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第三十二話・卒業まで待てない!?

…スイマセン、お久しぶりです…では、どうぞ…


愛用のソファーで沙織と二人、仲良くテレビを見ている普通の昼下がり…これまた普通に松永さんが突然やって来た。




「…仲野くん、ちょっと来て。」

「あ、はい。どうしたんですか松永さん?」

「とにかくこっち…あ、沙織はそこにいなさい。」

「え〜!?…猛と一緒にいる〜!!!」

「まぁまぁ、すぐに戻るから…沙織は座っててよ、ね?」




僕だけが呼ばれるなんてめずらしいけど、藤ノ宮のことで話があるんだと思っていた。


僕の腕をガチッとロックして逃がさんとする沙織を宥め、空いてる寝室に松永さんと二人で入る。


…さて、今度は何の問題が起きたんだろ…藤ノ宮コンツェルンに振り回されるのも、だんだん慣れてきたよ…


どうせ美鈴さんの安易な考えによる問題だと思い、半ばいい加減な気持ちのまま松永さんの話に耳を傾けた。




「…そんな簡単な問題だったら、わざわざ二人で話さないわよ。」

「…え?…どういうことですか?」

「いい、仲野くん…実は昨日、藤ノ宮コンツェルン会長から御主人様宛に個人的手紙が届いたの。」

「…おばさんから、沙織のお父さんに手紙?」

「ええ。内容は…簡単に言うと《仲野くんと沙織の婚約、おめでとう》…って感じ。」




…へ?…別に問題はなさそうな内容だよね…


誹謗中傷の手紙が届いたならいざ知らず、僕たちを祝福してるおばさんの気持ちはかなり嬉しい。


ところが松永さんの表情は、それどころじゃない憤りを見せていた。




「…でもね、この続きが問題なのよ。」

「続き?…やっぱり酷いことが書かれてたんですか!?」

「それが違うの。その逆で、《二人の結婚式を、藤ノ宮家が総て取り仕切りたい》…って書かれてたんだって。」

「…マ、マジですか!? それって完全に僕たちの結婚を、認めてくれた証拠じゃないですか!…やったー! おばさん、ありがとー!!!」




僕たちを祝福してくれるだけでなく、結婚式まで考えてくれてるおばさんに僕は心の底から感激している。


…藤ノ宮家ってことは、美鈴さんも沙織を認めたんだ…これで何の障害も無くなったぞ…


本当は若干、美鈴さんに反対されながら沙織との婚約を決めたことに不安を感じていたけど…もう不安になることもない。


すぐに沙織に報告しようと扉に手を掛けたのだが、そこで一つの疑問が浮かんだ。




「松永さん…おばさんが結婚式を挙げてくれると、何が問題なんですか?」

「…ハァ〜、これだから一般人は………もしも、藤ノ宮家がアナタたちの結婚式を挙げるとなると…周りの人間はどう思うかしら?」

「………さ、さぁ?」

「…周りはアナタたちのことを【藤ノ宮の人間】だと、公然的に認知するのよ。そんなのマズイでしょ?」

「あの、よくわからないんですけど…僕と沙織が藤ノ宮の人間だと思われたら、そんなにマズイんですかね?」

「当たり前でしょ!? 仮にも沙織は、メイリーグループ会長の一人娘よ!?…仲野くんは沙織と結婚したら御主人様の跡継ぎになるのに、藤ノ宮コンツェルンの側に籍を置いてるとなると大問題じゃない!!!」




怒鳴り声に近い松永さんの説明のお陰で、僕にもようやく事の重大さが理解できた。


…これが僕たちだけじゃなく、メイリーグループと藤ノ宮コンツェルンの威信に関わる問題だったとは…のほほんとしてる場合じゃないな…


美鈴さんが僕を藤ノ宮に迎えようとした時、沙織と付き合っていることが問題になると言っていたのを思いだす。


あの時おばさんが僕たちに『別れなくてもいい』って言ってくれたのは、何も僕を諦めたわけではなかったようだ。


問題になると知りつつ、沙織も一緒に藤ノ宮家の一員にしようとするとは…何処か抜けてるように見えて、さすがは大企業のトップに座る人である。


…これは大変だな…沙織は一人娘だから藤ノ宮に嫁げないわけだし、自然と僕がメイリーグループの跡継ぎになるしか…な…い?………




「…ちょ、チョチョチョチョチョチョ、ちょっと、ちょっと待って下さいね………【跡継ぎ】ってなんです…か?…」

「…まさか、今まで知らなかったの!?」

「し、知らないも何も…だって僕、普通の高校生ですよ!?…無理に決まってるじゃないですか!」

「そのために、わざわざ私が跡継ぎに相応しいかどうか見守って来たんでしょ!…御主人様の合格も貰えたんだし、メイリーグループの次期会長はもう仲野くんしかいないのよ!?」




肩をガクガク揺さぶられながら、『どうして何も考えてなかったの!?』…と松永さんに凄く怒られてしまう。


…ど、どうしよう…沙織との結婚、かなり簡単に考えてたよ…まさか僕が、あのメイリーグループを継ぐなんて…


今まで僕は、沙織さえ幸せに出来ればそれでいいと思っていた。


それだけでも、僕なりに凄い決意のつもりだった…一人の女性を一生幸せにすること、それはそれでかなりの覚悟が必要だったからである。


やっと覚悟を決め、沙織を守りながら人生を歩いていこうとしたところ…急に超巨大グループ会社が沙織の真後ろにそびえ立った。


…確かメイリーグループって…コンビニやファミレス、居酒屋…そういえば最近ガソリンスタンドも始めたらしいし、あの金融会社も含めると………………無理、絶対ムリだ…


こんな僕が、何千何万の人の上に立つ資格なんてあるわけがない。


考えれば考えるほど責任の重さに恐くなり、汗がとめどなく溢れだした。




「松永さん、やっぱ無理です。どう考えたとしても、僕じゃ荷が重いに決まってますから…」

「そんなこと無いわよ。この私、自らが選別したんだもの…間違いなく、仲野くんは会長になれる素質がある!」

「そんなこと言ったって、僕のどこにその素質があるんですか? 平凡を絵に書いたような男なんですよ?」

「…確かに誰でも簡単に出来るほど甘くないし、プレッシャーや辛い決断を迫られたりで仲野くんが苦しむかも知れない。でも…いや、だからこそ仲野くんじゃなきゃダメなの。簡単にOKを出すようなバカは要らない…真剣に悩んで、どうすることが一番なのかを考えられる仲野くんを私たちは認めてる。沙織と一緒に住むって決めた時も、沙織とセックスする時も、沙織と婚約を交わす時も…仲野くんは真剣に考えて、物凄く悩んでた。しかも自分じゃなくて、全て沙織のために答えを出してきた。そんな仲野くんを、御主人様も私も…何より沙織が求めてるの。」




………ずるいなぁ…沙織の名前出されて求めてるなんて言われたら…無下には断れないよ…


松永さんのお陰で、肩の重圧が軽くなっている。


責任の重さが無くなったわけではないけど、僕という人間を認めて必要としてくれてるのがとても嬉しかった。


………だからこそ…返事は難しいよ…




「お願い、仲野くん! 仲野くんの口から直接、『メイリーグループの跡を継ぐ』と藤ノ宮さんに一言、言ってほしいの!」

「………」

「全力でサポートもする! だから、御主人様の期待を裏切らないで!」

「………」

「…仲野くん…」

「………僕に少しだけ…時間を下さい…」














僕が即答しなかった理由…それはおばさんと美鈴さんである。


当然と言えば当然なのだけれど、わかっていても簡単に割り切れるわけがなかった。


それは単純に藤ノ宮家が大事だとか、藤ノ宮コンツェルンがメイリーグループに負けないぐらいの大企業だから、などではなくて…


………せっかく出会えた【家族】と別れたくない…だけなんだよね…


最初こそ戸惑ったものの、なんだかんだ僕のことを気にしてくれていたおばさん達。


『沙織と別れてほしい』と言った時も、美鈴さんが僕のためにと行動してくれたわけで…まぁ、今となっては笑い話だ。


そして、それからは僕と沙織をセットで気にしてくれるようになったわけだし…もう僕は、そんな二人を家族なんだと心で感じている。


もちろん沙織は最愛の人で、僕の奥さんになってくれる人だから…沙織も沙織のお父さんも大事な家族だ。


松永さんにもお世話になってることだし、沙織との結婚を許してくれたお父さんを精一杯手伝いたい気持ちは凄くある。


ただ困ったことに、双方が大企業ということで…僕がメイリーグループを継ぐと、藤ノ宮コンツェルンには個人的といえどあまり関われない。


それはつまり、家族との別れを意味している。


おばさん達も僕を必要としてくれるのに、こんな別れ方はどうしても納得出来なかった。


納得は出来ない、けれど受け入れなきゃいけない…僕の心は今、かなり揺れている…
















………というわけで僕は、決断を迫られてるんですよねぇ…


悩んでた僕を残して、松永さんは忙しそうにまた仕事に出かけてしまう。


もちろん、あの松永さんが何もせずに帰るわけがなかった。


答えが出せない僕にムリヤリ答えを出させる方法を、僕以上に理解してるらしい。


…一人でじっくり考えたいのに、どうしてこうも邪魔するんだろ…




「まったく、悩んでる猛の邪魔するなんて最低よ! そんなことする奴がいるなら、私が黙っちゃいないんだからね!!!」

「………沙織に言ってるんだよ、僕は…」

「え、私? 私がいつ、猛の邪魔したの?」

「今現在、リアルタイムで邪魔してるんだって…とりあえず、僕の体から離れてくれる?」

「やだ。だって今日は、玲奈のお墨付きだもの!…『仲野くんを誘惑しながら、跡継ぎにスカウトしなさい!』…すかうとの意味はわからないけど、猛を誘惑するのに意味なんていらないもんね! 《何をしても良い》…って条件なんだし、今夜からはまともに寝れると思わないこと。OK?」




…見事に利害が一致したわけだ…これは、かなりマズイぞ…リミッターが外れた沙織に、僕が勝てるわけ無いよ…


ソファーに戻って真面目に考えようとしてたのに、最強の戦士が僕の上に乗っかり宣戦布告をしている。


いつもの僕なら、沙織が暴走を始めたときの最終防衛ラインとして『松永さんが怒るから』の一言で秩序を守ってきた。


しかし、その松永さんが沙織の味方になった今…拒む理由がない。


嬉しそうな沙織の笑顔に否定もできなくて、僕はまた振り回される結果となってしまった。


ベットの上から逃げ出すことも、松永さんの助けも期待できない。


諦めムードが漂う僕とは打って変わり、この状況だからこそ最も輝いてる女の子が目をキラキラさせておねだりし始めた。




「…タ〜ケ〜ル〜、私ね…キスしてほしいなぁ…」

「いや、だから…今から藤ノ宮とメイリーグループのことを、少し時間を使って考えようと…」

「キ・ス! 猛の口で、私の口を早く塞ぎなさい。これは命令よ?」

「………命令ってそんな…僕にだって、断る権利ぐらい…」

「問答無用、うりゃ〜!」




体の上に乗っかる沙織の口撃を僕が避けれるはずもなく、迫り来る柔らかそう唇は真っすぐに僕の口を狙っている。


首を左右に振って抵抗を試みるも、何回かの軽いキスのあとで背中に手を回されてしまい…沙織の舌が強引に口の中へ割り込んできた。


…も、もう!…いっつも強引なんだから!………そんな沙織を好きな自分が、本当は1番許せないんだけどさ…


もはや白旗を振った僕としては、抵抗する意味が無くなったので…沙織に身を任せることにする。


一分、二分と時間が過ぎていく中…僕も気持ちが乗り始めたとき、なぜか沙織が急に顔を離した。


ニッといやらしく笑って僕を見つめるその顔は、何か良からぬイタズラを思いついた悪ガキのように見えてくる。


…どうしよう…嫌な予感しか浮かばないよ…


そんな僕を普通にスルーして、沙織はまたも勝手に話し始めた。




「ワタシ、閃いちゃった!!!」

「…聞くのが怖いけど、聞かないと後々も〜っと怖い気がするので一応聞きます。沙織、何を閃いたの?」

「あのね、猛が悩んでる理由って…パパとおば様、両方に跡継ぎにならないかって誘われてるからでしょ?」

「…うん。まぁ、そんな感じ。」

「それはつまり、どっちの会社も猛が跡を継げば万事オーケーなのよね?」

「でもね、沙織…そんな簡単に言うけど、一つの会社だけでもそこらへんの市町村を揺るがすほど大企業なんだよ? その二つの会社を平々凡々な僕が同時に継ぐなんて、あまりにも無謀すぎるよ…」

「…確かに、猛が一人でパパとおば様の会社を受け継ぐのは、私も現実的じゃないと思う。だから私は、ここで発想を転換してみたの!」




沙織が力強い発言をしたかと思うと、今度は突然上着に手を掛ける。


意味が全くわからないので、もちろん僕は止めようとしたけれど…マウントポジションを取られているため結局負けてしまい、沙織の真っ赤なブラは僕の目の前で露出してしまった。


…赤は久しぶりだなぁ………じゃないよ!…今の話と関係ないのに、何で沙織はすぐに服を脱ぐんだ!?…


何度も見ているとはいえ、沙織のくびれた細い体やストライクゾーンど真ん中の少し小さめな胸は恥ずかしくって…未だに直視する勇気が無い。


目を閉じさらに顔を横に向けながら、僕の前だと露出魔になってしまう女の子に猛然と抗議した。




「沙織、どうしてすぐに裸になるの!? ちゃんと僕に説明をしてから…」

「…あのね、猛…二つの会社が猛を必要としてるのに、その猛がこの世に一人しかいないとなると…どうすればいいと思う?」

「だ、だからそれは………答えられないよ…」

「ぶ〜、残念。正解は………猛を、【もう一人】作ればいいの!」

「はぁ?…作る?………僕を?」

「そう! ここに、ね?」




自分のお腹を摩りながら、沙織はエヘヘと優しく微笑んでいる。


…???…沙織のお腹に、もう一人の僕?………まさか!!!…いや違う、そんなはずないよ…


もし、僕の予想が当たっているんだったら…あの松永さんが許すはずないからだ。


浮かんだ【幸せな結末】を脳から消すため、僕は頭を激しく左右に振る。


だがしかし、すぐに沙織に顔を掴まれて…当然のようにキスをされながら、悪魔の囁きが聞こえて来た。




「まぁとりあえず、10人もいれば賑やかになるわね。」

「…やっぱり…しかも、すでに二桁の計画だし…」

「だって、もし一人だけだったら…跡を継ぐのが嫌かも知れないじゃない?」

「それは…そうだね。僕も最初は戸惑ったぐらいだから、無理に押し付けるのは確かにかわいそうかな。」

「でしょ? それなら、【数打ちゃ当たる】作戦も悪くないわよね?」




沙織も意外にしっかりと考えてることに、なぜか妙に納得してしまう。


…成る程ね…体の負担を考えても、少しでも早い方が沙織のためかも…


学校やお父さんとの約束もあるし、あの松永さんには凄く、スゴク、すご〜く怒られるはずだ。


それでも、沙織の幸せを第一に考えたい僕としての答えは………




「わかった。沙織の意見に乗っかるよ。」

「本当!? やった〜!!!」

「…でも、いいのかなぁ…僕みたいなのが、父親になるなんて…」

「大丈夫! そんなこと言い始めたら、私がママになる方が怖いわよ?」

「………それもそっか。僕たちは、どうせ僕たちのまんまだしね。」

「そう、一緒に成長してけばいいの! だから…」














「元気な赤ちゃんを作ろうね、パ・パ!」




…アハハ…ママみたいな、わがままにならなきゃいいけどね…



はい、作者です。               実はまだ、最後の結末に迷ってる真っ最中なんですが…感想をいただいたので、更新する気のなかった作品を載せてみました。                    二人の間に子供が出来ると、猛と二人っきりでいたい沙織の気持ちなどが矛盾になるじゃないかと思い…ボツにした話なわけです。                  ダメな作者ですが、読んで下さる方がいることを励みに頑張りたいと思います。                   また一ヶ月以上かかるかも知れませんので、忘れた頃にでも覗いてみてくださいね。では、また次回…

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