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紅蓮 ― その2
久々に可愛がっている姪に会えると、百合根は素直に喜んでいだ。
土産の品をあれこれ包む。夜明けと同時に出発となった。
門を出たとき、向こうから、筋骨たくましい大男が歩いてくるのが目に入った。
心なしか片足をひきずっているようだが、沙醐の背は、その男の臍の辺りまでしか届かないだろう。
段々に近づいてきて、あ、と思った。
その男は、片目が潰れていた。
一ツ目……。
擦れ違ったとき、男の体全体にまとわりついていた、鉄が溶けるような匂いを放つ熱気が、沙醐のほうに漂ってきた。
「何を見ているの?」
振り返って後ろを見ている沙醐に、百合根が問いかけた。
「今の男……。片目の……」
「え?」
百合根は不審そうに、後ろを振り返って、目をすがめた。
「誰もいないわよ」
しかし沙醐には、蛍邸の敗れた築地を潜っていく男の姿が見えた。
「さあ、もっと速く歩きましょう。姪の家まで、女の足では、半日以上かかってしまうわ」
うきうきとした口調で、百合根がせかした。