第十六話・人生、最大のチャンス!
…土日が一番忙しいって、どうなんでしょうか…では、どうぞ…
…よ〜く…洗わなきゃ…
私は一度洗い終わった体を丁寧に洗いだす…二回も洗う理由は、一つしかない。
…まったく! 勝手なのよね…無理矢理キスしたくせに、その上セックスもなんて…まぁ、少しは嬉しいけどさ…
猛への文句ばっかり心に浮かぶけど…鏡を覗くと、締まりのないニヤけた微笑みの顔があった。
…でも、猛からあんなに激しくキスされたこと…今までなかった…
鏡を見ながら、自分の唇に人差し指で触れる…
私がキスすることはたくさんあっても、猛がキスしてくれることは…本当に少ない。
私に興味ないのかも…と心の奥深くで思い始めていた矢先、あんな強引に愛を示した猛のキスで…快感を感じてしまった。
だけど、私だって女の子…無理矢理キスされて、嬉しいなんて言えるわけがない。
膝を抱えてカワイイ私をアピールしつつ…怒ったフリをした。
…だって、本気で怒ったら…普通は部屋から出ていくわよ…
それからあーだこーだで…こうなっている。
…ついに、私も…大人になるんだ…
そろそろお風呂を出ようと思った私は…あることに気付く。
…そういえば、二人とも裸になるから…エアコンは消すわよね…
…エアコンを消しちゃうと、暑いから汗かいて…臭わないかしら?…
…くだらないことが気になってしまう私は…もう一度、体を洗いだした…
…下着はピンク、香水はもちろん…お気に入りのエンジェ○ハート…
私は自分の魅力を再確認すると、ノックして猛の部屋に入る…
猛の部屋へ行く時だけのスリッパを脱いで、猛が待っているリビングへと向かう。
…蛍光灯はついてないが、スタンド式の間接照明の光は…猛の存在を確認させてくれる。
よく見ると、ソファーに座っている猛はさっきと服が違う…きっと猛も、軽くシャワーを浴びたのだろう…
「…沙織、こっちおいでよ。」
「………フン! まだ、許したわけじゃないからね!?」
「…そっか…僕のこと、怒ってるよね…」
「…と、隣には…座ってあげてもいいわよ?」
セックスの話で、機嫌が良くなったと思われたくないので…まだ怒ってる感じを出しつつも、私は猛の隣に座った。
…あう〜…早く抱きしめてほしいのに〜!…
こんな時こそ、ガバッ!…と襲ってほしい私は、猛を見つめて聞いた。
「…ちゃんと反省した?」
「うん…だから、許してほしい。」
「………ふ〜…仕方ないから、今回だけは不問にしてあげる。」
「本当!?…良かったぁ…」
…許したんだから、早く抱きしめなさいよ!…
今日のテーマが【大人の女性】である私としては…自分から抱きつくわけにはいかない。
…作戦としては、猛からの誘いを一度は断って…『本当は乗り気じゃないのよ?』…みたいなことを言って、しつこい猛に仕方なくセックスさせてあげる…カッコイイ女を演じたいのに…
しかし、現実は甘くない…猛は私を誘うどころか、近づいても来ない。
…この、あと50cmが遠く感じちゃう…
大人の私はちょっとずつ…猛に近づいていくことにした…
「………沙織?」
「あ、ち、違うわよ!? 誰も抱きしめてほしいから、近づいてるんじゃ…」
「…抱きしめてほしいんだね?…いいよ。おいで沙織…」
「!!!!!…だから…違うってば…」
…うぅ…完全に、墓穴を掘っちゃった…
猛はいつもの笑顔で、私を胸元へ誘導している。
…私、今日は負けないんだから!
意識は半分ぐらい負けていたけど、私は何とか…誘惑に勝った。
「あれ? いつもなら、飛んでくるのに…」
「そう毎回、毎回…私が抱きつくと思わないでよね!」
「じゃあ、あと五秒だけ待って…それでも沙織が抱きつかないなら、僕は寝るからね?」
「え!?…そ、それは…」
「はい、ごー…よーん…」
…嘘よ、絶対ウソ!…
その行為が、私を試してることを…ちゃんと理解している。
…猛がセックスしたいって言ったんだから…私が抱きつく必要はないわ…
ある意味、この戦いは…飛びついたら負けなのだ…
「…勝手にすれば?」
「へ〜。じゃあ、さーん…にー…」
「………」
…ひ、人を小バカにして〜…
今日だけは、猛の手の平で踊るわけにはいかない…
…そうよ、私は大人の女なんだから…大人の女…大人の…大人…おと…お………
「…いーち…ゼッ!!!」
「………この…ペテン師…」
「アハハ! 残り0・5秒で沈んだね。」
「…こんなの卑怯よ!…私が耐えられるわけないじゃない…」
「知ってたよ…ごめんね沙織。」
…作戦失敗…通常モードに移行します…
時間ギリギリに猛に抱きついた私は、今日の目標を諦めた。
…猛…猛、猛〜!…
猛の胸に顔を埋めながら、目一杯の力で抱きしめる…いつもと一緒だ…
そして猛も私に向かって、いつもと変わらない…同じセリフを話しだす。
「…沙織は本当に、カワイイよ…」
「ねぇ、猛…キスして…」
「…じゃあもう少し…顔を上げて…」
私のあごに、優しく手が添えられる…
そっと触れた唇が、私の気持ちを一気に高めた…
指で猛の胸に、8の字を描きながら…おねだりを始める…
「…猛…あのね、私ね…もう…我慢できないのよ…」
「………エッチのこと?」
「…うん…猛も、したいんでしょ?」
「………」
私の言葉に、猛は黙ってしまう。
…猛、何でそんな…悲しそうな顔するの?…
黙ってては、始まらないので…恐る恐る聞く。
「どうか…したの?」
「…僕たちは、このままじゃダメなのかな?」
「…え?…どういうこと?」
「僕も、沙織とエッチをしたいと思うよ?…でもそれ以上に、今の関係が壊れるのが怖いんだ…」
…今の私たちが壊れる…
こんなに好きで、頭の中は猛でいっぱいの私には…想像もできない。
想像できないから、不安もない…だって私は運命の人に、巡り会えたんだと信じているから…
「猛は、考えすぎなのよ…先の心配したってキリがないのよ?」
「沙織のことだから、常に考えるんだって…」
「…セックスして、猛が嫌いになるわけじゃないんだし…とにかく、深く考えちゃダメ!」
「深く考えなきゃ、僕は沙織を幸せに出来ないよ!」
…まったく、猛は真面目すぎるのよ!
猛の優しさが、今はただの嫌がらせにしか見えていない私は…イライラがピークに達しそうだ。
…どうにかして、猛の心を揺さぶらなきゃ…
ひたすら考えて、私の頭は一つの答えをだす…
「…沙織、大丈夫?…顔がハバネロより赤いよ?」
「………」
「沙織?…聞いてる?」
「………」
「さおぅ!!!?」
…エッチな気分にさせてやるわ!
私の顔を覗き込んだ猛に、キスをした…ここまでは、いつもと変わらない。
私はそこから…一歩踏み込んだ。
強引に舌を、猛の口へと突っ込む…
猛の顔を見たが、そんなに驚いていない…なぜか悔しい。
…猛も…中々やるわね…
猛が私の舌に、舌をすり合わせる…いやらしい、大人のキスが始まった…
…マンガなら、このあと必ずセックスしてたわ…
………5〜6分ぐらい、口の中を掻き乱すと…服まで垂れるほどの唾液が溢れている。
さすがに疲れたので、私から顔を離した…
「…あ〜…舌がつりそうよ…」
「うん…僕も結構、痛いかな…」
「ねぇ猛…セックスしたくない?」
「………わかった。それなら一つ、約束してくれる?」
「なにを?」
「…沙織はこれから一生、僕以外とエッチしないって…」
こんな時だけ回転の早い私の頭には、その一言の意味が光のスピードより早く理解できた。
…これ…プロポーズだよね…
めずらしく猛が顔を赤くしている…自分のセリフに、照れているのだろう…
…【一生】か…あんまり好きな言葉じゃないなぁ…
私は猛に、答えを返す…
「【永遠】…じゃダメ?」
「…は?」
「一生ってさ、死んだら終わりでしょ?…私は、死んで生まれ変わっても…猛としかセックスしないつもり。」
「…うん、そうだよね…僕も永遠がいい!」
「じゃあ改めて、これから永遠に…よろしくね。」
…強く、ただひたすらに強く…猛が私を抱きしめた。
…もう私たちは、離れないんだね…
私も強く抱きしめていく…二人の間に、邪魔するものは何も無かった…
…ベットの上に、一枚の紙が置いてある。
玲奈の字で…どうやら、私たちに書いた手紙みたいだ…
(…危機管理の欠けた、二人に祝福を…)
…?…危機管理?
…私はわからなかったけど、猛はすぐに気づいたらしい。
「…さすが、松永さん…何でもお見通しって感じだね。」
「どういうこと?」
「…ほら、それ。」
………逆にムカつくわね…あの女…
コンドームが三つ、手紙の裏に張られていた…
はい、作者です。沙織は猛の悩みを殆ど無視してましたね…二人を別々に書くと、沙織のわがままが特に目立ちます。理由は、私が沙織をメインで考えてるからかも… …では、また次回…