第十五話・夏休み、最大の危機!
次に続くので、中途半端なところで終わってます…では、どうぞ。
「…いや〜、長かった…」
「大袈裟ね、猛くん。」
「僕にとっては、今日が一ヶ月で一番嬉しい日ですから…大袈裟じゃないですよ!」
「わかってるわよ。うん、じゃあ…はい!」
真理絵さんは、鍵付きの引き出しから…茶封筒を取り出した。
…今日は給料日!…中身はもちろん…
…いや〜お久しぶりです、諭吉さん!…今月も、お世話になります!
僕は真理絵さんに深々と頭を下げた後、敬意を表して諭吉さんにも感謝をする。
「…相変わらず、お金を大事にするんだね?」
「当たり前です! 諭吉さんがいないと…僕は生きていけません。」
「ま、それもそっか。」
「…ひぃ、ふぅ、みぃ………よし、いつもよりも頑張った!」
「夏休みで、たくさん働いてたもんね〜。」
真理絵さんが、感心感心…と言いながら戸締まりをしだした。
僕も浮かれてる場合ではないので、一緒に片付けを始める。
…明日は久しぶりに、駅前の焼き肉屋でも行こっかな!?…
一ヶ月に一度の楽しみが、食べ放題の焼き肉というのも淋しいけど…僕にとっては至福のひと時である。
…その焼き肉屋で、肉を馬鹿食いして…高校生の多大な食欲を抑えていることは、言うまでもない。
その後の作業を、無心で取り組んで…いつもより早く終わらせた。
…明日は3Kg、太って帰ろう!
…我ながら、小さな目標だと思うけど…
…あれ?…電気…
僕は部屋の明かりがついてるのに気付いて、吉岡さんが部屋で待ってるんだと思った。
…急いで鍵を開けると、玄関には二つ履物が並べられている。
「…そっか…吉岡さん、一人じゃないんだ…」
「いたら悪い?」
「うわ!…た、ただいま…」
「おかえり。やっぱり私は、お邪魔かしら?」
…ど、どこにでもいるな…この人…
入り口で立ちながら待っていた松永さんは、僕の独り言を聞いてクスクスと笑っている。
…この人がいると、僕と吉岡さんは二人っきりになれないんだよなぁ…
松永さんの存在を不思議に思った僕は、松永さんの先祖は忍者かどうなのか…吉岡さんに聞くことにした。
「吉岡さん、聞いてよ。松永さんが…」
「………」
「………あ…」
「…スー…スー…」
…後ろからは、座ってるように見えた吉岡さんが…カワイイ寝息をたてて寝ている。
膝にはクッションを置いて、ソファーにもたれながら…何ともまぁ、無防備な姿だ。
…男の部屋で、そんなにカワイイ寝顔をしてたら…襲われても文句は言えないよね…
僕は少し忍び足で、吉岡さんのソファーに近づいていく。
軽く顔にかかった髪を、手でどかしながら…僕の唇が少しだけ、吉岡さんの唇に触れた…
………反応なし。
心の声がする…『起こしてあげる』という優しい声と、『もう少し強めにいけ』と叫ぶ声の二つだ…
…僕の判断は…
「…吉岡さん、起きて。吉岡さん…」
「………ん、ん〜…あ、猛…」
「吉岡さん、ただいま。」
「…おかえぅ!!?」
…肩をゆすって起こした吉岡さんの口を、僕の口で塞ぐ…
吉岡さんは、手足をバタバタさせていたけど…力で押さえて強引にキスを続けた。
…すぐに抵抗は大人しくなり、吉岡さんの体から拒否感が消えていく…
ゆっくり…顔を離した…
「………バカ…」
「ごめんね…心を裏切れなかったんだ。」
「…許さない…もう話さない…」
「そ、そんな…」
…怒った吉岡さんは、膝を抱えて顔を伏せた。
………この姿も、やっぱ絵になるなぁ…
…冗談が言える雰囲気ではないので、僕は必死に謝る。
「………」
「ごめんなさい。許してください。」
「………」
「もうしません。だから機嫌な………」
「…してくれないなら、もっと許さない…」
………ん?…
突然の言葉に意味がわからなかったので、整理してみよう。
…僕が勝手にキスしたら、吉岡さんは怒った…
…もうしないって謝ったら、それなら許さないと言われた…
………どういうこと?
僕は一旦悩んでしまうと、正解が出てこなくなる…
………あ、そうだ!
部屋の隅に立っている、歩く電子辞書に僕は答えを聞いてみる…
「…松永さーん…助けてくれませんかー?」
「………私は邪魔なんでしょ?」
「いえ、そんな…滅相もない…」
「それに勝手にキスしたのは、仲野くんじゃないの。」
「…魔がさしたんです…お願いしますよ…」
「………はぁ…仕方ないわね…」
…さすが松永さん! こんな時こそ、頼りになるなぁ…
本当に身勝手だと思うが、すべてを松永さんに任せることにした。
…松永さんはソファーの後ろから、吉岡さんの耳に何かを呟いてる。
すると、吉岡さんが顔をあげて僕を見る…その顔はフェラーリより鮮やかな赤だった…
「………サイテー…」
「?」
「しょうがないでしょ?…仲野くんは、男なんだから…」
「…そうよね。猛は…男だもんね…」
「???」
よくはわかりませんが、何となく解決しました。
…吉岡さんが『準備してくるから』…と言って、自分の部屋に帰っていく。
…恥ずかしそうな…嬉しそうな…表現しづらい顔のままだった。
松永さんは部屋に残ったので、少しおかしい吉岡さんの様子を聞いてみる。
「…沙織は今からお風呂よ。」
「この時間から?…もう夜中の1時に近いのに…」
「…だって女の子なら、セックスする前にお風呂に入るのは普通の………」
…………………………………………………………………………………………………はい?
…耳がおかしいと思ったことないけど…今日だけは疑いたい。
間違いであってほしいと願いつつ…松永さんを問い詰める。
「…吉岡さんに、何を話したの?」
「えーっとね…沙織が凄く怒ってたから、『仲野くんは沙織とセックスがしたいのよ』…って話したの。」
「………僕に了承もなしに?」
「だって仲野くん、私にすべてを任せたわよね?」
…あー…そういえば任せました。
つまり、僕が悪いんですね…アハハ…
…明日は焼き肉を食べに行くし、軽くお腹を空かす意味でも………
「…って、出来ないよ!!!!!」
「もう遅いわね…沙織はやる気だし。」
「ど、どうしよう…」
「諦めて、やっちゃえば?」
…諦めて、好きな女の子とエッチする…
…おかしい…絶対変だ…
どうにかして、吉岡さんを説得しなければ…
…エッチしたら戻れないんだろうなぁ…
はい、作者です。【姉】が登場するのはもう少し先ですから、いままでのラブラブな二人を書いてみました。もちろん、次はいよいよ沙織目線からです。では、次回もお楽しみに。