01:会話
午前一時過ぎ。
雨が降りしきり、暗く冷めた人気のない路地裏に一つのビルの明かりがほんのりと辺りを照らしだすその部屋の中で、一人の男は紙を手に取り何か呟いていた。
握られていたそれは、特殊な術式が組まれた紙で作られた通信用のモノであり、相手の声も顔も、発動させた本人にしか見ることが出来ない。低く冷めた男の声だけが淡々と響き渡る。
「――ええ、分かってますよ」
男の声が響き渡ると小さく笑みを零す。
では、失礼しますよ、と言って、込めていた魔力を辞めて呪文を呟くと、持っていた紙は彼の手の中で一瞬の内に粉と化した。
彼はそれを握りしめて、閉めていた窓を開けるとばら撒くかのように振り落とす。
「全く、魔法と言うものは便利だ。こんな物を使わなかった古代はどうかしている」
水に濡れて溶けていく粉を目の前にして男はそう言うと満足そうに開けた窓を閉め、机の上に置いてあったグラスを手に取り一気に飲み干す。
飲んでいた物はアルコールの入ったお酒だったのか、男の顔は直ぐに赤みがかった頬へと変化すると、何かを思い出すかのように息を大きく吐き出し、ベットの上へと寝転んだ。
(そろそろ、あの人も何かを考え始めているのだろうか)
先程の通信相手の顔を思い浮かべる。
あの人物が通信を起こすほど、今のこの国の現状がおかしくなっているとは思えない。
しかし、あの人は念には念を入れておかないとな、と告げるだけで何も言おうとしなかった。
(絶対的な制度は崩れるはずは無いのにな)
十数年前の内乱で全てが変えられ、もはや恐れるものは何もないはずなのに、今更何を思っているのだろうか。
(まあ、昔からの付き合いだしな。この任務も請け負うさ)
外から聞こえる止まない雨の音をBGMにしながら、男は静かに目を瞑りながら、眠りについたのだった――。




