第十四話・………誰?
…そろそろ終わりが見えてきました…では、続きです。どうぞ…
…はぁ〜…楽しみで仕方ないなぁ…
…今は夏休みで…しかも私たちにとって、今日が初デートの日…
時刻は、朝の4時半過ぎ…デートまであと5時間ぐらいある。
実は3時から起きているので、お風呂はすでに入った。
出かける前に、もう一度入るつもりなので…髪はセットしていない。
ぼっさぼさの髪のまま、私はお弁当の準備を始めていた。
…半分寝ている玲奈に、今日のお弁当の相談役をしてもらっている。
「…やっぱり、カップルでお弁当と言えば…サンドイッチよね!」
「…んー…」
「…でも…手抜きだと思われたくないから、和食を中心に入れた方がいいのかな?」
「………ん〜…」
「かと言って…鶏のから揚げとか脂っこいのも、男の子って好きだから…う〜ん…」
「………」
「…ちょっと玲奈! 人の話を聞いてる?」
「…んーんー…」
玲奈は首を横に振って、ソファーにそのまま倒れ込む。
…まったく…人生で一番大切な日なのに…
硬く握った拳を緩め…私は寝室から薄手の毛布を持ってきて、玲奈の体に被せてあげた。
…私と猛のデートなんだから、玲奈に頼ってばかりじゃダメだよね…
スヤスヤ眠る玲奈を横目に、めずらしく一人で作る料理を考える私だった…
…一応、大丈夫よね…
私は髪をちゃんとブローして、綺麗に整える。
…着ていく服もこの日のために、玲奈とわざわざ買いに行った。
…上の洋服は、いたって普通のカットソーのようなもので私も気に入ってたんだけど…スカートがちょっと、ねぇ…
玲奈が言うには、『仲野くんはこういう感じのが、大好きなはずよ!』…って話だけど、未だに…私は信じられない。
もう一度、もう一度だけ…玲奈に確認する。
「…本当に大丈夫? 私の格好、バカっぽくない?」
「まだ心配してるの?…沙織はカワイイんだから、何も不安になることはないの。」
「でも、この…ピンクのフリフリスカートは、私に合わないんじゃ…」
…玲奈は親指を立てて、『グッジョブ!』…等と意味がわからない発言を繰り返してる。
…パパに買ってもらったドレスより、フリフリのスカートなんて…キツイわよ…
私的には、もっと色気のある服で猛を誘惑………じゃなくて、気に入ってもらいたかったのに…
ギリギリまで悩んでると…ドアのチャイムがなる。
…あ、あ、どうしよ…
…右往左往しだした私を玲奈が無視して、玄関に向かう…
「…おはよう、吉お………おぉ…」
「やだ、仲野くん…私を見ないで…見ないで〜!」
「………よ、吉岡さん…そのスカート…」
「イヤー!!!…す、すぐに着替えるから、私に何も言わないで〜!!!!!」
「待って!…僕は、そのスカート…すっごく好きだよ…」
…私が必死にソファーの影に隠れたのを見て…猛は顔を赤くしながら褒めてくれた…
…まさか、猛がこんな…子供っぽいスカートを気に入るなんて…
私が戸惑いと動揺でわけわからなくなっていると、あの女が平気で話を切り出す。
「だから言ったでしょ? 仲野くんはこんな服が好きなんだって…」
「松永さん? どうして僕の好みが…」
「…なんとなくね。仲野くん見てると、沙織を見る目が変わってきた気がしちゃって…」
「え?…本当なの?」
「…うん…吉岡さんのことを、知れば知るほど…女の子なんだって感じて、凄くカワイイと思えるようになったんだ…」
………はぅ〜…
性格はわがままで、玲奈がいないと何も出来ない私を………一番好きな人がカワイイって認めてくれる…
私は今の今まで恥ずかしがってたスカートのことも、猛の話を聞いたおかげで受け入れ始めた。
…いつの間にか猛が、私の横で手を出して立っている。
…その手を取って、私はゆっくり立ち上がる…
「…ありがと…」
「そのスカート…恥ずかしいなら、無理して着けることないよ。」
「…ううん、大丈夫。私もなんか…自分に合ってる気がしてきた。」
「吉岡さんは素敵なんだから、何を着たって似合うよ!」
…そのキラースマイルはやめて…
猛の屈託のない、素直な笑顔は…私の寿命を縮めていく。
…今日は玲奈がいることも確認している…でも、この思いを止められなかった。
「………猛…」
「よ、吉岡さん?…松永さんがいるから、名前で呼ぶのはちょっと…」
「…キス…して…」
「…えーっと…その〜…松永さん、ごめんだけどさ…」
…ハイハイ…と言って、後ろを向く玲奈…
ゆっくり肩に手を回す猛…抱きしめながら、耳元で…『好きだよ、沙織』…って呟いてくれた…
…私も好き!…好き、愛してる!…
思い浮かぶ言葉は、声に出来ない…口はすでに、猛の口によって奪われていたからだ…
………玲奈の話によると、カップラーメンぐらい簡単に出来る時間…キスしていたらしい…
私には一、二秒に感じたから…損した気分だわ…
初めてのデートでもあるので、遊園地に行くことにした。
お目付け役である玲奈とは、入り口で別れる。
…本当はついてくるのが仕事らしいけど、私たちのバカップルぶりを見たくないと言って…すこしサボるんだって。
…気の使い方が下手なんだから…
玲奈の優しさのためにも、今日はおもいっきり楽しもう!
猛の手を握って、顔が赤くなるのを感じながら…小走り的に歩きだす…
………つまんない…
…遊園地でデートって、もっと楽しいと思ってた…
…乗り物や雰囲気のせいかな?…全然楽しくないのよね…
時間ばっかり気にしてて、私はお昼が待ちどうしくて仕方なかった。
「…やっぱりダメだ。」
「え…猛、どうしたの?」
「ごめん、黙ってたけど…最初の方から、なんかこう…」
「………楽しくない?」
「…ごめん…」
申し訳なさそうに、猛は私に謝った。
…猛が謝ったことより、私と同じ思いを感じてたことが…妙に嬉しかった…
私も楽しくないことを話して、よく考えてみる…楽しいはずのデートが、二人でいても楽しくない理由…
………二人?…
「…帰ろっか、猛。」
「え?…まだ来たばっかりだよ?」
「…お家の方が、二人っきりになれるもの…」
「あ…ああ! そういうことだったのか。」
…夏休みの遊園地は人が多すぎて…二人の時間が全くない。
猛のそばにいられれば、それでいいから…私は遊んでても楽しくなかったのね…
…猛も…きっとそうだ…
今までが楽しすぎて気付かなかっただけ…そう、私と猛には何もいらない。
…わざわざ遊園地まで、来る必要なかったなぁ…
携帯に電話しても、取る気配がしない…この雑踏じゃあ音も聞こえないのだろう。
…猛は玲奈を探しに行くと言って、私を休憩所の白いテーブルに座ってるように指示する。
一緒に行きたいんだけど…玲奈から連絡がきた時に、わかりやすいところの待ち合わせ場所が必要なんだってさ。
…猛と一緒にいたかっただけなのに…本当に鈍いんだから…
…仕方なく、一人でのんびりし始める。
………嫌でも目につく、周りのカップル達…
私と猛も、こんなに大胆なのかしら?…
…アイスを一緒に食べてたり…腰に手を回してたり………うわっ、人前でキスしてるよ…
…やっぱり私、人前ではイチャイチャなんて出来ないなぁ…
【充分してるのだが…】
とりあえず子供じゃないんだから、大人しく待たなきゃね…
…
………
……………
…猛に…会いたい…
5分も経っていないのに、周りのせいで淋しさが増幅している。
…うぅ…私も早く、キスしてほしいよ〜…
頭の片隅にも玲奈という存在はなく、ただただ猛の顔が待ち遠しい…
…すると突然、肩をポンポンッ…と叩かれた。
「遅いわよ!………あ、ごめんなさい…」
「うふふ…おもしろい娘ね。」
「…へ?…あの、何か用なんですか?」
…振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
髪は黒く、腰を軽く触るほどに伸びている…私も見惚れるぐらい、美しい髪だ。
いや、髪だけじゃない…スタイルも抜群で、私が負けてるかも…
しかも、Eカップ【真理絵さん】ほどではないにしろ…CかDはありそうだ。
顔はサングラスで、よくはわからなかったけど…間違いなく、美人でありそうな顔つきである。
…どこかで見たような…
「…吉岡…沙織さん、だったかしら?」
「ど、どうして私の名前を?」
「あ、失礼。これじゃ、わからないわよね…」
…女性がサングラスを外した。
………会ったことはないはずだけど…やっぱり、どこか見たことあるような………
…あ! まさか…
「…あの、もしかして…仲野くんの…」
「姉です。」
「やっぱり! 目元が似てるから、そうじゃないかと…」
…確かにこの目、猛の目にそっくりだわ…
姉だと知り、どうにか私は…ポイントを稼ごうと必死になる。
お姉様の、すべてを褒めようとしたその時…
「時間が無いから、もう失礼するわ。」
「あ、そんな…仲野くんには会っていかないんですか?」
「…そうね…でもいいの、これからも猛ちゃんをよろしくね。」
…そう言って、雑踏の中へ消えていった…
いまひとつポイントを稼げなかった私は、悔しさが込み上げてくる。
…次こそは、必ず…良い印象を与えるんだから!
私は一人、空に拳を突き上げた…
…あ、猛と玲奈だ。
二人を見つけた私は、急いで近づいていく。
そして…猛に抱きついた…
「…ちょっと玲奈、携帯ぐらいちゃんと取りなさいよ!」
「ごめんね。UFOキャッチャーしてたら、夢中になっちゃってさ…」
「まったく、上手なくせに…」
「だから夢中になるんだってば!」
「…あの…そろそろ突っ込んでいいかな?」
…猛の肩ごしに会話する、私と玲奈…
抱きつくことがさも普通かのようにする私に、猛は少し戸惑ってる。
…あ、そうだ…
「…綺麗な人ね。」
「え? 何の話?」
「仲野くんの、お姉さんのことよ。」
「…僕? 僕は姉なんていないって。吉岡さんも知ってるじゃん…」
…そういえばそうよ。
猛に似てたから、疑わなかったけど…あれは一体誰なんだろ?
…考えれば考えるほどに、頭に【?】が浮かぶ…
「きっと、人違いだと思うよ?」
「…はっきり名前も言われたわ。」
「また、アンタ…得意の妄想じゃないの?」
「…それにしては、鮮明に覚えてるのよね…」
…う〜ん…考えてもわからない…
………お腹空いたなぁ…
…あ、食欲もしゃしゃり出てきたわ。
私は悩みに悩んで…食欲を優先した。
…結局お弁当は、お家で食べることになったんだけどね…
…あれ…誰なんだろ?…
はい、作者です。あまり謎が増えすぎても困るので『姉』と書きましたが、ばらし過ぎかも…沙織もいろいろ悩みます。では、また次回…