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Magic civil war tale  作者: 雨音ナギ
Episode1 「初めての委託警備業務」
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04:仕事日当日

 エルベス邸から三人が戻ったのは定時を迎えようとしていた午後五時前だった。

 いつものオフィスに戻った彼らは契約資料や打ち合わせメモを片付けながら、書類整理と明日の準備を早急に行っていく。


「本当に出来るんですか?」


 その中でも、書類整理を担当していたアルシアは手を動かしながら右側に座っているクラウスに質問するが、彼は当然とばかりに言った。


「ああ。不審人物を捕まえる事ぐらいなら、民間企業でも出来るさ。現行犯逮捕なら、一般市民でも法律によって認められているからね」


 明日の警備配置を考えながら図面に書き込んでいくクラウスの表情には自信が溢れているが、対するフランツは溜息を零してばかりで作業が一向に進んでいなかった。


「どうかしたんですか?」


 いつもの陽気なフランツの表情とは一変した様子にアルシアは心配を隠せない。

 不安そうな彼女の顔に気が付いたのか、大丈夫だよ、といつものように笑顔を見せるが、彼の目には迷いが見える。


「もしかして、仕掛けについてですか?」


 本心を突かれたのか、流石、アルシアちゃんだ、と彼は苦笑いを零すと机の上に置いてあるエルベス邸の部屋図を眺めながら、正直な感想を述べた。


「不審者を懲らしめるグッズでも作ろうと思っていたのだけれど、パーティ会場がこれだけ広いと大々的な物は使えないしね……」


 彼は図面の中で赤く囲まれた線の部分を指す。

 そこはパーティホールと言われる場所で、学校の体育館分の広さがあり、エルベスの敷地内にある場所としては最大の面積を誇っていた。


「これだけ広いと人も多いだろうし……。範囲を狭めながらも、正確性を持った物を作る必要がありそうかもね」


 まあ、今からちょっと考えて作ってみるよ、と彼は言うと鞄から、紙やペン、魔法粘土や針金などの材料を取り出した。

 紙に魔法陣と術式を書き始め、取り出した材料を程良い大きさのサイズに分けると、その紙の上へ載せていく。

 材料を全て置いた彼は両手を差し出し、目の前の紙に自らの魔力を注ぎ始めて小さく呟くと、置いてあった材料は淡く黄色い光に包まれて一瞬の光と共に目の前にあった材料は別の物へと変化していた。


「魔法工学の応用の物ですか?」


 彼女は創りだされた物を見て、そのままの感想を述べるが、彼はそんな大層な物じゃないよ、と言って否定した。


「確かに魔法工学で学ぶ原理を利用したものもあるけど……。俺が作る物の大半は図画工作の延長の物だよ」


 で、それは一体何ですか?と、彼女はフランツの手に握られた物を指すと彼は説明をし始める。


「これは足止めに使うものかな。害虫取りによくある粘着テープを応用して作ってみたのだけれど」


 彼女はこれが……害虫取りの応用の物ですか?と驚きを隠せない。

 フランツの手に握られた物は明らかに、警備隊などが持っている警棒にしか見えなかったからだ。


「使い方は簡単。こうして、警棒を横に振ると……」


 彼は近くに置いてあった本を窓側の床に置いて、作った警棒のようなものをそれに向かって一回、横に振った。

 振った先から出てきたのはあの魔力を固めて作った紐であり、それは一直線に本の元へと向かうと綺麗に巻きついた。

 僅か数秒の出来事である為、避けるためには余程目を凝らしてみなければ見ることさえ叶わない代物だろう。


「でも、これじゃあただ単に魔力の紐を固めて作った物だから下手すれば切られるんじゃ……」


 魔力の紐は普通の紐より強度が高いと言うだけで必ずしも切れないと言うわけではない。


「そう、そこでさっき言った粘着テープの応用が要る訳なんだよね」


 巻いた先を見てご覧、と言う彼に、アルシアは対象物として捉えられた本の元へと近づいて触るとある事に気が付いた。

 巻いてある紐はただの魔力の紐ではなく、魔法糊を含んだ特製の紐であったからだ。


「魔法糊は結構強力だから、直ぐに逃げられる心配もない。――どうかな?このグッズ」


「立地条件や場所要件に即していて、中々いいものだと思いますよ」


 ただ、一つだけ気になることがあるんですよね、と言う彼女にフランツは気になり少し首を傾けた。


「警棒じゃ侵入者に警戒心を与えられる可能性が……。出来れば手のひらサイズの物の方がいいかもしれないです」


 彼女の提案にフランツは分かった、と返事をすると直ぐ様改良に取り掛かるが、丁度、彼が改良の品を作ったと同時にクラウスの警備配置の図面の作成も終了ようだ。

 二人は互いに作った物を持つとアルシアの元へと向かい、彼女を交えての会議が始まった。

 まず、最初に渡されたクラウスの警備配置の案は申し分の無い物ほどの出来で、僅か三人という少ない人数でありながらも十分に警備出来る範囲の場所が書かれてある。

 アルシアは彼の能力に舌を巻くほどの圧倒感を覚えながらも、指示通りに言われた場所をメモをしたり、暗記を行っていく。

 次にフランツが先ほど作った改良作を手に取ると彼女の要望通り、手のひらサイズに収められていた。

 大きさで言えば、巻尺ほどのサイズであり、これならば、侵入者に不審がられること無く、使う事が出来るだろう。

 様々な意見交換を行い、明日に向けての最終的な準備が整ったのは、定時刻から三時間後の午後八時過ぎの事であった――。


◇◆◇


 十月十四日、午後六時前。

 今日は朝からの晴天に恵まれ、絶好のお出かけ日和だったが、アルシア達三人は仕事がある為、抜け出す訳にはいかない。

 依頼者であるエルベスに昨日決まった警備の詳細を軽く説明した後、彼の家に仕える使用人と共に夜から開催されるパーティの準備に参加していた。

 そして、一段落がついた頃には直ぐにパーティの受付時間が始まり、アルシアも受付係として手伝いを行っていた。


「こちら、アルシア。特に異常はありません」


 灰色の髪をまとめ上げ、黒いスーツを着こなした彼女の手には一個の無線機械が握られていた。

 無論、この国の技術からすれば、紙一枚に術式を書き込むことによって通信を行うことも可能ではあるが、魔力を消費する観点から、長時間利用するにはあまり好ましいとされておらず、公共施設や電話回線などでは未だに通信回線としてケーブルが利用されている。

 警備に使う通信も例外ではなく、昔ながらの古い無線機を手に取り、アルシアは他会社から来た私服警備員から流れる情報にも耳を傾けた。


 六時半からのパーティ開始の前に彼女は一通り招待客の顔を見て回っていた。

 大手企業の社長だけあって、各界からの著名人が集まっており、より一層の事、注意を払わなければならないだろう。

 警備員らしく毅然とした態度でいた彼女の目は鋭く光り、招待客の顔を失礼にならない程度に見比べて不審者の有無を確かめていると時間が来たのか、会場についていた明かりは落ち、薄暗くなる。

 すぐにステージ近くにスポットライトが当てられるとそこには魔法医薬株式会社『アルモンド』の代表取締役であるエルベス・ベルモンドの姿があった。

 彼は小さく咳払いをすると、目の前に立てられてあるマイクスタンドに向かって話を始める。


「皆様、我がエルベス・ベルモンドの生誕六十五周年記念パーティに来て下さりありがとうございます。こうして私が今、会社の代表としていれるのも皆様方のご尽力があってこそです――」


 教師としての癖が出てしまっているのか数分ほどの演説を行なっている姿にグラスを持っている招待客は苦笑いを隠せない。

 その様子に気が付いたのか、これは失礼、と微笑を浮かべると近くの机の上に置いてあったグラスを手に取った。


「それでは、皆様の尽力と私の生誕に感謝して……乾杯!」


 声が掛かったと同時に参加者はグラスの中身を飲み干していくと、静かだった会場から再びざわめきが戻る。

 アルシアは初めて参加したパーティの様子に不思議な気分を覚えながらも気を引き締め、辺りの警戒を行っていった――。

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