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第……話・『はい、喜んで!!!』

先に言います、タイトルは最後のセリフです。では、どうぞ…


…卒業式も無事に終わり、私はクラスの皆と一緒に教室に集まっていた。


卒業証書なんかには目もくれず、皆のアルバムに別れの言葉や想い出などを書き込んでいると…なぜか妙な違和感を感じてしまう。


………あ、猛がいない!…どこ?…トイレかな?…


さっきまで中谷くんたちと笑ってた猛の姿が見えないことに、私は居ても立ってもいられずそわそわし始めていた。


そしてとうとう猛エキスが切れた私が猛を探しに行こうとした時、後ろの座席から聞き慣れた声に突然呼び止められてしまう。




「ちょっと沙織、何処に行くのよ?」

「いや、あのね…そこら辺に猛を探しにね…」

「仲野くん? 仲野くんなら、確か屋上に呼ばれてたはずだけど…」

「屋上? なんでこんな時に? それに『呼ばれた』ってどういう意味よ?」

「あ、そりゃもちろん…卒業式の日に、屋上に呼び出されるといえば………もう大体わかるでしょ?」




…え?…卒業式の日に、卒業生が屋上へ呼ばれるってことは…呼び出した相手が女の子なら、完全に愛の告白をする雰囲気じゃ………いやいや、猛に限ってそんな…


この学校で【私と猛】と言えば、教師も引くほどラブラブカップルで知れ渡ってるはずだ。


その猛にいまさら告白をするなんて、この学校の生徒なら…考えられないんだけど…




「…い、一応は確認していい? 猛を呼び出した相手は男?………それとも敵?」

「さぁ? 小さなピンク色の紙に、『屋上で待ってます』って書かれてただけだから、男か女かはちょっとわからないわね。」

「それ、完璧ラブレターじゃん!!! 猛のバカ、私に相談もしないで…コロシテヤル!!!!!」

「ちょ、ちょっと沙織、走っちゃダメだってば! アンタの体は今…」




玲奈の声を無視しながら、私は全速力で屋上へ走り出していた。













…ハァ、ハァ…や、やっと着いた…


階段を一気に駆け上がり、最上階にあるドアの前までやってくるのに3分も掛からなかった。


乱れた息を落ち着かせた私は、2〜3歩の助走をして目の前のドアを蹴っ飛ばす。




「コラー、泥棒ネコー!…出てこんか〜い!!!!!」

「うわっ! さ、沙織? どうしたの、そんなに怒って…」

「こら、猛! 今すぐ、私の男を横取りしようとしてる悪女を出しなさい! 隠しても無駄よ!!!」

「悪女? 隠す???…ここには、僕しかいないんだけど…」

「………へ?」

「いや、それはこっちのセリフだよ?」




…???…どういうこと?…














…今頃、沙織はギャーギャー言ってるわね…簡単に騙されるんだから…


自分の机に肘を付きながら、玲奈は軽く微笑んでいる。


そう、猛が告白されるという情報は真っ赤な嘘で…実は玲奈自身が、猛に屋上に行くよう指示を出していたのだ。


何故こんなことをしたかといえば、半分はただの嫌がらせだったけれど…沙織を喜ばせるために、わざと二人っきりの空間を提供してあげたというわけである。


…卒業式の最中、ちゃんと静かにしてたし…この一週間、私の言い付けを守って【我慢】してたみたいだから…これはそのご褒美、かな?…


柄にもないことをしてる気がして、一人でクスッと笑ってしまう。


そして何を思ったのか、玲奈は急に携帯を取り出したかと思えば…自分の答えを出すため、ボタンを押し始めた。


…そういえば私も、めんどくさい問題を抱えてるんだっけ………ハァ〜…




「…もしもし、大?…うん、無事に終わったわよ…でさ、ちょっとこっち来れない?…ほら、一年前の…ね?………」













一方…状況がほとんど理解できなかった私と猛は、お互いの情報を交換しあっていた。




「…つまり、玲奈にまんまと騙されたってわけ?…あの女こそ悪女だわね。」

「まぁまぁ、そこまで言わなくても…ほら、松永さんのお陰で二人っきりになれたんだから。」

「え〜、でも〜…私、猛となら周りに人がいてもラブラブになれるし〜…」

「…二人っきりなら、僕が積極的になるかもよ?」




恥ずかしそうにそっぽを向きながら、猛は私の腰に手をまわしてくる。


…あら、めずらしい…猛から抱き着くなんて…


本当は学校の中でいちゃつくのが嫌いなはずなのに、玲奈に騙されて軽く機嫌の悪い私のために猛が無理してることはバレバレだった。


だけどそんな猛の優しさが単純に嬉しくて、猛の顔を強引にこっちに向けると…小鳥がついばむように、小さなキスを何度も乱れ打つ。




「ちょ、やめ、て…さ、おり…」

「ん、ん、ん…んん〜ッ! よし、猛エネルギーも補給したし…もう一回キスしていい?」

「えぇ!? い、今キスしたばっかりなのに!?」

「今のは、猛の優しさが嬉しくてついしちゃっただけ。だから今度は、猛エネルギーを愛の力に変換しなきゃ。」

「…なんとまぁ、随分と直球な言いわけを…」

「ごちゃごちゃうるさい! ほら、口を閉じて…私を見つめてよ、猛…」




まっすぐに見つめる私の目に負けたのか、すぐに猛は静かになった。


そして二人を包む空気が変わったと肌で感じた瞬間、何も言わずに猛から私に唇を重ねてくる。


…これ、やっぱりこれよ…渇いた砂漠をオアシスにするような、私の心を潤してくれる猛の深い愛が込められた…このキスがなきゃ、何にも始まんないわよ…


肩をガシッと掴まれて、口の中を思うように掻き乱されながら…私は心の底から、何度も猛に愛してると叫び続けた。

















「…あ、そういえば…」

「ん? まだ何かあるの?」

「一応、卒業式が終わるまで猛には秘密って約束だったんだけど…もう終わったから、報告しても大丈夫よね。」

「…その含みのある言い方…少し怖いんだけど…」




あれから私たちは、まだ屋上の片隅に二人っきりで過ごしている。


『せっかく二人になれたんだから、わざわざ教室に帰ることもないよ』…と、あの恥ずかしがり屋の代表である猛が言ってくれたからだ。


まだまだ寒さが消えないこの時期に、椅子も風よけも無い屋上で立ちっぱなしというのはさすがにつらい。


だがしかし、自分のブレザーを私に羽織らせつつ肩をも抱きしめてくれる猛に対して…私は結局、猛の体に寄り添うことを選択していた。


そしてしばらく他愛ない会話と、愛のあるキスを繰り返していたところで…ある重要な事実を打ち明ける。


………まぁ猛も、大体は気が付いてると思うんだけど…ちゃんとした報告をしなきゃね…


意味ありげに咳ばらいを一つして、私は眉をしかめながらゆっくり話し始めた。




「あのね、一週間ぐらい前に玲奈が【例の物】を買ってきて…」

「…例の物? 何それ?」

「妊娠検査薬。」

「!!!!!…に、妊娠検査薬って…」

「うん、私…赤ちゃんが出来てたみたい。」

「ほ、ホントに!?………やった、やったじゃんか沙織! 僕と沙織の愛が、ついに形になったんだ!!!」




急に私の手を掴んだかと思うと、猛はそのまま力強く私の体を抱きしめてくる。


…も、もう!…猛ったらはしゃいじゃって…父親なんだから、子供の前ではしっかりしなさいよ!………って、私が言えるわけないわよね…


若干壊れつつあるテンションではあったけど、猛が我を忘れる程に喜んでいるんだと考えたら私もドンドン嬉しくなってきた。


気がつくと私も一緒に壊れていたらしく、何故か学校の屋上で…二人だけの万歳三唱が鳴り響いている。


そして手を上げるのに疲れて見つめ合うと、どちらからともなくアハハと笑いだした。




「ハハ…実は僕も、何か変だとは思ってたんだ。だってあの沙織が、一週間も誘惑してこなかったから…寂しくて寂しくて…」

「だって玲奈がね、『ちゃんと病院に行くまではセックス禁止!』…とか言うんだよ!? 私も寂しかったけど、一応これでも《ママ》になるんだから、我慢しなきゃって思って…」

「そっか…うん、偉いよ沙織。そうだよね、もう僕たちは子供のことを第一に考えないといけないよね…」

「それはダメ!」

「ふぁお!?」

「確かに、お腹にいる赤ちゃんも大事だけど…私の一番はやっぱり猛なんだから、猛の一番だって私じゃないとヤダ!!!」




猛の胸に強めのパンチを一発喰らわして、頬を膨らませる。


…私のお腹が大きくなって、赤ちゃんを産んだ後スタイルが戻らなくても、何年かしてそこら辺のおばさんみたいになっても、そして後々はお婆ちゃんになったとしても…『世界で一番、愛してるよ』…って死ぬまで猛に言っててもらいたいの!!!…


ゲホゲホッと咳込む猛を無視して、私は猛に背中を向けた。


それから《機嫌が悪い》オーラを全面に出して、何かを言ってる猛の声が聞こえないように両方の耳を急いで塞ぐ。


…ふん!…もう絶対許さないんだからね!………まぁ後ろから優しく抱きしめてくれたら…謝罪の言葉ぐらいは聞くかも…


変な期待が頭に浮かび、私はチラッと後ろの猛へ振り返った。


当然、猛は私のことを見ていたので…見事に目と目がぶつかってしまう。


慌てて体を向き直したが、私の浅はかな考えなんて猛には一瞬でバレたらしく………後ろから包み込まれるように、優しく抱きしめられた。




「…怒らないで聞いてくれる?」

「………バカ…」

「何よりも沙織が大切だと信じてたのに、『赤ちゃんが出来た』と知った今…沙織と同じくらい、沙織のお腹にいる子供も凄く大切だと思った。この気持ちは嘘じゃないし…嘘にしたくないんだ…」

「………」

「だから、例え沙織が怒ったとしても…僕はこの気持ちを偽らない。これからだって、子供を第一に考えようと思う。」

「…でも…私は猛が一番だもん…」

「僕だってそうだよ。沙織を二番にするつもりなんて無い…寧ろ、今まで以上に愛を捧げるからね。覚悟してよ?」




膨らましてた頬に猛からチュッとされてしまい、私は何も言い返せなくなってしまう。


…むぅ〜…そこまで言うなら、信じてみようじゃないの…


猛の腕の中で体を半回転させ、私もさりげなく猛に手を回した。


そして俯いたまま、『わがまま言ってごめんなさい』…と小さく呟く。


聞き取れないぐらい小声で囁いたのに、猛はニッと笑って私の頭をくしゃくしゃ撫でてきた。


…や、やだ…一生懸命セットしたのに、髪がボサボサになっちゃう〜…




「アハハ! わがまま姫へ、軽いオシオキだよ!」

「も、もう! せっかく猛のためにキメたのに!!!」

「…乱れた髪も色っぽいんだけどなぁ…もったいないなぁ…」

「な!?………そ、そうなの?」

「うん! っていうか…愛してるよ、沙織。」

「ミャッ!?!?…ふ、不意打ちは禁止!!!!!」




アハハと笑ってたくせに、0.02秒で真顔に戻った猛に愛を囁かれたので…油断してた私の心臓は、不整脈を起こしている。(気がするだけ)


…ハァ、ハァ…最近、猛のせいで寿命が縮みっぱなしだわ…お腹の子にも悪い影響が出るかも…


とか何とか言いながらも、嬉しさが込み上げてきて…ちゃっかり猛に唇を重ねる私であった。




「…それにしても、あの沙織が妊娠かぁ…」

「エヘヘ、今はまだお腹も出てないけど…あと何ヶ月かしたら、この私も《お母さん》の仲間入りなんだよ? 凄くな〜い?」

「うーん…なら、早めにしなきゃね。」

「??? 何を?」

「いや、その…婚姻届の提出、とか…」




………あっ!!!!!…そういえば私たち、まだ婚姻届を出してないんだった…


自分たちが正式な夫婦でないと気付いてしまい、私はかなり焦りだす。


…ど、どうすんの!?…まずは、役所で婚姻届を貰って…いやいや、それは玲奈がやってくれてるはず…ってことは、パパやおば様に挨拶………は済ませたじゃない!…


あーでもない、こーでもないと考えながら私は屋上でオロオロしていた。


一方、そんな右往左往の私を見つめつつも…猛は静かに微笑んでいる。


そして何を思ったのか私の両肩を捕まえると、何も言わず私の瞳の奥を覗き始めた。




「…あの、さ…一つだけお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

「な、何よ? 『別れたい』とか言ったら、殺すわよ!?」

「そんなわけないって…ただ、正式な夫婦になる前にやりたいことがあるんだ。」

「? 何をするの?」

「沙織に一度フラれたこの屋上を、今日で二人の思い出の場所にしたいと思ってさ…」




その言葉を聞いた瞬間、私は文字通り体が固まってしまう。


………もしかして…猛はずっと、あの時のことを気にしてたの?…


それはかなり昔のようで…でも思い返せば、昨日の出来事のように鮮やかに蘇る情景。


一生懸命に告白してくれた猛を、平気な顔で私は拒絶していた。


結局は幸せな結末を迎えてるから気付かなかったけど、猛からすればあの時の傲慢だった私が未だにちらつくのだろう。


…そういえばあの日から屋上に来てないし、話題にすら出なかったわよね………ってことは、猛はあれからずっと引きずってたの?…




「引きずってはないけど…ここに来てから、何か胸の奥にチラチラとあの時の映像が…」

「………それ、引きずってるって言うんだけど…」

「ア、アハハ…まぁそれは置いといて、どうする? 僕の願いを叶えてくれるの?」

「ふふっ、バカ。二人の思い出を作るっていうのに、断るわけがないでしょ。で、何をするわけ?」

「あ、別に沙織はこれといってすること無いよ? 僕が勝手に話すから、返事をくれるだけってことで。」




そう言って猛は私から手を離し、3〜4歩ぐらい後ろに下がった。


…な〜んだ…エッチなことされるかと思って、ちょっとドキドキしてたのに…残念…


最近間違った方向に進みつつある私の頭をよそに、猛は誰が見てもわかるぐらいに緊張していた。


その様子が本当にあの時の告白のようで、馬鹿なことばっかり考えてる私も自然と息を飲み込んでいる。


ゆっくり見つめ合い、私が猛を促すようにコクンと首を傾げたら…猛には似合わない、大きな声が飛んできた。




「僕は、あなたを愛してます!」

「!!!」

「沙織を好きになれて、本当に良かった!!!」

「…な、何よいきなり…」

「沙織のためなら死ねると言った言葉は、今日で取り消すよ! 今日から僕は、沙織とそのお腹にいる子供のために…何が何でも生きる! 生き続けて、必ず守り通すから!!!」




力いっぱいに込められた猛の想いが、言葉となり私の胸を染めてゆく。


照れ臭くてつい目を反らしそうになるが、真っすぐに見つめる猛から私が逃げちゃダメだ…と感じ、少し顔を赤くしながらも逃げずに見つめ返していた。


…猛は今、真剣に私と向き合ってるんだもの…私も最後まで受け止めなきゃね…




「僕は甲斐性無しだから、沙織に迷惑をかけるかも知れないけど…これだけは約束できる! 僕は絶対、浮気はしない!!!」

「…当たり前よ。この私の魅力で、悪い虫なんか寄せ付けないんだから…」

「子供が大きくなっても、そして僕たちが年老いても…沙織の隣は僕、僕の隣は沙織って関係でいたいんだ!」

「…今とあまり変わらないけど…幸せそうな未来ね…」

「だから沙織!!!」

「………はい…」















…僕と結婚して下さい!!!!!…















…思えば、あの日が最初だった…


猛に告白され、否定したくせにやけに気になって…玲奈に相談した。


自分の気持ちがわからなかった私に対して、その時の玲奈はまだ何も言わなかった。


そして次の日から、猛の顔を見るたびに胸が痛みだす。


切なくて苦しんで…自分の胸からの声が頭で理解できなくなり猛を避け始めた時、やっと玲奈が教えてくれる…『仲野くんが好きなのね』…と。


意識し始めたら大変だった…何もかもが、猛中心になったから。


他の女子と話してる時にわざと割り込んだあと、緊張して話せずグダグダになったり…


猛が玲奈を褒めた時なんて、ムカついた私は親友を真剣にクビにしようかと考えたぐらいだ。


猛のせいで泣いて、猛のお陰で笑って…きっと私は、猛に出会うために産まれたんだと思う。


だからあの時と同じようにプロポーズしてくれた猛に対して、私の答えはすでに決まっている。


胸いっぱいに空気を吸い込んで、その答えを空に響き渡らせた。

















…この愛が永遠に続きますように、と願いながら…





はい、作者です。               この作品、実は過去に書いた話を甘々ラブコメにアレンジしたのですが…元ネタがわからなくなるぐらい、流れが変わりました。(本当の話では、玲奈が2〜3人ボコボコにしてます…)               徹も活躍したんですが、甘い話に彼はいらなかったので…バッサリと存在をカットしました。何か可哀相です…                ちなみに、玲奈の成就した恋、沙織が自分の娘に嫉妬する話、沙織の子と玲奈の子が結ばれる…などなどエピローグ的な話は山ほどありますが、納得のいく終わりにならなかったので気になる方はご想像にお任せします。           長々と、そしてダラダラと、でも話はたんたんとお届けした《借金天国!?》…これにてお開きです。                    私は凹みやすいので批評は柔らかくお願いします。では、最後までご覧下さった読者の方々…本当にありがとうございました。

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