『たまには遊びも③』
「全く、ひどい目にあった。油断していたとは言え、さすがにあれは精神的に堪える」
さてと、気を取り直して真夜を探すか。
真夜が向かった方向には、農園があった。この学園には多種な学部があり、農学部の連中はここで授業を行ったりするらしい。ただ敷地はそこまで広くない。こんな所に隠れる場所なんてあるのか?
とにもかくにも農園に踏み込んだ俺は、真夜をあっさりと見つけた。
遠目で見るに真夜はしゃがみこんで何かしているらしい。こちらに気づく気配はゼロだ。俺は息を殺してそろそろと真夜の後ろへ忍び寄る。「?」。真後ろに立っても気づく様子はない。何やら今の作業に夢中で隠れ鬼という本業を忘れているみたいだ。そこまで真夜を夢中にさせているものは何だ。俺は気になって、しゃがんでいる真夜の肩越しから顔を覗かせた。
「ういしょ、ういしょ。頑張れ、頑張れ」
真夜の応援(?)を受けながら頑張っているもの。それは、なんと足が何本か取られた蟻だった!
「お、お前、蟻になんてことしてるの!」
「うひゃあ!」
思わず耳元で叫んでしまった俺の声に、真夜もびっくりして尻もちをつく。
「お前、そんなことしたら可哀相じゃないか!」
「ま、守くん! 脅かさないでよ……」
「驚いたのはこっちだわ!」
まさか真夜がこんな恐ろしい遊びを一人でしていたなんて。俺の教育方針が間違っていたのか。一刻も早く止めさせなければならない。風紀委員として。
「あ、そうだ。忘れるところだった」
「?」
「ハイ、タッチ」
ポン、と真夜の頭の上に手を乗っける。
「うあ~、捕まった」
「じゃあ百秒な。いいか、真夜。もう絶対こんなことしちゃダメだぞ。生き物をおもちゃにするなんて言語道断だ」
「は~い」
そんなわけでさっさと農園を後にした。
はあ、疲れた。精神的に。まあ隠れ鬼の残り時間も半分切ったし、後は隠れて穏便に過ごそう。真夜に走りで負けるとは思えないが、かと言って美香のように絶対逃げ通せるほどの脚力を持ってるとは言えない。
俺は駐車場の近くにいい隠れ場所を見つけたので、そこに隠れる事にした。ここなら一般生徒は近づかないし、変な目で見られる事もないだろう。
ぽかぽかと暖かい日差しが俺を照らす。
「今日はホントいい天気だな。さっき走って疲れたし、なんだか寝ちゃいそうだ……」
そして俺の意識はシャットダウンした。
「……ん」
目を覚ますと、もうすっかり日が落ちていた。
「やっべ……!あのまま寝ちゃったのか」
車に寄りかかって寝ていたはずが、どうやら寝ている間にゴロリと寝っ転がってしまったらしい。こりゃあ、誰かに見られてたらそうとう恥ずかしいぞ……。あ、そうだ。隠れ鬼はどうなったんだろう。俺が途中で寝ちゃったからあいつら困ってるよな。悪い事しちまったな。とにかく、早いとこ風紀委員室に戻って謝らないとな。
そう思って体を起こそうとすると、何やら両腕が重い。何か重しが乗せられている気分だ。ふと見ると、俺の両隣りには二つの影。真夜と、美香が俺の腕を枕にして寝ていた。
「……おいおい」
いい高校生が三人揃ってなんたる醜態。駐車場でお昼寝なんて、全く、風紀委員か誰かに説教でもしてもらいたい気分だぜ。って風紀委員は俺達か。はあ、これじゃあ風紀委員も名折れだな。まあ、こいつらも気持ち良く寝てるみたいだし、今日はこの寝顔に免じて勘弁ってことでよろしく頼む。誰に謝ってるのやらって突っ込みはナシでな。
いい加減ここで寝てるのはまずいので二人を起こす事にした。
「お~い、こんなところで寝ると風邪引くぞ。春になったっつっても日が落ちればまだまだ寒いんだからな」
まあ真っ先に寝ていた俺の言えた台詞じゃないけど。
「ん……守先輩おはようございます……」
「ああ、おはよう美香。でもって真夜は……」
「ん~もう食べられないよ……えへぇ」
「ダメだこりゃ」
というわけで真夜はおぶって帰る事にした。