれたんだね。」
「…うん、来ちゃった。」
「何がいい? オススメはね…」
「オススメは、一番高い物よ!」
カウンターの奥から、声が届いてくる…あのEカップだわ。
…高いのを、オススメにしてんじゃないわよ!
私は敵意剥き出しで睨んだ…でも、仲野くんが上手に返してくれた。
「…このコーヒーセットを頼むと、赤字になるんだ。」
「猛くん!!!」
「じゃあそれ、二つ。」
玲奈が普通に頼むと、あのEカップは仲野くんに怒っている…
慣れた様子の仲野くんは、無視をしながらケーキを運んでくる。
…何故かショートケーキとチーズケーキが、二個ずつ入っている。
「サービしぇ!?…サービスだからね…」
「あ! いま、噛んだでしょ。」
「だ、だって…吉岡さんがいると緊張しちゃうよ…」
仲野くんは恥ずかしそうにカウンターに戻る。
嬉しい気持ちと、迷惑をかけてるのかもしれない不安が…私の中で混ざり合う。
それからしばらくは他のお客さんもいたので、私達はゆっくりケーキとコーヒーを楽しんだ。
確かに美味しい…あのEカップにも、ちゃんとしたコーヒーがいれられるのね…
感心した私は、少しだけEカップを認めた。
そしてお客が私達だけになると、仲野くんは私達の席にやってきた。
「忙しくてゴメンね。」
「いいのよ、忙しい方がこの店のためなんだから…」
「お、いい事言うわね。コーヒーおかわりする?」
「…ありがとうございます。」
勝手に割り込んできたEカップは許せないけど、コーヒーに罪はない。
私と玲奈は、いれたてのコーヒーをおかわりした…そして気付いた。
…この人、結構いい人かも。
しばらく話してみると、話し易いし冗談もうまい。
なにより、考え方が大人だった。
…仲野くんの言ってた不思議な雰囲気って、きっとこの事だったんだね。
私はEカップ…訂正、真理絵さんを好きになりかけてた。
「…だからね、男なんてペットと一緒よ!」
「フムフム…付き合うより、飼う感覚で…」
「沙織には早過ぎるわよ。」
「まぁまぁ…男にも人権はありますから…」
真理絵さんのアドバイスは、なかなか役に立つ。
…落とす相手も聞いてるんだけど…そこは気にしない。
そして…話は狂い出した。
「二人は、好きな人はいないの?」
「! あ、あの…」
「私はいないけど、沙織には…ねぇ〜!」
「ちょ、ちょっと玲奈!」
「へ〜。沙織ちゃんなら、簡単にゲット出来るんじゃない?」
「それがですね、一応両想いなのに…沙織が素直になれないんですよ。」
私は無意識に、玲奈の首を絞めた。
仲野くんが止めてくれたけど、その表情は哀しそうだ。
その顔に、真理絵さんも気付いたらしい。
「…猛くん? どしたの?」
「いえ…別になにも…」
「あ…沙織が、両想いって聞いたから…」
「………」
玲奈の言葉に、仲野くんは黙ってしまった。
その態度は明らかに、私を好きだと言ってるようだった。
淀んだ空気の中、部外者の真理絵さんがズカズカと土足で踏み込む。
「猛くんは…沙織ちゃんが好きなの?」
「…はい。」
「告白はした?」
「…木っ端みじんでした。」
「…なるほど、そりゃ複雑だわね…」
あう…心が痛い…
…いまさら…仲野くんが好きなんて言えない…
あの時の言葉を思いだし、私は顔が真っ青になっていく。
それを見ていた真理絵さんが、唐突に話し出した。
あまりにもストレートな一言で…
「猛くん、私と付き合う?」
…え…えー!!!!!
どうしてそうなるの!?
混乱した私は、いつの間にか立ち上がっていた。
…玲奈は普通に、ケーキを食べている。
「な、何言ってるんですか!? なんで僕と!?」
「だって私、猛くんが好きだもん。」
「そんなの私、認めません!!!」
「猛くんをふった沙織ちゃんに、権利はないよ?」
「…う…うぅ…」
そうだ…私はなにも言えないんだ…
大人しく座った私を見て、真理絵さんは追い撃ちをかける…
「猛くんは、私のこと…嫌い?」
「…嫌いじゃ…ないですけど…」
「なら、問題ナシね!」
…肩に手を回して、仲野くんの体を引き付けている真理絵さん…
その目からは、妖艶さを感じさせる。
仲野くんは、体を動かそうとしていない。
二人の…顔と顔が近づいていく…
……………ダメ…
………ダメ!…
「ダメーーーーー!!!!!」
「う・そ! 仕事中に、キスするわけないじゃん!」
「………へ?」
真理絵さんは笑いながら、仲野くんから離れた。
…ふと見ると、玲奈も大爆笑している。
私と仲野くんだけが、今の事態を飲み込めていないようだ。
玲奈と真理絵さんが、初対面とは思えないコンビネーションを見せる。
「仲野くんがキスするのが、どうしてダメなのかなぁ〜?」
「あれあれ〜? 沙織ちゃんは、猛くんをふったのよねぇ〜?」
「『仲野くんが…仲野くんが他の女の子とキスしちゃうよ〜!?』」
「『止めなきゃ! 猛くんを、今すぐ止めなきゃ!!!?』」
「沙織の、その気持ちは…」
「…一体、何なんだろう…」
「「…ねぇ〜!?」」
二人は芝居じみた演技で、私をバカにしてる…
…さ、最初から私を騙す目的で…
恥ずかしさと怒りで、私は震え出す…
…もう堪えられない!
勢いよく立ち上がり、私は入口のドアをおもいっきり開けてとびだした。
仲野くんが呼び止めるが、それも聞かずに全速力で走った…
…外はすっかり、暗闇で包まれている。
月明かりが…私のために輝いてる気がした…
読んでいただき、ありがとうございました。実は先日、初のメッセージがあり…とても喜んでいます。それで話を長くしましたが………やはり、短いのを毎日更新していきたいと思います。次回もよろしくお願いします。