第二十四話・…悪魔と天使が住む女
更新が遅れてすいません! いいわけもしませんので…とりあえず読んで下さい。 では、どうぞ…
「…おかえりなさい、猛。」
「え?…今、一緒に帰って来たのに?」
「もう!…猛におかえりって言うのが、私の仕事なの!」
「そ、そうなんだ…それじゃあ僕も、ただいま。」
…昨日が大変だったから、些細なことも大切にしたいのに………バカ…
無事に退院した猛と一緒に、私たちは何事もなくお昼前には部屋へと戻って来ていた。
先に玄関へ入り、すぐに振り向いてから私は猛を迎え入れる。
猛は気にしていないけど、この『おかえり』…の一言だって、私には重要な日常である。
そう…こうして猛といられる日常が、ものすごく幸せなんだと昨日のことで考えさせられた。
いつ失うかもわからない…そんな現実がリアルに起こったせいで、今までより何倍も何十倍も猛を愛おしく感じる。
…だからね、猛…もっとたくさん…愛し合いたいの…
リビングへ歩きだす猛を、後ろから抱きしめて…素直におねだりした。
「…もう一回だけ、キスして…」
「また? 朝から数えて、4回目だよ?」
「今は、【ただいま】のチューをして欲しいの…ねぇダメ?」
「…全く、お姫様はコレだから…僕が断れないのを知ってるくせに。」
抱きしめてた手を緩めると、その手を猛は強引に掴んで…私の体ごと前に引っ張る。
倒れそうになった私を抱きかかえて、『飽きても知らないよ?』…と囁きながら、猛は無理やり唇を押しつけてきた。
…あ、バカ!…誰も強引になんて…言って…な………い…
見つめ合い雰囲気を作りながら、ゆっくりキスをしたかったけれど…猛の目を間近で見てしまった私には、もはやどうすることも出来なかった。
しばらくするとキスに夢中になりすぎて、自分の姿勢が不安定なことすら忘れ…迂闊にも脚の力を抜いてしまう。
案の定、ドンッ!…という音を立てて、私はお尻から玄関先に倒れた。
「いった〜い!…なんでちゃんと支えないのよ!?」
「ご、ごめんね!…急に沙織が力を抜くから…」
「当たり前でしょ!?…女の子はね、好きな人とキスしたら力が抜けるの!…そこを支えるのが、男の役目!」
「………ごめん…いつもいつも頼りなくて…」
優しく立たせてくれた猛に向かって、私は少しだけ文句を言う。
自分のことは棚に上げて喋る私なのに、猛は明らかに肩を落としながら謝ってきた。
…あぁん、もう!…猛にそんな顔…してほしくないわよ…
しょんぼりした猛の顔も、悪くないと思ったけど…このままの関係は、私たちらしくない。
『言い過ぎた』…と素直に謝って、本日五回目となる口づけを私から強制実行した。
…これは、【ごめんなさい】…のキスだからね…
…思い出すだけで気分が悪くなる言葉…
…猛と別れてほしい…
お姉様がはっきり言ったのを覚えてる…さすがにアレはきつい。
これからドンドンごまをすっていこうとしてた矢先に、あんな話を切り出されたのは予想外だった。
猛のお母様が亡くなっても、実の家族なのに存在すら見せなかった人達が…『藤ノ宮家の跡取りにしたいから、私と付き合ってるのは困る』…なんて話も、身勝手すぎると思う。
お金まで出して、本気を表していたお姉様…そんなに私が嫌いなのだろうか?…
…私はただ…猛のそばで毎日一緒に過ごしたい…それだけなのに…
正直、もう二度とお姉様たちの顔は見たくない…のだけど、そうもいかないのが世の常ってものらしい。
「…大丈夫だよ、沙織…何があったとしても沙織のことは、僕が必ず説得するから。」
「でも、お姉様は本当の家族なんだし…私の意見なんて聞かないわよ…」
「母さんが死んだあと、僕をずっと支えててくれたのは沙織じゃないか。美鈴さんが何と言おうと…沙織を一番に考えて、話を進めるよ。」
「…もし、思うように話が進まなかったら?」
「却下だよ、却下!…僕の大切な恋人を軽く見てるなら、例え相手が総理大臣だとしても門前払いだね!」
ソファーに並んで座りながら話してると、私の肩に右手をまわしながら…左手で、シッシッ!…と犬を追い払うような仕草を猛が見せた。
実際は、そんな簡単にいかないだろうけど…その言葉だけで、私は心から安心できる。
…信用してるからね………ア・ナ・タ…
猛の肩にもたれながら…これからの私の人生まで、その広い背中に預けたいと強く願っていた…
「…何回見ても、イラッとするカップルだわ。」
「うるさい玲奈!」
「どこがうるさいのよ…口を開けば、『ダイスキ〜』…だとか、『アイシテル〜』…なんて言ってるウザイ女に比べたら、私なんて物静かなのよ?」
「け、喧嘩売ってんの!?…この人造人間!」
「人造人間!?…いくらアンタでも、その言葉は許せないわ!…かかってきなさい、ペチャパイ!」
「ぺ、ぺチャパイですって!?………殺してやる!!!!!」
「まぁまぁ、口ゲンカはやめてよ…ね?」
いつの間にか向かい側のソファーに座ってた玲奈が、私と猛の領域に侵入してきては悪態をついている。
聞き流そうとしたのだけど、このパーフェクトボディ(猛のお墨付き)に向かって、『ペチャパイ』…とまで言われたら、引き下がるわけにはいかなかった。
…猛が止めなければ今ごろ、この世から消してたのに…
「…確かに喧嘩をしてる場合ではないわね。そろそろ美鈴たちも、こっちに向かってるだろうし…」
「あ! そうだったわ…私、猛のお母様に初めて会うんだ…」
「沙織違うよ。今日来るのは、おばさん。」
「そっか、猛のお姉様のお母様だから猛のおば様…でも、お姉様と猛のお父様の奥さんだから猛のお母様にあたる人で…だけど、猛の本当のお母様の双子の妹だから………う〜…頭いた〜い…」
「アハハ…沙織にはちょっと、難しすぎたかな?」
猛は微笑みを浮かべながら、私の頭をポンポン…と叩く。
難しいことは考えたくない…でも、今回は私自身が考えないといけない気がした。
それは猛のため?………そうじゃない…猛と別れたくない私のため。
自分がわがままなことは、嫌というほど知ってるつもり…だからこそ、誰にも猛は渡さない。
…足りない頭は玲奈と猛に任せ…とめどなく溢れる猛への愛を、一生懸命お姉様たちに伝えよう…
………私には…それしかできないから…
「…ごめんなさいね…私たちが双子だということは、姉さんが全て話してると思ってて…」
「こちらこそ、申し訳ありません。僕のせいで、いろいろご迷惑をおかけして…」
「猛ちゃんは悪くないの。急に目の前に現れた、お母さんが悪いわよ!」
「うぅ…私は猛に会いたかっただけなのに…美鈴が怒ってる…」
「当たり前でしょ!?…猛ちゃんに何かあったら、私が許さないわ!」
「…ご、ごめんなさい…」
…い、いきなり怒られてる!?…
約束の時間に、お姉様とおば様は部屋にきた。
初めておば様を見た感想は、かなりの美人だな〜…って感じ。
背は私より、10cmぐらい低いけど…束ねた髪の毛が私の頭と同じ高さに届いているので、お姉様のように腰ぐらいまである黒髪のようだ。
和服を着ているためか、姿勢が美しく…見ているこっちも、ついつい背筋を伸ばしてしまう。
…あ…和服の模様と、髪留めが同じ花だ…すごく綺麗…
花の名前はわからないけど、おば様の雰囲気に良く似合っている。
この出で立ちと、藤ノ宮のトップという肩書で…私も始めは、堅い人だと思っていたのに…
「全く…お母さんがこれだから、今の藤ノ宮コンツェルンは不安定なのよ!?…もう少し軽はずみな行動は控えて…」
「………だったら美鈴がやれば良かったじゃない…藤ノ宮の総帥を…」
「またそんな…仮にもお母さんは、社員なん千人、なん万人を抱えてるんだよ!?」
「…だって…」
「『…だって…』、じゃないでしょ!」
「………でも…」
「『…でも…』、じゃない!」
自分の娘に説教されてるかなり偉いはずのおば様は…怒られたせいか、ソファーで小さくなった。(当社比)
反対側に座る私と猛は、とりあえず落ち着くまで口を開くつもりはないし…私の横に立つ玲奈も、ただただ苦笑いを浮かべてるだけらしい。
…なんか…おば様って、のほほんとしてるわね…
お姉様の方が母親のように見えてしまい、どこか笑えてしまうようなやりとりを私は我慢して眺めている。
しばらくお姉様の説教を聞いていると、猛が先に笑いだした。
「ちょっと!…笑ったら失礼でしょ!?」
「…いや、なんかこう…似てるなぁって思ったら、つい…」
「え?…猛のお母様もやっぱり、ほんわかした人なの?」
「アハハ…違う違う、確かに母さんはおばさんと瓜二つだけど…怒りかたは、美鈴さんにそっくりだったよ。」
…おば様の容姿で、お姉様みたいに怒られたら………うわっ…猛のお母様…超恐い人だったのね…
どうして猛が真面目になったのか、少しだけわかる気がする。
おば様を見つめて、お姉様の怒る声を聞いていると…猛のお母様が目の前にいる気がして、とても緊張した。
姑を見るような私の顔に気付いたお姉様は、説教を中断させて私たちの方へ体を向き直す。
そしてコホンッ…と一つ咳ばらいをすると、私と猛に深々と頭を下げた。
「…本当にごめんなさい。お母さんが勝手なことをしたせいで、猛ちゃんは…」
「もういいですよ。それより、僕たちは話を進めたいんですけど…大丈夫ですか?」
「ほら…美鈴が怒ってばかりだから、大事な話ができないじゃないの。」
「怒られることしたお母さんも、半分は悪いんだから!」
…お姉様とおば様って…本当に仲が良いのね…
ただの親子喧嘩なのに、完璧なタイミングで受け答えする二人はきっと…同じ時間を過ごしてきた、【普通の親子】…なのだろう。
この人たちに、悪い印象をもつことなんて…今の私にはできないかもしれない。
………でも…
「…それじゃあ、昨日の話の続きを…」
「…お姉様…ダメなんですか?…」
「…ん?…沙織さん?」
「私は猛と、別れなきゃダメなんですか!?」
「………そ、それは…」
「お姉様たちがこんな話するのは、簡単じゃないことも知っています!…でも、でも!………私は…猛がいなきゃ…」
猛の腕にしがみつきながら、お姉様に向かって大きな声を出してしまった。
この後でなにを言われるか考えると、不安の重圧に押し潰されそうになる。
でも、譲れない気持ちを真っ先に相手に伝えることが…一番重要だと私は思った。
ビクビクしながらお姉様の反応を待っていると、猛が耳元で…『ありがとう』…と囁いて私の頭を撫でてくれる。
涙がぶわっと込み上げて来るのを必死で堪えた…こんな時、猛の優しさは逆にツライ。
唇をかみ締めながら二人に目で懇願すると、おば様が手をパンパンッ!…と叩いて場を静めた。
「はいはい!…ここからは私に任せて、美鈴は外で待機。よろしく!」
「ちょ、ちょっとお母さん!?…どういうこと?」
「いいから私に任せなさい!…あ、そちらの付き人さんも席を外してくれる?」
「私ですか?…かしこまりました。」
この状況を黙ってみていた玲奈は、おば様の言葉に素直に従う。
私たちに一礼して、部屋から出ていこうする玲奈…私は間髪いれずに呼び止めた。
………私は…私は玲奈がいなきゃ…
「…お嬢様は大丈夫ですよ。」
「だって私は自分じゃ…何もできないし…」
「…先ほどのお嬢様が、迷わずにご自分の気持ちを語られたとき…すでに私は必要ないのだと、嬉しく思いました。」
「あ、あれは…その…猛のことだから…」
「それで良いんですよ。お嬢様の心は、仲野様で埋め尽くされてるのですから。」
「………でも…」
「もし、少しでも迷いや戸惑いが生まれたら…隣の男性に頼ってください。彼の心もまた、お嬢様で満たされてますから…愛されてることを、自信にして下さいね。」
仕事モードのはずなのに、ニコッと微笑んだ玲奈は…いつもの作り笑いではなく、心から笑ってくれる。
…うぅ〜…この女、私をバカにして〜…
いつもケンカを売ってくるくせに、いいところでグサッ…と心を刺す一言が、なんとも玲奈らしくて嬉しかった。
片手でピストルの形を作ると、『バンッ!』…と言いながら玲奈に向けて引き金を引く。
胸を押さえながら倒れる演技をした玲奈を見て、おば様とお姉様は声を出して笑ってくれた。
その行為が照れ隠しなんだと気付いた猛は、また私の頭を優しく撫でる。
空気が和んだあと、玲奈はお姉様を連れて部屋を出ていった。
その背中を眺めながら…私は思う…
…次は…マシンガンで撃ち抜いてやる…
はい、作者です。 すいません、明らかに話を長〜くしています。グダグダを感じる人には、心から謝罪を申し上げます。 それというのも、今回の話を書き終えて読み返すと…凄く淡々と進んでいたんです。前に指摘されたこともあり、大幅な修正を加えました…そのせいで更新が遅れたなどと、言い訳はしません。 これでもまだアッサリしすぎ!…と思うかもしれませんが、一応作者も頑張ってるので…大目に見てくださいね。 さて…大幅な修正をしたので、まだしばらく続きそうです。楽しんでもらえたら、私も嬉しいかぎりです。 できれば感想を書いて、作者を喜ばせて下さいね。では、また次回…




