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Magic civil war tale  作者: 雨音ナギ
Episode3 「新たな役者と転換」
26/38

02:道標

「アルシアさん、こっちの服はどうですか?」


「白のワンピースタイプの物か……」


『もっと派手な物でもいいかもしれんぞ?』


 持っている服の系統を悩みながら、彼らはあれでもない、これでもないと言って、ローザに着せている。

 彼女達が来ているのは中央都市エーテルに存在する最大の商店街・サーヴァンの西側に存在する総合施設内にある婦人服店だった。

 午前中の間に社長であるクラウスから新入社員としての承認を得たまでは良かったのだが、問題として浮かび上がってきたのは彼女の今後の生活だった。


「暫くの間、私の部屋で住んでいても構いませんよ」


「そんな……。三日ぐらい面倒見てもらってたのに、悪いわ。でも、確かに無一文状態だし……」


「じゃあ、次の給料日までに新居を決めておいて、その間のつなぎって事でいいですから」


 勿論、新居も探すのも手伝いますから、とアルシアは彼女の顔を見上げる。

 流石にそう言われたらそれ以上断ることは出来ない。

 彼女はその条件を飲み、一ヶ月の間、ローザはアルシアの家で生活する事になったのだ。


 出来れば早い方が良い、と結論付けたアルシアは早速クラウス達へ有給休暇の届出を出して説明した後、彼女の生活必需品を揃えるために職場から割と近いこの場所で買い物を行なっている訳なのである。

 商店街の入り口から近い南側や武器を専門にして扱う店が多い北側はまだ露店形式を取っているが、今年、再開発が行われた西側では巨大な総合施設が出来上がり、各国の様々な服が輸入されるようになった。

 営業開始から僅か半年程で若者達の人気スポットと化しており、彼女らもこの施設が出来て以降、何か欲しい物が有る時にはこちらに買い物へ向かうことも少なくない。

 道具は買い揃え、後は仕事用に使う服とプライベート用に着る数枚の服を買うだけで終わるのだが――。


「この二つはどうでしょう?」


 彼女が手にしているのは先程とは違う、ワンピースタイプの物とオレンジ色のキュロットスカートタイプの服だ。

 前者の方は前の服よりも柄が入っており、薄い黄色で染められた上に入っている花の柄はくどくなく美しく、後者の方は少し濃い茶色で柄も入っていないが、様々な服と合わせるには丁度良い品物だ。

 ミレイユがキュロットをそこの服と合わせてみたらどうだ?と語りかけて来たので、言われた通り、ローザはその服を手に取る。

 薄いベージュを基調とした紺の水玉の柄はスカートタイプの服とよく似合い、いつもの彼女とは違った感じの雰囲気に変貌した。


 (ミレイユさん、中々のセンスの持ち主ですね)


 『む……。アルシアは私が薦めたのに気付いていたのか?』


 (あっ、ごめんなさい。先程、ローザが好んでいた服とは違った物を取っていたので気になってつい……)


 そういう事か、とミレイユは言って納得する。

 天才的なセンスを持った記憶操作系のフランツよりは劣るが、彼女は系統を関係なく魔法を使えるのだ。

 記憶操作系の魔法の中でももっともポピュラーな読心術(リーティング)を行っても不思議ではない。

 彼女達の会話はローザにも聞こえているはずだが、気にしてない様子で二種類のセットの服を見比べながら呟く。


「うーん……。どちらも捨てがたいですね……」


「じゃあ、どちらも買っちゃえば?」


 不意に後ろから聞こえた声に二人は振り返るとそこにはスーツを着たフランツとクラウスがいた。

 にこやかに手を振るフランツとは対照的にクラウスは若干困ったような表情を浮かべ、小さく溜息を付いている。

 時計を確認してみるが、まだ昼の二時前だ。

 彼らの会社の業務時間は五時までであり、有給休暇を取ってるアルシアとは違い、仕事は終わっていないはずだ。


「あれ?午後の仕事はどうしたんですか?」


 仕事と言っても今日は委託警備業務ではない。

 ローザの情報を手に入れるため、いつも利用している、とある情報交換の場に出向いていたのだが――。


「目ぼしい情報がなくてね。だから早々に切り上げてきたんだ。それで此処で二人が買い物を楽しんでるだろう、と思って探してみたら案の定、居たって訳」


「だったら連絡してくれても良かったのに……」


 アルシアの言う通り、二人は携帯用端末を所持しているはずだ。

 実務中に携帯端末を使っていると圏外になったりしてしまうため、無線を使うケースが多いが、一般的なプライベートで使う者は皆、小型の携帯用端末を持っている。

 彼らに対しても例外はなく、用事があれば、番号を入力し通話ボタンを押せば、直ぐにでも電話が掛けられるはずだ。


「いや、俺は女の子同士で買い物行ってるから大丈夫じゃないか?とは言ったんだけどな……」


 勝手に連れて来られたんだよ、と彼はボソリと呟く。

 クラウスの表情から察するにフランツの強い要望で此処に来たらしい。


「クラウス、服を選んであげるのも紳士の嗜みだと思わないかい?」


「いや、確かにそうなんだがな……」


 俺が言いたいことはそうじゃないんだ、と彼は自身の頭に手を乗せた。

 今のフランツの頭の中にはローザの事しか入っていない。

 アルシアもそれに気が付いたのか、苦笑いの表情を浮かべていた。

 彼女は持っていた買い物カゴをローザに手渡し、少しだけ耳打ちするとフランツの方へと視線を向けた。


「じゃあ、此処はフランツさんに任せましょうか。私はそこのカフェで待ってますから」


 吹き抜けの構造になっている先を彼女は指す。

 一つ下の階には様々なカフェがあり、その中でもシンプルさを基調とした店を彼女は示した。

 あそこの下で待ち合わせましょう。彼女はそう言うとローザ用に買った荷物をフランツに預けて階段の先へと向かう。

 俺もそうするよ、とクラウスも同意を示すとアルシアと共に下の階段を降り始めた。


 ◇◆◇


(フランツさんがあんなにアプローチを掛けている姿、初めて見た)


 彼女は内心そう零しながら、クラウスと共に歩みを進める。

 他にも店はあったが、今日のメインとなる人物はローザだ。

 彼女優先で買い物を進めなければならなかったし、二週間ほど前に揃えたいものは全部揃えてしまったので、別に問題は無かったのだが。

 

 ゆっくりとした歩みで階段を全て降り終えたアルシア達は左側にある目的のカフェの方へ行こうとした時。

 彼女はいつもなら見かけない光景に目を細める。

 手前にある雑貨屋よりもやや奥側の方に有るため、遠く見えるが、実際にはそこまで遠くないだろう。

 設置されたテーブルの前に白いコートを着た女性が座っている。

 テーブルの上に置いてある看板の様な物には『貴方の道標(みちしるべ)、教えます』と書かれていた。


道標(みちしるべ)?」


「ん?どうかしたのか?」


 何かに気が付いたようにクラウスは彼女に聞く。

 アルシアはあそこに変わった人がいる、と言って呟いた。


「不思議な看板を出す人も居るんだな。行ってみるか?」


「そうですね。ちょっと気になるし」


 彼らは白いコートを着た女性の元へと向かう。

 遠くからこれだけ目立つのに人が近寄らないというのはやはり看板のタイトルのせいだろうか。

 近づいてきた二人の姿に気が付いたのか、女性は俯いていた顔をあげた。

 遠くで見た時はフードを被っていたせいかよく見えなかったが、透き通る程の白い肌と流れるように煌めく銀髪は幻想的な雰囲気を醸し出している。


「いらっしゃいませ」


 落ち着いた声音で話すが彼女はまだ若く十七、十八、ぐらいの年頃の女の子だろう。

 アルシアはそんな彼女の姿を見つめながら、彼女に話しかける。


「あの、貴女は一体何をしてるんですか?」


「私はこの国で言う、占い師の職業をやっているものです。と言っても今は放浪でやっている身分ですけどね」


「占い、ね」


 彼女の言葉にアルシアは眉を潜めながら思考する。

 未知なる力で成り立っているこの国だからこそ、彼女の事を否定するつもりは無かったが、個人的には占いというものは実用性に欠けていると思っている。

 彼らは起こることを言い当てるだけでしかなく、具体的な対処方法など教えてくれはしないからだ。

 それこそ、極端な話、恋愛運が悪いから男に気を付けろ、なんていう言葉を完全に鵜呑みにしていたらキリがない。

 しかし、目の前にいる女性はアルシアの気持ちに気が付いたのか、まるでそれを否定するかのように言葉を紡ぎ始める。


「確かに予言を行う占い師は数多く存在しますが、私の場合は違います。占いとしてのアドバイスも行いますが、この看板を立てかけている通り、明確な道標を差し上げている」


「その、明確な道標っていうのが良くわからないんだが、どういう事だ?」


 そろそろクラウスの方も胡散臭く感じてきたらしいが、そんな言葉を前にしても銀髪の女性のトーンは変わらない。


「勿論、その言葉通りです。確実に言えるのはその道標を心に刻んでおけば、貴女達が迷った時でも必ず救い出してあげる事ができる」


 ただし、本当に信じて居ないと救われませんがね、と彼女は告げる。

 女性の説明を聞いたクラウスはどう見ても信用ならないといった感じでアルシアに耳打ちする。

 だが、反対に彼女はその話を聞いた上で中々、面白そうじゃないですか、と言って不敵な笑みを浮かべていた。

 女性はほう……と小さく呟くと彼女に対してこう述べる。


「成る程……。読心術(リーティング)の力で私の心を読み取りましたか」


「貴女が遊び半分で言っているようには思えないですしね。これからの私達に渦巻く悪意の物があれば、早い内に振り払っておくべきだと思うし」


 おい、本気なのか?とクラウスは言い続けるが、アルシアは別に良いでしょう?と言って聞かない。

 そんな彼らの様子に女性は満足そうな笑みを浮かべると丁寧に頭を下げた。


「貴女の心意気に感謝して、今回は無料で行わせていただきましょう」


 そう言って彼女は一枚のカードを取り出す。

 白の紙に縁取られた紫色のカードだったが、アルシアはそのカードに不思議な感覚を覚えずに入られなかった。

 カードの中には何かが入っている。ただ、それは魔力のようで魔力ではない、彼女達が知らない別次元の様な存在の物だ。


「我の名はミヤビ。(いざな)う世界から一つの理を知りたい。我が星に尽くす限り、汝の側にずっと居続けよう――」


 その瞬間、カードは淡い光を放ち、一瞬にして変わる。

 真っ白に映っていたカードには女神のように美しく、その背に白の羽を生やした女性の姿絵柄が描かれていた。


女神(ゴットレス)か……。このカードはその後の運命の生き方を示している。正の意味は新たな世界の開拓だな。負の意味はそれに伴う反動といった所か」


 新たな世界の開拓というのは彼女達が目指す、民主化の事だろう。

 それに伴う反動――と言うのは、誰かが死を伴うということなのだろうか?

 もう、自分以外の人物がこの世界から消えるのは嫌だ。新しい仲間と共に歩んできたからこそ彼女はそう思う。

 アルシアは占い師の女性、ミヤビにその事を聞いたが、彼女はその言葉を否定した。


「確かに犠牲は付くが、死ではない。尤も貴方達が行おうとしている事は死と隣合わせではあるが、直接的な原因にはならない」


「……つまり、その出来事の為にもそれなりに気をつけておいたほうがいい、ってことか?」


「それなりでは困る。今よりも慎重に、だ。そこを抜ければ、貴方達が望む世界の開拓の道は開かれるだろう」


 確かに今以上に気を付けておいて損はないはずだ、とクラウスは思うとその言葉を胸の中に仕舞っておく。

 今の言葉は確かに自分たちには関係あるかもしれない。他人の忠告として聞き入れておいたほうが懸命だろう。


「分かった。貴女の言葉、心の中に刻んでおくわ」


 ありがとうと言って背を向けて立ち去ろうとしたアルシアだったが、ミヤビはその姿を引き止めた。

 これはまだ占い師としての結果を述べただけであって、貴女達のある種の目標として掲げたに過ぎない、と。


「いつもなら、言葉のアドバイスだけで十分だが、貴方達二人が背負っている物が大きすぎてそれでは足りないだろう」


 ミヤビは白いコートからある物を取り出す。

 透き通るような蒼く光る玉は幻想的であり、一般的に使われている魔法石とは違ったような物だった。

 彼女はその玉を両手で握ると再び淡い光が手の中を包み、手を開いた中には二つの指輪が握られていた。

 彼ら二人に手渡した彼女は説明するために再び言葉を紡ぎ始める。


「二人が迷った時に助けてくれる言わばお守りアイテムみたいなものだ。日常的に身に付けておけ。それと、お前達が臨もうとしている出来事の時には絶対に離すな」


 彼女の表情は今までとは違い、強い口調へと変わっていた。

 本当にこの指輪を貰っていいのか気になったアルシアだったが、表情を察したミヤビは幾らでもあるから別に構わない、と言ったので有難く頂戴することにした。

 彼らが共にはめた指輪のサイズはぴったりであり、付けた瞬間から、リング状に埋め込まれていた青のラインは何かに反応するかのように淡く光っていた。

 これを付けたからといって特に魔力が強まった訳でもないが、物は試しだ。付けておいても損はないだろう。

 流石にクラウスも先程の光景を思い出していたのか、彼女に対して文句を言うつもりは無いらしい。

 二人は不思議そうに指輪を見つめていると、クラウスの携帯端末から着信音が鳴り響いた。


「クラウス、何処に居るの?もう、カフェに着いちゃったよ?」


 此処で割と時間を使っていたらしい。

 クラウスは電話口から聞こえるフランツの声に対して、直ぐに行くと返事を行うと終了ボタンを押し、スーツの中に仕舞い込んだ。


「アルシア、フランツが呼んでる」


「あっ、もうこんなに時間が……。占い、とても有意義でした。ありがとうございます」


 丁寧にアルシアは頭を下げると目的であるカフェの方へと向かっていく。

 いつも通りの表情に戻した占い師の彼女は小さく手を振り、アルシア達の姿を見送った後、ミヤビは小さく呟いた。


「私の仕事はこれで終わりだ。貴女達の進む道に幸あれ」


 彼女が何かを唱えた瞬間、彼女の姿と商売用の一式の道具が消え去った。

 そして、周りは何事もなかったかのようにそのままの状態で佇んでいたのだった――。


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