002 歪んだ日常
この話でメインキャラは全部登場かな?そしてお待たせ!バトルパートです!
朝。学校へ行く準備をする。教科書なんかは全部学校に置いてあるから準備することはほとんどないが。
8時。そろそろ出ないと遅刻するんだが・・・天使が起きてこない。天使は朝が苦手なのか?どうでもいい弱点を発見してしまったな。
仕方ないので朝食のパンと牛乳、あと昼食に昨日買ってきて食わなかったコンビニ弁当を置いて家を出る。ついでに天使の寝顔でも写メっておこうかと思ったが部屋には鍵がかかっていた。あいつ、冷蔵庫とかテレビなんかは知らないくせに鍵はかけられるのかよ。
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俺達が通う学校の名前は福来高校。みんなは略してフクコーと呼んでる。超能力研究の第一人者だった科学者が設立した学校で、日本で唯一の超能力者を育成することを目的とした学校だ。能力は個人で違うためこの学校では個々の能力に応じた専門科目や施設が用意されていたりする。ここほどの設備を誇る学校、いや施設は他にはないだろう。そのため、ここには日本だけじゃなく世界中の超能力者が集まってくる。だが、超名門校なのに偏差値は低い。そのおかげで俺でも入学する事が出来たんだから良しとするか。
放課後。
学校での時間を寝て過ごした俺。どうやら気づかないうちに授業はすべて終わっていたようだ。
それでも眠気が取れない。今日は下校時間まで寝ていようと思い、机に伏せると、
「・・・・・・きろ、起きろ!多久島勇歩!」
「いっでぇ!?」
頭頂部に鈍い痛み。殴られたようだ。
「多久島勇歩、お前は今日日直だぞ。速やかに日誌を記入して提出するように」
「んあ?そういえば忘れてたな・・・どうでもいいや」
教えてくれたのはありがたいが、眠いので今はそんな面倒な事をしたくない。でもお礼は言っておかなきゃな。
寝ぼけたまま顔を上げそう言ってきた相手を確認する。そこにいたのは我らがクラス委員長様だった。
一気に目が覚めた。
「おぅ、いいんちょ様でしたか・・・」
「・・・多久島勇歩、貴様今なんと言った?日直の重要な仕事を、どうでもいいだと?」
「どうでもよくなんかないです今すぐやります叱らないでください許してください!」
すさまじい剣幕に全力で謝る俺。委員長様は怒らせると怖いことで有名である。
委員長様はため息とつきつつも見逃してくれた。
「はぁ、分かればいいんだ・・・ほら、私も手伝ってやるから早く書け」
「助かる。俺何書けばいいかわかんねぇし」
「ははっ、ずっと寝ていたものな」
「知ってたんなら起こしてくれりゃよかったのに」
「あんまり気持ちよさそうに寝てたのでな。先生も起こす必要はないとおっしゃったしな」
「そう言ったのは間違いなく俺が起きていたところで勉強しないからだな・・・」
などと雑談を交わし・・・日誌を書きあげ職員室に提出。時間も遅くなってしまったためそのまま委員長と共に下校した。
2年2組のクラス委員長、御巫飛香。真面目で潔癖、そしてお堅い最近では少なくなった根っからの生真面目キャラだ。本人もそれを認めているらしく、クラス委員長にも進んで立候補した。今ではうちのクラスのまとめ役だ。二年生になってからは剣道部の主将も務め、生徒会にも所属している。
日本人らしいつややかな黒髪は後ろで結んだ短いポニーテール。瞳も切れ長で吸い込まれそうな黒。フクコ―の凝った制服をきっちりと着こなしている。・・・あと、学年一の巨乳の持ち主。その魅力に平伏した男達によって入学初日からファンクラブが出来るほどだ。おっぱいは正義!
雑談しながら交差点まで来た。御巫の家は方向が違うためここで別れる。
「では、私はこちらの道だから」
「ああ、じゃあな、御巫」
「あまり寄り道しないようにな」
「分かってるよ」
家には腹を空かせているであろう天使ちゃんがいるしな。猫かよ。
御巫は曲がり角へ姿を消した。俺もはやく帰ろう。
家まであと徒歩10分ほど。大通りを横切らなきゃいけないため交差点で信号を待つ。
青信号になり、通りを渡ろうとした、その瞬間だった。
グオオオォォォォォォォォォーーーーーーーー!!!!!!!!
「・・・・・・ウソだろ」
突然目の前に開いた大穴から巨大な亀が姿を現した。
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巨大な亀。言わずとも分かるだろう。こいつのような生物こそが江戸時代から人類を脅かす魔物だ。
中でもこいつは異常発達した凶暴種。能力者で構成された軍隊が出動していいレベルだ。ちなみに以前魔物は世界中に存在していると言ったが、実際は世界中に『現れる』だ、このような大穴を通って。
この巨亀は過去に一度出現していて魔物についての教科書にも載っている。体長は当時で50m、高さは10m以上もあったそうだ。比較的温厚な性格らしいが、ひとたび動けばその大きさで周囲のすべてが破壊される、危険な種類だ。
それが、俺の目の前に現れた。
(なんだってんだよ・・・!)
遅れてエマージェンシーが発令される。近くにいた人々は一瞬目を見開き・・・我先にと逃げ出した。
俺も人ごみに紛れながら逃げる。後ろを振り向くと、巨亀が動きアスファルトにひびが入ったのが見えた。その足元には、赤い水たまり・・・人の血だ。逃げ遅れて踏みつぶされたんだろう。こんなことが魔物が出現するたびに起こる。嘘みたいな光景だが現実だ、俺達にとっては。
(天使を連れて早く非難しよう)
そう思って人ごみを抜け出し路地を走っていると、途中で天使を見つけた。なんでこんなところにいるかは知らないが、迎えに行く手間が省けた。
「良かった天使、早くここから非難を
「何故こんなところにいるのですか」
「?そんなもん逃げてきたに
「あなたは勇者なのです。あのような異形を駆逐するのがあなたの使命なのです」
「使命って、あんなもん相手にできるわけ
「昨日の賭けを忘れたのですか?」
「・・・悪いがあんな口約束、守るつもりなんて最初からない」
俺の言葉を遮り淡々と話す天使に腹が立った。今の一言は我ながら最低だな。
天使はうつむく。前髪に隠れさらにその表情は見えない。もともと天使に表情なんてほとんどないが。
「・・・見損なったのです」
「なんとでも言え。それに、そのうち討伐隊が来る。俺なんかが戦わなくてもそいつらがあの亀を倒してくれるさ」
「討伐隊は来ないのです」
「なに?」
「先ほどてれびに速報があったです。この近くにこちらより先にもう一体魔物が出現したと。付近の討伐隊は全てそちらに出動し現在戦闘中らしいのです。なのでこちらに手が回ってくることはないのです」
「なんだよ、それ・・・」
偶然にしては出来過ぎてる。神様とやらは俺に、このまま町が壊され人が踏みつぶされていく光景を眺めてるか、目を背けて逃げ出すかしろっていってるのか。
それとも・・・戦えといってるのか。
歯ぎしりする。俺にはどちらも選べない。戦えば死ぬのは目に見えているし、かといってこの光景をただ見てるだけってのもできない。俺は、どうすれば・・・!
「ユーホが行かないのなら、私が行くのです」
「!お、おい天使、なにを!」
天使は魔物の方へと歩き出す。制止しようと伸ばした俺の手をかいくぐり走っていってしまった。
天使が巨亀の前に立つ。巨亀はしばらく動いていないが数歩前進されれば踏みつぶされてしまう距離だ。危険すぎる。
俺が連れ戻すチャンスをうかがっていると、
ポゥ・・・!
天使の右手が光りだした。光は棒状に伸び収束する。光がはじけると、天使の手には2mはあろうかという長い槍が握られていた。・・・思い出した。あれは確か前世の天使も使っていた武器だ。確か名は、封槍ロンギヌス。光に変換して所持する事ができる人間の範疇を超えた武器で、突き刺した魔物を弱体化させる力を持っている。だがそれは、勇者であった前世の俺が扱った場合のみだ。
「やめろ天使!お前じゃそれは使えない!」
俺の言葉を聞かず天使は巨亀の足元へと走り、前足へロンギヌスを突き刺した。
ギャオォォォォォォォーーーーー!!!
効いてるのか?
巨亀は大きく吠えたと思うと停止した。
だが一瞬だ。
巨亀は前足に刺さった槍を抜こうと暴れだす。
槍は抜けなかったが、天使はあっという間に振りほどかれ空へと投げ出された。
けど天使は上空から猛スピードで落ちてきたほどだ。このまま落ちても大丈夫のはず。・・・そう考えていたが、再び前世の出来事を思い出した。確か天使が無事だったのは落ちてきた1回だけ。それ以降、戦闘などでは普通の人間と同じようにダメージを受けていた。
つまり、このまま落ちれば・・・間違いなく天使は死ぬ。
天使が、死ぬ?
確かに俺は天使にはいなくなってほしいと思ってる。けどそれが死なんて形じゃだめだろ・・・!
決して戦うためじゃない。天使を助けるため、俺は力を使うことを決断した。
俺の『段階覚醒』は記憶と共に前世から受け継いだ、勇者の能力だ。
その性質は『勇者として行動するたびに能力が向上する』こと。勇者としての行動、つまりかっこいい言動を行えば身体能力が向上する。レベルを上げ続けることによって無敵の戦士になることも可能だ。・・・無茶苦茶で、ただの人間に扱える能力じゃないということは分かってるさ。
俺がこの力に気付いたのは7歳のころ。幼かった俺はレベルを上げるために幼いなりにかっこいい行動を繰り返した。だが、かっこつけるたびに強くなる俺をひがんだ同級生たちによって俺は小学生の間ずっといじめられ、それがトラウマとなり7歳の時以来10年間この能力を使ったことはない。レベルアップを防ぐためかっこつけられなかった俺の中学時代はヘタレとして扱われ最悪だった。当時は幼かった俺を恨んだこともあったが、今回はそのおかげで天使を助けられるだけの力を手にしている。何の因果だろうな。
能力を発動した瞬間、俺の全身に力が漲ってきた。さらに、この能力は応用が利く。力の流れを操ることもできるんだ。全身に行き渡った力を今度は足へと集中させると、俺の脚力は常人の数倍にまで強化された。
天使が落下してくるまであと5秒・・・今の俺なら、余裕で助けられる。
コンマ数秒の助走のあと、一気に跳躍する。あっという間に10m近くも飛び上がった。上空で天使をすくうように受け止めたあと、巨亀の甲羅を蹴り、元の場所の近くに着地する。
天使は少し驚いたような顔を・・・してはいないが、いつもより少しだけ目を見開いている。
「・・・あー、その、大丈夫か?天使」
そう聞いた俺に天使は、
「どうして、それだけの力がありながら闘争を拒んだのですか」
平淡だが明らかに怒気の混じった声で答えた。ここまで感情を表に出した天使は前世でもほとんど見たことがないな。さっきまであれほど力を使うことを拒んだ俺が突然能力を発動したことに対して怒ってるんだろう。
天使から顔を背ける。
「この力は使いたくないんだよ。さっき助けたのもたまたまだからな」
「まだそんなことを言い張るのですか」
「なんと言われようと言い張ってやる」
いつまでもお姫様抱っこしているわけにもいかないため天使を下ろす。
天使の足が着いたのを確認し顔を上げると・・・巨亀と目が合った。
明らかに睨まれていた。
天使の槍のせいか俺が甲羅を蹴ったせいか、どちらかはわからないが巨亀は間違いなく俺達をターゲットにしていた。
「・・・おい天使!俺達が狙われてんじゃねぇか!」
「・・・ユーホのせいなのです」
「今確信したお前のせいだ!」
「うるさいのです。来るですよ」
「は?」
急にあたりが暗くなる。上を見上げると巨亀の足が目前に迫っていた。
「うわおぉぉおぉぉ!!?」
天使をわきに抱え全力で横に跳ぶ。間一髪避ける事が出来たがその風圧で吹き飛ばされた。
かなり吹き飛ばされたが何とか着地。巨亀を再び見ると、亀とは思えない速度で走ってきていた。
周囲の家を吹き飛ばしながら。
(これ、俺が逃げれば逃げるほど町が壊され・・・!)
俺が逃げることで状況は悪化する。逃げてしまえばこの町が壊滅してしまうのも時間の問題だ。こんな状況で逃げるほど俺もバカじゃない。やるしか、ないのか・・・。
(まったく、いつから俺はこんなに正義感の強い人間になったよ・・・)
思えば、天使が現れた時点でいつかはこうなる運命だったのかもしれない。
さらに跳躍し巨亀から距離を取る。そこで天使を下ろしまだ壊れていない建物の陰に隠す。
「天使・・・隠れてろよ」
「ユーホ?」
「やればいいんだろやれば!討伐隊が来るまでの時間稼ぎだけだからな!!」
やけくそ気味に叫ぶ。そんな俺に、天使は険しかった顔を少しだけ緩ませた。
「やっとやる気になったですね」
「なっちゃいねーよ。ただ、俺のせいで町が壊れることが気に食わないだけだ!」
「何か言い訳がないと戦えないのですか」
「悪かったな!」
天使との会話を終わらせ、巨亀に向き直る。すでに俺達と巨亀の距離は20mもない。そろそろ臨戦態勢に移らないとまずそうだ。
巨亀の方を向いたまま天使に最後の一言。
「死んだらお前のせいだからな」
「ユーホは死なないのです」
「・・・そうかよ」
さて・・・行くか。
拳を構える。俺には戦闘の経験などないため構えは完全に我流だ。だが俺の能力ならそれでも問題なく戦える。さらに、先ほど天使を助けた行動が影響したのか、俺のレベルはさらに上がっている。俺の体感ならすでに20程度はあるはず。過去の経験から分かる。このレベルなら俺の身体能力は肉体強化能力者並み・・・時間稼ぎのためなら十分だ。
巨亀が迫ってくる。踏みつけようと上げられた前足を避け横に跳ぶ。足を叩きつけた衝撃で発生した突風に耐え、利用し跳躍。甲羅を蹴りさらに跳躍。巨亀のはるか頭上にまで跳躍した。巨亀はまだ気づいていない。
わずかな滞空時間の間に力を右手に集中する。さらに落下により加速し威力を増した拳を、巨亀の脳天に叩きつけた。拳の重さとしては数百キロはあったはずだが・・・砕けたのは俺の拳の方だった。
「かっっっっっってえぇぇえぇぇ!!?」
甲羅以外はそう硬くはないだろうと考え頭部を攻撃したが、頭部もかなり硬かった。この硬度は素手じゃ無理だ。何か対策がないと砕けない。
威力が殺され頭部に着地。そのままどうするか対策を考えようとしたが、巨亀が思いっきり頭を振った。
「しまっ・・・!」
頭から振り落とされる。その速度が速すぎて体勢を整える事が出来ず、ビルの壁へ叩きつけられた。
地面へ落下する。吐血し、相当なダメージのせいで立ち上がることもできない。骨も何本か折れているようだ。巨亀がゆっくりと近づいてくるが、逃げることもできない。
(ここまでなのか・・・!くそっ、俺は時間稼ぎすら出来ないのかよ・・・!)
巨亀が目の前にそびえ立つ。死を覚悟したその時。
ピィィィィィーーーン・・・
巨亀に縦一筋の光の線が走った。その線から真っ二つに割れていく。
完全に二つに切り裂かれ、巨亀は左右に広がるように倒れた。
「大丈夫だったか、多久島」
巨亀の死体の向こうに立っていたのは剣を携えた御巫だった。
「み、かなぎ・・・」
それを最後に俺の視界は真っ暗になった。