第五話・唯一の財産
はい、作者です…一つお願いがあります。誰か、感想か批評を書いてもらえませんか?作品の良し悪しや、こうすれば面白くなるとか…なにより励みにしたいので、お願い致します。
…あ〜…もう朝だ…
携帯のアラームで起きると、僕はすぐにお風呂場に向かう…お風呂といってもユニットバスだし、寝ている所から五歩で着く。
一通り体を洗うと、無駄遣いを防ぐためにお湯のスイッチは切る。
経験上、一〜二分はお湯が出るからだ。
水になるギリギリで蛇口を捻る…少し水を浴びたので、冬までには完璧にタイミングを覚えたい。
僕はすぐに制服に着替え、弁当の準備を始める。
出来るだけ冷凍食品を使わずに、色合いの地味な弁当が出来上がる。
僕は基本的に朝は食べないので、すぐ洗濯に取り掛かった。
洗濯機の中の物を取り出し、新しい汚れ物を入れて回しだす。
取り出した洗濯物を早速干し始め、それが終わると僕の家事は終了だ。
…母さんは、これを毎日してたんだなぁ…
改めて感謝して、部屋の鍵をかけて学校に向かった。
この一ヶ月間、機械のようにこのリズムで過ごしている。
僕は今、ワンルームに住んでいる。
正確には、1Kユニットバス付きだが…まぁ狭いのでどっちでもいい。
…実は、賃貸じゃない。
母さんが死んで保険金は入ったけど、前のアパートじゃ家賃が高い…僕は手頃な物件を探し、今のマンションを見つけた。
駅から徒歩40分、学校までは30分、バイト先まで20分、という素晴らしい環境だ。
しかし世の中甘くない、賃貸ではなかったのだ。
不動産屋から話を聞くと、頭金を出せば月々三万でいいと言うのだ。
悩みに悩んで購入を決めた、だから…あれは僕の自慢の部屋だ。
すぐ隣に高層マンションがあり、太陽が挨拶してくれないのは残念だったけど…
教室に着くと、クラスメイトは数人しかいなかった。
それもそうだ…まだ7時半、授業まで一時間以上ある。
教室にいるのは、きっと進学希望の人だろう…朝から真面目に勉強している。
…え? 僕?…僕は目的が違うんだ。
鞄を置いて、忘れ物等を確認すると………寝た。
ギリギリまで家で寝るより、遅刻の心配をせずに教室で寝よう…人生での最高の答えだ。
制服の三番目までのボタンを外すして、僕は頭を伏せた。
徹には話を付けてるから、担任が来るまで…夢の中へ………
「…仲野くん。」
………ん?…この声は…確か…
僕は顔を上げて、声の主を探す。
…あれ?…誰もいない…
「後ろよ、後ろ。」
「ほえ?…あ、吉岡さん…おはよう。」
「うん、おはよう。」
なぜか後ろの席に、吉岡さんが座っていた。
制服のボタンを閉めて、僕は吉岡さんの方へ体を向ける。
…おかしいな…吉岡さんは、いつも遅いのに…
軽い疑問も含めて、僕は吉岡さんに話し掛けた。
「今日は早いんだね。」
「…そうね、早く来たつもりだから。」
「松永さんは一緒じゃないの?」
「一緒よ、ほら。」
松永さんもこっちを見ている…なぜか不安そうな目で微笑んでいた。
前に吉岡さんから話を聞いて、松永さんが使用人みたいな事をしているというのは知っていた。
「松永さんも一緒の所を見ると、何かあるの?」
「まぁそんな感じね。」
「そっかぁ…吉岡さんも大変だね。」
「そうでもないわよ。」
…ああ…幸せだ…
朝から吉岡さんと話せて、僕は久しぶりに学校を楽しいと感じている。
もしかしたら、寝るより疲れがとれてるかもしれない。
「…ねぇ、仲野くん。」
「ん?」
「バイトは頑張ってる?」
「ああ、バイトね…一応頑張ってるよ。」
「…そう。」
吉岡さんは質問をしては黙り、質問しては黙り…を繰り返している。
僕と話してても、楽しくないのだろうか…
どうにかして、いつものように褒めたいけど…何かきっかけが欲しい。
彼女の顔を見つめながら、僕は悩んでいる…
「…仲野くんのバイト先って、学校の近くなの?」
「うん、歩いて30分はかからないよ。」
「ふーん…一度、行ってもいいかしら?」
…な………何だって!?
よ、吉岡さんがわざわざ…僕のバイト先に?
喜びで5ミリほど体が浮き上がったが、焦らずに対応した。
「もちろん、大歓迎だよ!」
「ふふ、サービスしてよね?」
「コーヒーなら、いくらでもご馳走してあげる!」
「へ〜…仲野くんがいれてくれるの?」
「違うよ、真理絵さんっていってね…」
「………真理絵…さん?」
一瞬、吉岡さんの表情が凍りついた…
いつもならそんな彼女の変化を見逃す僕ではないが、今は違った…喜びで浮かれている。
止めればいいものを、僕は歯止めが効かなくなっていた…
「バイト先のマスターの娘さんでね…いつもは僕と二人っきりなんだけど…」
「…二人っきり…」
「店の棚に手が届かないぐらい、背が小さくて…カワイイんだよ。」
「…かわ…いい…」
「だけど不思議な雰囲気を持ってる人で…あれが、大人の女性の魅力? って感じちゃうんだよね。」
「………」
…えーっと…はい、バカでした。
気付いた時には、明らかに表情が暗くなった彼女が俯いている。
一応、言い訳をするなら…僕は嘘をついてない。
でも、吉岡さんが不機嫌になることはわかってたはずなのに…
一度、吉岡さんの前で…松永さんを褒めたことがある。
べつに深い意味はない…ただ褒めただけ。
その後、吉岡さんは僕には普通だったけど…松永さんとは、三日間も口を聞かなかったらしい。
それからは出来るだけ、吉岡さんの前で女の子を褒めなかったのに…
もう一度言います。
はい、僕がバカでした。
「………」
「あの、さ…その…」
「………」
「吉岡さんの方が、何倍も素敵だよ!」
「………」
…ダメだ、反応がない…
吉岡さんはゆっくり立ち上がり、自分の席に戻った。
…あ〜あ…せっかく話せたのに…
僕は彼女を傷つけてしまったのだろう。
とれかけていた疲れが、どっと押し寄せた。
僕はとりあえず寝て、今の現実を忘れることにした。
また目を閉じて、夢の中へ…
………眠れない…
次回は喫茶店がメインで進みます。沙織は本当に素直になれません…自分次第ですけど。