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Magic civil war tale  作者: 雨音ナギ
Introduction 「日常と転機」
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委託警備会社「アプロディテ」

 次の日、学校が休みだったアルシアは昨日拾った求人チラシを手にし、寮から歩いて十分程度の場所に設置してある駅へ向かって歩いて行った。

 販売機で行き先の切符を買い、レーンの入り口に設けられた自動改札機に通し、目的地へと向かう列車を待つ。


 このような移動手段を用いているのは、遠距離用移動方陣が発動の際に起こる消費魔力との釣り合いが取れていないからであり、この問題さえ解決できればすぐに実用化に至るらしいが、利用する側の魔力の量と質は個人差が激しく、中々すぐに出来る物ではないらしい。

 もっとも、三キロ程度までであれば、魔力が少なくても殆どの人々が使える程度の消費で済むが、その程度の距離では遠距離用移送方陣として使いづらく、現実では建物や施設などの移動階層用としてしか使われていない。

 ふと目にした近くにあったジュースの自販機でボトルに入ったりんごジュースを購入し、座って飲みながら景色を眺めていると到着時刻になったのか、合図として、優しく軽快なメロディが駅全体に響き渡る。

 ある程度の時点で飲むのをやめた彼女は持っていたジュースの蓋をしっかりと締め、肩に下げていた茶色い鞄の中に入れると扉が開いたと同時に列車に乗り込んだのだった。


 乗った駅からはさほど遠くはなく、三駅分目に停止した時にアルシアは荷物を持って列車から降りた。

 駅から数分という立地条件もいい場所に立っている委託警備会社「アプロディテ」は大きなビルの中に存在していた。

 アルシアは玄関を入り、階数の案内表示のパネルを見やると移動用に作られた特殊魔法陣の上に乗る。

 そして、彼女の周りから淡い光に包まれ、再び目を開けたその先には一つの扉があった。

彼女は魔法陣から降り、ドアの目の前に立ってノックをするが中からは返事がない。


「あのー……すいません……」


 何度も呼びかけるが返事が無いことに眉をひそめながら、仕方なしにそっと扉を開けて中にいる人の存在を確認する。

 何も聞こえてはこないが、奥に明かりが見える事から、向こうで仕事をしていて気が付かないのか?と思い、一歩足を踏み入れようとした時、突如、足先から違和感を感じた。

身の危険を感じ、直ぐに引っ込めると目の前の天井の上からたくさんの長蛇が落ちてきた。


「きゃああああああああ!!」


 驚いた彼女は悲鳴を上げると直ぐに攻撃魔法を唱えた。

 唱えた魔法は実戦テスト時に使った、対象物の動きを止める闇の空止(シャドウ・ストップ)だったが、長蛇は相変わらず動きを止めない。


「えっ……なんで……?」


 彼女は小さく呟いて魔法の明かりを取り出すと、そこにはうねうねと身を捩らせる数匹の玩具の長蛇が居た。

 闇の空止(シャドウ・ストップ)は生者の動きを止める魔法であり、当然の事ながら生物ですら無い玩具の蛇には効果はあるはずはない。


「何よ、これ……」


 呆然としたアルシアの表情は怒りの表情へと変わっていくと、大きく歩みを進め中に入っていく。


(こんな事されたんじゃ、一言言わないと気が済まない!)


 明かりがついている扉へ手をかけようとするが、ドアノブが固く回せない。

力一杯に回してやっとノブが動いたと思った瞬間、プチンと小さく音が弾けたような音がしたのを聞いた彼女は、嫌な予感を感じ、素早く後ろに下がるとまたしても足元に設置してあったクラッカーが盛大に鳴り響き、足元から黒い触手のような物が現れてその言い様のない気持ち悪さの感触に悲鳴を上げてしまう。

 ようやく落ち着いたアルシアは放心状態から一変、苛立ちを隠せずに不快そうに顔を歪ませていると、突如、暗かった部屋が明るくなり始め、全ての闇が取り払われていた時には――スーツを着た男性二人が彼女の前に立っていた。


「おおっ!?俺の罠抜けだしたのか。大したもんだなー」


「敵ですらトラウマに陥るこの罠にも勇敢に立ち向かうとは……。お前の技術も落ちてきてるんじゃないか?」


 しかし、来たのは女の子か、とアルシアを目の前にして、様々な話を行って親しげに話をしている二人だったが、やがて彼女は我慢の限界が来たのか、彼らの元へ近寄ると大きな声で怒鳴り始めた。


「ちょっと!客を何だと思っているのよ!」


 もはや怒り爆発の寸前の彼女に左側にいた金髪の男性は、ごめんごめん、と謝るが、当然の事ながらそんな事で彼女の怒りは直ぐに収まるはずはない。

 しかし、右側にいた茶色の髪を短く整えた男は気にする様子もなく、黒く鋭い瞳を見開かせると興味深そうにアルシアの姿を見つめた。


「君、何で罠があると分かった?」


 説教をしている最中に話し掛けられて驚き、んうっぇ?とアルシアは間抜けな声を出してしまう。

 彼女は足を踏み入れたら違和感を感じたから直ぐに足を引っ込めたら罠が作動したのよ、と率直に言うが、茶髪の男はその部分に違和感を覚えたのか怪訝そうな表情を浮かべた。


「おかしいな……。あの罠は普通の紐じゃなくて、魔力を固めて作った紐なのに」


 えっ?とアルシアは掴んでいた手を離して声を漏らすが、考え込んでいた茶髪の男は顔を上げると彼女の方へと視線を向けた。


「それも、魔力の量は千分の一ぐらいのサイズに抑えた特殊な紐なのに……。

もしかしたら、君は、多分、魔力の力を感じるのに敏感なのかもね。……就職試験でこれを突破するのは君が初めてだよ」


「ちょ、ちょっと待って!」


 茶髪の男が言った言葉に彼女は困惑を隠せない。

 アルシアは小さく息を整えるともう一度彼らに向かって言葉を紡ぎ始める。


「就職試験って嘘ですよね?」


「俺らが嘘ついてもしょうがないだろ?」


 短く整えた金髪の男は信じられないといった表情を浮かべたアルシアに対してそう言う。隣にいる茶髪の男もそうだ、と同意の意を示している。


「君は合格だ。おめでとう」


 新たなる社員の採用の決定に二人は笑みを零す。

 だが、当のアルシアは何故、この会社は求人チラシのみでしか募集を掛けていないのか理解できた。

 ――こんなのを普通の人が突破するのは、無理に等しい、と。


◇◆◇


「紹介が遅れたね。俺はクラウス・エルベン。委託警備会社『アプロディテ』の社長だ。隣にいるのは副社長のフランツ・ブランク。古くからの友人だ」


 そう言って、茶髪の男、クラウス・エルベンは彼女に軽く頭を下げて手を差し出すと同時に金髪の男、フランツ・ブランクもよろしくな!と声を掛けて笑うが、自己紹介をしている彼らに向かってアルシアは、ま、待って下さい!と制止の声を掛ける。


「まだ、此処に入るって決めたわけじゃないですよ!」


 彼女の心は少し揺らぎつつあるが、突然罠を仕掛けられ、上司たちに合格おめでとうと言われて、いきなり此処に喜んで入社するほど、単純な性格ではない。

 アルシアの表情を察した二人は、そういう事か、と顔を見合わせると、じゃあ、何か芸でも見せれば信用してくれるって事だな?と言って、クラウスは彼女に話しかけた。


「芸って……。此処、委託警備会社なんじゃ……?」


 精々、思いつく事としては体術ぐらいか、と彼女は思考を巡らせるが、二人が行ったのは全く違う事だった。

 フランツは机の上に置いてあった一枚の紙を手に取り、彼女の姿を凝視し始める。

 そして、彼は自らの手を紙に向かって当てると、髪の色と同じ金色の光が発せられ、文字が浮かび上がってきた。


「ふむ……。アルシア・ブレッド、二十歳。今年でアルシェルラ魔法学校を卒業……。就職はまだ決まっておらず、現国家当主のアレクシス・バラードが嫌い、ねぇ……。おっと……君の過去はちと複雑だな……」


 アルシアは彼に経歴を全て当てられたあまりに声を失ってしまう。

 彼女はまだ、名前すら名乗っていない。

 しばらくの間、呆然とした彼女だったが、我に返ると、先ほど行った彼の芸当に心当たりがあるのか彼に鋭い視線を向けた。


「対象の人物の心の中を顧みる、幻術系の魔法の中でも難易度の高い記憶操作系の魔法ですか。しかし、無発動(ノーモーション)で目の前にしたのは初めて。そちらの方は相当な実力を持ってるんじゃないんです?」


 通常、どの系統の魔法を使うにも必ず理となる呪文を唱える必要がある。

 術者の能力と呪文のアレンジ次第では詠唱時間を短くして発動させる事も可能だが、何も唱えずに魔法を発動させる事は通常は出来ない。

 しかし、何十万人かに一人の割合で、特定の系統に至っては魔法を唱えずに発動させる――無発動(ノーモーション)を行う人物が存在するケースがある。

 先程の彼の魔法を見抜いた彼女に二人は感嘆の声を漏らした。


「ほう……。流石、アルシェルラ魔法学校のトップクラスの才女は一発で全てを見抜いたか……。実は俺はこの術だけ無発動(ノーモーション)で使えるみたいでね。相性が良すぎて無意識に発動しちゃうタイプの一人らしい」


 彼が行った魔法というのは具体的には記憶と感情を司る記憶操作系という系統の魔法の事だ。

 幻術系の中に存在する一分野の魔法であり、数ある系統魔法の中でも飛び抜けて難易度が高い。

 魔力配分を間違えると相手との記憶と過干渉を起こしてしまい、自らの記憶が消えるはおろか、死に至る可能性をも秘めている。

 だが、その分に得られる物は大きく、これらの魔法が使える者は当然の事ながら国家魔法士と認定されて政府による保護下にある事が殆どだ。

 この男もその証明を持っていても不思議ではない。


「馬鹿にしないで下さい。私だって大半の魔法書は読破してます。それだけの実力を持っているのなら、国家組織に配属されていても――」


「それは……ちょっと理由があってね。まあ、とにかく、此処の会社は委託警備業の他に、第三者視点からの調査も行なっているんだ。勿論、その顧客は有名な資産家も名を連ねているよ」


 一瞬だけ表情を曇らせたフランツの姿を見たクラウスは遮るかのように話題を変えて、契約証明書の印として、数枚、契約控えを渡す。

 そこにはこの近辺で資産を拵えている金持ちなどの名前が書かれてあった。


「これで、少しは信用してくれたかな?」


 信用に値するか否か。

 それに関して言えば、当然の事ながら答えはノーだ。

 だが、彼女はこの二人の持つ雰囲気に惹かれつつあった。

 業務内容以外の点である、給与も待遇も申し分はない。

 ――試しに働いてみるのも悪くないかもしれない。

 彼女は、まだ完全なる信用を深めてはいないながらも、彼らに対して、働く意思を示す返事を行ったのだった。

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