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紅蓮 ― その1
「そういうことだったのね」
迦具夜姫が、静かに言った。
カワ姫も、読んでいた書物から顔を上げる。
「都の者は、みな、同罪じゃ。下人も、主人も」
その黒い目に、激しい炎が燃えたぎっているのが、見えた気がした。
「沙醐、頼みがある」
静かな声が、かえって不気味だった。
「百合根を、姪の家に送り届けてくれぬか。お前にも、休暇をやろう」
この邸に来て、初めての休暇。
だが、沙醐はだまされなかった。
「何をなさるおつもりですか」
カワと迦具夜と一睡、三人は顔を見合わせ、すぐにお互いにそっぽを向いた。
「行くところがなければ、梅屋敷にでも遊びに行くがよい。菅公が謹慎中とあらば、梅が、相手をしてくれようぞ」
梅屋敷になぞ、行きたくなかった。
それなのに、なぜか、沙醐は頷いていた。
頷かされている。
そう、感じた。