第十話・理由は…貧血。
…仕事が始まりました…今までより、更新が遅れそうです…
…なんで…なんでそんな目で見るの?…こっちは恥ずかしいのに…
私は仲野くんの笑顔に、心臓ごと鷲掴みにされてる状態だった。
…まさに、仲野くんが命を握ってる…生きるも死ぬも、仲野くんの気持ち次第になっている。
…好きな人が、今まで泣いていた私の顔を見て…嫌いになったら…
この場で【嫌い】…なんて言われたら、私はもう…生きていけない…
そんな感情が、私の中で大きくなっていく…そのせいで私は、つい顔を反らしていた。
………静寂…沈黙…一つ間違えば、気まずい空気とでも言える雰囲気…
それを崩したのは、聞き飽きた声と…深いため息だった。
「…アンタたち、少しはアクションを起こしなさいよね。」
「………」
「…両想いだったのよ?…抱きしめるとか、キスするとか…ね!?」
「………」
「…はぁ〜…」
玲奈は呆れながら、私と仲野くんを交互に見る。
…完全に冷やかし発言なのはわかってたけど、私としても…その…少しは…そういう…関係に…
「吉岡さん…隣に行っても…いいかな?」
「!…え!?…あ、う、も…」
「どうぞ、どうぞ!」
「ちょ、ちょっと玲奈!…助けなさいよ…」
私の言葉を無視して、席を立つ玲奈。
入れ替わりに、向かいのソファーから…私の右隣に座る仲野くん…
…あ…あ、ダメ…また私…倒れちゃう…
自分の血が、頭に上るのを体で感じていた…私の体は、もうふらふらしている。
朦朧としてる中で、肩を掴まれたのを感じる…私は横に顔を向けた。
…目の前には…
…大丈夫? 吉岡さん…
いつもは興奮して倒れるのに、意識がはっきりしすぎて冷静になる。
仲野くんの顔が、たった30cm先に…っていう間も、ちょっとずつ近づいてくる…
「だ、大丈夫!? 少しふらついてたけど…」
「…私は平気…大丈夫だから…」
「あ、あのさ…なんで、僕に近づいてきてるの?」
…どうやら、私の方から近づいているらしい…
私は冷静なつもりなのに、体が勝手に動いている。
そして…私の意思に反して、声が出た…
「…ごめんね…」
「よ、吉岡さん?…か、顔が近いよ…」
「…ごめんね仲野くん…私、もう我慢出来ないの…」
「…え?」
…仲野くんの口元に顔を近づけて…唇を重ね合わせた…
…一瞬…たった一瞬…
…のつもりだったのに、玲奈の一言で目が覚める。
「…はい、30秒経過!」
「!!!!!…あ…仲野くん…」
「…よ…吉岡…さん…」
我に還った私は、玲奈がニヤニヤしながら時間を計っていたことに気付いた。
…そして仲野くんは、顔を赤くしながら驚いている。
………今、状況がわかった。
私は力無く…ソファーに倒れ込む…
………ん、んん〜…
目が覚めたら、ソファーで寝ていた。
…外が明るいわね…もう朝なのかしら?
誰もいない部屋の中で、私は今の時間が知りたかったけど…時計が無いので諦めた。
それにしても…いろいろありすぎて、昨日は果てしなく長い一日だった気がする。
…仲野くんと一緒に住むことになって…
…仲野くんに好きだって話して…
…仲野くんとキ………キ、キ、キ、キ、キ…
キャーーー!!!!!
…バ、バカバカバカバカバカバカ! 私のバカ!
…あんな…あんなことをしちゃったら、仲野くんに顔を見せらんない…
私はソファーに顔を伏せ、昨日の自分を罵った。
そしてしばらくの沈黙の後、また…仲野くんの顔を思い描いた。
…いきなり…キスなんてしたら、絶対引いてるよね…
…普通はデートをして、手を繋いだりしてから…キスするのに…
…でも、一緒に暮らし始めたら…そういうこともしちゃうのかなぁ…
…御飯を食べるときに、ア〜ンってして…
…朝はいってきますの…キスしたり…
一緒に暮らす…その言葉のせいで、私の脳は仲野くんとの甘い生活を想像していた。
…間違って、お風呂を覗かれちゃうのかなぁ…
…そして夜になったら…一緒に寝てる、仲野くんが………
卑猥な妄想のため、読者の想像にお任せします…
玄関を開ける玲奈…
部屋に入ると、ソファーで何か動いていた。
…見ると、私が喋りながら暴れている。
さすがの玲奈も、意味がわからなかったらしい…
「…仲野くん…優しすぎるよ…」
「?」
「…私なら…平気だから…ね?…」
「???」
「…あ、そんな…もっと…優しくイジメて…」
「沙織?…大丈夫?」
「!!!!!」
…れ、玲奈!?…ナゼ、ココニ!?
私は頭の中を覗かれた気がして、パニックになりかけている。
一方の玲奈は、何もわからないから…
「…あのさ、仲野くんがナンたらカンたらって何なの?」
「え!?………ナ、ナンノコトカシラ?」
「ふーん…単なる寝言だったのね。」
「…ワ、ワタシガ寝言ヲ言ッテタノ?」
「あ、いいの。気にしないで。」
…よ、よかった〜…
そこまで気にしなかった玲奈は、その話を流してくれた。
ホッと一息…つく暇はなくて、玲奈は私に話を始めた。
「…で、仲野くんがね…」
「な、仲野くんがどうかしたの?」
「沙織に話があるから、部屋にきてくれってさ。」
「部屋? どこの?」
「この階に、もう一部屋あったでしょ? 昨日は仲野くん、あっちで寝たの。」
…あ!…だからこっちの部屋に、誰もいなかったんだ…
…でもなんでわざわざ、隣の部屋で寝たのかしら?…
これからずっと二人なのに、今さら部屋を別々にする意味が私にはわからなかった。
直接聞こうと思い、私は仲野くんのいる部屋に向かおうとする…
「…顔も洗わずに、会いに行くの?」
「!…うぅ…そうだったわ…」
「しっかりしなさいよ?…二人暮しには、危険がいっぱいあるんだから…」
私の肩を叩くと、洗面所まで背中を押す玲奈。
…そうよねぇ〜…少なくても、仲野くんより早く起きなきゃなぁ…
…寝顔や寝ぐせも見られたくない…トイレに入るところなんて問題外だし…
顔を洗いながら、好きな人と一緒にいる辛さを考え…私は理想と現実の間に揺れていた。
…最上階、右の部屋。
鍵は開いていたらしくて、玲奈は普通に入っていく。
私も玲奈のうしろを追いかけて、仲野くんの待つ部屋に入る。
…すると向かいの部屋と同じようなソファーに、仲野くんが座っていた。
昨日のこともあり、最初の言葉に詰まる私と違い…仲野くんは淡々と挨拶する。
「おはよう、吉岡さん。やっと起きたんだね。」
「…仲野くん、昨日は…ごめんね…」
「昨日?」
「…勝手に…キスしたりして…」
私は深々と、頭を下げた…仲直りしてほしかったからだ。
それを仲野くんは、笑顔で聞いてくれて…ちゃんと答える。
「ビックリはしたけど、怒ってないよ。」
「…本当?」
「当たり前だよ。だって、吉岡さんからキスしてくれるなんて………嬉しかった。」
「…仲野くん…」
仲野くんの笑顔が、恥ずかしそうに赤くなる。
それでも目を反らさずに、真っ直ぐ私を見てくれていた。
…見つめ合って、雰囲気は完全に二人のものに…
…なるわけがなかった。
「…また、キスするの?」
「い!?」
「あ、松永さん…いたんだね。」
「一応、沙織より先にいたんだけどね。」
私は慌てたために変な声が出てしまう…仲野くんは落ち着いてたけど。
…玲奈は腕を組みながら、足のリズムでイライラを表現している。
…仲野くんと向かい合うようにソファーに座り、私は本題に入るのを待つことにした。
私が座ると、玲奈も隣にサッ…と座る。
仲野くんは私たちを確認するように見つめて、口を開いた。
「本題から言うね。僕は…新しい部屋を探そうと思うんだ。」
「新しい部屋?」
「…つまり…」
…吉岡さんとは、一緒に住みたくないんだ…
……………え?…
はい、作者です。沙織は妄想僻がありそうですね…理由は、もう少し先にわかります。次回もベタに進むので、甘いのが嫌いな人には辛いかも…