第二十一話・正統なる血筋
…相変わらず強引な流れです…では、どうぞ…
「…仲野くん、いい?…だからね、藤ノ宮家っていうのは…」
「ちょ、ちょっと待ってて松永さん………沙織、今は大事な話の途中で…」
「ダ〜メ! 早く食べるの!…ほら、あ〜ん…」
「…パクッ!…ングング…あのさ、沙織があ〜んしてくれるのはとっても嬉しいよ?…だけどね、今は松永さんと…」
「何なのよ…さっきから松永さん、松永さんって…そんなに玲奈といちゃつきたいの!?」
…うわ…やっぱり出たよ…
朝の時間じゃ、ちゃんとした説明が出来なかった松永さんは…お昼時間にわざわざ話をしてくれることになった。
僕がひたすらにお願いをして、何とか敬語もやめてくれたし…僕としては藤ノ宮家について、早く教えてほしいところだ。
だが…僕の人生が、そうそうにうまくいくわけがない。
松永さんと話をしようとするたびに…沙織が邪魔してくる。
…まったく、もう少し…おとなしくしてほしいよ…
「…別に僕たち、いちゃつきたいわけじゃ…」
「あ〜あ…男のいいわけってサイテー!」
「いい加減にしなさい! 仲野くんが今、大変なことぐらい…あんたでもわかるでしょ!」
「そもそも玲奈、あんたが悪いのよ!…お弁当を食べる時間は、猛と二人だけにして…っていつも言ってるのに!」
まるで子供のように駄々をこねる沙織は…周りの迷惑になっている。
僕たちのことを応援してくれているクラスの皆も、うるさいとなると…話は違うようだ。
…バカップルには見られたくないから…どうにかせねば…
「私も猛といちゃいちゃしたいの!…玲奈ばっかりず〜る〜い〜!」
「…松永さん、また例の作戦をしていいですか?」
「…例の?…あの方法、仲野くんの個人的願望のような気がするんだけど?」
「ち、違います!…沙織を落ちつかせたい一心で、やましい気持ちなんて僕には…」
「…顔がニヤケてるわよ、仲野くん?…」
…あ、しまった!…沙織の反応を想像してしまうと、つい…
…実はこの夏休みの間に、沙織対策として…僕が考案した作戦がある。
松永さんの許可と協力が必要なんだけど、確実に暴走沙織を黙らせる効果があるのだ。
ただ、これは奥の手なので…松永さんが、あまり実行させてくれないけど…
「…学校では、あんまり許可したくないんだけど…仕方ないわ、もう少し様子をみたら…」
「またヒソヒソ話してる〜! 浮気反対!…猛を返せ!…この泥棒ネコ!」
「………仲野くん…すぐにこの女を黙らせなさい。」
「了解しました!…では、早速お願いします!」
「…ふ〜…あ、ア、ア〜…うん、OK………皆、あれを見て! 校庭に犬が入って来てるわ!!!」
クラスメイト・豊崎真奈さんの証言…
…あの時の話を、したらいいんですか?…
あの時は、急に玲奈さんが大声で叫んだんです。
その言葉で皆は犬を探そうと、廊下側の窓を一斉に見たんですよ。
…でも私、小さいときに犬に噛まれちゃって…犬が恐いから、反対の窓を向いちゃったんですよね。
…そしたら…
………あの、ここから後は…やっぱり恥ずかしい気が…
…え!?…私しか聞いてなかったんですか!?………そうですよね…もし他に誰かが聞いてたら、このクラスの皆はほっとかないですからね…
………わかりました、私でよければ…その先を話したいと思います。
私が反対の窓側を向いたら、仲野くんがちょうど沙織さんに………キスをしていました。
初めて二人のキスを見て、驚きはしたんですけど…あの二人なら、キスも普通なのかな?…って思えました。
…でも、そのすぐあとの仲野くんの言葉…最初はよく理解できなかったんですよね。
…確か…
『僕と松永さんの話を、邪魔しないでくれたら…今日の夜、沙織を食べてあげる』
…と言ってたと思います。
沙織さんが顔を真っ赤にした瞬間に、鈍い私でもそれが…【夜のお誘い】なんだと気付きました。
………そこから先は、私が聞いちゃいけない気がして耳を塞いだんですけど…もう一度キスしてる姿は確認しました。
あとはよくわかりません…ごめんなさい…
あ、もういいですか?………え、あの二人?…
…そうですね…はっきり言って、羨ましいです。
…周りを気にせずに好きって言えるんですから、きっと幸せですよね。
………
………
………
…帰っていいですか?…じゃ、お疲れ様でした。
…以上、豊崎真奈さんによる証言でした。
引き続き、本編をお楽しみ下さい…
…作戦は無事に終了した。
松永さんが、皆に勘違いだと謝ると…クラス中が残念そうな声をあげる。
…犬だけで盛り上がれる高校生って、どうなんだろうか…
とにかく、皆がいつもの感じに戻ると…一つだけ状況が変わった。
沙織が僕の腕を掴みながら、恍惚な表情を浮かべていることである…
先程とは違い、皆に迷惑は掛かっていないけど…完全に僕の自由が奪われていた。
…まぁ、沙織が静かにしてくれるなら…僕の片腕くらい…
沙織の甘える姿はそんなに悪い気がしないので、僕はそのまま話を始めようとした…
「ちょっと!…あんな恥ずかしいことまでさせといて、結局ベタベタしたままってどういうつもり!?」
「…もう二度と、わがまま言わないから…ダメ?」
「松永さん、許してあげましょうよ…沙織だって反省してるし。」
「…仲野くんまで、沙織の味方になっちゃって…まるで私が悪役じゃないの…」
僕たちが腕を組むことを、松永さんは渋々…了承してくれる。
…どうやら今の松永さんにとって重要なことは、沙織の行動より…藤ノ宮と僕の関係らしい。
松永さんはため息を一つ吐いて、真剣に説明をし始める。
「…藤ノ宮家は、江戸の後期から続く名門の家柄で…ほとんどの建築業界に関わってるの。」
「建築関係ですか…モグモグ…」
「藤ノ宮林業、藤ノ宮鋼材、藤ノ宮建設…大体のお家やビルには、藤ノ宮コンツェルンという名前が少なからず出ると思うわ。」
「…パクッ!…ングング…なるほど、松永さんが仕事モードになるわけだ………あ、そのタコさんウインナーは沙織が食べていいよ。」
「本当!?…猛が作ったタコさんって、足が8本だから大好きなの!」
「………三分も経たずに、邪魔してくれたわね…一体どこが反省してるのかしら?」
…うわっ…かなり怒ってるぞ…
真面目に聞いてはいたが、お昼時間が終わりそうなので…残りのお弁当を食べながら聞いていた。
自分で食べれるんだけど…隣の【美しい女性】が、おかずをどんどん僕の口に運んでくる。
…確かにこれじゃ…反省してるようには見えないな…
沙織と一緒に深々と頭を下げて…今度こそ、松永さんの話に集中した。
「…沙織、次は手を出すからね。」
「………ごめんなさい…玲奈…」
「じゃあ続きを話すわ。先代の藤ノ宮家の会長、つまり一番偉かった人が…仲野くんのお父さんなの。」
「先代?…偉かった?…なんで過去形なの?」
「………実は仲野くんのお父さんも、一年ぐらい前に亡くなってるのよ…」
…ふ〜ん…もういないんだ…
やけに薄い反応のように思えるかもしれないけど、母さんに…(父さんは小さいときに死んだ)…と聞かされて育った僕にとって、特に悲しむことじゃない。
…むしろ、いまさら父親面された方が…怒ってたかも…
「…それで、今の藤ノ宮コンツェルン会長が美鈴のお母さんなのよ。これで大体わかった?」
「…うん、なんとなく。だけど今の話だけじゃ…僕って蚊帳の外だよね?」
「そう。仲野くんのことは、誰にも知られてなかったの…隠されてた存在なわけだから、きっと…」
…多分、隠し子ってことか…
松永さんの表情により、僕が忌み嫌われた子供だと悟った。
藤ノ宮家では、不倫相手の子供として扱われていたのだろう…
…遺産とか、ややこしくしそうだしね…
少し重くなった僕たちの空気の中に、静かにしていた沙織が急に入り込んで来た。
「………なんでお姉様は…いまさら猛に、会いに来たのかしら?」
「…それもそうだ。わざわざ異端児として産まれた僕に何の用が…やっぱり、お金の問題で…」
「そこは私でもわからなかったわ。美鈴に直接、聞くしか…」
…残り時間はあと15分…ギリギリ間に合うな…
お弁当を急いで口に掻き込むと、僕は美鈴先輩のところへ話を聞きに行こうとした。
…そう…話を聞きに行きたかっただけなのに…
「…ダメ…行っちゃヤダ…」
「沙織、美鈴先輩に話を聞かなきゃ…これ以上、先に進めないよ…」
「…今日、あまり話してない…だから猛とお喋りしたい…」
「………もう…甘えん坊なんだから…」
僕の顔を見ずに、腕を力強く捕まえている沙織は…どこか不安な顔をしている。
…僕はバカだ…自分の話ばかり気にして…
沙織の髪を撫でながら、さっきまでの自分の行動を反省した…
「ごめんね、沙織…」
「…なんで猛が謝るのよ…私のわがままなのに…」
「違うんだ。姉がいたり、父さんが偉い人だったりして…どこか焦ってた気がする。でも、そんなことより…大事なことがあるって思いだしたよ。」
肩を掴んで、沙織を抱き寄せた。
学校だとか、皆が見てるとか…何も気にしない。
…今、この場で伝えたいことがあるんだ…
驚いた沙織の顔を見つめて、素直な気持ちを包み隠さず話した。
「…沙織が好き。沙織が僕のそばにいてくれたら、他には何もいらない。藤ノ宮とか関係ないんだ…」
「…本当?…本当なの?…猛は本当にそれでいいの?」
「当たり前だよ。バイトが終わって家に帰ったら、今夜は二人でたくさん話そう。」
「うん! あ、でも…お話した後は、セックスもしてよね!」
…が、学校だっていうのに…大胆な発言を…
笑顔のまま、大きな声で叫んだせいで…僕たちの周りの生徒4〜5人が、沙織の言葉に吹き出した。
【食べる】…と約束した手前、否定は許されないので…僕は黙って頷く。
松永さんは、呆れて何も言えない状態のようだ…
「…エヘヘ…猛ったら、ベットではイジワルなんだもん! 今日は優しくしてね?」
「え〜!?…ぼ、僕は常にイギリス紳士のように沙織に接して…」
「へぇ〜。じゃあ、私のお気に入りのブラジャー…強引に外して、金具を壊したのは誰?」
「あ、あれは!…その…」
「…私がお風呂入ろうとした時…『お風呂なんていいから、早くベットに行こうよ』…って、私を無理やり抱きしめたのは…どこの紳士かしら?」
…き、昨日のことを…皆の前で暴露するなんて…
僕が変態かのように話すから、クラスの女子から白い目で見られている。
沙織と付き合ってから、僕の【優等生】イメージはすでに…どこか遠くへ投げ捨てられていた。
「うふふ…これでクラスの女子全員に、嫌われたわね…」
「ぼ、僕が皆に嫌われると知ってて言ったの!?」
「…世界中の女の子から嫌われれば、浮気の心配しなくていいじゃない。それとも…他の女の子にチヤホヤされたいわけ?」
「………そんなこと言われたら、なにも言えないじゃないか…」
「なにも言わせないわ。猛は私のモノ…他の誰にも渡さないからね…」
今度は沙織が、僕の背中に手をまわしてきた。
沙織を一人占めしたい…形はどうあれ、僕も同じ気持ちを持っている。
こんな考え方がすでに、変態かもしれないけど…僕にはこれ以外、沙織を懲らしめる手段がないのだ…
…また今日も、ベットの上で仕返ししてやる…
「…で、藤ノ宮家のことはどうするつもりなの?…沙織といちゃついてる場合じゃないでしょ?」
「そうだね………藤ノ宮の人達に任せるよ。松永さんから、伝えられる?」
「本当にいいの?…莫大な遺産が、仲野くんの物になるかもしれないのよ?」
「厄介事は御免だしね。それに…今で充分、幸せだよ!」
愛してる人を目の前にしながら、何よりも大切だとアピールする。
沙織に喜んでもらおうと、セリフは選んだつもりなのに…突然、お姫様が暴れだした。
頭や背中を、ポカポカと叩かれながら…不機嫌な理由を聞いてみる…
「私はもっともっと幸せになりたいの!…一人で勝手に満足しないで!」
………叩く必要ないじゃないか…
はい、作者です。更新が遅れてスイマセン… 話がグダグダなのは私の悪い所ですが…なんとかまとめました。わかりにくい文章で申し訳ありません。 さて…無理やり沙織と猛のラブラブを入れて、話を延ばしましたけど…次の話から、一気に流れは速くなります。終わりが見えると哀しいものですね… 最後まで、二人を見届けてくれたら…嬉しい限りです。では、また次回…