第二話・私と彼の距離
少し書き方を工夫しました。けっこう読みやすくなったと思います…
…仲野くん、目が赤くなってた。本当は悲しいんだわ…
私は教室に帰ると、仲野くんが無理してることを心配している。
「あれ、沙織? トイレに行ったんじゃないの?」
「そんなのキャンセルよ、キャンセル。」
「トイレをキャンセルって…おかしくない?」
不思議そうな目で見つめている彼女は、松永玲奈といって…今は友達とだけ、説明しておくわ。
ふいに玲奈が、目を反らした。
気付かなかったが、再び私を見つめた玲奈の目は…小悪魔モードになっていた。
「…ふ〜ん…キャンセルねぇ〜…」
「何よその目は。言いたいことは、ハッキリ言いなさいよ。」
「なら言うけど、トイレに仲野くんがいたんじゃな〜い?」
「!!! な、何で知ってんのよ!?」
「トイレの方から、仲野くんが来たんだもん。簡単な推理よ。」
う、うぅ…よりによって玲奈にバレるとは…
目の前の小悪魔は、私に尋問のような聞き方で問い詰めてきた…
「さぁ、正直に言いなさい。トイレをキャンセルしたのは、一体何が原因なの!?」
「げ、原因って…」
「どうなの!? ネタはあがってるわよ!」
「し、知らないわ。気分でキャンセルしただけよ!」
私は何かを否定するように発言した。
自分からわざわざ話したくはないし、玲奈に話すつもりもない。
ここは二時間サスペンスの犯人の如く、黙秘権を存分に発揮した。
「気分? 確かに、気分で行かなかったのかもしれない。じゃあ聞き方を変えてあげるわ。どうして、気分が変わったのかしら?」
「………」
「トイレに行きたい人間が、行きたくなくなる気分になったのは、どうしてかって聞いてるの!…答えなさい!!!」
「…刑事さん…私はこれ以上、話すつもりはないわ…」
やや勝ち誇った言い方で、いつの間にか立ち上がっていたニセ刑事に呟いた。
ムキになるのに疲れたのか、刑事さんは優しく語りだした。
「ふぅ〜…もう、自供は諦めるわ。うちの署の、名警部を呼ぶしかないわね。」
「…警部?」
「仲野く〜ん! 沙織が呼んでるから、ちょっと来てくれる〜!?」
「バ、バカ!!!」
人を殺すような目で玲奈を睨み付けた。
玲奈は視線を反らして、こっちへ来た仲野くんに挨拶している。
仲野くんは、意味がわからないという顔で刑事に指示されている。
指示されたまま座ると、仲野くんは最初から決められた台詞を淡々と喋りだした。
「えーっと、吉岡さん?隠し事があるなら、素直に話した方が身のためだぞ?」
「仲野くんやめて…」
「松永さん、吉岡さんが嫌がって………全て話すなら、本人には黙っといてやる?…だそうです。」
「…自供するわよ。」
仲野くんは私に謝りながら、自分の席に戻っていった。
台詞を書いていたノートを閉じた玲奈は、沙織の肩に手を置いてまた話し出す…
「…田舎のお袋さんも、これで幸せになるから。」
「あんたが悪いんでしょ! 田舎に未練なんてないわよ!」
「強がってると、また呼ぶわよ?」
「…クッ!」
仲野くんの席に向かって、親指で指している。
何でこんな女に、あんなこと話したんだろう…
「で、話を戻すわよ? トイレに行ったのはいいけど、男子トイレから仲野くんが出て来たので、トイレに入るのが恥ずかしくなった。」
「…はい。」
「女の子として、トイレに入る所を仲野くんに見られたくなかった。」
「…間違いありません。」
「つまり、あなたは仲野くんのことが…」
「わー!!!」
…こんな所では言わないでよ…誰かに聞かれたら、自殺してやるから…
玲奈はニヤニヤしている。私が今の反応をすると知ってて、言ってるみたいだ。
「わかってるわよ。でも、確認のためにも…沙織の口から本音が聞きたいなぁ〜。」
「い、言えるわけないでしょ!」
「…あっそ。仲野くーん! 実はねー! さおムガニフッ!…」
私はギリギリのタイミングで、玲奈の口を塞いだ。
本当は息の根を止めたかったが、友人をこの手で始末するのはさすがに気が引けるので、13がつくスナイパーを雇うことにして離した。
玲奈は懲りずに、また私の口から聞き出そうとしてきた。
「しつこい、玲奈!」
「耳元でいいからお願い! 沙織から、勇気を分けてほしいの。」
必死にすがってくる玲奈から【勇気】という言葉を聞いて、私は心を揺さぶられた。
玲奈の耳に手を添えて、口を出来るだけ近づけて呟いた…
…仲野くんが…大好き…
別に話す必要はなかったのだが、どこか自分でも口にしたい思いだったのかもしれない。
玲奈は私の顔を見つめ、私よりも恥ずかしそうにしている。
もちろん私は、完熟トマト並に顔を赤くしていたのだけれど…
「今のあんたなら、世の男共を手玉に出来るぐらいカワイイのに。」
「知らないわよ…男なんかに興味ないもの…」
「仲野くん、一応男だよ?」
「…あ…」
玲奈の発言に、また顔が熱くなるのを感じた。
他の男に興味が無いのは、仲野くんしか意識していなかったのだと気付かされたからだ。
まさか、ここまで好きになってたなんて…
「自分の気持ちを、素直に伝えたら?」
「…出来る訳無いでしょ…」
「いいじゃん! きっと今でも、沙織の事を好きだと思うよ?」
…もし、今でも好きでいてくれてたら…
考えれば考えるほど、私は自分が嫌になってくる。
そう、私は彼に告白されたことがあるのだ。
とても嬉しかったのに、自分の気持ちに気付いてなかった私は…彼を傷つけてしまった。
「…私は一度、仲野くんをフッてるの。それにお母さんが死んだばっかりで、こんな話が出来るわけないじゃない。」
「逆にチャンスよ! 私が支えになってあげる…みたいな感じで。」
「…そんなの…卑怯すぎるわよ…」
私は軽く、仲野くんを見つめた。
楽しげに話している姿が悲しげで…素敵だった。
まだ学校の中、しかもHRも迎えていません…どうなるんでしょう?では、また次回も早めに載せていきたいと思います。