第四話・優しいパパ?
そういえば設定は夏です。では、続きをどうぞ。
最近、仲野くんと話してない…
私は玲奈と歩く帰り道で、仲野くんが通ることを祈り続けていた。
最近、彼は放課後すぐ帰ってしまうし…休憩時間は熟睡している。
私が起こすのも変なので、結局この一週間は全然話せていない。
彼が今、凄く大変なのは知ってるけど…ゆっくり話がしたいなぁ…
一人で物思いに耽っている私に気を使ってかどうかは知らないけど、玲奈はくだらない話ばかりしていた。
「…で、なんと由美ちゃんが犯人だったんだって! 優等生ぶってる顔の裏で、そんな事してるなんて怖いよね!?」
「…へ〜…」
「沙織、ちゃんと聞いてるの?」
「………ほ〜…」
深いため息をつく玲奈は、軽く呆れ気味である。
一方、返事が全てハ行になった私はというと…
「…は〜…」
「ねぇ…いい加減に仲野くんの事、少し忘れたら?」
「仲野くん!!!?」
仲野くんという言葉に私の顔は、ピシッ! と音を起てて表情を変える。
今まで締まりのなかった顔は、一瞬で【美少女】の私になった。
「………どこ!?」
「…はぁ?」
「仲野くんよ!…ねぇ、何処なの!?」
「…アンタさ、変わり身早すぎ。」
もう一度、ため息をつく玲奈を見る限り…今度はより深く呆れている。
仲野くんがいないことに気付くと、私の顔はまた緩んだ。
お家まで、あと500M…二人のやり取りは昨日とほとんど変わらない…
お家まで、残り100M…家の塀に着く。
私のお家は、ここからがかなり長い。
門の前まで来ると、玲奈は話し方をがらりと変えて喋りだす。
「…お嬢様がお帰りです。」
インターホンに向かってそう語ると、無駄に重そうな門はゆっくり開いた。
お家に入ってまず気付くのは、敷地の広さより…警備の数だ。
美しい庭には似合わない監視カメラが数十台と、目を合わせるのもツライ…黒いスーツのお兄さんが10人程。
…ハッキリ言って、私はこの人達が嫌いだ。
だって怖いんだもん。
自分のお家に違和感を持ちながら、前を歩く玲奈についていく。
玄関を入ると、目の前には落ちてきたら凄い痛そうなシャンデリアがある。
他にも、絵やら壷やらがあるが興味ないから無視していこう。
玲奈が立ち止まり目の前の部屋のドアを開けて、私に軽く微笑む。
「お入り下さい、お嬢様。」
「…ありがと。」
私の御礼に、仕事ですからと謙遜する玲奈。
そう、玲奈は友達の前にボディーガードなのだ。
中学生までは、怖いお兄さんが付いていたんだけど…はっきり言って迷惑だった。
さすがにパパもおかしいと気付いて、同い年の女の子をボディーガードに付けてくれた…玲奈である。
玲奈の見た目は普通の高校生だけど、合気道五段の腕前だ。
年齢の関係で正式には違うらしいが、最強の女子高生かもしれない。
最初こそぎこちない関係だったけど今ではもう………っと、不意にドアを叩く音がした。
「…お嬢様、玲奈です。」
「まだ着替え中。」
「5分後に、またお声をおかけします。」
急いで着替えた私は、制服をハンガーにかけてから玲奈を呼ぶ。
「もういいわよ。」
「失礼します。」
白いスーツを着けた玲奈がいた。
私はこの姿と、制服しか見たことがない。
休みが無くて、かわいそうだと思っていた私の心は…ドアが閉まった途端に裏切られた。
「いや〜、アッツイわね。」
「…え?…」
「あんた金持ちなんだから、クーラーぐらいつけなさいよ。」
「…ね、ねぇ玲奈?…」
「あ、そうだ。確かここにスナック菓子があったはず…」
「ちょっと玲奈!!!」
部屋に入るなりジャケットを脱いだ玲奈は、片手にエアコンのリモコンを持ちながら反対の手でお菓子を物色している。
いつもの光景ながら、非常にイライラする。
全く気にしてない玲奈は、顎で何かを指示している。
「なによ?」
「だーかーらー、テレビつけなさいってーの…いい加減、それぐらいわかってよね。」
「…クビにしてやるわ。」
「いいよー、仲野くんにバラすからね。」
ベットに横たわりながら、玲奈はこっちを見ようともせずに即答する。
私は仕方なく、リモコンでテレビをつけた。
チャンネルが違ったらしく、玲奈はチャンネルを変えろと指でゼスチャーしている。
怒りで我を忘れて気付いた時には…私はリモコンを、玲奈の頭めがけて投げていた。
球種は高速スライダー、そして見事に命中。
取組み合いの最中です、しばらくお待ち下さい。
やはり強い…私はベットで羽交い締めを食らっていた。
…仕方なくタップして、納得がいかないが…玲奈に謝った。
「…手加減してよね。」
「手加減して勝ったら、沙織は嬉しい?」
「…余計にイライラする。」
「素直でよろしい。」
………少しの沈黙の後、二人して笑いだした。
何が楽しいかはわからない…でも、今は凄く笑いたい気分だった。
しばらくすると、玲奈の携帯が鳴っている事に気付いた。
また話し方が真面目になったところを見ると、私に関係のある電話なんだろう。
あれ? 急に笑顔になった…しかも電話しながら、チラチラこっちを見ている。
電話を切ると、玲奈は私に嬉しそうに話した。
「御主人様が、今日は早く帰られるそうです!」
「え!? パパが!?…じゃあ今日の御飯はパパも一緒なの!?」
「はい!」
跳びはねて喜んでる私を、玲奈は微笑みながら見つめている。
パパと食事なんて二ヶ月ぶりだわ…
私はすぐにお風呂に入り、ディナーで着る洋服を玲奈と一緒に選び始める。
もちろん、パパに喜んで貰うためだ。
結局はお気に入りの白いドレスに決まったが、楽しみで仕方ない私はパパが帰るのを、リビングで待つ事にした。
「素敵なドレスじゃないか。」
「もー! パパが買ってくれたのよ!?」
「あ、そうだったねぇ。すまん沙織…」
パパは忙しいのに、私のためにわざわざ時間を作ってくれてる。
そんなパパが、私は好き! でも未だに私を子供扱いするのは…ちょっとやめてほしい。
御飯を食べながら、パパは最近の様子を聞いてくる。
私はいっぱい話した。
学校の成績、友達、玲奈の事やお家のお手伝いさんの話まで…この二ヶ月の話をたくさんした。
さすがに、仲野くんの話は出来なかったけど。
楽しい時間が過ぎ、パパは会社に戻ることになった。
「…おお、そうだ。来月は沙織の誕生日だったね…なにか、欲しいものはあるかい?」
今の言葉を聞いて、頭の中を仲野くんが占領している。
首を左右に激しく振って、いい子のセリフを喋りだした。
「…出来たら、またパパと食事したいなぁ…」
「…沙織…こっちおいで…」
パパは私を、優しく抱きしめてくれた。
凄く嬉しかったけど、私は違うことを考えてしまう…
仲野くんだったらなぁ…
パパとお別れして、自分の部屋に戻った。
明日はきっと、仲野くんに話しかけよう。
私はパジャマに着替えつつ、誕生日プレゼントが仲野くんだった時の想像をして赤面していた。
「…玲奈。」
「はい、御主人様。」
「沙織の様子がおかしいのだが、何か知らないか?」
玲奈は少し躊躇したが、お世話になってる御主人様に嘘はつけなかった。
沙織が恋をしていること、その相手が複雑な事情を抱えていること、二人が両想いということまで話した。
そして最後に友達として…
「…あの二人を、暖かく見守ってくれませんか?」
「………」
御主人様は5分程悩み、玲奈に聞いた…
「娘のために、何をしたらいいと思う?」
その言葉を聞いた瞬間、玲奈は最高のプレゼントの説明を始めた。
沙織はまだ、軽い妄想をしている。
『…仲野くん…』
『吉岡さん…好きだよ。』
『ダメ…名前で呼んでほしいの…』
『じゃあ、同時に名前で呼び合おう。せーのっ!…』
『猛くん!』『………』
『あ! 仲野くんずるい〜!』
『だって、少し恥ずかしいよ…』
『も〜! 名前を呼ぶまで、許してアゲナイ!』
『え〜!? 吉岡さん、怒らないでよ…』
『…ふん!』
『わかったよ…僕の負けだ。』
『じゃあ呼んで…早く…』
『………さ』
「お嬢様、玲奈です。」
あ…あと5秒で呼んでもらえたのに…
私はとりあえず文句を言うために、玲奈を部屋に入れた。
「あんたのせいで!」
「はぁ?」
「…いや、何でもないわ。」
冷静に考えれば、妄想してたなんて言えるはずがない。
私は、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
落ち着きを取り戻して、玲奈に用事を聞いた。
「別に用事はないの。」
「…そう。」
「ただ、友達として…」
そこまで言うと、玲奈は黙ってしまう。
気になってはいたけど、玲奈が黙っているので…あえて聞かなかった。
やっぱりいいと言って、玲奈は自分の部屋に帰ってしまった。
…どこか不安で、けれど嫌な顔ではない…
ま、気にしても仕方ないので…夢の中で仲野くんが出てくることを期待しつつ、私はそっと目を閉じた…
夢に出てきたかどうかは、乙女の秘密ということで………
そろそろ話が動き始めます。早く、二人を結ばせたいです…