第三十一話・番外編3…完璧な女の恋情
…久しぶりの更新です。玲奈視点、完遂編…では、どうぞ…
「…以上です、美鈴様。」
「そう、ご苦労様。今月も猛ちゃんと沙織さん、仲が良さそうね。」
「はい、それはもう迷惑なほどにラブラブです。」
「周りに嫌悪感を与えるカップルねぇ…やっぱりもう一度、遊びに行こうかしら?」
コーヒーカップを置きながら、美鈴はクスクスと笑い始める。
…私の苦労も知らないのに…他人事だと思って…
私は作り笑いを浮かべて、目の前の美鈴から視線を外し気味にコーヒーを飲んだ。
美鈴がマンションに来たあの日、実は私と美鈴でひそかに約束を交わしていた。
《月に一度、仲野くんに関する報告を必ず行う》…という何とも面倒臭い約束である。
美鈴にしたら、仲野くんが心配だからなのだろうけど…私にとってはただの迷惑だ。
…だってわざわざ平日の午前中に学校を休んでまで、こうして美鈴と会わなきゃいけないなんて…あ〜サイアク…
それに相手は藤ノ宮コンツェルンの幹部クラス…迂闊な一言が何を招くかわかったもんじゃない。
もし美鈴の機嫌を損ねるようなことが万が一にもあれば…きっと私達だけの問題じゃ済まないはずだ。
…と、言ったところで…仲野くんと同じ血が流れてる人が、簡単にキレることも無いけどね…
今日の報告も無事済んだことだし、あとはそれとなく解散する雰囲気に持っていくだけ。
私はコーヒーを飲み干して、美鈴に軽く話しかけてみた。
「美鈴様、私はそろそろお嬢様をお迎えに…」
「あ、待って! 実は、また持ってきてるのよ。だから…」
「…美鈴様、そういうのは本当に困るのですが…」
「いいから、いいから! ほら、この【物件】はお母さんのオススメよ?」
美鈴がテーブルに並べたモノは、もちろん住宅の情報誌ではなく…藤ノ宮コンツェルンで働いている、結構若い男性の写真だった。
そう…俗にいう、【お見合い写真】である。
…これよ…これだから、美鈴はうざいのよ…一体、何回断れば気が済むのかしら?…
困った私は苦笑いを浮かべ、出来るだけやんわりと断り続けた。
それでも美鈴は、『絶対気に入るから!』と何度も強引に見せてくる。
写真の男性は確かに顔も整ってるし、有名な大学を出てるようだったけど…やはり興味が持てなかった。
………私って、そんなに男を欲してる風に見えるの?…意外にショックなんですけど…
「…う〜ん…今月もダメだったわね。」
「あの、美鈴様? 私はこのような形で、男性を選ぶつもりは毛頭ありません。」
「そうなの? でも今、フリーなんでしょ?」
「…はい。ですが私は、色恋自体があまり…」
「あ、狙ってる男がいるとか?」
人の話を聞きもせずに、美鈴は勝手に私のプライベートを詮索し始める。
イライラを通り越して、すでにどうでもよくなってきた私は…否定するのも疲れてきた。
…もうイヤ…なるようになればいいわ…
「…うっわ、スゲー荒れてんなぁ…」
「ああ? 誰が荒れてるっつーのよ!?」
「レナ姉だよ、レナ姉。ほらほら、もういい加減にしとけって…」
「うるさ〜い! さっさとあと一つ、持ってきなさいよ!!!」
結局あの後の話は上手くうやむやにして、自分の部屋へと戻ってきた。
本来ならば沙織を迎えに学校に戻るのだが、今のまま沙織と仲野くんのバカップルぶりを見せ付けられたら堪ったもんじゃない。
…どうして私が、こんなにストレスを抱えなきゃなんないわけ?…実に不愉快だわ…
これ以上はおかしくなると判断した私は、今日は完全に仕事放棄する決定を下した。
だからこうして、学校に行ってない大を使いっぱにしながらストレス発散してるのである。
…まぁ沙織のことは、大に任せりゃいいし…基本大丈夫でしょ…
「…大丈夫じゃねーよ。それ、幾つ目なんだ?」
「これ? まだ三袋よ?」
「多いだろ…ビックサイズのポテチ、三袋は…」
「大には関係ないでしょ!?…好きなんだから、しょうがないじゃない!」
誰だって好きな物の一つぐらいあるはずだ。
それが私の場合、ポテチのコンソメ味なのである。《塩味なんて邪道》
…このパリッとした食感に、深い味わい…まさに現代人の最高傑作…ん〜美味し!…
ポテチを2〜3枚ずつ口に頬張れば、私を悩ますくだらない日常もどこか遠くに………
「あ、無くなっちゃった。もう一つ取って来なさい。」
「まだ食うのかよ!?…やめとけって、な?」
「ほほぅ…私に逆らうわけね。死にたいの?」
「お、俺はレナ姉のためを思って…それにレナ姉、最近ポテチの食べ過ぎで顔が若干ふっくら…」
「はい、死刑確定。そこに座りなさい!!!」
後ずさる大の首を捕まえて、強引に床に正座させた。
…私の顔がふっくら?…じゃ、アンタの顔もふっくらさせてあげる…
嫌がる顔を押さえ付けて、右に左に往復ビンタを繰りだしていく。
八発ほど放ってから、涙目の大に向かって警告した。
「…いい? 今度私の体にケチつけたら、車椅子で生活することになるわよ?」
「…はい…スミマセンでした…」
「それに私はね、ちゃんとカロリーコントロールぐらいしてるんだから。ほら、ウエストは細いでしょ?」
「………オシリ…お嬢様よりデカイ…」
私の良さを伝えるためにパリコレモデル並のポージングを目の前で決めてあげたのに、またも大の口からは私を卑下にする言葉しか出てこない。
…う〜ん…もう少し教育が必要ね…
腹に蹴りを入れて、悶絶する大を見下ろした。
…角度がイマイチだわ…あと二発…
「ゲホッ、ゲホッ…追い撃ちかよ…」
「まったく、何年経っても変わらないのね。子供の時から悪態ばっか…」
「あ、悪態じゃねぇ!…本当にレナ姉のために言ったんだよ、俺は!」
「…別にアンタには、私が太ろうが痩せようが関係無いじゃない。」
「関係ある! レナ姉は、美しいまんまでなきゃダメだ!!!」
………へ?…
真剣な目で私を見つめる大に、一瞬だけ言葉が詰まってしまう。
床に正座したままだから迫力は無いが、大の真剣さは充分に感じとれた。
それから互いに何も言わず少し沈黙した後、意をを決したように大が立ち上がり口を開く。
…あ、ダメ…この展開、一番嫌なパターンだわ…
「実は俺、昔からレナ姉のことが…」
「…好きとか言ったら、死ぬわよ?」
「えぇ!? そ、そんなこと言ったってさ…」
「美鈴にも言ったけど、今は色恋に興味ないの。沙織たちのことだけでも悩んでいるっつーのに、自分の恋愛にまで脳ミソを使わせるわけ!?」
「う、うぅ…軽はずみなことして、すいませんでした…」
だんだん語尾を強くしながら威圧的に拒否すると、大は再び床に座り込み深々と土下座して謝ってきた。
はっきりいって前々から、大の気持ちには気づいていた…ずっと二人一緒に育って来たんだから、マヌケな大がこの私に隠し通せるはずもない。
だけど決して馬鹿にしていない…何故なら私の心が、そんな大の気持ちを喜んでるからだ。
…身長が高くて、体つきもイイ感じ…ちょっと顔は濃いけど、整ってるのよねぇ…私に忠実だし…
ダメな部分も確かにあったけど二人で過ごす日々には、それらを全て超越させるほどに大の魅力を私に植え付けている。
容姿は悪くないし、私の気持ちも汲み取れる大になら…本音の所、女の私を許してもよかった。
実際私の心に余裕さえあれば何の問題も無いのだが、忙しすぎてその余裕というものが砂一粒ほども無い。
沙織と仲野くんの問題が落ち着くまでは自分自身にも構ってられないので、大には悪いけどわざと強めに否定したのだ。
それにしても、大なりに決意して挑んでたのか…その後の落ち込みかたは、笑えるほどに酷い有様である。
…仕方ないわね…悪い気はしないから、少しだけフォローしてあげる…
私も床に座って、遠くを見つめながら放心状態に陥ってる大に優しく話しかけた。
「私のこと、本当に好きなの?」
「…ああ、好きだ…俺の中でのレナ姉は、最強で、美麗で、完璧で…なのに料理が出来ないっていうカワイイとこもある、絶対無二の存在なんだ…」
「そこまで想ってるなら、一年ぐらい我慢できるわね。」
「…1年?…1年経つと、何があるんだ?」
「一年後、私たちは高校を卒業するの。そしたら沙織と仲野くんは堂々と夫婦になる上に、私もメイリーグループの仕事に集中できる。つまり悩みは減って、自分の時間が増えるのよ。」
「それって…ま、まさか…」
「…来年ならアンタにも、【可能性アリ】…ってこと。わかった?」
私の言葉を聞いた瞬間、あんなに小さくなってた男が急に跳びはねて立ち上がる。
そして先程まで虚ろな顔で見つめていた窓の外に向かい、『奇跡だー!』等と言いながら、両手を高々と上げた。
…可能性があるってだけなのに、こんなにはしゃいじゃって…あまり期待させない方がいいかしら?…
少し釘を刺そうとガッツポーズする馬鹿を呼ぶと、意外にも冷静な反応にこっちが驚きそうになる。
「…それじゃ、お嬢様と仲野さんを迎えに行ってきます。」
「えっ!? もうそんな時間なの!?」
「早めに待っとかなきゃ失礼だろ?…レナ姉は、のんびりしてていいからさ。」
「何か、逆に悪いわね。」
「いいって。俺、レナ姉にふさわしい男になれるよう…頑張るから。」
ほんの一瞬、ドキッとした胸を押さえて…真顔の大を強めに叩いた。
…卑怯だわ…ポイント、減点2ね…
大を玄関で見送り、一人になった部屋で散らかるポテチを片付け始める。
袋の後ろを見てカロリーを算出し、私はまた深いため息をついていた。
…ハァ〜…三ヶ月ぐらいポテチは禁止しよっと…でもこのおしり、本当に小さくなるのかしら?…
洗面所の鏡でスタイルを確認する自分に違和感を覚え、私は哀しみで笑ってしまった。
季節は春…今植えられた桜の若木に来年、満開の花が咲き乱れるのかは………二人次第ということで…
〜おまけ〜
「…大、どうして沙織にばらしたの?」
「いや、あの、まぁその………こ、殺さないで〜!!!!!」
猛に隠れた大輔を、包丁を持って追い詰める玲奈を見て…沙織はただただ爆笑していたとさ。
はい、作者です。 久しぶり過ぎて、何か上手くいかないことだらけでした。 作者が更新せず、読者の方にはいろいろご迷惑をおかけしました…中途半端な作者で誠に申し訳ありません。 ですが、更新してない時も読んで下さっている方がいたのは…本当に嬉しい限りです。感謝感激雨霰…って感じです。 次回で終わるか、一話クッションを置くかは…まだ未定です。更新遅くなるかも知れませんね…テキトーでごめんなさい… 遅れてもちゃんと終わらせますので、期待しないでお待ちくださいね。では、また次回…