第十二話・だから妄想好き!
沙織、ハイテンションすぎです…むしろ壊れ気味かも。では、どうぞ…
…あぁ…私、幸せ…
…ずっと一緒にいようね…猛…
私は猛の肩にもたれながら、死ぬまで傍にいたいと願っている。
…猛は、今書いたばかりの書類を見ながら…少し戸惑っていた。
「…あの、この項目は…マジですか?」
「そうよ…タ・ケ・ル!」
「…書類上は、問題ないのよね…残念ながら。」
玲奈は、諦めてね…って話している。
猛は苦笑いを浮かべてた…何が不満なんだろ?
私の顔を覗き込んで、猛は【その他の特記事項】…を読み始めた。
「…その一、契約者は…吉岡沙織を愛することとする…」
「やっぱり、それが第一条件だわね!」
「…その二、契約者は…吉岡沙織のことを名前で呼ばなければならない…」
「ちゃんと、沙織…って呼んでよ?」
「…その三、契約者は…吉岡沙織の愛情行為を、基本的に拒めない…」
…それを読み上げた瞬間、私は猛の唇に口を押し当てた。
驚いているが拒もうとしない猛に…私は力の限りの愛情を伝える…
「…ね! 嬉しいでしょ!?」
「結構、嬉しいかも………じゃない! ダメだよ吉岡さん!」
「あ、名前で呼ばないと…契約違反よ?」
「…け、契約違反って…そんな…」
私は笑顔で、猛の違反を指摘する。
猛は動揺していた…その隙に猛の手から、書類を取り上げる。
…私は書類の裏の、一番下を指差して話した。
「…契約違反は法的措置をとります…頭のいい猛なら、意味わかるわね?」
「…賠償金…とか…」
「違うわよ。玲奈、アレを持ってきて…」
「…あ〜あ…一時間も、経たなかったのね…」
…猛に、仕事だから…と呟きながら席を立つ玲奈…
玄関の方に向かって行き、すぐにリビングに戻ってきた。
…ソファーに座った玲奈は、一枚の紙を取りだす。
「…これって………あ…」
「そう…婚姻届け!」
「…法律上で、結婚するってこと?…」
「法的措置…間違ってるかしら?」
「微妙に違うよ!」
…つっこむ猛を無視して、私は猛の印鑑を持つ。
実は私の書くべきところは、すでに書き終わってた。
…猛のところは、印鑑を押せば正式な形になり…役所に出せる婚姻届けになる。
私は印鑑に、はぁ〜…と一息はいて…婚姻届けに押し付け………
「…うぉっ!」
「あ…何で邪魔するのよ?」
「邪魔しないと、僕たち結婚しちゃうじゃんか!」
「…猛は…私と結婚したくないんだね…」
「…そ、そんな顔しないでよ…吉岡さん…」
「…まだ…吉岡って呼ぶんだ…」
…私は涙目で…下を向いた…
猛は焦って、玲奈や書類を見ては…私にごめんと謝ってくる…
………クックック…
心の中で、猛の心配そうな顔を見て…笑っている…
…私はこうなることが、最初からわかっていた。
第一に、未成年は勝手に結婚できないことも知っている。
…私の目的は、このあとの展開にあった…
「………猛は…私が嫌いなんだ…」
「違う!…僕は吉岡さんか大好きだよ!…でも、結婚は…」
「…じゃあ…愛してるって言ってよ…」
「………愛してる…」
「…名前も…一緒に呼んで…」
「…愛してるよ…沙織…」
…はぁ〜ん…シ・ア・ワ・セ…
猛は私を抱き寄せ…耳元で愛を囁いてくれる…
…頭の上から、脚の爪先までを快感が走っていく…
…これよ!…たったこの一言のために…私は苦労したのよ…
背中には、未だに電気が走るような感覚を覚えつつ…まだまだ猛に呼んでもらいたい、私がいた…
「…もう一度…言って…」
「沙織、愛してる…」
「…もっと…もっと私に愛してるって…」
「何度でも言うよ!…だから泣かないで…沙織を愛してるから、泣き顔は見たくないんだ…」
「………あ〜!…見ててイライラするわ!」
玲奈がいきなり立ち上がって、婚姻届けと書類を破り捨てる。
…抱きしめあってた私と猛は、玲奈の行動を呆然と見てるしかなかった…
今まで黙ってた玲奈は、怒りを私にぶつけてくる。
「なにが『愛してるって言って』…よ! 言うって知ってて、よく平気で聞けるわね!?」
「べ、別にいいでしょ!…黙っときなさいよ!…」
「仲野くん知ってる?…この女ね、最初から…」
「あ、バカ!」
…玲奈は、すべてを猛に話した…
猛は意味がわからない顔で、私を抱きしめてる手を離す。
名残惜しかったけど、私も素直に…猛から離れた…
「…つまり、ドッキリよ。」
「じゃあ、書類も…無効になるんだ。」
「当たり前じゃないの…あんな、騙して書かせたような書類…ただのゴミね。」
「…どうしてこんなことしたの?…吉岡さん…」
…沙織から、吉岡さんに戻ると…私は少しヘコんだ。
…猛を騙したのは、事実だけど…楽しんで騙したわけじゃない。
私は嫉妬まじりに…本音で話した。
…まじりじゃなく、完全に嫉妬だったけど…
「昨日の猛、私に優しくしてくれた。けど…私にいじわるもしたわ…」
「…僕はいつだって吉岡さんに、優しくしてるつもりだよ?」
「…嘘よ…だって私より、バイトを優先したじゃない…」
「それは…仕方なく…」
…私が今、とてもウザイ女なのは…自分でもわかってた。
猛が一生懸命に説明してることも、本当は理解している…
…玲奈はまた黙って、私と猛のやり取りを静かに傍観していた…
「…だからお金が無いと、生活が出来ないから…」
「…言い訳よ。どうせ、あのEカップに会いたいからそういう…」
「違うよ!…真理絵さんは全然、関係ないんだって…」
「………ふん!」
…また私は、猛とは逆を向いた。
猛はどうしていいかわからずに、頭を二、三回ほどかいている。
…こんな時、決まってあの女が口を出すって知ってた。
「…ごめんね仲野くん…沙織はレディコミの読みすぎで、頭がおかしくなってるのよ…」
「あー!…人の趣味を、勝手に暴露しないでー!」
「レディコミって何なの?」
「女の子のためのマンガ…ちょっとエッチな…」
「か、関係ないでしょ!」
…うぅ…元々、玲奈が持ってきたのに…
クローゼットの奥に隠してある、毎月の楽しみをばらされて…恥ずかしさが込み上げてくる…
下を向いた私を無視して、猛と玲奈は会話を続けてる…
「…恋愛経験ないくせに、知識だけはあるから…すぐに浮気だなんだって叫びだすのよ。」
「へぇ〜…吉岡さんにも、そんなカワイイところがあるだ…」
「…そうなのよ。だから呆れずに、付き合ってあげてね。」
「もちろんです! 僕は吉岡さんを、愛してますから!」
…その言葉を聞いた私と玲奈は、思わず顔を赤くしてしまった。
…こんな真っ直ぐに愛を語れるなら…猛に小細工は必要なかったなぁ…
私は自分の行動に、毎回のように反省している気がしていた…
…玲奈は、今度こそ本物の契約書を持ってくると言って…部屋を出ていく。
…この空間に二人っきり…あう…抱きつきたい…
…私はエサを待つ子犬のように目を輝かせながら、ご主人様の許可がおりるのを待った…
猛も気付いたのか、少し間を置いて…
「………いいよ、沙織。おいで…」
「バウッ!」
「よーし、よし…いい子だ…」
私は猛の胸めがけて、頭から飛び込んだ…
…ちなみに私たちは二人っきりの時だけ、名前で呼ぶことにした。
…やっぱり猛は、人前で名前を呼ぶのが少し恥ずかしいらしい…
「まったく…沙織は急に態度が変わるんだから…」
「…エヘッ!…さっきはごめんね…」
「…そうだなぁ…あれはいくらなんでも、沙織が悪いよ。」
猛は私の目を見ないで、冷たく言った。
…いつもは許してくれるのに、やっぱり今日は怒ってるんだ…
…私…どうしたらいいんだろ…
また泣きそうになった私は、必死に涙を堪えている…
「………やっぱりダメ!…沙織にそんな顔されるぐらいなら、許してあげるよ!」
「…ほ、本当?…」
「うん。だけど、二度とバイト行くのを邪魔しないでよ?」
「………わかったわよ…」
…また…Eカップの顔を思いだした…
猛に限ってないとは思うけど…念のために私は、釘を刺してみる。
「…ねぇ猛…あんまり、真理絵さんと仲良くしないでよね…」
「どうして?」
「…猛がカッコイイから、変な気起こすかもしれないし…真理絵さんも、カワイイから…猛はすぐオオカミになっちゃうよ…」
「…嫉妬…してるの?」
…私は…頷いた。
回りくどい言い方は、今は必要ない…
自分の気持ちをそのままに、猛の胸で囁いた。
「…お願い…私以外を…見ないでほしいの…」
「…どうしよっかな〜?」
「…え…」
「真理絵さんはカワイイと思うし、松永さんだってなかなかの…」
…ダメ…やめて…
猛の口から、他の女の子の話は聞きたくない…
…いや…イヤ…嫌!
私はソファーの上で思いっきり…猛を押し倒した。
「さ、沙織?…今のは、軽い冗談…」
「………触って…」
「…こ、この状況じゃ…その発言は危険だよ…」
「…ここを…触ってよ…」
「!!!!!…あ、これは…」
…猛の上に乗って、右手を取ると…私の左胸に添えた。
…胸のドキドキを伝える…そんな可愛らしいものではなかった…
…好きな人を、私だけのものにするには…方法は一つしかない。
私は女として、猛の目の奥を覗き込む…
「…私の胸じゃ、小さくて興奮しないかも…」
「…そんなことは…ないよ…」
「興奮したんだ…なら、この先もわかるわよね?…」
「…わかるけど…本当に僕でいいの?」
…私は微笑んで、猛の手を胸のボタンに移動させる。
一番上のボタンが外される…まだ、胸を包む下着も見えなかった。
…二番目のボタンに手がかかり…
「…お邪魔か〜しら?」
「!!!!!」
「ま、松永さん!」
…玲奈が私たちを覗いている…わざわざリビングの隅から…
私と猛は二秒で座り直すと、何もなかったような雰囲気をかもしだした。
「…いまさら遅いわよ。だってボタンが…ね!?」
「あ、違うの!…これはたまたま…」
「ぼ、僕たちはまだ何も…」
玲奈はニヤニヤ笑って…久しぶりの小悪魔モードになっている。
…またしばらく…イジメられるのね…
…はうぅ…
はい、作者です。うーん…本当はここを省くつもりでしたが、友人に甘いの大好き人間がいて…省かないで、壊れた沙織をカワイイ感じで書いてほしいと言われて書きました。沙織は、タカビーでちょうどいい気がするんですけどね…では、また次回も楽しみに。