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Magic civil war tale  作者: 雨音ナギ
Episode1 「初めての委託警備業務」
8/38

05:異変

「エルベス社長、お誕生日おめでとうございます」


 クラウスはそう言ってエルベスが持っているグラスにシャンパンを注ぐ。

 近くには彼の他に娘のフェミリアや彼の妻のミレーヌが他の親族と共に談笑をしているが、アルシアを除いた二人が身辺警護に励んでいた。

 何故、二人なのか。

 それは対象者を保護するのに対し一人では力不足であるからだ。

 もし、突発的な事態が起こった場合、一人で警護を行なっていた場合では犯人追跡と対象者の保護の二つを同時に行うことが不可能だ。

 そして、自らの関連会社からも連れてきたというエルベスの他の警備員が会場外を隈なく見ているのである程度の安全も保証されている。

 更に巡回担当としてアルシアが見回りを行なっている為、何か異変があれば彼女が無線機で何かを伝えてくれるはずだ。


「いや、私も無事に六十五歳を迎えることが出来て良かったよ。今日はよろしく頼むよ」


「勿論。エルベス社長の命は私達がお守りさせて頂きます」


 二人は笑いながらも周りに不審な行動を取っている人物が居ないかどうか鋭くチェックをしていく。

 無線連絡も、確認が終わった業務連絡ばかりで特に変化は無いようだ。


(一体、犯人は何の目的であの手紙を……?)


 パーティの時刻も半分が過ぎ、そろそろ当事者が行動を起こしてもおかしくはなかったが、いつも通りの賑わいだけが会場を包んでいるだけだ。


(何事も無いのが一番いいのだけれどな)


 このまま無事にパーティが終了する事を二人は望みつつも、華やかさな雰囲気になっているパーティ会場へ厳しい視線を送り続けていた――。


◇◆◇


(別に不審者は居ないようだけれども……)


 一般招待客と顕色ないお洒落なスーツを着た彼女が私服警備員だと気が付いているのは会場と外を周っている同業者と依頼主のクラウスを含めた一部の親族のみ。

 持っていた黒の無線機は上着の内側に隠してある為、余程のことがない限り、周りに不審がられる事はないだろう。

 それにこれには魔法工学の応用技術が使われ、範囲を限定的にしたりする事もでき、万が一にも第三者から盗聴されることも無い。


(あの手紙は本当にいたずらだったのかしら?)


 彼女は何事も起こらない会場に不気味さを感じていた。

 不審者が目撃されたり、変な手紙が送られているのにも関わらず、何も起きないというのは少々気味が悪い。


(まあ……、平和なのが一番だけどね)


 小さく溜息を付いて、左の隅の方からステンドグラスが輝く右窓の方へと移動しようとした時だった。

 ほんの僅かに感じた違和感にアルシアは思わず足を止める。


(――何?今の……)


 参加者はグラスに口を付けていたり、ビュッフェ形式に並んである料理を小皿に取って食べている様子しか目に映らない。


(もう少し目を張り巡らせた方が良さそうね)


 些細な違和感も絶対に見逃すな。

 一ヶ月前、彼女が学校卒業後から始まった実務経験研修で、クラウスが言っていた言葉だ。

 彼女はその言葉を頭の中で反芻しながら、違和感を感じさせた諸悪の根源の人物を探し始めたのだった――。


◇◆◇


「さて……。此処で皆さんお待ちかねのビックイベント……ビンゴ大会を開催します!」


 三人が辺りに警戒を向けている頃。

 パーティは終盤になり、会場の参加者達はアルコールによるほろ酔い気分を醸し出している所で、今日の誕生日会の最後のメインイベントとなるビンゴ大会を司会者が大ステージにて告げると彼らの中から拍手が生まれた。

 司会者の男性の横にいたアシスタントの女性達は舞台袖から巨大なビンゴマシーンと台の上に乗っている専用のビンゴ用紙を取り出して、招待客一人ひとりに手際よく手渡していく。


「まずは皆さん……用紙の方へご注目下さい」


 司会者はマイクスタンドを前に持っていたビンゴ用紙の真ん中を指し示す。


「知っている方も多いと思いますが――ビンゴゲームはステージに置かれている巨大なマシーンにより抽選が行われます。そして、厳選なる抽選から引かれた球の番号が、皆様がお手持ちの紙の中にあれば一つずつ勝手に開いていきます」


 勿論、引いてもないのに無理やり開けるのは不正ですからダメですよ、と司会者は付け加える。

 このビンゴ用紙は特殊製で意図しない番号が開けられると、とんでもない仕掛けが施されているが彼はそのまま話を続ける。


「それで、開けていく番号が真ん中の赤い部分を含めた縦・横・斜めで一列に揃った場合がビンゴとなります。その際、ビンゴ用紙は綺麗な蝶へ変化して、当選者の事がわかるようになっています」


 ステージ設置してある大きなモニターに彼は持っているリモコンの切り替えを行う。

 確かに彼の言う通り、ビンゴになった紙は綺麗な蝶へと変化し、七色の光を纏って当選者の頭上へ行くと小さな細かな粒となって消えていった。


「そして……不正を行った方はこの様な措置を取らせて頂きますのでご了承を」


 彼は画面を切り替えると、そこには意図しない番号が開けられたビンゴ用紙があり、一瞬の内に紙は小さな破裂を起こし、対象者の服は小麦粉のような物が降りかかり、真っ白になってしまった。

 モニターの様子に観客は苦笑いを隠せずには居られない。

 それもそのはず、自らが身に着けている高価なドレスやタキシードをあのような物にして愉快な訳が無いからだ。


「今回のビンゴの当選者数は十名。パーティ終了時の九時までに最大人数に達しなければそこでゲームは終了とさせて頂きます……。そして――今回の商品はこちら!」


 渋い青のスーツを着こなした一人の美女がもう一つの台をステージ上まで運ぶ。

 台の上には紫の布が掛けられており、彼女はそれを丁寧に剥がしていくと、そこには幾つものの景品が立ち並んでおり、客はその豪華さに思わず目を奪われる。

 左から順番に、一番、二番、三番、四番、五番……と数字が付けられ、それぞれの番号には違った物が置かれており、異国へのペア旅行券、大きなくまのぬいぐるみ、料理調理器セットなど様々な物が目白押しだ。


「ビンゴが当たった人は私が持っている金色の箱から一枚の紙を引いてもらいます。その番号の中からこちらの商品が選ばれる事となりますので、ご了承下さい」


 では、ビンゴゲームを始めます、と言う合図と共に明るかった室内の照明は落とされ、ステージ上のみにスポットライトが当てられる事となった。

 司会者はスタンドに差してあるマイクを抜き、巨大なビンゴマシーンの横に付いている取っ手口を回し始めた。

 盛大に音がなる中で一つの白い球が出た最初の番号は――十五だ。


「十五番、十五番です!さて、次へ行きますよ――」


◇◆◇


(マズイわね)


 アルシアはこの状態に焦りを感じていた。

 薄暗闇とは言え、視界が悪いこの状態ではある程度の事をひっそりと実行されても見つけづらくなってしまう。

 微弱な光を発する魔法であれば布でも何でも対象物を隠してしまえば、辺りでビンゴ用紙で小さく光っている原因で分からないからだ。

 それでも彼女は精神を研ぎ澄まして、下手な魔力反応を起こそうとしている人物を探し始める。


 彼女が周囲の警戒業務を任されたのはこの様な微弱な魔力探知が他の二人よりも優れていたからだ。

 いくらクラウス達がアルシアよりも実戦に優秀と言えども、気配の中に紛れて流れている微弱な魔力と日常生活で発せられている小さな魔力の違いまでは感じ分ける事は出来ない。

 それは、己の中に流れている魔力が他の人々から出ている放出魔力とぶつかり合い、同じ力になるように中和させられ、あやふやにさせてしまっているからだが、アルシアの場合は違う。

 彼女の魔力は質も量も群を抜いており、例え違う人と魔力がぶつかり合っても、彼女の力の方が大きいため、僅かな違いも把握できる。

 この様な事から、彼女は魔力の流れを敏感に感じ取れるのだろう、というのが二人の見解だった。

 もっとも最初に会った時の彼女はそんな事に気づくこともなく、ただ単に目の前に置いてあるモノとして感じていただけなのだが――。

 まだ浅い経験ながらも、クラウス達はその能力を買ってくれた。だから、その為にも全力で探さなければならない。


(ビンゴに使われている魔力なんて微々たるもの。なら、それ以上の魔力反応を探せばいい――)


 あそこも違う、此処も外れ……。

 彼女の中に流れる魔力と外部の魔力の差を合わせて、冷静に分析を行なっていく。

 人々が発しているその中で僅かに揺らめいた動きをしている物があった。

 流れている魔力は人々が無意識に流れ出している物とそう大して変わらない。

 アルシアは己の感覚に不安を覚えながらもその場所へと向かう。

 そこは彼女が立っていた左の控え席側から少し離れた隅の場所であり、近くで魔力が術式によって反応し始めるのを感じた。

 疑惑に駆られていた彼女の中で確信が芽生え、急いでその場所へと向かう。


(此処か!)


 彼女がついたのは会場の中で一番隅っこの場所。

 ステージから一番離れた場所でもあり、賑やかに人々が話し込んでいる中で、そこのテーブルには一人の男性が物静かに立ってビンゴステージの方を見つめていた。

 間違いない、と思った彼女は男性の方まで近づいて声を掛けた。


「突然、申し訳ありません、少しお話を聞かせてもよろしいですか?」


「ああ……。どうかしたのかね?」


 シャンパングラスを手に持ち、笑みを浮かべている男性の姿が目に映るが、漂っている魔力の感触に違和感を覚えずにはいられない。

 何故――と思考を巡らせていたアルシアは直ぐ様その原因に気が付く。

 膜が張られているかのように、魔力が彼の体を纏っていたからだ。

 アルシアはそれとは別に感じる僅かな魔力の塊をテーブルクロスの下から感じて覗きこむとそこにある物に対して表情を曇らせた。


(ちっ……やられた……!)


 彼女の視線の先には目を凝らさないと見えない程度で魔法陣が小さく書かれており、急いで複数ある中の一つの魔法陣を手で擦って消すと目の前にいた男性の姿は消え、術式が書き込まれた一枚の紙がヒラリと舞い落ちる。

 アルシアはその紙を拾い上げて、誰もいない場所へ移動すると、苦虫を噛み潰した表情を浮かべて見えない部分まで無線機を引っ張りあげた。

 そして、無線範囲を前の方で護衛を行なっているクラウスとフランツに切り替えると、小さな声で連絡を取り始める。


「大変です。不審者は――もうこの屋内に侵入している可能性があります」


「な、何だって!?」


「アルシアちゃん、本当なの!?」


 はい、と答える彼女だが、まるで予想外だったといった表情を浮かべている。


「術式が書き込まれた紙を媒体として、人物を具現化させていたようです。……こちらのミスです。申し訳ありません」


 物に術式を書き込むというのは一見簡単そうに見えるが、実は高度な技術を要する。

 それは魔力の消費に加えて、人体構造の理解や集中力が必要だからだ。

 しかし、それは己の中にある全ての魔力から引っ張り出そうとしようとした話の前提であり、媒体という存在を使うと話は異なる。


(媒体に必要情報を全て書き込むから、魔力をかなり抑えて発動出来る。私でさえ、感じるのが怪しかった位だ。他の人では確実に発動してるのは分からないだろう)


 恐らくこの様な高度な魔法応用が使える者となれば、それこそアルシアとほぼ同じぐらいの魔力と知識の持ち主かもしれない……。

 一般魔法と魔力の流ればかりを気にしていた自分を責めながら、彼女は身に着けている無線機に向かってこう言い放った。


「クラウスさん……、今から、そいつを探しに行って来ます!」


 無線機越しに制止を掛ける彼らだったが、彼女はそれ以上何も言わずに切って外で警備を行なっている同業者に緊急通達を行うとそのままパーティ会場を後にしたのだった――。





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