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Magic civil war tale  作者: 雨音ナギ
Episode3 「新たな役者と転換」
33/38

09:狙い

 近くにある繁華街で光るネオンを窓側から見つめながら、国家服を着込んだ金髪の男性は見下ろすとある部屋の方へと歩き始める。

 現在の時刻は深夜を回っており、遅番で働いている者も既に帰っているだろう。

 警備員の巡回も先ほど終わり、暫くの間は来ることはない。

 その中には印鑑やちょっとした文房具など日常で使う物が入っていたが、彼は下にある奥底から何かを取り出そうとする。

 その時、背後から感じた気配に彼は振り向きをせざる得なかった。

 光源を見る限り、部外者は魔法による微弱な光を用いているらしい。

 暗闇のせいか、小さな光でも眩しいと感じて目を細めた先には彼の見知った人物が居た。


「これをお探しかね?」


 その人物は一枚の紙を手にしながら、ひらひらと軽く揺する。

 そこには私服姿に着替えていたティエリーの姿があり、彼の手には一枚の紙が握られていた。

 バートの目の前に出された資料はまさしく彼が探していた資料そのものであると同時に彼が隠していた証拠でもあった。


「そりゃあ、財閥も隠したくなるわな……。こんな情報を隠していたんじゃあね」


 見える様に彼の方に紙を見せて一つの項目を指す。

 財閥が保管していた極秘資料であり、その研究所リストの中にあの研究所の名があったのだ。

 表向きは生体研究をしていた様だったが、実際は人体実験に近い扱いで研究は行われていたらしい。


「新たな開拓を目的とした財閥はこの研究所と手を組んでいたそうだね。

 最初は友好的に行なっていた様だが……。次第に、研究所側はカネ目当てに財閥を脅し始めた」


 手を切るのであれば、情報を流すことも厭わない、ってね。

 ティエリーはそう言って彼の方を見ながら言葉を続ける。


「そこで財閥は自身の暗部を隠すために、君に仕事をやらせていた……。違うか?」


 法律的に禁忌とされている人体実験に加担していたと明らかになれば、幾ら巨大財閥とは言えただでは済まない。

 それに彼らからしてみれば手を組んだ相手も悪かった。

 取引先としている相手は、国家関係の研究も行っており、国家上層部にも顔が利くからだ。

 相手の口を封じるには、研究所自体を解体させるかお金を積み込むしか無い。

 前者を行うにはそれこそ自らの財閥も陥れるに等しい行為だ。となれば、残るは後者の道しかないだろう。

 此処まで話をしたティエリーは、依然として黙っているバートの姿を見据える。

 その姿はいつもの様な彼からは見て取れないぐらい、鎮痛な表情をしていたのと同時にバレたことに苛立ちを隠せない様子でいた。


「俺だって、こんな仕事はしたくない」


 彼に対して最初の言葉を発したのはこの言葉だった。

 バートは胸元にある何かを握りしめる。

 薄ら光に照らされて彼の胸元で光っていた物はコーティングされたシルバーネックレスだった。

 四つ葉のクローバーの様に形どられたそれを手に取りながら彼は小さく呟く。


「彼女が、人質に取られてるんです」


「人質?」


「正確に言えば、人質というより、圧力に近いですがね」


 話してみろ、とティエリーはバートの話を促す。

 バートは小さく頷くが、奥に潜む金色の瞳には悲しみの色が浮かんでいた。


「あの親父は、交換条件として、俺に突きつけて来たんです。彼女との交際を認める代わりにお前が暗部の仕事をしろ、と」


 自嘲するかのように笑う彼は窓の奥に光るネオン街を見つめる。

 彼には結婚を約束した女性が居た。

 その女性の名はミサ・クロウツェン。郊外にあるクロウツェン鉄工所の一人娘だった。


「大学時代のサークル活動がキッカケで知り合ったんです。彼女は金持ち狙いで来る他の女とは違った。純粋に俺の事を思ってくれていた」


 当時、彼の会社目当てで近づくものは男女問わず、多数居た。

 どちらかと言うと、それ目当てで来る方が多かったが、彼女だけは違った。


「俺の事を、エイミス財閥の御曹司としてではなく、ただ一個人のバート・エイミスとして見てくれていた。

彼女の性格や家庭的な嗜好、純粋さに惹かれて、俺は付き合っていたんです」


 ただし、その女性とは大っぴらには付き合えなかったんです、と彼は付け足す。

 幾ら、彼女が小さな会社の社長令嬢とは言え、中流階級の彼女と上級階級のバートでは、身分が余りにも違いすぎたのだ。

 特に家柄を重んじるエイミス家では、自分と同格以上の家柄でなければ、交際どころか、婚約も結婚も許されない。

 それでも、彼らは学校やプライベートでも隠れて付き合っていた。


「それで、彼女と交際を始めてから一年後、ちょうど、卒業年度に当たる四年生の夏に親父にバレたんです」


 当然のことながら、貴族や同格の家柄以外の交際を認めない彼らにとっては彼女との交際は認められなかった。

 平民でかつ、中流階級程度の家柄では、エイミス家には相応しくない、と。


「俺は親父に言ったんです。そんな事を言うのであれば、俺は会社に入らない、と」


 長男や次男は既に会社を引き継いでいる。

 三男の自分は、別に会社を継がなくても、支障はない。

 彼は社長室にいる父親の前でそう言い切ったのだ。

 だが、父親はその後にとんでもない事を言い始めたのだ。


「そう言えば、クロウツェン工業は、私の系列会社から良く下請けを受けているみたいだな。そういう事なら、こちらとしても少し考えさせてもらわないといけないな」


「何を言っているんだ!これの話と仕事の話は関係ないだろう!」


「ああ関係ないとも。だが、こちらとして、予定していた仕事の不都合(・・・)が出てしまうのであれば、関係を断ち切る他にはないだろう?」


 薄ら笑みを浮かべながら、彼の父親は言う。

 ああ、そういう事か、とバートは苛立ちを隠せなかった。

 既に自分のポジションは決まっていたのに、それを不意にされた事で、彼女の会社との契約を破棄せざる得ないと父親は言っているのだ。

 バートも分かっている。自分の会社との取引を断ち切るとどれだけの代償が降り注ぐのかも。


「……まあ、優秀な人材を見過ごすのはこちらとしては惜しい。バート、私とビジネスの話をしてみないか?」


 小さく笑みを浮かべながら父親は言う。

 彼が言うビジネスの話、とは何のことかは検討は付いている。互いの利害一致の為に取引をしよう、と言う事だ。


「ビジネスの話、ね。そう言えば聞こえがいいが……。条件は何だ?」


 自分のせいで、彼女の会社が潰れてしまう。

 それだけは絶対にさせたくない。

 彼はその一心で父親に聞き返す。

 父親は机の上にあった紙にペンを走らせると彼に渡した。

 一番上に筆記体で書かれた父親の名があり、幾つかの項目が印刷されている。

 その下には契約者としての書名を書く欄があり、父親は彼が最初から何を言うか分かっていたのだ。


「お前がこの仕事を行ってくれるのであれば、彼女との交際を認めてもいい。なんなら、彼女の会社へもっと仕事の斡旋をしよう」


 彼は契約書に書かれた項目を見て驚く。

 国家従事者としての道を歩み、自分の会社にある不都合な書類を全て直せ、と。

 勤務行き先は第五査察管理課と書かれている。


「国家従事者の試験は今から一ヶ月後。それまでにお前が合格し、この仕事を遂行出来れば、今の会話は全て水に流してやろう。

 だが、目的を達成出来なければ……。今の話は直ぐに実行されると思え。勿論、拒否権もあるが、それは明日にでも実行されるという意思表現とさせてもらうぞ」


 もう、バートに選択の余地など無かった。

 彼は渡されたペンにサインを行うと父親に渡した。


「分かった、やってやろうじゃないか」


 彼はそのまま背を向けて、父親の居る社長室を去っていった――。

 その後から彼はほとんど寝ずに勉強を行い、わずか一ヶ月間で国家従事者の資格を手にし、希望通り、第五査察管理課にも配属され、彼女のために毎日、書類の改ざんを行なっていた。

 そして、三年前、彼の財閥と研究所が癒着関係を起こし、それをネタに揺すられているという話を父親から電話で聞いた時の事だった。


「その時に親父は言ったんです。研究所との担保として、彼女の会社を指定し、何かあったらあの会社を売り払って行うつもりだと。まるでトカゲの尻尾きりですよ」


 エイミス財閥が彼女の会社に仕事を斡旋したおかげで、彼女の会社は急成長を遂げ、零細企業から、中堅企業として名をはせていた。

 これはエイミス財閥の暗部の話であるため、担保の話は彼女の会社には一言も言っていない。

 今日も彼女は父親の補佐として、仕事を頑張っているだろう。


「彼女の生活をこれ以上、壊したくない。その思い一心で俺はこの仕事をしていました」


 けど、もうこれで終わりですね、とバートは言った。

 この官庁で一番偉いティエリーに自ら行った不正がバレたのだ。

 近々、エイミス財閥へ彼の関与と共に伝えられるだろう。

 しかし、ティエリーは彼に対して意外な言葉を発した。


「まあ、堅物な上司だったら、お前に対して厳重な処罰が下るだろうが……。こちらとしては、少し込み入った事情があってね。

 どうだ、少しばかり協力をしないか?協力と重要要件を話してくれれば、お前の処分は不問にしてやろう」


「っ……!」


 ティエリーの発言にバートは息を飲む。

 その言葉、嘘じゃないんでしょうね?と確認を取るが、ティエリーはああそうだ、としか言わない。


「嘘だったら、審議会に言いつけますよ」


「そりゃ困る。君も私も裁かれることとなるからね」


 彼の話に疑問に思ったのか、バートは軽く頭を傾げる。

 しかし、ティエリーは気にせずにそのまま、ある話を続けたのだった――。

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