第二十五話・何となく似てる?
…すいません。今回も薄い内容です…では、どうぞ…
「ウフフ…いい役者ね、あの子。」
松永さんと美鈴さんが部屋を出ていったあとも、おばさんは笑いを軽く引きずっている。
それというのも…沙織による殺人事件が、あまりにも笑劇(衝撃)的だったからだ。
沙織の行動はまだわかるけど…まさか仕事モードの松永さんが、あんな悪ふざけに乗っかるとは未だに信じられない。
…もしかしたら松永さんは…美鈴さんたちを信頼してるのかもな…
まぁとにかく、腕に絡み付く殺人犯?…のおかげで、おばさんとかなり話しやすい雰囲気になったことは確かだ。
…ご褒美に、キスしてあげよう…
沙織の頬に触れる程度のキスをする…もちろん、沙織が喜ぶと思ったからだ。
だが沙織は、急に顔を赤くしたかと思うと…予想に反して怒りだした。
「もう! どうして猛はいっつもそうなのよ!?」
「え?…勝手にキスをしたこと?」
「違うわよ! ちゃんと場所を考えてから、キスしてよね!」
「あ、ごめん…おばさんが見てるんだっけ…」
「そうじゃないの!…頬じゃなくて、口にキスしてってこと!!!」
………そっちですか…
冷静に考えれば、沙織の頭の中に常識なんてあるわけがない。
頬を膨らましながら怒りを表す沙織は、唇にキスされなかったことが一番のショックらしい。
僕が頭を撫でながら謝ると、沙織は急に表情を変えて…口を尖らせながら、体をスリスリ近づけてきた。
…う…目から《キスして光線》が出てるよ…
腕を掴む力も強くなってきてる…どうやら、本当にもう一度してほしいようだ。
おばさんの視線が気になった僕としては、おばさんの前で再度キスするというのは少し恥ずかしい気がする。
98%失敗すると知りながらも、僕は沙織の説得という無茶な行動を起こしてみた。
「沙織…今日はたくさんキスしてるから、今じゃなくても…」
「猛が先にしたんでしょ!?…それとも、私の心をもてあそんでるの!?」
「も、もてあそぶなんて…そんなつもりは…」
「だったらキスして!…その気にさせといて逃げるなんて、卑怯者だよ!?」
「………でも、おばさんが見てるし…」
「あ、気にしないでいいわよ? アナタたちの噂は聞いてるし、第一に…【卑怯者】…とまで言われたんだから、猛は男として逃げちゃダメ!」
拳を握り、上へ突き出すおばさん…なぜか僕よりノリノリだった。
それを見た沙織も、同じように拳を突き出すと…まるで何かの儀式のようである。
…アハハ…おばさんも敵なら勝てないや…
そして再び僕を覗き込む沙織は、顔が満面の笑みへと変わっていた。
恥じらいや体裁を気にしてる様子は一切なくて、ただ純粋に…僕を求めている。
…この状況で拒むのは…確かに男じゃないよね…
潔く降参して、沙織の唇に自分の唇を重ねた…
「まぁ!…あらあらあらあら…」
「………」
「やだわぁ…こんな昼間から、そんな濃厚に…」
「………」
「凄〜くエロいのねぇ…年甲斐もなく、興奮しちゃう…」
………なんか…やりにくいなぁ…
いつも通りのキスをしてるのに、隣からリアルな感想が聞こえてくるので…どうもぎこちない。
だけど沙織には関係ないらしく、どんどん僕の体を倒しながら…積極的に舌を絡めてきた。
…ちょ、ちょっとマズイぞ…沙織が夢中になりすぎてる気が…
完全にソファーに倒されてから、上に乗っかっている沙織の異常を感じる。
周りが見えてない沙織は、案の定…ゆっくり上着を脱ごうとしていた。
「うわっ!…ダ、ダメだよ沙織!」
「あ………バレた?」
「バレないと思ってた、沙織がおかしいよ!」
「チッ…あと少しで、猛の体をモノにできたのに…」
「…女の子が、そんなこと言っちゃダメだって…」
舌打ちまでした沙織に、『メッ!』…と軽く叱りつけたら、おとなしく引き下がりソファーに座ってくれる。
けど明らかに不機嫌なオーラを出しながら、またフグのように頬を膨らました。
…はいはい…僕が悪かったですよ…
沙織の隣に座り直した僕は、沙織の怒った顔に人差し指をプスッ…と優しく押し込む。
大きく膨れていたフグは、『ブッ!』…という音と共に空気を吐き出し、見事に小さくなった。
僕は笑いを堪えるのに必死だったけど、沙織の顔は赤鬼になって…恒例のポコポコパンチが嵐のように飛んでくる。
…こんなイタズラで怒るなんて…沙織はやっぱりカワイイなぁ…
結局、我慢できずに笑いながら沙織のパンチを受けてると…忘れてた存在を思いだした。
「アハハ………はぁ?…おばさん、何してるんですか?」
「え?…何って言われても、写メを撮ってるだけよ?」
「だから何でおばさんが、僕たちの写メを撮ってるんですか?」
「だって美鈴が、『様子はどう?』…ってメールで聞くから、写メの方が早いと思ったの。」
僕たちがいちゃいちゃしている間におばさんは、最新式の携帯電話で僕と沙織をたくさん写している。
どうやら沙織の魅力で、僕も周りが見えてなかったらしい…キスの写真まで撮られていた。
むふふと笑うおばさんは、僕たちに画面を見せながら送信ボタンに指で触れる。
『それだけは、勘弁してください』…と頭を下げたのに、顔を上げた時…携帯のディスプレイには、[送信成功しました]という文字が出ていた。
…マズイ…美鈴さんに見られたら当然、隣にいるはずの………
おばさんの送信から20秒後、沙織の携帯に一通のメールが届く。
ダースベーダーの音楽によって、送り主がわかっている沙織は…携帯を開こうとしなかった。
沙織の肩に手を置いて、『無視はダメ』…と説得すると、沙織はしぶしぶ携帯を手に取る。
一緒に恐る恐る開くと、[新着メールあり]の文字が…普段よりどす黒かった。
メールに本文などは何もなくて、ただ…完璧な【作り笑い】をする松永さんの手を降る姿が、画面いっぱいに表示されている。
ぱっと見ると、ステキな笑顔を振り撒いてるように見えるけど…明らかに目が笑っていない。
それを見た僕と沙織は、背筋が凍りつく程の恐怖を感じ…すぐに二人並んで土下座する写真を、松永さんに返信した。
…おばさんたちが帰ったら…どうなるんだろ?…
僕たちは先ほどの行動を深く反省して、普通に《腕を組んだだけ》の状態で座った。
おばさんも笑いが引いてきて…一度立ち上がり、着物の乱れを軽く整えている。
その姿は、何とも言えない美しさで…美鈴さんに怒られてた最初の印象とかなり掛け離れていた。
…見れば見るほどに…母さんだよなぁ…
おばさんが座った後も、しばらく目が離せないでいると…急に話し掛けられてしまう。
「ごめんなさいね…美鈴が、勝手なこと言って。」
「え?………あ、ああ…別れ話のことですか?」
「…あの子はね、昔から責任感が強くて…何でも『藤ノ宮コンツェルンのためには…』とか、『藤ノ宮家として…』なんてことばっかり考えてるの。」
「………それでも、私と猛に別れてって言ったのは…納得できません…」
「わかってるわ。吉岡…さんだっけ? 実は私も、別れることはないと思ってるのよ?」
「!!!!!」
「ほ、本当ですかおば様!?」
「ホントよ。アナタたち二人に悲しい思いをさせてまで、養子に来てもらおうとは思ってないもの。」
その瞬間、沙織は有無を言わさずおばさんに抱きついていた。
僕に飛びついて来るのかな?…と若干は期待していたのに、沙織が腕から離れていくのがわかったので少しだけへこんでしまう。
…でも、沙織と別れないで済むなら…このぐらい平気だよな…
落ち込みそうになった自分を励ましてから、喜んでいる沙織とちょっと困り気味のおばさんを笑顔で見つめていた。
「…私、おば様大好き!!!」
「あらら、なんかイイわね〜…もう一人、娘が出来たみたい。」
「エヘヘ…そう言ってもらえると、私も嬉しいです!」
「…でも、ホントにごめんなさいね。別れてって言ったり、言わなかったり…」
「いいんですよ全然。そんなの気にしてませんから…ね、猛!?」
…変わり身、早いなぁ…おばさんに会う前は、あんなにガタガタ震えてたのに…
とても嬉しそうな沙織に、逆らうことはできないので…沙織が動揺してた事実は、僕の心の奥に閉じ込める。
男の僕が話に入れる雰囲気ではなくなったので、仲良さそうに話す二人をしばらく見ていた。
すると、急に僕の話題になり始める。
…あ、どうしよう…結構恥ずかしい…
「…料理も上手でしょ、それからキレイ好きで…あと、私が部屋を掃除したら頭をなでなでしてくれて…」
「…吉岡さんにとって、猛の魅力は両手の指じゃ足りないのね。」
「え〜…でも、猛の嫌いなとこもあるんですよ? 例えば、一緒にお風呂に入らないし…セックスだって、週に三日間しかしてくれないんです。」
「へぇ〜…何曜日と何曜日に?」
「コラ、暴露しすぎだよ!…そしておばさんは、話に食いつかないで下さい!」
…全く、お目付け役がいないとすぐにコレだ…
僕が行き過ぎた会話に怒ると、二人はブーブー言いながら駄々をこねた。
ちゃんと叱っても聞く耳を持たないようなので、僕は仕方なく携帯を取り出して電話をかける。
…どうなっても…知らないからね…
その後、松永さんたちが来たあとの二人があまりにも悲惨だったことは………僕の口から言うまでもないかな…
はい、作者です。 いや〜…話が進みません。書いてると思うんですが、猛と沙織はもう少し控え目にしながら、内容をちゃんと進ませたいですね。(全ては私次第なんですが…) さて、内容のことですが…美鈴の母親には名前はありません。設定はあるんですが、流れ的に下の名前が出てくる必要ないので…『おばさん』や『おば様』…といった呼び方で進めていきます。ご理解よろしく、お願いします。 次回は、また急激に話が進むような…進まないような…相変わらずのグダグダだと思います。楽しみにしている人には先に謝ります…スイマセン… これからも長い目で、飽きずに見てもらえたら嬉しい限りです。では、また次回…