第二十話・だから…誰?
設定では、まだ朝です。気にせずに読んで下さい…では、どうぞ…
「ね、言ったでしょ!?…お姉様に会ったって。」
「…本当に僕の姉なの?」
「なに言ってるのよ!?…自分のお姉様じゃない。」
「…だって…初めて会うんだから…」
…初めて?…そういえばお姉様も、『初めまして』…とか何とか…
猛の前に立つお姉様が、急に他人に見えてきた私は…疑心暗鬼に陥ってしまった。
…私だって二回目だし、お姉様の名前も知らないわ…
お姉様に改めて、ちゃんとした話を聞いてみる。
「…姉弟なのは本当よ?…ただ、半分だけど。」
「…半分?」
「実は私と猛ちゃんは、腹違いの姉弟なの。」
「………猛、【腹違い】って…どういう意味よ?」
「お、おなかが違う? う〜ん…ごめんね、僕もわからない。」
「…父親が同一人物で、母親が別人の御姉弟…という意味ですよ、お嬢様。」
…あ、久しぶりに見る…仕事モードの玲奈だ…
猛と一緒に生活するようになってから、あんまり玲奈の仕事モードは見たこと無かったのに…敬語を使う玲奈が、いつの間にか私の横に立っていた。
…それにしても、なんで急に………ま、まさか!
「玲奈! あんた、お姉様に好印象を与えて…私から猛を奪う気でしょ!」
「………そのような考えは一切ございませんので、ご安心下さい。」
「うふふっ…相変わらずお硬いのね?…玲奈さん。」
「はい、お久しぶりです…美鈴様。」
………え、知り合い?
お互いの近況を報告している、玲奈とお姉様は…昔からの顔なじみのようである。
…どうしよう…意味わからなくなってきたわ…
私は淡々と話す二人を、ただ呆然と見つめていた…
…実際は私だけでなく、猛や中谷くんも…二人の会話を気にしてたらしいけど。
「…そうだわ、自己紹介しなくっちゃね!…私の名前は藤…」
「それはそうと美鈴様、職員室に呼ばれてるはずじゃありませんか?」
「え?…あらやだ、大変だわ。急がなきゃ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!…僕との関係を、詳しく説明してから…」
「また遊びに来るから、その時にね。バイバ〜イ! 猛ちゃ〜ん!」
小走り気味に廊下へ向かうお姉様は、手を振りながら長い髪を揺らして…笑顔で帰っていく。
…肝心な話は、何もしないで帰っちゃった…
猛と私は見つめ合って、一体何だったんだろう?…と二人して首を傾げていた。
そんな中で玲奈は、教室を出たお姉様を確認して…180゜態度を変える。
「…ふ〜…急に来るんだから、まったく…」
「玲奈? 猛のお姉様と、知り合いだったのね。」
「そっか、沙織は会ったこと無いんだったっけ。あの人は、ふ……………………え?…仲野くんの?…お姉さん?………」
玲奈の動きが止まった…両手も中途半端な位置で固まり、すべての神経を思考力に回している様子だ。
…自分でも確認してたのに、何を今さら…
15秒ぐらい、脳をフル回転させた玲奈は…話を整理し始める。
「…仲野くんが、美鈴の弟って…本当なの?」
「わからないよ…だってあの先輩がいきなり言い出したことなんだからさ…」
「美鈴が嘘つくわけないし、嘘をつく理由も無い…そう考えると、二人は本当に姉弟…それなら………」
少し考えた玲奈は、書類などを片付けて…教室を出ていく。
…あ〜、はいはい…もう疲れたわ…
状況が理解できない私は、考えるのを諦めて…悩んでる猛を見つめた。
………
………
…今なら…いいよね…
「!…ウオッ!?」
「あ、何で逃げるのよ?…猛を元気にしたいだけなのに…」
「が、学校でキスはダメだよ! 皆が見てるじゃないか…」
「玲奈がいなくなったから、チャンスだと思って。」
猛にばれないように近づいて唇を奪うつもりだったのに、私の作戦は簡単に感づかれてしまう。
それでも強引にしようとしたけど…猛は私の体を掴んで、意地でもキスを拒むつもりのようだ。
周りのクラスメイトは…『沙織ガンバレー!』、『負けずにキスしろー!』…など、私よりの声援が飛び交っている。
…皆を裏切れないから、ここは私も…頑張るしかないわね…
猛に関しては諦めの悪い性格なので、私は何度も猛にアタックしていく。
「うっふっふ…周りは私の味方よ? 諦めて私とキスしなさい!」
「人が真剣に悩んでる時に、バカなこと言わないでよ…」
「何で悩むの? 本当のお姉さんがいただけじゃない。」
「でも…今さら実の姉と言われても…」
「もし自分を捨てた親が現れたなら、猛が複雑な気持ちになるのもわかるわよ?…だけどお姉様は、離れたくて別れたわけじゃないと思うわ。その事情を考えたら…会いに来てくれたことを、素直に喜んであげたら?」
私の言葉に、一瞬…猛の力が弱まった。
…ふっふっふ…隙を見せたわね!
猛に飛びついて膝の上に乗ると、背中に手をまわしてガッチリ抱きしめる。
『おぉ〜!!!』…などと皆の声を感じつつも、目の前のイケメン(笑)…は、私というハンターのテリトリー内に迷い込んだ…小鳥だった。
「…私の勝ち!」
「クッ…めずらしく沙織の話がマジメだと思ったら、僕を騙すためとは…」
「違うわよ…騙すつもりなんて無かったの。ただお姉様のことより、猛とキスする方が大事なだけ!」
「…沙織はそうだけど、僕にしたら…」
「ごちゃごちゃうるさいわね! どうせ悩むなら、私の胸で悩みなさい!」
私の最大限の力で、猛をギュ〜ッ!…と抱き締める。
観念したのか、猛も私の腰へ…手をまわした。
…では、そろそろ…
私たちは10cmの距離で見つめ合って、周りの野次馬を黙らせるぐらいの雰囲気を醸し出す。
沈黙の中で、私は小さく『イタダキマス』と呟きながら、猛に唇を重ねた…
…と思ったのに、戻って来た玲奈に襟首を引っ張られ…猛から離されてしまう。
…あと1秒、あと5mmで…あぁ〜…
「調子に乗りすぎです、お嬢様。」
「うぅ〜…皆がおだてるから、つい…」
「ついではありません。完全にお嬢様の意思で、仲野様にキスを要求していたではありませんか。」
「…見てたのね…」
自分の席に座らせられた私に向かって、玲奈は怒っている。
しかも無表情、怒る声も一定という…まるで本当の機械みたいだ。
…怒っていることより、今の玲奈自体が怖いわ…
とりあえず聞き流してるけど、早く説教が終わることを私は心から祈っていた。
「まあまあ、松永さん…僕も悪いんだし。」
「…仲野様がそう言って下さるのなら、そろそろ許しても…」
「…猛…かばってくれて、ありがと。」
「かばう?…そんな気はないよ。逃げようと思えばいくらでも逃げられたのに、僕は結局…沙織とキスすることを選んでたから、やっぱり同罪だよ。」
…明らかに私が悪いのに、こんな風に言ってくれるなんて…
隣の席で軽く笑いながら話す猛は…カッコイイ、誰が何と言おうとカッコイイ。
堪えられなくなった私は、懲りずにまた抱きつこうとしたけど…玲奈に頭を叩かれた。
「少しは懲りて下さい、お嬢様。」
「………は〜い…」
「…ところで、どうして先輩もいないのに…松永さんは敬語なの?」
「あ、それ!…私も気になってたのよ。」
「それはですね、仲野様が…藤ノ宮家の御子息だからです。」
…藤ノ宮家?…
…どこかで聞いたことがあるような…
………無いような…
はい、作者です。忙しい中で書いたので、どうもまとまりが無いような…そんな気がします。 気付いている人もいるとは思いますが、美鈴のことはまだ何も語られていません。次回にはある程度わかると思います…あまり期待せずに、待ってて下さい。 不定期更新になると思いますが…楽しみにしてもらえたら、嬉しい限りです。 …では、また次回…




