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第十一話・…確認ミス

更新が遅れました…では、続きをどうぞ。


「………やだ!」

「吉岡さん…」

「…好きなのよ!…嫌!」

「やめなさいよ、沙織。そんなわがまま…」

「わがままは、仲野くんの方でしょ!?」




…吉岡さんは、僕の話を聞こうとしない。


松永さんも、僕の味方になって説得してくれた。


しかしそんな松永さんに対しても、ワーワー言いながら吉岡さんは暴れている。


…この様子じゃ、二人がケンカしてるように見えてきた。


…あ〜あ…僕のわがままで、仲の良い二人が言い争うなんて…


この場から逃げ出したい気分で、僕は二人を眺めている…


…もちろん、逃げだせる雰囲気ではないけど…












…一緒に暮らせない…


当然と言えば、当然な話なんだから…少しは理解してくれると思ってたのに…


…吉岡さんが、そこまで暮らしたいのなら…


…でも、ここで一緒に暮らしたら…大変なことになりかねない。


僕は心の中で迷いつつ、ふたたび吉岡さんを説得し始めた。




「…じゃあ、せめて理由を私に教えて!」

「り、理由は………言えないんだ…」

「なんで言えないの!?」

「…理由を話すと、吉岡さんに嫌われそうだから…」




吉岡さんは、絶対にないって叫んでいる。


でも仕方ないんだよ…













…吉岡さんを見てると…我慢できなくなる…












…そんなこと…口が裂けても言えない…


僕は吉岡さんから目線を反らして、下を向いてしまった…




「…アンタね、そろそろ気付かない?」

「なによ、玲奈…理由がわかったの?」

「あんな言い方されたら、普通気付くわよ。」

「なら、さっさと教えなさい!」




松永さんが僕に、話してもいい?…って顔で聞いてくる。


…きっと松永さんなら、嫌悪感を持たせずに説明できるだろう…


黙って頷いて、松永さんにすべてを任せた…




「…むか〜し、昔…あるところに、オオカミが住んでいました。」

「オオカミ?」

「そう。そのオオカミはとても素直で…恐くありません。誰も驚かさないし優しくて、今まで一度も動物を食べたことは………ないよね?」

「ありません。」

「ふーん…いいオオカミなのね。」




さっきまで怒りかけてた吉岡さんは、松永さんの話に聞き入ってる。


…松永さんが話し上手なのか、吉岡さんがとても素直なのか…


…どっちでもいいけど、とりあえず僕は…続きが気になった。




「ところがある日、オオカミの前に凄くカワイイ赤ずきんちゃんが現れました。」

「違いますよ、松永さん。凄くカワイイじゃなくて、凄く美しい…が正解です。」

「はいはい…その美しい赤ずきんちゃんは、優しいオオカミと大の仲良しになりました。」

「へ〜…赤ずきんとオオカミが仲良くなるって…変な話ね…」

「しばらくすると、二人はお互いを好きになっていました。オオカミも赤ずきんちゃんも、ずっと一緒にいたい…そう思いました。」

「…それって………」




…さすがに、吉岡さんも気付いたはずだ。


吉岡さんはたまに僕の方を見たりしながら、松永さんの話を真面目に聞いている。


そこで始めて、松永さんから質問がでた。




「…この二人がこれから一緒に暮らすと、どうなるでしょうか?」

「はい、結婚! 二人は一生…仲良く暮らすの!」

「…オオカミは赤ずきんちゃんを…食べてしまうと思います…」

「仲野くん、正解!」




僕の答えが正解と聞いて、吉岡さんはガクッ…と肩を落とした。


…僕だって、性欲ぐらいは普通にあるから…一緒に暮らしたら、美しい赤ずきんちゃんをパクッ!…と食べますよ。


…まぁ、吉岡さんの答えも正しいんだけど…


…僕は吉岡さんをなだめようとしたが、松永さんの例え話はまだまだ終わらなかった。




「オオカミは我慢できずに、赤ずきんちゃんを食べる…でも本当に好きな人だから、簡単には食べたくない…」

「わた…赤ずきんはきっと、食べられてもいいと思ってるわよ?」

「…だからオオカミは悩んでるのよ。好きな人は許してくれる…だけれど自分が許せない…一緒に暮らせば、自分が許す前に赤ずきんちゃんを食べてしまう…」




…はい、その通りです。


…何も話していないのに、僕の心はここまで詠まれてるんですね。


…実際、昨日の吉岡さんの寝顔が…すでに危険な香りを匂わせてました。


…松永さんがいなければ、多分………


…吉岡さんは松永さんの話を聞いて、何か真剣に考えている。


僕はそんな吉岡さんの顔を見つめて、昨日の寝顔を思いだしていた…


不意に吉岡さんが、僕に疑問を投げかける。




「ねぇ仲野くん…そんなに私を食べたい?」

「…随分、直球なんだね。」

「こっちも恥ずかしいんだから、ちゃんと答えて!」

「………僕は吉岡さんを…食べたいです。」

「…そう…なんだ…」




目の前の女の子は、僕の言葉で顔を朱色に染めていく…


またふらついてるので、松永さんが支えて何とか座れている。


吉岡さんが倒れる前に、僕は本音を話そうと心に誓った…




「…僕は吉岡さんが好きだよ…だけど男だから、当然体も求めたい…普通の男なら、好きな女性を抱きしめるのが夢みたいなものだからね。」

「…それは…なんとなくわかるわ…」

「僕は理性で抑えるつもりだった。でも、もう無理なんだ…吉岡さんから好きって言われて、僕の中のオオカミは目覚めた…その上、キスまでされたんだから…もう我慢なんてできない。」




…本心を語った。


恥ずかし気もなく、吉岡さんを性の対象として見ていると話した。


…ごまかそうと思えば、ある程度は出来たかもしれない。


でも僕は、吉岡さんに嘘をつきたくなかった。


向かいのソファーで、僕を見つめる吉岡さん…


もう視線を反らす必要はない…これで嫌われても、今までみたいに…僕は吉岡さんをずっと好きでいるから…


真剣に付き合いたいから、きちんと話すべき問題を僕は話したんだ…あとは、吉岡さんの気持ちの問題だ…












………長い…沈黙…


…吉岡さんの顔は、赤くなったままだ。


…たまに松永さんが耳元で囁いてから、顔はより鮮やかに赤くなる…なにを言われたんだろう…


…しばらくして松永さんに、背中をトントンッ…と叩かれた吉岡さんは、僕に心を開いてくれる…




「…男の子が、そういうことをしたいのは…私も知ってるつもり…」

「………」

「…だから仲野くんが、どうしても我慢できないなら………」

「…簡単に、そんなことしちゃいけないよ…」

「簡単じゃない!…私は真剣に悩んで、その結果…仲野くんになら許せるって思えたの…」




…吉岡さんも真剣に話してくれた。


顔は赤いままだが、貧血を起こす様子はない。


…僕は吉岡さんの本音が、嬉しくて仕方なかった………だけどやっぱり、それとこれは別の話だ。




「…ダメなものはダメ。」

「なんで…なんで私じゃダメなの!?」

「吉岡さんがダメなわけじゃないんだ。僕が自分を許せるまで…待っててほしい。」

「………酷いわよ…仲野くんにそんな顔されたら、許すしかないじゃない…」




…僕の真剣な顔で、吉岡さんも諦めかけている。


吉岡さんを説得して、僕も少し安心していた。


………誰かが変なことを言わなければ…




「あのさ〜…沙織と一緒に、暮らさなきゃいいんでしょ?」

「そうです。松永さんも説得、ありがとうございました。」

「…私、思ったんだけど…」











……ここに住めば?……











「…はぁ?…」

「だから、ここに住めばいいじゃん。」

「…ここは、吉岡さんの部屋だよね?…」

「…沙織は一号室、仲野くんは二号室で解決ってことで。」




…ああ、なるほど。


それなら一緒には住んでない………って!




「ほとんど一つ屋根の下じゃないか!」

「マンションだからね。沙織もいいでしょ?」

「うん!」

「…無理だよ、ここじゃ近すぎて…僕のオオカミが眠ってくれない。」

「仲野くんがオオカミのままなのも、私的にアリだわ!」

「…そんな…吉岡さ〜ん…」




…松永さんにまじって、吉岡さんも攻撃してくる。


…吉岡さんだけならまだ楽だったのに、無敵戦艦が出てくると…フル装備で戦うしかない。


自分のスペックを確認しつつ、今…松永さん討伐に向かった。




「…こんな隣じゃ、いつ襲いたくなるか…」

「カギは別々だから。」

「それでも、襲おうと思えばいくらでも…」

「このマンション、意外にセキュリティーは完璧なの。」




…穴がない。


このまま暮らすことになれば、僕は吉岡さんを…


…あ、それはそれで…


いや、ダメだ! 本能に負ける理性なんて、必要ない!


…僕は違う角度から責めてみた。




「…こんなマンションに、一人で住むってわけにはいかないよ…」

「大丈夫! 全部、沙織のだから。」

「…好きな人に、甘えるわけにはいかないんだ。ちゃんと自分でローンを払って…」

「…それなら沙織に払えばいいじゃない。」

「こんなマンション、僕に買えるわけないだろ?」

「条件は、あのボロボロのアパートと一緒だからね。それなら文句ないでしょ?」




…打つ手はなかった。


何がなんでも、隣で暮らすように仕向けるつもりのようだ。


僕が諦めた顔をしたのかわからないが、吉岡さんの目が輝いてる。


…仕方ない、好きな人が喜ぶなら…毎日オオカミと戦ってやるか。




「…僕が赤ずきんちゃんを食べても、文句は言わない約束なら………承諾します。」

「はい、決定。」

「仲野くん…これからもよろしくね!」




…その笑顔のせいで…苦しんでるんだよなぁ…












…松永さんは、書類を取りに行くと言って部屋を後にする。


本格的な書類になるから、明日までかかると話していた。


…もちろん、マンション購入のための書類だ。


吉岡さんは…『冗談だから、気にしないでね』…って言ってたけど…


ちゃんと責任を持ちたいから、松永さんにお願いした。


…かといって月々三万円じゃ、払い終わるのに…何年かかることやら…


…あはは…還暦を迎えてそうだなぁ…


僕は心の中で、泣きながら笑った。




「…仲野くん…」

「あれ? 部屋に戻ったんじゃないんだね。」

「…ごめんね…仲野くんは、私を大事にしたいから断ってたのに…」




…吉岡さんが、リビングの入り口で静かに立っていた。


松永さんと一緒に部屋を出たと思っていた僕は…吉岡さんが謝ってくれたことに、ちょっと驚いてしまった。


さっきの態度と明らかに…反応が違っていたからである…


きっと…一緒に住みたいってわがままを言う吉岡さんも…ここで謝ってる吉岡さんも…どちらも、本音なんだろう…


…はっきり言ってどっちの吉岡さんも…愛おしくてたまらない。


立ち上がり、吉岡さんの側まで歩いた僕は…彼女を抱きしめる。




「…戸締まりはちゃんとしてよ…赤ずきん。」

「ふふ…わざとドアの鍵…外しとくから。」

「それって…酷くない?」

「…頑張って自制心と闘うのよ? オオカミさん!」




…いじわるな赤ずきんの口を、僕の唇で塞いだ…


驚いた顔がまた…美しい赤に染まっていく…


…二秒ほどで目を閉じる吉岡さんを確認すると…僕も目を閉じた…












…いつの間にかソファーで座っている僕たち。


隣には、憧れ続けた吉岡さんが…僕の肩に、頭を預けていた。


…肩に手を回したかったけど、恥ずかしくて…手を握るだけにする。


…けど吉岡さんは、指を絡めてカップル握りにしてくれた。


………呼吸の一つ一つが、幸せに感じる…


生きてるだけで幸せ…僕はまさにそれだった。


でも、時は過ぎ去るもの…


携帯のアラームがなって、バイトの時間だと気付いた。


行く準備をしようとして、立ち上がろうとする…


………?…




「吉岡さん?…そろそろバイトだから、離してくれないかな…」

「…イヤ!」

「…そんなわがままで、バイトは休めないよ…」




…吉岡さんは、手を離そうとしない…


…彼女の行動はカワイイけど、僕としてはバイトに遅刻したくないし…


吉岡さんの手を握り返して、僕は説明した。




「いい?…明日はバイトも休みだから、ずーっと一緒にいられるんだよ?…」

「今日から一緒にいるの! 明日まで待てない!」

「…僕が行かないと、真理絵さんに迷惑がかかるから…ね?…」

「…私より、バイトとEカップが大事なんだ…私は二の次なのね…」




吉岡さんは手を離すと、僕から顔を反らしている。


…Eカップって…真理絵さんのことかな?


くだらない疑問もあったけど、僕は吉岡さんの頬にキスをして…バイト先に向かった。


…心の中で…ごめんね…と呟きながら…












…バイトが終わるとすぐにマンションに帰る。


………吉岡さん…


オートロックも、何とか開けれて…ホッとした…


…吉岡さん…吉岡さん…


僕は部屋のカギを開けて、すぐに叫んだ。




「ただいま、吉岡さん!」




…けど、部屋には誰もいない。


一人がこんなに淋しいのは…久しぶりだ。


少しだけ…ほんの少し、吉岡さんが待ってることに期待していた僕がいる…


隣の部屋の呼び鈴を押せば、すぐに会えるけど…この時間だから、迷惑になるだろう…


それでも明日【正確には今日だけど】…吉岡さんと一日中、一緒にいられるんだ…


…それを考えれば、今のこの気持ちは…淋しくて、嬉しい…複雑な心境というやつだ。


僕はベットには行かず、そのままソファーの上で横になった…


…吉岡さんと…ここに座ってたんだ…


僕は変態っぽく、ニヤケながら…視界が暗くなるのを感じている…












「………て!…の…」




………何だ?…




「起きて! 仲野くん!」

「…?…吉…岡…さん?」

「そうよ、ほら! もう起きる時間よ!」




…いくらなんでも…早くないかなぁ?…


日曜日なのに、朝9時に起こされた僕は…疲れが抜けてないことに気付く…


仕方なくソファーに座り直すと…正面には、松永さんが座っていた。


…けれどめずらしく、隣に座った吉岡さんが話を切り出す。




「…はい、サインして!」

「………へ?…」

「この書類に、サインと印鑑…それでOK!」

「…え…ああ、はい…」




…名前と…生年月日…


…あれ?…俺、今なにしてるんだろ?…


いきなりサインさせられて、少し不安だった。


けど…吉岡さんがマルチ商法をしてるはずはないから、言う通りに書いていく。


最後の仕上げをしようと、印鑑を探してると…




「…仲野くん、その書類には…」

「玲奈!!!」

「松永さん?…な、何があるんですか?」

「…書類はちゃんと確認して、契約してね。」

「黙っとく約束でしょ! 静かにしといて!」

「………はい…」




…そのあとの吉岡さんの笑顔が、僕には怖かった…


…ちゃんと書類に目を通す…確認すると、何やらマンションの権利に関係してると書いてある。


…良かった…高い宝石とかじゃなくて…


しっかり確認して、僕は書類に………捺印した。




「…はい、確認しました。」

「ありがとね…猛…」

「ブッ!」




僕は思わず吹き出した。


…牛乳を飲んでいたら、鼻から出る勢いだろう…


吉岡さんは僕を下の名前で呼びながら、腕を組んできたからだ…


…こ、これは一体…


松永さんは冷静に、書類を確認している。


………あ!




「ちょっと待って!…裏に何が書いてあるの!?」

「…はぁ〜…だから確認してって言ったじゃない…」




松永さんは、書類の裏を見せてくれた…











…これ…無効になんないかな…



はい、作者です。沙織はどんどんキャラが変わりますね…作者もアタフタしています。でも、自分が好きだから仕方ありません。では、また次回…

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